久々知くんが好き。久々知くんを心より愛しています。

なんて身勝手な台詞を私は今まで一体何度呟いたことだろうか。思いを告げられず幾年月。私の世界での彼は本当に、心から輝いている存在だ。廊下に張り出された学期末テストで一番上にいない時はない。体育の時間で輝いていない時はない。授業中に寝ていた時なんてあるもんか。教室じゃあまりのイケメンさに一匹狼みたいだけど食堂とかじゃ尾浜くんとか竹谷くんたちとめっちゃ笑顔で喋ってるし。でも彼はちょっぴり変わり者で、なによりもお豆腐という存在に心を奪われている様子だった。食堂で見かければいつも食べているし。それを真似して私もいっつも豆腐注文しちゃうとか絶対内緒。それで私も豆腐に激はまりしちゃったとかマジで内緒。なんでそこまで彼を知っているかって?そりゃぁずっとその想いを心に秘めていたから。誰にも言えずにただただ心にしまいこんで、でもいつになっても本人にいう事なんてできなくて。

「心が苦しくて頭おかしくなりそうwww自分キモすぎwwww」
「あんたも大概ね。あんなガリ勉野郎の何がいいのよ」
「黙れヤリマン。あんたみたいに野球部全員食いましたみたいな顔しているやつに久々知くんは勿体ない」
「は?全員食ったのはサッカー部だから」
「うわくそwwww死ねwwwwww」

茶髪に染めた友人はストラップがじゃらじゃらついているケータイをシュッシュといじりながら私の会話に耳を傾けていた。今は放課後。誰もいない元演劇部の部室でゴロゴロしながら放課後の時間を過ごすのは此の友人とのいつものことだ。あぁ、さっきの言葉は撤回しよう。こいつにだけ、こいつにだけは久々知くんに片想いしているという事は話してある。百戦錬磨の彼女だが、好みのタイプは七松先輩の様なガタイの良い体育会系らしく、久々知くんに片想いしているという私の言葉は半分ぐらい興味がなさそうに聞いている。あ、ちなみにこいつ今は隣のクラスの竹谷くんを狙っているんだとか。

「竹谷くん絶対童貞だから私が食うwww」
「うはwww魔女wwwww」

ギラリとした目つきで涎を垂らす友人にいつか妊娠しろという呪いを日々かけているのも内緒だ。こんなクズだが私の友人。どうやって喋ったこともない久々知くんにアピールすればいいのかと毎日の様に作戦会議をしている。あーでもないこうでもないと策を練るも、久々知くんが落ちてくれそうな作戦は一向に出てこなかった。

「今日の作戦会議も無駄だったな。あきらめなよあんな王子落とそうとする方が無理なんだから」
「そうだよねぇ…私には高望みだったかn」

「シッ!静かに…!」
「え…?何…?」

すると突然友人が喋る私の口に手を当ててぐいと体を引っ張った。私の身体はバランスを崩し寝っ転がっていたソファの後ろに落ちる様に転がった。何すんだと反撃しようとしたのも一瞬。ガラリ、と元演劇部の部室であるこの部屋のドアが開いた。まずい、ここはサボりスポットだから先生とかに見つかったら鍵交換されちゃうかも。壊れていたから侵入できたのに、最悪だ。だがひょこりと顔を出してみると、そこにいたのは先生ではなく噂の人物、久々知くんだった。

「ちょ、久々知くんだっ…!」
「何やってんだろこんなとこで…」

小さい声で囁くように友人の肩を叩くと友人も放課後に久々知くんが真っ直ぐ帰らないでこんなとこにいるのがおかしいと思ったのか、眉間に皺をよせ彼の様子をうかがっていた。久々知くんは教室に入って数歩こちらに歩いてきたかと思いきや、ポケットからケータイを取り出して画面を開いてはまたすぐにポケットに入れて、部室のロッカーの上に腰掛けた。私と友人は頭の上に疑問符を浮かべて視線を合わせる。何してんだろう。多分ケータイ開いていたのは時間を確認してたんだろうけど。誰か此処で待ってるのかな。っていうか、久々知くんがいるのなら隠れる必要とかないかな。小さい声で友人に「出てもいいのかな」と相談したその時。

「く、久々知くん!ごめんね、お、遅くなって!」
「横山さん、だっけ。何?話って」

友人がバシンバシン私の背中を叩いた。こ、この流れって完全に告白の空気じゃないですか…!!私はショックを受けその場で倒れ込んだが、友人は盛り上がってまいりましたと言わんばかりの顔で私に抱き着いて耳を傾けていた。

「あ、えっと、その……」
「ごめんね、友人待たせてるから」
「あ、うん!そうだよね!えっと、ず、ずっと前から、く、久々知くんのことが好きでした…!わ、私と、つつつ、付き合ってください!!」

横ちゃんって、うちのクラスの横ちゃんじゃん!横ちゃん大人しそうな顔していうときは言うのね!横ちゃんの震える可愛い声が部室に響いて残るは久々知くんの返事待ちだけだった。片想いの人が告白されているのを目撃しているとはいえ、ここまでくると少々気になるとこもある。私は声を潜ませそっと友人と耳を傾けていたのだが、聞こえてきたのは「ブッ!」と哂うような息を吐く音。え?今の何?

「俺のことが好きって?それ本気?」
「えっ…も、もちろん…」
「じゃぁさ、俺が今何にはまってるか知ってる?」
「えっ…?」
「好きな食べ物とか、知ってる?」
「あ、え、」
「俺のいつも一緒に遊んでる友人知ってる?俺教室じゃ一人に見えるかもしれなけど特定の友人いるんだ。それ知ってる?」
「…あ、の、」


「自分で言うのもあれだけどさぁ、見かけだけでしょ?俺の事好きって言ったの。そういう軽い気持ちで、見ないでくれる」


まるで久々知くんじゃない。今の吐き捨てられたような言葉は、一体誰の口から出た物だ。私は黙ってる。友人も黙ってる。横ちゃんも言葉を失っている。じゃぁやっぱり、久々知くんが言ったのか。あんな台詞、吐くような人だと思わなかった。

「か、軽い気持ちなんかじゃないよ!!」

横ちゃんはありったけの声を振り絞ってそう叫んだかと思いきや、今だロッカーに腰掛けた久々知くんへつめより

「く、久々知くんになら、な、なにされてもいいから…!!」

完全に涙目。涙声。横ちゃんは久々知くんの制服を掴んでそういった。勇気を振り絞って出した言葉だったんだろう。お下品だけど、横ちゃんなりに頑張った結果がこれだ。だけど再び聞こえて来たのは久々知くんの、「俺さぁww」という悪魔の様な高らかな笑い声。


「あははwwwごめんねwww豆腐にしか興味ないのだwwwwww」


腹を抱えてそう言い捨てた。

「…っ!さ、いってい…!」

横ちゃんはそのまま、教室から飛び出していった。ま、まさか久々知くんがあんな悪魔の様な女の扱いをするとは全く思わなんだ。友人と驚きに満ちた顔で見つめあっていると、ひーひー笑っていた久々知くんが呼吸を整えて



「ねぇ、苗字さんの方が俺の事良く知ってるもんね?」



手榴弾を投げつけてきやがった。

「…ソウデスネ」
「この角度からじゃバレバレだよ」

ロッカーに座っている時点で気付かれたと悟るべきだったと反省している。名を呼ばれていないふりはさすがに無理がある。私は諦めてソファの裏から姿を現したが、久々知くんは動じることなく笑顔で私に手を振った。おそらくだけど、あの角度じゃ友人はまだばれていないはず。上手く隠れていなさいよ。

「俺の友人の名前解るでしょ?」
「竹谷くんでしょ。尾浜くんに不破くんに鉢屋くん」
「好きな食べ物は?」
「お豆腐」
「そう。最近はまってるのは?」
「音ゲーでしょ。Deemoだっけ」

「そうそう、そこまで答えてこそ、告白できる権利があると思わない?」

「…いやいやいや、むしろなんで私がそれ知ってるって知ってるの」
「女の子からの熱い視線には俺より勘ちゃんのほうが敏感でね」

つまり、久々知くんにはばれていなかったけど尾浜くんにはバレバレだったということか。久々知くんは張り付いたような笑顔で気付いた経緯をつらつらと説明していった。はじめは尾浜くんが食堂に行くといつも私が久々知くんを見つめていたことに気付いたらしく密告。サイドメニューであまり人気のない豆腐を頼んでいるのを見て確信したんだとか。その後もテストの順位表を見つめていたり、体育の時の熱い視線にも気づき始めたんだとか。だからたまに近くで趣味の話をして"くれてた"り、偶然を装って何度か視線をあわせて"くれてた"りしたんだとか。

「…知ってて泳がせていたと」
「だっていつまでたっても告白されないんだから、如何することもできないでしょう?」

悪魔だ。この男、本物の悪魔だ。私の恋心を弄ぶ本物の悪魔だ。こんな男に今までずっと惚れていたのかと思うと、腸が煮えくり返るほどに、ムカツク!!!!

「苗字さんはあの子と違って、本気で俺の事好いてくれていたんでしょ?現に苗字さんは友人の名前だって、俺の好きな食べ物の名前だって言えちゃうんだから。外見だけで告白されるのより、俺の中身を知ってくれた上で告白された方が嬉しいのは当然だよ」

正論だけど!!正論だけどムカツク!!!あーあ!!私こんな男に夢中だったってか!?男を見る目がないにも程があるってなもんよなぁ!!

「ねぇ苗字さん、今俺に告白してくれたら、速攻OK出せるんだけど。あぁ、もう言っているようなもんか。俺と付き合ってよ」

こんな軽いノリの告白聞いたことない!!!今まで片想いしていた人から告白されているなんて夢のまた夢だけど!!だけどねぇ!!私にだってプライドってもんがあるんだよ!!

私は一度深呼吸して、さっきの久々知くんと同じように、「ブッ!」と思いきり息を吐き出した。


「あははwwwごめんねwww私も、豆腐にしか興味ないのだぁwwwwww」


馬鹿にしたような言い方10割増し増し。久々知くんに向かって煽るような顔をして嘘笑いを続け

「…豆腐の角に頭ぶつけて死ね」

真顔に戻し苛立つ気持ちをギリッギリの処で制御しつつ、友人を取り残して部屋から飛び出した。





「ねぇ、苗字さんて好きな食べ物何?」
「…さぁ、…最近は豆腐ブームだって」
「君から見て、俺と苗字さんってまだチャンスあると思う?」
「どうだろうね。久々知くんが本気なら、名前の中身探るべきなんじゃないの?あの子に言ったみたいに」
「うーん、本気出してみようかなぁ」






「ちょっと尾浜くん!!!君よくあんな悪魔とつるんでられるね!!!!」
「おっ、ついに苗字さんも兵助の本性知ったかぁー」





この恋はなかったことにします!!!えぇ!!断じて良い恋なんかじゃありませんでしたとも!!!

黒歴史よ黒歴史!!!!







恋心鎮魂歌

誰があんたみたいな男なんかにいいい!!!




#忍たま真夜中の夢小説60分一本勝負
お題【久々知兵助「あははwwwごめんねwww豆腐にしか興味ないのだwwwwww」】
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