「勘ちゃーん、遊びにk………こらぁぁああ年越しそばテメェ!!」
「残念!俺はうどんでしたー!!」
「髪の毛遊ばれてんの否定しろや!!それよりこの惨事はなんなの!!」

一人暮らしで寂しいとほざく愛しい彼のために年越しは一緒に過ごしてやろうと緑のたぬきを持って遊びに来たというのに、この部屋の大惨事は一体なんだ。

今日はバイトがないから一日オフ。今までできなかった大掃除やる!と昨夜は電話で意気込んでいたというのに、部屋に入ったとたんに目に見えたこの状況。玄関に出ているパンパンのゴミ袋が二つ。カップめんやらお菓子の袋やらでいっぱいなのはまぁ見なかったことにしよう。それは別にいい。問題はその奥だ。じゃぁこのゴミはもともと何処にあったんだと聞きたくなるほどに、部屋が汚い。っていうかいつも以上に汚い気がする。

「なんで!?大掃除してたんでしょ!?なんでいつも以上に汚いの!?」
「してたよ、途中まではね」
「途中て……」

甘えるように後ろから抱き着く勘ちゃんに本日は残念ながらときめきも何も感じない。むしろくっつくなぶっ飛ばすぞとボディーブローを食らわせたい気分だ。

汚い部屋の大掃除は一気にやらないとダメと何度も何度もこいつには言ったはずなのに。なのに、この惨事。こたつ周りはいつもと何も変わってない。もうそれだけで問題なのに、寝室なんか散らかりに散らかっている。おそらくこれはタンスの中の服を整理しようとして全部出し、挫折したのだろう。挫折した原因はおそらく、ベッドの上に無造作に置かれた一年以上前の日付の雑誌だ。何処から出てきたのかは解らないがこれが出てきてしまい読むのに夢中になってしまい、気付いたらこんな時間だったんです、ってパターンなのだろう。

先に台所やっといて正解だったね。それだけは褒めてあげてもいいよ勘ちゃん。それだけな。うん、ほんと、それだけ…。

「今年は大掃除頑張ったよ!褒めて!」
「二点」
「赤点!?」

「寝室で90点減点。なんでもうちょっと頑張れないのかな……!この辺はいつも通りだし…台所が綺麗になったことぐらいじゃん……!」
「えぇ〜……」

「……まぁいいか、台所綺麗になったそこだけ褒めてあげる…」
「よっしゃ!じゃぁ飲もう飲もう!」
「へーへー」

楽しそうに背を押され足の踏み場なんてほとんどないに等しい床を歩いた。テレビから年末の特別番組が流れていて、その正面になる場所に腰を下ろした。家主である勘ちゃんは煙草をくわえながらガサガサとゴミを足でよけながら冷蔵庫までひょこひょこ歩いていき、冷蔵庫を開けビールを出していた。

「勘ちゃん来年こそ禁酒か禁煙しようね」
「あははは、名前こそ、来年の事言うと鬼が笑うよ」
「やかましい。あと何時間もしないうちに年越すわい」

別の場所に座ればいい物を私の真後ろに座り抱っこされるように腹に腕をまわされた。後ろから伸びてきた手に持たれていた缶ビールを受け取って、小さく乾杯して口に運んだ。おいしいけど、このセクハラ手つきやめろ。

「名前こそ来年はもう少し太ろうね」
「殺すぞ」
「俺もう少し肉付きあった方が好きだよ」
「死ね」
「えっ、酷い…」

「勘ちゃんと付き合ってから勘ちゃんのお菓子テロと酒テロで私かなり太ったよ」
「いやいや!逆に健康的になったんだって!感謝してよ!」

「一瞬別れようかとおもったぐらい」
「酷い!なんでそんなこと言うの!」

うわぁぁあと泣き真似をして肩に顔を埋められたのだが、もうこればっかりは勘ちゃんを恨むわよ私は。

勘ちゃんは甘いものと酒がなによりも好きなのだ。そのくせに、勘ちゃん自身は一切太らない。体質なのかなんなのか、恐ろしい程に太らない。私と同じ量または倍以上は食べてるのに体重は全く増えない。それに加えて喫煙者だしほぼ食っちゃ寝同然レベルなのに……。

「絶対別れないから!なんだったら名前と一緒に居るときは甘いものも酒も控えるから!」
「そういう問題じゃぁない!!」
「じゃぁどうしろっていうの!?」

「太って!」
「あははは無茶苦茶言うね!!」


笑いながらも抱きしめる力を弱めない。こんな無茶苦茶な暴言吐いてもそれが冗談と思ってくれているのか笑いながら私の後ろで酒を口に運んだ。

付き合ってから今の今まで、考えてみるとマジで喧嘩したことないかもしれない。私が本気で怒っていても勘ちゃんはそれをのらりくらりとかわして済ます。はいはいごめんねと抱きしめられれば、そんなのやる気なくなるに決まってる。なんていうか勘ちゃんに操作されてしまっている感ヤバいけど、そうしてくれるから今まで大きな衝突もなく付き合ってられたんだろうなと、今改めて思いました。はい。


「いやーやっぱりいいね名前」
「なにが」
「んー、やっぱり大好きだなーって」
「へ?」

「ありがとねー、こんなダメなやつと付き合っててくれて」


あ、勘右衛門さん酒臭い。もしかして私が来る前から飲んでた?


「駄目男ですねーやっぱり、俺はぁ」
「そうだね」

「名前に言われないと掃除も出来ないし」
「うん」

「名前来ないとカップ麺ばっかりだし」
「うん」

「名前いないとお菓子ばっかりだし」
「うん」

「名前いないとなんもできないなぁー」
「せやね」



「名前、大好きだよー」



ゴミだらけの部屋で酒飲みながら酒臭い男に抱かれて愛を囁かれても、ぶっちゃけときめきも何もない。むしろはたからみたら私はヒモを世話してる女に見えるかもしれない。

でも勘ちゃんはダメ男ってわけじゃない。確かに部屋は汚いし酒好きだし煙草も吸うし私いるのにエロ本隠し持ってるけど、見た目の割にちゃんと仕事はしてるし、めちゃめちゃ貯金してるらしいし、なにより私の事をこうしてちゃんと愛してれているみたいですし。ダメってわけではない。

…この部屋さえ綺麗であれば完璧なのに……。


「勘ちゃん」
「うん?」
「そういう台詞は、酔っぱらってないときに聞きたかったなぁ」
「うーん?」

「好きだよー勘ちゃん」

「本当?」
「本当」
「来年もいっしょですか」
「はいはい一緒ですよ」


来年もこんな馬鹿な男に振り回されて過ごして、幸せ感じながら過ごすのもいいのかもしれないなぁなんて思ったりするあたり、本当、勘ちゃんの事好きなんだなぁと思ったりするわけでありまして。あぁ恥ずかしい。勘ちゃんと付き合うまでこんなこと思ったりしなかったのに。だいぶこのクズ男に絆されてるな私は。

「あ、勘ちゃん兵助からメール」
「なんだって?」
「初詣どうするって」

「行く!」
「酔っぱらってんのに?」
「行く!甘酒飲みに行く!」
「まだ飲むか貴様!!」

ふらふらと立ち上がりながらもコートを羽織る勘ちゃんまじ見てられない。正直夜中に家の外出たくないし家の中で過ごしたいなぁと思っていたけど、友人からメールが来て彼氏が出ていくなら私も行くしかあるまい。ちゃんとコート着てとボタンとめちゃうあたり、彼女というより母親のようである。あぁなんでもう酔っぱらってるのか。どれだけ飲んでたの。

「勘ちゃんちゃんとしないと別れるよ」
「やだ!」
「ほらボタンとめて、シャキッとせんかい」
「はーい」

ほんのり赤い頬をおさえつつふらふらと玄関へ向かった。酔うって解るなら最初から飲まなきゃいいのに。

手を繋ぎながら兵助たちとの約束の場へ向かった。寒くて吐く息が白いけど、つないだ手があったかくて気持ちいい。


「勘ちゃん」
「うん?」


「大好きだよ。来年もよろしくね」
「俺も大好き!来年もよろしくね!」


「……明日になったら忘れてるんだろうなぁ」
「ん?」
「なんでもない。ほれ早く行くよ」
「はーい」




そして思ってたより早く除夜の鐘が鳴り






「………今年もよろしくね」
「あははは!今年もよろしく!」





酔っ払いと道路で年を越すのでありました。













ゆく年、くる年




「遅い」
「ごめん兵助、勘ちゃん酔っぱらっちゃって」

「大丈夫、兵助も雷蔵ももう潰れてるから」
「うわ、ハチも酒臭い」

「正直この中で正気保ってるの私だけだから」
「じゃぁ私と三郎だけで行こうか」
「そうだなこいつら置いて行こう」

「浮気者!!!三郎に名前はあげない!!!」
「ふざけんな三郎!!名前に手ぇ出すな!」
「お豆腐寄越すのだ!!」
「うわぁぁああん三郎に見捨てられたぁあああ!!」

「……めんどくさ!!」







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Twitterでの投票で一番多かった勘右衛門くんで年越し短編でした。
沢山の投票ありがとうございました。
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