「ごめんね。うちの三下がそっちの島で遊んじゃったらしくて」
「私は何度も警告したはずだが?」
「うんうん、七松の恐ろしさは何度も教えたんだけどなぁ。今お詫び入れるから、ちょっと待ってくれる」

「い、嫌です組頭!!どうか…!!どうか!!」
「静かにしないと、また七松怒らせることになるよ」

ダン!と音を上げ振り下ろされたソレに、小指はいとも簡単に飛ばされた。間髪入れずに口に手拭いを詰め込まれ、男は気を失ったのか叫び声をあげることもなく部屋から連れ出されて行った。

「これで一件落着、と言いたいところなんだけど」
「なんだ、これで終わりだろう。アヤを付けてきたのはそっちだぞ」

「ところがそうはいかないんだよね。うちの連中が何人かそっちに消されたっていうから困ってるんだよね。鉄砲玉ってわけでもなかったのに殺したの?七松も手が悪いというか、手癖が悪いというか?その中に何人か優秀で気に入ってたやつもいたんだけどねぇ」
「それはお前らの監視が行き届いてなかった結果だろう?それに私はその話は知らない。滝夜叉丸たちは基本的に私の側だ。」

先日私の島で何やら騒がしい事件があったと三之助から聞いた。迷子になっている途中、歓楽街で罵声がとびかっていたと。聞けば何人か血まみれになっていたし散弾の跡も見たらしい。だが私と滝夜叉丸が駆け付けた時にはもう遅く、残っていたのはさっき連れて行かれたヤツだけだった。あの倒れている中にこいつのお気に入りがいたとはな。それはご愁傷様とでも言うべきか。

「ただの喧嘩で島荒されたんだぞ。私に責任をとれというのは筋違いじゃないのか?」
「だけど今回の事は七松にも責任があるでしょう?」
「あ?」
「うちに損傷があった。間違いとはいえ悪い事をしたのはあいつだったから詫び入れさせたけど、こっちには何の利もなくない?今回の一件は両者の舎弟の問題でしょう?そっちもそっちで詫び入れてほしんだけど、其れに関してはどう思ってるの?」

後ろで滝夜叉丸が動いたのが解ったが、こいつのいう事にも一理ある。今回の一件、黄昏時の三下とうちの三下が起こした間違いとはいえ両者互いに非はある。黄昏時は張本人が生きていたから問題を起こしたあいつが詫びを入れたのだろうが、生憎こっちの連中は全員殺られた。責任を取るべき当事者は一人もいない。となると、流れ的に詫びを入れるべきは私か。なるほどな、黄昏時はそれが狙いだったわけだ。道理で私なんかの呼び出しに応じたわけだ。こいつこれを狙ってやがったんだな。噂通りの汚い連中じゃないか。

「なるほどな。それが狙いだったわけだ」
「七松、中在家、立花、潮江、食満、善法寺はいつまで一本独鈷を気取ってるつもり?いい加減に黄昏時に買収されない?君たちだったら20は堅いよ」
「随分私たちを安く見ているな。そんなはした金で六連合が動くとでも思ってんのか?黄昏時って頭悪いのか?」
「君に言われたくはなかったなぁ」

「貴様…!!」
「待て滝夜叉丸、お前は引っ込んでろ」
「七松は舎弟も血の気が盛んで恐ろしいね。で?どうするの?今更イモを引くわけないよね?」
「当たり前だろ。私だって頭だ。滝夜叉丸」

「で、ですが…!!」
「いいから、お前は黙って見てろ」

私が上着を脱いで滝夜叉丸に手を出すと、滝夜叉丸は納得いかないという顔をし、震える手で私の手に短刀を乗せた。最近金吾が磨いでくれたから、まぁ切れ味は良い方だろう。雑渡昆奈門の後ろで立っていた奴にそれを投げ渡すと、察したのか、鞘から抜いて私の手の上で構えた。

「ま、待ってください!!やはりこの滝夜叉丸が代理いたします!!頭のためなら指の一本や二本…!!」
「引っ込んでろといっただろう滝夜叉丸。私に恥をかかせるな」
「で、ですが!!」

「何々、そっちの子の指落とせばいいわけ?」

流石にここまで馬鹿にされて黙っている私ではない。作戦通りといった顔をしニタニタと目元を歪ませるこいつにはさすがに腹が立ち、滝夜叉丸を遠くへ突き飛ばして、気付いたら、私は雑渡昆奈門の胸ぐらを掴んでいた。



「ふざけたこと言ってんじゃねえぞ。七松の頭の指目の前にして他の指に目移りとはさすがだなぁ黄昏時。この一件はこの私が落とし前をつけると言っているんだ。お前んとこの三下は指一本も落とせない玉無しか?」



「これだから君たちはうちの傘下に欲しいんだよ。気に入ったなぁ。陣左、早いトコやって」
「はい」

暴れる滝夜叉丸は向こうの若い奴が取り押さえ、私の右手はじんざと呼ばれたヤツにおさえられた。指の一本や二本なくなったところでなんだ。それで滝夜叉丸たちに何の被害もないのならそれはそれで結構じゃないか。来る痛みに目を閉じ構えたが、刃が指を撥ねることはなく、それどころか、







「失礼します。雑渡さん、照星さんからお電話ですけど」







この場には全く似合わない、女の声が部屋に響いた。

「え?照星から?なんで?」
「私が知るわけないじゃないですか。早く出てください」

部屋に入ってきた女はスーツでも着物でもない本当に、普通の私服というやつで、ケータイ片手に部屋に入ってきた。誰だ。こんなやつ、黄昏時にいたのか?


「……あれっ、七松せん………あれ!?七松先輩じゃないですか!?」
「………は?名前、か…?」


「やだー!ちょっと高坂さんなに物騒なもん持ってるんですか!!七松先輩に何してるんですか!!」
「何だ、名前の知り合いか?」
「高校時代の先輩です!お久しぶりです七松先輩!七松先輩この筋の方だったんですねぇ。…わぁ、なんというか、…違和感ない、ですね…?」

「…お前、こっちの人間だったのか…?」
「あ、はい。父が黄昏時の人間で、一度お会いした時に雑渡さんと仲良くなったので私は雑渡さんの御側にいるだけですけど」

短刀を持っていたじんざというやつを力いっぱい突き飛ばしたのは、高校生だった時私の一つ下で、委員会の後輩だったやつ。滝夜叉丸、三之助、四郎兵衛、金吾は、後に同業者であり親が七松の傘下に入っているという事実を知ったので、そのまま私の側にいさせたが、どうしても名前は堅気の人間の様な気がして、その話には一切触れたことはなかった。なんだ、なんで名前がこんなところにいるんだ。私の記憶ではただただ運動神経が良くて明るい女子高生というイメージだったはずだが、……あれ?私の記憶違いだったか?名前もこっちの人間だったのか?滝夜叉丸も心底驚いているような顔をしているし、名前は滝の事にも気が付いて「尊ちゃん滝から降りて!!」と滝夜叉丸を押さえていた男も突き飛ばした。

「で?なんで七松先輩の指を?」
「赫々云々で」

「それ七松先輩関係なくないですか?悪いのはさっきの子と、七松先輩じゃなくて七松組の人でしょう?なんで七松先輩に酷い事しようとするんですか!?」
「いや、それは組頭が」

「高坂さんのバカー!七松先輩が指無くなったらバレーボールできなくなるじゃないですか!!」

名前が入ってきたところで部屋は変な空気になってしまった。さっきまで一触即発といった感じだったが、それがどうだ。雑渡昆奈門は電話をしに部屋から出ていったし、斬られるはずだった私の指はそのままに、手は解放され、代わりに高校時代の後輩であった名前が、自分の組の男に説教をかましているではないか。

「あれ、電話終わったら変な部屋になってる。何?名前ちゃん七松組の頭と知り合いなの?」
「高校時代の先輩です!雑渡さん、悪いのは七松先輩じゃなくて七松先輩の配下の人ですよ。冷静に考えてください」
「あれ?そう?名前ちゃんがそう言うならそういうことにしようかな」

「え!?」

「わぁ、さすが雑渡さんお話が早い!良かったですね七松先輩!誤解解けましたよ!話せば解りあえるんですね!」
「え、あ、いや、名前、これ誤解とかじゃなくて」

「名前ちゃん、照星が佐武組とご飯行かないかって。佐武の若が名前ちゃんに逢いたいんだってさ」
「虎若ですか!わーい!行きます行きます!今ハンバーグ食べたい気分です!車で待ってますね!じゃぁ七松先輩また!今度ご飯でも行きましょう!」

それじゃ!と名前は、じんざと呼ばれていたやつから短刀を没収して部屋から出て行った。私と滝夜叉丸は、完全に置いてかれている状態にある。


「運が良かったねえ七松の若頭。名前ちゃんに免じてお詫びはいらないことにしておいてあげる」
「いやちょっと待て」

「ごめん待てない。名前ちゃんがハンバーグ食べたがってた。早くいかなきゃ。あ、ここは私が払っておくから。名前ちゃんに逢いたかったら普通に事務所おいで。名前ちゃんの先輩なら喜んで歓迎するから。それじゃぁね」


部屋に取り残されたのは、私と滝夜叉丸と床に転がる小指だけ。さっきまでこの部屋に殺気が飛んでいたのが、嘘のようだ。


「…滝夜叉丸」
「は、い…」

「…名前、凄いな…」
「…名前先輩、凄いですね…」


その後、黄昏時に名前がいると知った、名前を知っている六連合の頭が、名前を奪うため抗争を仕掛けようとするも、名前の「物騒な事はやめて皆でご飯行きましょう」の一言により鎮圧され、黄昏時と六連合が親密な関係になるまで遠い話ではなかった。



ジェードレジスタンス
君ってなんて平和主義なんだろう!


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