それは今夜の特番に向けてお菓子を買い込んだコンビニ帰りの出来事。

「みつけた!」
「逃がすな!」
「閉じ込めろ!」

「えっ」

三匹の妖怪が私の周りを取り囲んで錫杖を地に叩きつけ陣を張り、私を異空間に閉じ込めた。いま山道でよかったと本当に思っている。私多分はたから見たら当然動きを止めて狼狽えた怪しい女にしか見えないだろう。私の前に一人と後ろ左右に気配的に二人。計三人が張った三角形の陣の中で、私はひとまずケータイをしまいこいつらがなんなのかを見定めることから始めた。羽。錫杖。僧のようなこのなりはまさしく。


「動くな。お前、苗字神社八代目次期当主、苗字名前であってるな?」


烏天狗だ。


「………あ、あれ?間違ってるか?」
「当主って…あ、いや、あってるけど」

「おぉそうか!いやぁよかった!」
「天下の烏天狗様がか弱い女の子に何の用?」

私の正面で錫杖を手にしているベビーフェイスな烏天狗は、懐から一枚の紙をバッと開いて私に名前の確認をした。何故名前がばれている。っていうかこいつら誰だ。何の用でこんなところまではいって来たんだ。

「僕たち烏天狗は只今烏天狗警察の試験中である!」
「試験?」

「俺たちは今年で烏天狗警察見習いから卒業できるんだ。今まさにその試験中ってわけよ」
「三人一組の団体戦。その試験内容は…」


下界の巫女を、期日までに一人連れて帰ってくること。


「もう下界の本物の巫女は両手で収まるほどに減ってる。やっとみつけたのが、名前だってわけ」
「大人しくついてきてくれる?俺らの試験かかってるんだわ」

前髪金髪の烏天狗と橙色ポニテの烏天狗は羽を大きく広げてそう言った。

苗字神社は先祖代々この神社を受け継いできた。外へ就職するもよし。ただ、巫女としての行いは忘れず、この神社を護り次の代に伝えこの地を守ること。代々そう言われていた。私も祖母や母からそう言われ、巫女として生きてきた。だけどそれは中々に苦しい生活だった。巫女として神社の娘でいるのは良い。ただこの力をなんとかしたかった。霊は見える。妖怪は見える。故に、誰にも見えない妖怪に絡まれ、友人の目の前で変な行動を起こすことはしょっちゅうだ。友人は妖怪なんてものの存在は信じていない。次第に私から離れていき、私は見事にひとりぼっちになった。母にそのことを話学校へ行きたくないという理由を説明した。祖母は私の肩に手を置いて、

「時代が変われば人も変わる」

そう言った。母も続けて

「信仰心が無くなるのは悲しいわね」

そう言い、私をせめることはなかった。

私は高校を辞めたまーにバイトをして家に金を入れているし、巫女としての仕事もしっかりこなしているから生活に困ってはいない。むしろ今の生活の方が心地良いくらいだ。死ぬほど楽。午前中から午後までバイト。神楽をやると言われればやるし、妖怪退治を頼まれればもちろんその場へ直行する。己の力を制御することもなく、のびのび暮らせているから、この連中の試験の為とはいえこの生活から離れるのは非常に惜しい。

「私の名前バレてるのに私君たちの名前知らない。これはフェアじゃないから教えてよ」

「もちろんいいぞ!僕は神崎左門!烏天狗警察三年だ!」
「富松作兵衛。同じく烏天狗警察三年だ」
「次屋三之助。烏天狗以下同文」

「烏天狗警察かぁ…、これはまた酷く面倒くさい妖怪に絡まれてしまったなぁ」

今まで何度も妖怪退治はこなしてきた。母から祖母からあのへんにいってきてくれと頼まれれば数珠を携え札を持ち、使役している連中を使い追い払う。それか、好みの連中は私の仲間にならないかと説得する時もある。まぁ、大体が穏便に事を済ませたいから説得に走るんだけど。そのせいで苗字神社は妖怪だらけだ。最初は神を冒涜する気かと祖母に怒られたりしたけど、連中も今の世は住みにくいと喜んで移住してきている。だからこそ、この連中ともどうか穏便に事を済ませたい。

「でも割と私、君の事タイプかもしれない!」
「えっ、う、うわっ!!」

「左門!?」
「おい左門!!」

首にかけていた数珠を引っ張り出し振り回して正面の彼に其れをひっかけ、結界の中へ引きずり込んだ。残りの二人は狼狽えてはいるが、まだ私が中にいるからか結界を崩すことはしなかった。おぉ、中々判断力があって賢い。しかし逃げられるチャンスを逃してしまったな。

「綺麗な黒羽…!手触り良好…!この、もふもふ加減!!」
「ちょ、やめ!く、すぐったいっ!」
「あぁっ!これ全部抜き取って織物にしたい!左門って言ったね?君は烏天狗の中でも飛びぬけて上等な羽触りだよ!」

「…飛びぬけて…?」
「お前、烏天狗知ってるのか…?」

私のその一言に作兵衛と三之助が反応を示した。もちろん、私が烏天狗を知らないわけがない。

私は妖怪という者が嫌いなわけじゃない。むしろ妖怪は好きな方だ。いたずらっ子良し。人間好き良し。どんな存在であろうと私は小さい時から連中を見て育って来たからか、妖怪が好きで好きでたまらなかった。退治なんてのは建前。本当は自ら調べてみたり、実際にあいに行ったりしていたぐらいだ。気が合えば家に招待するし、退治というか封印するのは本当に悪事しか働かなさそうなどうしようもないやつらだけだ。

「烏天狗警察さんには悪いけど、私引きこもりでも一応苗字神社の次期当主だから。君たちの事はよぉく知ってるんだ」
「名前頼む離してくれ…結界の中じゃ力が…」
「其れを知ったうえで引っ張り込んだんだから、頼むから大人しくしててね」

「おい左門を離せ!」
「嫌だねー!こんな手触りの良い羽何十年に一度の物だもん!離すもんか!むしろ左門たちも私の家に住めばいいじゃない。試験はとりやめで」

「ば、バカ言うな!僕らは正式な烏天狗警察になるんだ!」
「それは残念。でもね、私も簡単に連行はされないんだ。っていうか、絶対にされないの」

「…なぜ?」

作兵衛が錫杖を私に向けるが、一瞬結界が切れたので急ぎ元の位置に戻した。おそらく家の中にいたから入って来れず、私が外に出るタイミングを見計らって今襲ったんだろう。だが狙った相手が悪かった。まさか神社の巫女が、妖怪を使役しているなんて思ってもいないだろう。



「例えば君たちが連れて行こうとしている巫女に、烏天狗の友達がいたとしたら?」



私がそう微笑んで胸にしまっていた口寄せ用の札を地面に貼れば


「おっ、よう左門、久しぶりだな」

「し、しおえせんぱい…!?」


友人は結界の中でも駆けつけてくれるからありがたい。札を飛ばして連中の後ろで止めれば

「あれっ、三之助?」
「七松先輩!?」

「作兵衛!何してんだお前こんなところで」
「け、食満先輩!?」

友人たちは臨戦態勢で現れた。私が呼びだしたという事は妖怪退治に連れられてこられたと思ったのだろう。錫杖を担いで出てきたそいつらはどうやらこの三人の先輩?みたいで、私を狙っていた三人は顔色を青くし友人たちを見上げた。

「ちょっと小平太、この子達知ってるの?」
「おぉ、烏天狗警察官養成機関の後輩たちだ!何してんだお前。なんで捕まってんだ?」

実は赫々云々でと左門を手放さず身振り手振りで説明すると小平太たちは懐かしいと腕を組んで後輩たちの頭を撫でた。小平太たちの試験もそうだったらしいが、それはもう何百年も前の話。巫女など腐るほどいたわと留三郎は笑い飛ばして作兵衛の頭を叩いた。

「で、どうやら私は烏天狗警察に連行されるみたいで」
「なんだと?バカタレ、お前がいなくなったらあの神社の結界誰が守るんだ」

「そこが問題なんだよ。私があそこから離れると何もかもがバランス崩して恐らくみんな住み辛くなっちゃうんだろうなぁ〜。大変だなぁ〜。誰か守ってくれないかなぁ〜」

たかが自宅警備員されど自宅警備員。祖母に力はないし、母は仕事で外へ出ている事がほどんど。あの神社のあの空気は私が引きこもり生活をしているおかげで保っているようなもんだ。うちの神社に住み着いている妖怪たちの中でも一等仲の良いこの連中は良く私の部屋に来てはゲームの相手をしてくれたり一緒にテレビを見たり、時には羽を布団に昼寝することもある。烏警察は現役職員らしいが、寝泊まりは完全に我が家の木の上だ。もちろんその木がある場所も私のおかげで良い気が流れているわけだ。だから、連中が私を見捨てるわけがない。


「そういう事なら仕方ねぇな。作兵衛すまん、一時お前の敵となろう」
「私達今あそこに住んでるから!無理に連れて行くなら、三之助、私と戦え!」
「よーし立て左門!お前の試験にギンギンに付き合ってやる!」

「先輩たちを使役してるなんて聞いてないっ…!」
「ひ、卑怯だぞ名前…!」
「は、早くしねぇと数馬たちに先越されちまうぞ…!」


「はぁ〜〜〜〜っ!!もふもふふわふわの羽が六羽も!!これ全部合わせてむしったら最高の羽毛布団になるわ!!」


一方は試験のため。一方は引きこもりのため。今一人の人間と六羽のもふもふが錫杖を構えて睨み合いをはじめた。

さてさて、勝利の大妖怪は誰に微笑むのやら。





警察vs警備員

むしろこのまま住めばいいのに



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