「とりあえず家調べた。次ブラ盗んでくる」
「どっから通報していいか解んねえわ」

ついに苗字の家を突き止めた。水色の壁の綺麗な家だった。

「…まぁ一応聞いておくけど、どうやって見つけたの?」

「は?ずっとついて行ったに決まってんだろ?」
「さ、三郎…!伊賀崎呼んで…!」
「呼びたいんだけど手が震えて…!!」

「ただいまーって…!苗字がただいまーって入っていってさぁ…!!」

苗字が電車通学だったから家を突き止めるのは難しいかと思ったのだが、駅がわければなんてことない。っていうか俺が降りるべき駅の一つ向こうだということは知らなかった。いつも電車に乗り込むと同じ車両の同じ場所でケータイをいじっているか友人と喋っているし、俺は比較的背が高い方だから、電車内はほぼ一望だ。ぐるりと見渡せば俺と同じぐらいの身長の先輩かサラリーマンなんかが目に入るし、苗字の身長は低いし真っ黒い髪なのでギャルで埋め尽くされた電車ではすぐに解る。

「はちさぁ、解ってると思うけどそれストーカーだよ?」
「は?知ってるけど?」

「えっ、やだどうしよう三郎怖い」
「やめてくれよ雷蔵私だってこんなのが友人だったなんて信じられないんだから」
「まぁ確かに?名前ちゃんは小動物系だし可愛いし、はちの好みにドストライクなんだろうけど」

渋そうな顔をして其処までいくとやりすぎだと三郎が遠くを見て言った。その遠くへ視線を追うと教室前の廊下を歩いて行く苗字の姿。可愛い!めっちゃ可愛い!何今の!なんで微笑んでたの!孫兵と何喋ってたの!俺とも一緒に話して!っていうか付き合ってください!

「見た今の!苗字!今の!めっちゃ可愛かった!」
「あーはいはい可愛い可愛い」
「本当に可愛い…!どうしよう胸が苦しい…!」
「病気かな?」

あっという間に見えなくなったのは無理もない。だって苗字は二つ下の学年なのだから。まさか委員会の後輩である孫兵のクラスメイトは全然知らなかった。

「はちってなんで名前ちゃんのこと好きなったんだっけ?」

雷蔵の委員会の後輩だから、雷蔵は苗字の事をよく知っていた。名前を出しすぐにうちの後輩だよと言った瞬間俺は神はこの世にいると信じた。

苗字と出会ったのはまぁよく展開の痴漢ってやつだったんだけど、それまでは全く、苗字という存在すら知らなかった。苗字も苗字で痴漢を怖がっている様子もなく物凄いイライラしたような顔をしていた。電話しているわけでもなく友達と喋っているわけでもないのに、なぜあの子はものすごい不機嫌そうな顔をしてるのだろうかと思っていると、少し視線を上げてみると、真後ろのおっさんがその子の髪に顔をうずめているとんでもなく気持ちの悪い光景を見てしまった。うげっとも思ったしそりゃぁ機嫌も悪くなるだろうと少々同情した。まぁ学校の駅までもう少しだしと放っておこうと思ったのだが、そのおっさんの腕が動いて、彼女の顔も少し驚いたような表情に変わった。あ、あれはまずいと、気付いたら動いていたし

「おいおっさん、次の駅で降りような」

近くにいってやっと、彼女の目に涙が浮かんでいたのに気付いた。あぁ、不機嫌な顔だったんじゃなくて、恐怖に耐えていたのか。気付いていたんだから、もっと早く、助けてあげればよかった。見つかってしまったと潔く項垂れるおっさんの右腕を掴んでいる俺を見上げるわけでもなく、

「だ、大丈夫か?」
「…っ」

彼女はただ、震える腕で俺のワイシャツを掴んでいた。下を向いている彼女から落ちた一粒の涙を見て、


「俺の俺は我慢できなくなった」

「はち気持ち悪い」
「こんなのに掴まったとかおっさん不運過ぎ」
「なんだ保健委員か」
「おいお前ら真面目に聞け!そして俺の天使はだなぁ!」

「一緒に駅に降りて終始八左ヱ門から離れなかったんだろ知ってる知ってる!もうそれ8785212315674981453145649884648465546回ぐらい聞いたわ!!!」


その後気付いた同じ学校の生徒だという事。二つ下の後輩だという事。良く孫兵と歩いているのを見かける子だということ。そういえば委員会に孫兵を迎えに来ていた時もあったわ。孫兵に聞けば彼女じゃないです幼馴染ですとざっぱり会話は終了させられた。彼氏はいるのかと聞けばそういう話は聞いたことがないと言われ、俺は彼女を狙う事を決めた。

「一目惚れっていうのは本当にあるんだねぇ。それにしてもこんなのに目ぇつけられて」
「あぁ、彼女も不憫だなぁ」

「てめぇら友人の恋応援しようとか思わねえのかよ!!」

「友人…?」
「誰…?」
「くっそ!くっそ!」

結局俺は誰にも味方されてない感じだそうだ。友人だと思ってたのに三郎と雷蔵は俺の事を見ないふり。友人だとと問いかけたが二人は顔を見合わせて首をかしげた。俺はこんな薄情なやつらと友人だったのかと酷く心を痛めた。はぁぁと大きくため息を吐いてしばらく。廊下の方向を向いて机に突っ伏していると、廊下の向こうを今再び後輩が通っていった。見覚えのある麗し顔。うちの後輩の孫兵と、やはりあれは苗字じゃないか。俺が今求めていた人物じゃないか。ふわりと揺らぐ黒髪はまさに俺が探し求めていた姿。

二人はその姿に気付いていないのだろうか。俺の方をみてて廊下には気付いていない。よし、アタックするなら今だ。

「応援してほしいならもっと押さえた行動に移すんだな。私たちはストーカーに加担する気はない」


「そうだよな!もっと押さえた行動な!よし!LINE聞いてくる!」


「おい!!馬鹿!!やめろ!!落ち着け!!死にたいのか!!殺すぞ!!」

二人を残し、俺は教室を飛び出すように椅子から立ち上がり廊下へ向かって駆け抜けた。後ろ姿を追おうにも右腕を三郎に掴まれ一旦追跡を阻まれたが、俺の愛を止めることはできない!三郎の腕を振りほどき、彼女の背を追いかけた。

「ま、孫兵!」
「竹谷先輩、おはようございます」
「おお、はよう、あ、あのさ、今日の放課後、委員会、急に開いても大丈夫か?」

「あぁー……名前」
「いいよ孫兵。委員会優先して」

孫兵の横で、彼女がふわりと笑った。くそ!可愛い!!でもその笑顔はどうか俺に向けて!!どうやら孫兵と何か用事うがあったらしい。なんだか申し訳ないことをいってしまったような…。まぁ委員会は本当の話だ。申し訳ないがこちらに参加してもらいたい。

「えぇっと、苗字、おはよう」
「おはようございます竹谷先輩」
「…さ、最近電車大丈夫か?その、あれは」

俺が助けたあの日の事。孫兵も知っているのかそうだよと口を開いた。大丈夫かという問いかけに、苗字は明るい笑顔で「大丈夫です」と言った。まぁそんなこと言われずとも、俺は毎日電車で苗字を眺めているから被害にあってないことは解っている。見えないところで何かされていたら俺が助けてやるから!安心して電車乗っていいぞ!!

「あ、そ、そうだ苗字。あの、なんかあったら連絡してくれてもいいから。あ、LINEとか、お、教えておこうか」
「えっ!本当ですか!嬉しいです!」

苗字可愛い!まじ可愛い!疑う事知らない苗字可愛い!食べてしまいたい!今すぐにでも!俺がポケットからケータイを取り出すと苗字もケータイをカバンから取り出した。赤外線モードでデータを交換すると、苗字は満足そうに笑ってそれをしまった。

「じゃぁ何かあったらご連絡させていただきます!ありがとうございます!」
「お、おう!任せろ!」

「じゃぁ竹谷先輩、僕たちこれで」
「あぁ、じゃぁまた放課後な」

孫兵と苗字が俺に向かって頭を下げて、背中を向けて歩いて行った。


俺は、俺はついに苗字の連絡先を手に入れたぞ!!!!!!これでどうどうと!!!!!苗字と!!!!!!連絡が取れる!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「みなよ三郎。獣が地に項垂れて泣いているよ」
「LINEよりさきに家を突き止めたやつだ。気持ち悪いから見るんじゃない」

輝かしいデータを画面に収めながら、俺は涙を廊下に落とした。



よっしゃ、一気に結婚までもっていこ。








愛情アンプロンプチュ

とりあえず式場予約しなきゃな



-----------------------------


フォロワーさんとのツイキャスコラボ中に
短編を書き上げるという無謀企画
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -