「すいません名前先輩、お団子ごちそうになっちゃって」
「なぁに気にすることないさ。ただしんべヱには内緒にしろよ。財布が空になってはたまらんからな」


解ってますよと笑って、乱太郎はみたらし団子を口に運んだ。

保健室の薬草が足りなくなったから、なんと乱太郎は一年生なのに一人で山へ入ろうとしていたのだ。運よく帰省中の私が其処へ通りかかったからよかったものの、一人であそこへ入るには危険だ。伊作は一体何をしているのだと問いかけると、伊作も休みだから実家へ帰っており、左近も数馬も用事があって出かけていて、伏木蔵はタソガレ忍軍に拉致られ紅葉狩りだそうだ。プロ忍仕事しろ。

ちなみに乱太郎は保健室の当番が誰もいなくなっちゃうからと、その誘いはお断りしたらしい。

だが薬草が無くては治療もクソもない。

今は忍たま長屋に残っていた長次に代わりを頼んだらしい。大人しく本を読んでいる事だろう。長次なら治療の知識もある。万が一があったとしても対応できるはずだ。その人選は正解だったな。


「だけどあそこは入ってはいけない山だ。それも下級生一人なんか危険極まりない。伊作から聞いていないのか?」
「で、でも!いつも伊作先輩と一緒に…!」

「六年となら入っても大丈夫だろう。だけどその時何度か伊作は一人で行動していたことがなかったか?」
「!……そういえば…」

「あそこは地形が複雑なんだ。いきなり崖に出たり古井戸があった場所も多々ある。確かに貴重な薬草が生えてはいるという話は知っているだろうが、それ以外にも大切な知識は山ほどある」
「…は、い」

「もし熊やら山賊やらが出たらどうする。下級生一人で生きて帰って来れるわけないだろう?今度からは誰でもいいから大人か先輩を連れて行きなさい」
「……すいませんでした…」


もぐりと口に団子を運ぶ。甘いあんこの風味が口の中いっぱいに広がるが、乱太郎は、私の話を聞いて手を止めてしまった。


「……あぁっ!気を落としたか!?すまんなこんな口調だから説教じみて聞こえたのだろう!!気を落とさないでくれ!ただのアドバイスというかなんというか……!!」


下をうつむき団子を食べる手を止めてしまった隣に座る可愛い後輩は、心なしか泣きそうな顔をしていた。

私はいつだってこういう喋り方で、ただちょっとアドバイスをしてあげただけなのに説教じみて聞こえてしまうような時がある。私は別に怒っているわけでもないのに急に後輩が泣き出した時は本気でどうしようかと思ったものだった。くノ一の間では一時期中々怖い先輩だと思われていたみたいで、心を痛めた。その度何度も忍たまの野郎どもに相談したのだが、やはり仙蔵も同じ思いをしていた時期があったようだった。言葉遣いには気を付けねばならんな。

また一人下級生に嫌われたと心苦しくなり私は頭を抱えた。



「……私、…もっともっと伊作先輩のお役に立ちたいと思ったんです…」

「…?」



団子の串はいつの間にかさらに置かれており、手には、薬草の名と図が描かれたメモが握られていた。
それはおそらく本の切れ端などではなく、乱太郎が調べて自分で描いたものだろう。墨が手についているところから見ると、さっき描いたばかりと見える。


「…今日は、伊作先輩がいらっしゃらないから……、だったら、私一人で保健室を守らないとって…。怪我しちゃった人がいたら、私が治してあげなきゃって…。でも薬草が足りないんじゃ、治療も出来ませんし…。それじゃ、帰ってきた伊作先輩も、お困りになるだろうと思ったんです…」


うっすらと目に浮かぶのは、涙だろうか。


「だからっ、私一人で薬草集めれば、伊作先輩もお喜びになると思ったんです…!………でもやっぱり…」


薬草の穴場を雑渡さんから教えてもらったのだと伊作が気分良くしていた時があった。タソガレ忍軍御用達の薬草が大量に生えているところ。町で売っていないようなものも生えていたりして、予算が削られても薬品棚は潤っていた。良く持ちきれないほどの量を取りにいかねばならなくなった時、伊作は必ず同級生を連れて行っていた。

何故委員会の後輩を誘わないのかと一度訪ねたのだが、やはり理由は地形の話だった。
鉤爪を使い崖を降りねばとれなかったり、狭くて危ない洞窟を通らねばならなかったり。なるほど、それは確かにと私たちは喜んで手伝いに出ていた。


だが私たちで都合が合わない時は、致し方なく下級生を連れて行っていた。だけどその時は下級生でも薬草を集められる簡単なところに皆を置き、自分は一人で危ない場所へ行っているのだと後日聞いた。その日は帰ってくると怪我が中々酷い。後輩には「不運」で片づけているが、我々はその怪我の本当の理由を知っているのだ。


伊作もちゃんとあそこは危ない所だと話せばいいのだ。
私がいたからよかったものの、下級生だけでこんな危ない所に伊作に秘密で行ったらどうする。後で大変なことがあっても遅いのだぞ。



「……伊作はいいなぁ」
「…?」

「こんな先輩想いの後輩がいて」


私の後輩は馬鹿ばっかだ。豆腐が好きだった日々髪を狙ったりいじめっ子や潔癖症。まともなやつなんて一人もいやしない。まぁ可愛いからいいとするのだが。


「名前、先輩…」
「先輩を思って一人で山に薬草を摘み行くなんて、いや、勇気がいる行動だ」


あっぱれあっぱれ、と私は乱太郎の頭を撫でた。

可愛い後輩に心配をさせたくないという伊作の願い。だけどそんな伊作の役に立ちたいと乱太郎は一人で伊作がいつも怪我をしまくる山へ向かった。素晴らしい後輩じゃないか。


「だから、団子を食ったら私と一緒に行こうか。二人なら、早いし安全だ」


茶を口に。私の分の団子も食べていいよと皿を乱太郎に寄せた。


「いいんですか…!?」
「私も暇だしな。薬草がないのでは元も子もないし、乱太郎一人じゃ行かせられないからな」
「あ、ありがとうございます!!」

「帰りに、長次に団子を土産に買おうな」
「はいっ!」


本当にこいつは、嬉しそうな顔が可愛らしい。
乱太郎は早く行きましょう!と、両手に団子を持って一気に団子を食いきったのであった。




「……っ!!?!?!??!」
「らんtアァーーッ!?!?!!おばちゃんお茶ください!!ら、乱太郎ォオオ!!」






いとしやさしい彼の気持ち




伊呂波さんは『猪名寺乱太郎とお団子屋さんで苦しそうにしている話を書きましょう http://shindanmaker.com/244449
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