イヤホンを耳に突っ込み電車を待つ。
「三之助ー?何聴いてるの?」
「あー、BlackPiratesってバンドの曲」
「え?何それ知らなーい」
「だろうな」
「っていうか今日カラオケ行かない?西高の友達来るんだけど!」
「悪い、俺今日無理なんだわ」
「えー、最近ノリ悪くなーい?」
今時の曲なんか知らない。大概はマイナーなバンドばっかり聞いてる。カラオケに入ってないから聞かないとか、そういうことを言ってるやつとは仲良くなれそうにない。
カラオケで歌うために聞いているわけではない。というか、お前等の歌なんてヘタクソで聞いてられない。
都内のライヴハウスに親友に連れて行かれたとき、衝撃を受けたのだ。それからずっとそのバンドの曲を聴いてる。
教えてくれた親友よりはまってしまったかもしれない。
ライブに行かないとCDが買えないってのもまたいい。
そういうのが好きなんだ。このガシャガシャしたやかましい音が、この低い声が、たまんなく好き。
お前等の聞いてる愛だの恋だの同じような歌しか歌わないアーティストなんて興味ないわ。
今日はあのバンドのライヴなんだ。
お前らと遊んでる暇はない。
「ふぅ…」
電車が来るのは10分後。目の前で先立たれてしまった。
とりあえずメールの返信でもするか。
ケータイをポケットから取り出しメール画面を開く。
隣にマスクをつけたうちの学校の制服のやつが座った。
ギター持ってる。お前もバンドマンか。
「苗字せんぱーい!!」
反対側のホームから聞こえたのは、後輩の声だった。あれ、虎若と団蔵じゃないのか。
苗字先輩とは誰なのだろうか。
チラリと周りを見回してみると、さっき俺の横に座ったやつがヒラヒラと手を振っていた。
あれ、同い年にこんなやついたっけ。
「今日はここなんてどうですかー!?」
虎若が叫んで、指をさすところにあるのは、
ベンチの前に移動させられていた、ゴミ箱。
ゴミ箱に何をするというのだろう。
ちょっと隣の人を見ていると、
持っていた缶コーヒーの空き缶を黄色い線の上に置いて
サッカーボールを蹴る様にして蹴飛ばし、
向かいの壁に当て、
跳ね返らせて、
ゴミ箱へ入れた。
何、いまの。
「すげぇえええ!!」
「苗字先輩、百発百中ッスね!!」
また、ヒラヒラを手を振る。
…―2番線に、電車が参ります…
「「苗字先輩さよならー!」」
また、ヒラヒラ。
虎若と団蔵とこいつの間に電車が止まった。
「………なぁ」
あれ、なんで声かけてんだ俺。
「はい………あれ、君いつもライヴに来てくれる人だよねぇ?」
同級生だったのかぁ。
そう間延びする声は、
今、
イヤホンから聞こえている声。
あれ?女だったの?
その歌声の君なんだこの出会い方。
(もしかして今日も来てくれるのぉ?)
(え、あ、行く、こ、これから)
(本当!嬉しいなぁ)
(え、あれ、…女、なの)
(あれ、知らなかった?)
(え、…えぇっ!?)
多分名前ちゃんは学校ではすごい大人しい。
そして後輩二人に総シカトされる三之助wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww