暑い。日に焼ける。豆腐食べたい。豆腐のひんやりが欲しい。今すぐ欲しい。
やっと夏休みも中盤になりました。っていうか俺の夏休みはコミケで始まりコミケで終わってる。
ちょっと前、まさかの夏風邪にやられて目当てのオンリーに行けなかった。欲しかったサークルさんは支部で「通販します」って言ってたからまぁよしとしよう。販売開始の同日にカゴに入れた俺に死角はなかった。
無事風邪もぶり返すことなく、治った。あ、宿題は七月中に終わってるから心配は無い。あとは毎年恒例の八左ヱ門の手伝いだけ。
だが今年は手伝ってやるつもりはないのだ。
理由は毎日のように俺の家に入り浸ってはゲームをしに来ていたからだ。別に迷惑というわけではない。ただやっらずにゲームをしていたという事実を知っているから甘やかさないだけ。どうやらBASARAにハマったらしいのだ。
八左ヱ門確かPS3持ってんだろソフト買えよ。
「雷蔵!スライダー行こうスライダー!」
「いいね!一番上から行こう!」
「お前ら本当に底なしの元気なのだ」
「俺と兵助は三郎のところ戻ってるよー!」
と、いうわけで、俺の体調もすっかりよくなった記念に、今日は市民プールに来ているのだ。
太陽燦燦。今日は今年一番の暑さらしい。何でこんな日に外に出ようと思ったのだろう。本当は断りのメールを入れるはずだったのだが、誘いのメールと同時にこいつらが家に来てしまったのだ。メールの意味。
「よぉ、もういいのか?」
荷物を置いてある場所に戻ると、知らない女の人と喋っている三郎がいた。俺と八左ヱ門がシートに座ると「じゃ、友達帰ってきたから」と、女の人を追い返した。えっ、と言う女の人に胡散臭い笑顔で手を振る三郎酷え。
「知り合い?」
「いや?声かけられたから話してただけ」
「よいしょっと。はぁ、あの二人はまだ遊んでるのだ」
「あいつらはスライダーに行ったよ」
「本当に元気だなぁ」
今回のプール、発起人は勘ちゃんらしい。バイトも休みで暇だから、と。
「あいつらといると凄い声かけられんのな…。」
「あのなぁ八左ヱ門、お前も要因の一つだからな?」
「それはないだろー!」
「特に勘ちゃんは凄いのだ」
「雷蔵も可愛いからな。お前らも声ぐらいかけられるだろう?タイプの子がいたら連れてくれば良いじゃないか」
「それはそれで面倒だろ。後々」
「まぁなー」
ひと夏の間違いなんてしない。
これがみんなのモットーらしい。
あー、ビビの水着姿欲しい。ください。
「おーい!」
「ただいまー!」
勘ちゃんと雷蔵がプールサイドを走って戻ってくる。係りの人に笛吹かれて注意されてやんのプークス。
「走ったら危ないのだ」
「悪ィ。な、これから一人増えてもいい?」
「へぇ、誰だ?」
「知り合い!ここでバイトしてたから声かけてきた」
「お昼で上がるって言うから、暇?って聞いてね」
誰が来るかはお楽しみー!とわけのわからんポーズを決めて、シートの上に座り込んだ。
「ふーん。別に俺は構わないぞ!」
「俺も別に」
「私もいいよ」
全員の了承を得ると、雷蔵と勘ちゃんは目を合わせてニィッと笑った。誰が来るんだろう。
「勘ちゃん、誰呼んだの?」
「んー?いやいや、楽しみにしておいた方が身のためだぞー?」
「身のためっていうか、兵助のため?」
「なんだそれ」
寝転がる八左ヱ門の横にごろりと横になった。あー、日陰でこの風は気持ちいいー。
「あ!来た!」
しばらくして、同じく横になっていた勘ちゃんが横を向いて勢い良く起き上がった。誰が来たんだろう。
「あー!鶴谷さんこっちこっち!」
…は?
「おー、尾浜くーん」
は!?
小さい声で、「感謝しろよ」と言う勘ちゃん。そして誰を呼んだかを理解した八左ヱ門と三郎が驚きに顔を染めつつ、ニヤニヤしながらこっちを見た。
その後ろに見えるのは、間違いなく、同じクラスの、あの、鶴谷さん。
え、なんで?
なんで!?!?!?!?
「え、ちょ、なんで写メ撮ってんの」
「大丈夫気にしないで」
「何が大丈夫なの!?」
到着するやいなやよく解らないタイミングでケータイを取り出しバシャバシャを写真を撮り始める鶴谷さん。
え、ちょ、待って。勘ちゃんと雷蔵が声かけた、ここでバイトしてた人って、え!?鶴谷さん!?!?
大きな荷物を抱えて俺らのいる木陰に入ってくるのは間違いなく同じクラスの、俺の恋焦がれている相手。まじだ。本物だ。本物の鶴谷さんだ。なんで。えっ、なんで?
「あぁ、兵助のクラスの鶴谷さんか」
「こんにちは鉢屋さんお邪魔します」
「こんちは。ここでバイトだったんだって?お疲れさん」
鶴谷さんの大きな荷物を三郎が受け取り、鶴谷さんはシートの上に腰を下ろした。
「鶴谷さん?あ、兵助のクラスの」
「竹谷さん、ですよね。お邪魔しますー。」
「八左ヱ門でいいって。俺も鶴谷って呼び捨てさせて」
「うん、いいよ。じゃぁ竹谷くんでいい?」
やめろよお前ら!いちいち俺の名前出すなよ!!変なアピールするんじゃないよ!!
っていうかなんで八左ヱ門態々呼び捨ての許可貰ってんだよ!俺だって未だにさん付けなのに!なんでこっち見てニヤニヤしてんだやめろ!!!
「久々知くん、久しぶりだね」
うわああああああああああああ話しかけられた超可愛いどうしよう。
「あ、あぁ久しぶり」
「終業式のあれ以来だ」
「そう、だな。あん時はありがとう」
「いえいえこちらこそあれ蹴っ飛ばしちゃってごめんねー」
俺どもりすぎワロタ。
ポニーテールで薄く化粧して首元汗かいてパーカーに短パンでで太もも丸出しってエッチすぎやしませんか鶴谷さん卑怯ですね。
約半月程会っていなかったからかまじで刺激が強すぎる。相変わらず可愛い。ツラい。
「久々知くん着痩せするタイプなんだね腹筋ヤバいね私筋肉フェチなんです突然ですが触って良いですか」
「は!?」
「すいません調子に乗りました」
突然の触っていいか発言に心臓飛び出そうになった。なんで。え?腹筋?鶴谷さん筋肉フェチなの?知らなかったわ。
やめろお前ら!そういうニヤニヤした目でこっち見るな!!恥ずかしいだろまじで止めろ!!
「いや、別に、かまわないけど」
頭をフル回転させてやっと口から出た答えがこれか。もっと気の利いた返事できないのか俺!いやこの質問に気の利いた答えもあったもんじゃないけどね!?!?
意味の解らないままいいよと言ってしまったあと、鶴谷さんは俺の腹をペタペタ触る。
「わ、久々知くん本当にすごいね実は鍛えてんだね細マッチョってやつだね」
これまずい俺の息子さんがまずい。元気になる。正直そろそろ止めて欲しい。ヤバイ。
ちょっと涙目になりながらも助けるように八左ヱ門に視線を向けると
「ちょっと待てよ鶴谷、俺のほうが腹筋ヤベェから」
そう言って鶴谷さんの腹筋ハンターの手は八左ヱ門へと向かった。
「いいんですかうわ本当だ竹谷くんヤバイ凄いなにこれどうなってんの」
「走りこんでるからなー。主に虫の捜索とかで」
「む、虫?」
ありがとう八左ヱ門!!!!!!!!!!お前やっぱりいいやつだな!!!!!!!!!宿題手伝ってやるよ!!!!!!!!!!!!!!!
さっそく呼び捨てはちょっと気にいらないけどな!!!!!!!!!!!!!
「いやまて鶴谷、私の筋肉も捨てたもんじゃない」
「鉢屋さんまで触らせていただけるんですかお邪魔します」
「待って鶴谷さん俺も実はヤバイ」
「尾浜くん運動部だっけ?なにこの腹筋どいういうことなの」
「いや、帰宅。体育は好きだからかな」
「僕のはさっき触ったよね。突然」
「ごめんねありがとうございました」
「あ、いや、別に怒ってないよ」
凄い凄い言いながらここにいる全員の腹筋を触る鶴谷さん。
いや、その、なんというか、可愛い。
そういうボディータッチ的な行動ってビッチなんじゃないのとか思われそうだけど、鶴谷さん全然そんな風に見えない。俺病気なのかな。いや、鶴谷さんは絶対ビッチなんかじゃない。処女だ。俺の希望は処女だ。ごめん鶴谷さん変なこと想像してる。斬滅していいよ。
「鶴谷さん、俺腹減った……」
「あぁそうだったごめんね尾浜くん。どうぞどうぞー」
そういうとさっき三郎が受け取った大きな荷物から、重箱かよレベルの大きいお弁当箱を取り出した。どうやら一緒に遊ぶ代わりに、この弁当を全部食べきると約束したらしい。この弁当を一緒に食べる、っていうか、この後遊ぶ予定だった友人にドタキャンされて困っていたという。
雷蔵に耳打ちされ、やっと状況が理解できた。ちょっとまって付き合ってもいないのに鶴谷さんの手作り弁当食べられるとか夢なんだろうか。雷蔵と勘ちゃんには感謝してもしきれない。お前らも宿題手伝ってやるよ。
「お約束どおり、全部食べてくださいね」
「お安い御用過ぎるんだけど」
「鶴谷さんまじ女子力高いね」
「うわ卵焼き美味しそう!いただきます!」
「箸足りないのだ俺売店で貰ってくる」
「頼んだ兵助」
一旦事を整理したくて、俺は自らシートから離れて売店へ箸を分けてもらいに行った。一番近くの売店は物凄い人で混んでいる。まぁ夏休みだししょうがないk………え?あ、いえ、一人じゃないです。友人と来てるんです。はい、あ、そうですか。興味ないです。
鶴谷さんはこの炎天下の中ここで監視でもやっていたのだろうか。相当疲れていることだろう。しかしこんな場所で会えるなんて運命だろうか。今日誘い断らなくてよかったとしみじみ思う。
「いらっしゃいませー」
「…カキ氷の、いちご一つと。すいませんけど箸3本貰えますか」
「は、はい!喜んで!」
勘ちゃんに教えてもらった「困ったときの"営業スマイル"」というものを出し、かき氷と箸を持ってシートのほうへ戻った。カキ氷でも箸ってもらえるんだな。もちろんこのカキ氷は俺のじゃない。鶴谷さんにお疲れ様の意味で買ったのだ。
「箸貰ってきたのだ」
「おー!よかったもらえたか」
戻るともう素手で食い始めている八左ヱ門の背中を蹴り飛ばす。行儀が悪すぎるのだ。
「はい、バイトお疲れ様」
ちょっと溶けたカキ氷を鶴谷さんに手渡し、俺はその横へ座った。やばい緊張する死ぬかもしれない。
「うわ!ありがとう冷たいもの食べたかったんだ!いくらだった?」
「いいよそれぐらい。弁当わけてもらったんだし、お礼なのだ」
「うおおおんありがとういただきます!」
いちごのカキ氷頬張る鶴谷さん可愛すぎワロタ。
「さりげなく隣に座っちゃうあたり重症だな」って正面の三郎からメールが来て着信拒否しそうになった。氏ね。
「っていうかいきなりお邪魔してごめんね」
「いやこっちこそ、こんな美味い弁当もらっちゃって」
「もう友達にドタキャンされてさぁー。一人じゃ食べきれないから助かったよー」
バッグから赤い扇子をとりだし、パタパタ仰ぎながら喋る鶴谷さん。
いやなんかもう本当に信じられない。ここに鶴谷さんがいるなんて今朝の俺が想像していただろうか。否、しているわけがない。だって断りそうだったんだもの。ここにいるみんなのおかげで今日は別に緊張もせずに普通に話ができてる。まじ奇跡。
「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」」
「はーい、お粗末さまでした」
綺麗にたいらげ全員で腹をさする。本当に美味しかった。毎日食いたい。鶴谷さん食いたい。ごめんなさい調子に乗りました。
「そういや、鶴谷さん水着は?」
突然爆弾を落としたのは、勘ちゃん。おい。今なんつった。
「あ、この下に着てるよ」
!?
「じゃぁ流れるプール行こう!飯もいただいたし、いつまでもここにいるのはさすがに暑いっしょ!」
「いいよー。じゃぁお弁当場箱撤収ー。」
素早く弁王箱を仕舞う。その横で「よし行くかー」と背伸びをする面々。ニヤニヤしながらこっちを見るこいつら。こっち見んな。
いや、嘘だ。鶴谷さんの水着姿が見れるだなんて嘘だ。
俺は信じないぞ。
「おまたせしましたー。あ、久々知くん、もし使わなかったら是非その浮き輪貸して下さい」
「ん、いいよ。水着姿も可愛いね」
「恥ずかしいやめてでもありがとう」
ビキニだなんて嘘だ!!!!!!!!!!!!!
これは夢だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!