まぁ、その、イジメられているというわけではないのですが、なんとなく、教室に居場所が無くてですね。
「苗字さん、プリントの提出期限今日までだから気を付けてね」
「あ、うん」
会話はほとんどこんだけ。まぁ私が根暗に見えるというのも一つの原因だろうけど、正直途中入学のツラさって尋常じゃないよね。
初等部中等部一緒で高等部に上がればそりゃもう家族同然のようなもんでしょう。其処へ高等部からポンと入学してきたやつがいたって、お構いなしってわけで。友人がいないわけじゃない。むしろ中学同じ子だった子は何人かいるけど、クラスは別。教室にいるときは完全にぼっち。さ み し い 。
強がってないから。別に友達とかいらないしなんて一言も言ってないから。友達欲しいよクソ!進路のためにここの学校来たけど友達出来ないよクソ!青春謳歌できないよ!!
いやほら高校デビューとかしようとした時期も私にはありましたよ。眼鏡からコンタクトにしようとか髪染めてみようとか、「彼氏欲しい」を口癖にしようとしてみたりね?いや無理じゃん?冷静に考えて、友達と教室離れてるし、むしろ一貫校の空気ってこんななんだって改めてアウェー感を感じたわけでございましてね。外部入学生のための説明会の時は先輩方優しかったけどそりゃそうよね優しくしないと新入生逃すことになるもんねそりゃ必死になりますよね。
授業を終えて「さっきの問題解んなかった〜」なんて会話を耳にしながらもうおお私もその会話に入りたいともだもだしてるのは私です。私もその問題解んなかったです。会話に入れろください。
「平くんこれお願いします」
「あぁ」
ノートを集めている笑顔が素敵なイケメンで有名な平くんにシンプルなノートを突き付け、教室を出た。あー、平くんの下の名前忘れた。もうだめだ。あのクラスになじめていない証拠だ。あとお連れの綾部くんの名前も忘れた。8か9かその辺の数字が入ってた気がする。7だったかもしれない。なんだっけ。
廊下へ出て教室を覗き込む。私の友人たちもやっぱり一貫校のクラスにはなじめていないようで、本を読んでたりケータイをいじってたり。なんでクラス一緒になれなかったんだろう。先生絶対外部生いじめてる気がする。っていうかこの学園イケメンと美女多すぎて困る。それでいて一人ともまともに話せていないのもツラい。一人ぐらい仲良くなってみたい。まぁ私みたいなオタブス無理だけど。
こんな時私は決まってあそこへ行く。非常回路の扉を開けた向こうにある階段。
此処は避難訓練の時とか緊急時以外には全く使うことのない外に出ている階段だ。柵はレンガ造りだし、しゃがみ込めば此処に誰かがいるっていうのは外からは見えない。外へ出て、階段に座り、私は制服の内ポケットから携帯ゲーム機を取り出した。むふふ。監視カメラもないこの場所で生徒がゲームをやっているだなんて先生方も気づくまいよ。
スイッチを入れてゲームを起動。見慣れたゲーム会社のロゴがうつり、BGMがかかった。あまり大きい音では扉の向こうに聞こえてしまう。私はそっとボリュームを下げた。
今日は此処から!と決めていたステージを選択し、私は世界に入り込んだ。休み時間はたったの10分とはいえ、私にとっては充分な時間だ。この10分さえあればどんなに寂しい教室で生活していようが私は胸はって卒業できる自信がある!フハハハ!!ポジティブ精神なめんな!!!
ステージを進み進み、敵を倒し倒し、アイテムを一通りゲットした後、このステージのボスとぶつかった。こんなの私の持っている武器で戦えば楽勝じゃい!とボタンを連打し、ボスは地へ倒れこんだ。
ッシャ!と小さくガッツポーズを決め、表示された結果一覧を見る。なるほど手に入ったアイテムは全部持ってるな。よし売ろう。ダッシュで店に駆け込み被ったアイテムは全てお金に代えた。
すると、画面の端に小さくオンラインマークが出た。このマークが出たときは、近くで同じゲームをやっている人がいるということ。
はて?こんな素敵な学園でゲームしちゃう輩が私以外にいるのか?それとも学校外か?
【 ハバネロ さんと 勝負 しますか ? 】
ハバネロさん。はてはて。一体誰の事でしょう。本名じゃないよね。この学園留学生枠ないよね。ハンドルネームだよね。
キョロキョロと顔を動かしても、誰も近くにはいない。扉の向こうにも恐らく誰もいないだろう。むしろ此処へ近寄る人があまりいないと思うのだけど。教室で誰かがやってて、それで電波ひっかかったのかな。
面白そうだ。授業に遅れたらトイレ行ってたことにしよう。このゲームで私に勝負を挑んだのが間違いだ。後悔するがいい。
【 名前 さんが ゲームに 参加しました 】
【 ハバネロ さんが ゲームに 参加 しました 】
ステージはハバネロさんが決め、制限時間を私が決め、ハンデは、無し。勝負開始の合図がスピーカー部分から小さく鳴り、私はダッシュで敵の姿を探した。なんで船上戦なんだよ戦いにくいなぁクソぅ。
武器を装備し固有技を得意なヤツに設定した私に負けの文字などありえない。最初はほぼ互角で、敵も中々やりよるなと思ったのだが、やはり寝る間を惜しんでやりこんでいた私に勝てるわけがない。こんな技もあるのよハバネロさんよく見ておくんだな!!コマンドを素早く入力し飛びかかる。ガシャン!と刀を振りかざし、敵はぐわあぁぁあ!と叫んで地に倒れこんでしまった。
うおおおおお見ず知らずのハバネロさんに勝ったぞうおおおおお!!!
「っしゃぁー!!」
「あー!ちくしょー!!」
「!?!??!?!?!」
思わず出た歓喜の叫び。だがそれと同時に、階段の下から別の人間の声がした。だだだだdっだだあっだだだっだあだあdddっだだ誰。誰かいるのか。そんな、こんなところに誰かいるなんtてmったく全然聞いててえはjdskふぁない。ヤバイ心拍数がヤバい。何今の。誰の声。
私が座っている階段の、折り返して、さらに下だろう。其処に、誰かいる。
ゲームの画面は起動したまま、音は完全に消して、私は足音を立てずに、ゆっくり、ゆっくり階段を降りた。
のだが、折り返し地点からそっと下を覗き込んだと同時に、相手も同じことをしようとしていたのか、覗き込んだその真ん前に、見知らぬ顔がズイと出てきていた。
今の完全にホラー映画のワンシーン。
「くぁwせdrftgyるぱんlp;@:!!」
「お、なんだ誰かいたのか」
あまりの衝撃に言葉にならない言葉を叫び、私はうっかり、ゲーム機をぽんと放り投げてしまった。あ、しまったと思った時には時すでに遅く、ゲーム機は、目の前の男の人の手の中に飛んで行ってしまった。誰だっけ、誰だっけこの人。
「Winner!」と楽しそうに表示される画面をみて、目の前の男の人は「あぁ!」と声を上げ私をビッ!と指差した。
「名前ってお前のことか!」
「は、はい…?」
「なんなんださっきの技!裏ワザか!?あんなの見たことないぞ!どうやって発動した!?」
何を言ってるんだこの人は。私は目の前の人の大声にビクビクと肩を揺らしながら、この人が誰だったかということを思い出すので精いっぱいだった。えぇぇぇ誰だよこの人ゲーム返してよ。
男の人は、反対の手に持っていたゲーム機を私の目の前に突き出した。画面には青い文字で、「Lost…」と表示されて、文字の向こうでは、さっき私が倒したキャラクターが寝そべっていた。あ、もしかして。
「……ハバネロさん、」
「私だ!お前強いな!久々に負けたぞ!」
…………ハバネロ…。
暴君ハバネロ…………。
暴君……。
暴君委員長………。
暴君体育委員長……。
暴君、七松、小平太、委員長………………!??!?!?!?!??
「な、なまつせんぱい、」
「なんだ、私の事知ってるのか?」
「ハバネロ、さん」
「私お前の事知らないぞ!名前なんて言うんだ?」
「名前、です」
「そのままか!本名か!よし覚えたぞ!名前な!」
「は、はい」
「学年は?」
「一年、です」
「クラスは?」
「一組、ですけど…」
「なら滝夜叉丸と一緒だな!そうか!滝の友達か!私の後輩だ!」
「た、平くんとは別に、とも、ともだちでは、」
「あ、そうだ滝からお前の連絡先聞いていいか?今度もう一回勝負しよう!次こそは負けんぞ!」
「え、あ、いやその、」
「あ、やばいもう授業始まる!すまん名前!じゃぁ、えっと、昼!昼飯一緒に食おう!そんでこれやろう!あとで連絡するからな!じゃぁな!」
「ちょ、あ、の!!」
七松先輩、体育委員長の、七松先輩。暴君、不良、最恐、最強、最悪。暴君、七松小平太先輩。こわいひと。たしか、このがくえんで、ぜったいにてきにまわしてはいけないとうわさされていたこわいひと。うわ、ほんものだ。ほんもの。
ななまつせんぱいを、げーむで、ぼこぼこにしてしまった。
あ、どうしよう。ゲーム機持ってかれた。
「平くんんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!」
「な、なんだ!?どうした!?苗字!?」
「何の装備だったら勝てる!?!?どのステージなら負けない!?!?」
「は!??!」
「っていうかあの人何属性なの!?闇!?炎!?雷!?!??!?」
「落ち着け!!なんの話だ?!?!!?」
「七松先輩の倒し方教えてぇぇぇええええええええ!!!!!!」
「はぁ!?!??」
オンライン大戦争Twitterのフォロワーさんとの会話から派生しました。