キリ番ヒット 三毛猫 様リクエスト
「作兵衛で甘い短編」

































「! 名前先輩っ!」

「おぉ作兵衛!久しいな、二週間ぶりというところか」
「はい!お久ぶりです!」

左門と三之助を無事に食堂まで送り届け、昼。二人より先に飯を済ませた俺は、久しぶりにくのいち教室の長屋へ足を運んだ。中へは入れずとも、柵の外から覗けば名前先輩のお姿を見ることは出来る。ここ数日、名前先輩を全く御見かけしなかったので、何処に行ったのかと、ついにシナ先生に聞いてしまった。何処にもいないときは忍務だと名前先輩は毎度仰っていたが、今回は逢えなかった期間が長すぎた。

シナ先生はにっこり笑って、「長屋へ行けばわかるわよ」と俺の頭を撫でた。左門と三之助の迷子紐は藤内に任せ、俺は一目散にくのいち長屋へ駆け出した。

長屋の外につき、柵を登ってみようとしたときに、丁度そこにひょっこりと探していた人物が姿を現した。逢いたくて逢いたくてしかなかった、名前先輩だ。


「あの、名前先輩、」
「何処へ行っていたんですか?と聞きたいんだろう」
「…す、すいません、」

「いや、今回は忍務ではないのに内容をお前に告げる時間もなかった私が悪い。入りなさい。私が許可する」


名前先輩はそういうと、長屋の柵の下の方の木をかきわけトンネルを作った。身を屈めれば通れるほどの隙間だ。俺は言われたとおり、忍びこむようにその間に身を入れたのだが、その周りに他のくノ一たちは見当たらなかった。まぁそれはそうだよな。六年生のくノ一は人数が少ないらしいから。俺は全体の人数なんか知らねぇが、留三郎先輩の話によると片手で数えられるほどだと教えてもらったことがあった。

ついておいでと名前先輩は歩き出し、ついたのはくのいち六年長屋の庭の端。其処には見たことのない小屋が出来ていた。いつの間にこんなもん…。


「これが、姿を見せられなかった原因ですか?小屋を作っていたと?」
「いや、これを作ったのは留三郎だ」
「留三郎先輩、」

「お前にも手伝っては貰いたかったのだが、お前はまだ体が小さい。襲われたら私が悲しい。だから留三郎には口止めしていてもらったんだ」

「……お、襲われる?」


なんのお話をされておられるのか。名前先輩は困ったように顔をかき、ゆっくり小さく、扉を開けた。



「大きな声を出すな」

「…?……っ!お、狼………!!」



小屋の中には、ぐったりとしたように横になるかなり大きい体をした、狼だった。暑さにやられているのか、体の調子が悪いのか、横になって、ピクリとも動きはしない。
だがよく見ると、その足には包帯が巻かれていた。右足全体に巻かれた包帯はうっすらと血が滲んでいる。傷の調子が悪くて寝込んでいるのだろうか。


「こ、この狼のお世話を…?」
「いやぁ梃子摺っていたのはこいつらじゃない。もっとやっかいな連中だ」

「……もっと…!?」


名前先輩は、ぱたんと小屋の扉を閉めて、指を銜え、ピーーーーーッ!と、空に向かって大きく指を鳴らした。



やべぇ名前先輩は獣遁術がすげぇ使える名手の先輩だそれでもって生物委員会の委員長として忍たまの先輩からも同年代からも後輩からも崇拝されるレベルの凄いお人だそんな名前先輩が空に向かって指笛を吹いたってことはとんでもねぇ何かが此処へ来るにちげぇねぇ狼か鷹か熊かもしかして恐ろしいほどでけぇ武者かもしれねぇ怪我した狼を保護するようなお優しい人だ野武士を助けてもおかしくねえほどの御心の清らかなお方だこのピーッて音でびゅんと駆けつけて「この前髪ツンツン野郎は曲者だ殺せ」「ウッス」とかなって俺はこのまま名前先輩にいやその野武士に殺されちまうに違ぇねぇあぁ左門と三之助の迷子の世話よ藤内数馬孫兵頼んだぞ俺は先にあの世へ行くことにするよ



「あ、作兵衛後ろ気を付けろ」

「えっ、なんdうわぁぁ!!」



タタタタタッと軽快な足音がいくつも耳に届き、名前先輩は俺の背後を指差した。ついに野武士が来たのかと後ろを振り返り戦闘態勢に入ろうとすると、それは時すでに遅く、俺の顔面にもふもふした何かが大量にはりついた。勢いのあまり背中から倒れるように地についてしまったが、もふもふした感触は未だに俺の顔から離れようとはしない。なんだこれ。何がおきてやがる。


「ははは!やはりお前らも作兵衛が好きか!招き入れて正解だったな!ほら作兵衛、立ちなさい。小さいとはいえ狼。油断していると食われるぞ」
「ひっ、」

一つ一つ剥ぎ取るようにぺっぺと名前先輩が俺の顔のもふもふを取り除いて行った。そして名前先輩の口からでた「狼」という言葉。名前先輩が差し出す手に掴まり立ち上がると、名前先輩の足元には小さい狼がわらわらと集まっていた。全部で六匹。狼にしてはまだまだ小さい。子供だ。


「…もしかして、小屋にいた狼の」

「あぁそうだ。山の中で見つけた怪我した狼だ。学園で治してやろうと連れて帰ったはいいがどうやら妊娠していたようでな。ヘタをすれば命も落としかねないのでな、二週間授業にもろくに出ずに部屋に張り付いていたんだ。無事に生まれたはいいが、母親が歩けずには外へ連れだせない。留三郎に頼んで此処に小屋を作ってもらい、散歩は私が代わりにしていた。今ではすっかりこいつらだけで山の中を駆け回ることが出来るようだが、母親はまだ回復には時間がかかる。これがまた元気な連中が生まれたもんでなぁ…、私を第二の母親だとでも思っているのかあっちにいってもついてくるこっちにいってもついてくる。忍たま長屋で暴れられたらかなわんので、お前の所に顔を出すことも出来なかったのだ」


すまないなと俺を頭を撫でる名前先輩の手は、傷痕や、髪痕が多数あった。……寝ている狼に警戒してやられたのか。

名前先輩の身体は、御世辞でも綺麗と言えるような体じゃねぇ。至る所に傷があったり、痣があったり、酷い時は化膿していたり、縫い目があったりする。それは獣遁を極めた名前先輩だからある傷だって、竹谷先輩が仰ってた。

『狼と仲良くなるにはそれ相当の対価がいる。熊を手懐けるのは簡単なことじゃない。鷹に襲われれば目はなくなると思った方がいい』

名前先輩は、獣遁に興味を持った俺に、いつもそう仰っていた。手懐けた生き物は数知れず。だがそれと同時に身体に負った傷も数えきれねぇ。腕にも、背中にも、足にも、腹にも、名前先輩は傷だらけの身体でおられる。


……なんでそれを知ってるかって…?言わせんじゃねぇよ恥ずかしい。



「次に共に風呂に入るときは、また傷が増えているだろう。嫌いになってくれるな」

「そんな、私が名前先輩を嫌いにだなん、っ、うわ!」
「こらこら寄さんか、作兵衛は食い物ではない」


悲しそうな顔をする名前先輩を見上げた途端、俺の脚に一匹の狼が噛みついてきた。忍服に噛みつきぐいぐい引っ張るようにする狼は、名前先輩から俺を離そうとしているようだった。
名前先輩が狼の頭を撫でるも、こいつは俺の脚から離れようとはしない。


「やれやれ、こいつは作兵衛が私を嫌いになるとでも思ったかのか」
「え?」

「ほらやめろ、これは私の大事な者だ。お前が手を出していい相手ではないぞ」


ぱさりと、俺の視界は桃色に染まった。どうやら名前先輩の上着を頭からかけられたようで、それを取り見上げると、名前先輩は袴に黒の内着姿になっていた。


「匂いつけだ。少しの間、それを羽織っていなさい」
「は、はい」


狼は、俺の身体から名前先輩の匂いがすることに気付いたのか、大人しく袴から口を離して、頭を撫でるように催促しているのか、俺の手元に頭を押し付けてきた。


「私は母親代理だ。その私の匂いがする者には手を出さんさ。こいつらは頭がいい、お前の顔も直に覚える。今度は作兵衛にも、世話を手伝って貰おう」
「は、はい!私でよければ喜んで!」

狼は、俺が撫でる手を受け入れ、嬉しそうに喉を鳴らした。……可愛い。


「お前は作兵衛が大好きだな。ならばお前の名前は作としよう。よしよし。ならばこいつは神とするか。こいつは三。こいつは数に、藤、孫としよう。ははは、友達がいいっぱいだなぁ作。いや、こいつらは兄弟だな。一男、作。男前な名だな」

「そんな簡単に…」
「作がいるんだ。丁度六匹、お前らからとってそう名付けよう。よしよし作よ、気に入ったか」


俺が撫でる狼を、ひょいと抱え上げると、作と名付けられた狼は、名前先輩に抱えられ満足そうに鳴いた。まだ俺のひざ下ぐらいの大きさとはいえ立派な狼。これからこいつの世話を俺にも任せてもらえるというのは、嬉しいことだ。そうだ、孫兵たちにも教えてやろう。孫兵は特に喜びそうだ。藤内にも話して、狼と遊ぶ予習をさせておこう。

「うわっ、」

ドンと小さく背中に衝撃を受け、目を向けると、俺の背中にはさっきの怪我をしていた狼がいた。ほぼ俺と同じくらいの大きさの狼だ。こんなに、デカかったのか。

「!もう歩けたか、いや、まだ安静にしていなさい、傷が開いたらどうする。ほら、お前らももう小屋へ戻れ」


名前先輩は母親の背中を押すように小屋へ戻し、子供たちも小屋の中へ入れた。もう散歩の時間は終わりのようだ。

騒がしかったなと作兵衛は俺を連れて長屋の縁側へ連れて行った。こんなものしかないがと出したのは団子で、名前先輩はその場で茶まで淹れてくださった。小屋からきゃんきゃんと小さく鳴き声がするが、あれはじゃれあっているだけらしく、名前先輩はほっこりした笑みで小屋の方向を見つめた。

……俺にだって、そんな顔、しばらく…。


「なんだ作兵衛、不機嫌そうな顔だな」
「…名前先輩が、」
「なんだ、私に不満か?」
「いえ、その……」


「"狼ばかりで俺に構ってくれねぇから"」


「!」
「顔に出ているぞ」


ぼふんと、顔は真っ赤になるほどに熱を集めた。なんでって、思ってることを、まるっと見ぬかれたからだ。


「本当にお前は解りやすいほどに素直なやつだなぁ」
「ほっほhhっほほhhhhほっといてください!!」
「可愛い後輩に想われて私は幸せ者だ」

団子をぱくりと口に運ぶ名前先輩の余裕ぶっこいた顔が、ちょっと……ムカツク。

「ほら言ってみろ」
「…何をですか」
「言いたいこと全てよ」

「…嫌いに、なりませんか」
「何をだ」
「俺をです」
「今更何を言う」


「……俺にも構ってくれないと嫌です」
「あぁ」

「狼ばっかりじゃ嫌です」
「あぁ」

「留三郎先輩じゃなくて、俺も頼ってください」
「あぁ」

「俺も、小屋ぐらい頑張れば作れます」
「あぁ」

「………作ばっかりじゃ、嫌ですからね」
「あぁ」

「……」
「……」

「……あと」
「……」

「……作を抱っこしたんですから、」
「あぁ」

「……」
「……」

「……」
「……」

「………俺…も……」
「お前というやつは…なんて可愛いんだ…!」


ぐいと腕を引かれたどり着いたのは名前先輩の膝の上で、恥ずかしいけど、やっとたどり着けたという安心感。目に入るのは名前先輩の傷だらけの二の腕。あぁ、やっぱり素敵な人だ。

名前先輩はそのまま俺を抱え上げ部屋の中に入り、ピィと小さく指笛を吹くと、庭の小屋の扉がギィと開き、さっきの小さい狼たちがぞろぞろと再び出てきた。傷を負った狼もゆっくりとだが出てきて、名前先輩の元へたどり着いた。
ばたりと寝込んだ名前先輩の周りに、腹の上に、狼たちがくっついて、身を小さく縮ませた。親狼は名前先輩の枕になるように頭のところで足に負担がかからないような体勢で寝転がった。


「夕餉までちょっと寝るか」
「は、はい」

「あ、三之助と左門は」
「藤内に任せてきました」
「よし、なら、問題はないな」


おやすみと上着を俺にかけ、その上に作がのっかった。


作も好きだもんな名前先輩の匂い。俺もだよ。だって落ち着くから。





















爽籟の道標
おやすみなさい。










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三毛猫 様に捧ぐ


伊呂波の大好きな作兵衛ちゃんで甘だなんて素敵なリクエストありがとうございますうううう書けて嬉しいですぅううううーーーーッッ!!!

甘かったですか!?!?!?ちゃんと甘くできましたか!?!??!
バカ話ばっかり書いてるんで甘いのとか言われると中々難しいもんですね!?!??!??!?

作兵衛ー!俺は此処だー!結婚してくれー!!

出来ることなら再びルイズコピペを投下したい気分ですけど
今回はキリ番リクエストのおめでたい話だったのでやめましょう!!!

素敵なリクエストありがとうございました!!!
これからも「嗚呼、桜か。」を何卒オナシャス!!!!!

伊呂波

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