「暇」
「それな。名前は彼氏と遊んでろよ」
「昨日別れた」
「え、なんで」
「気持ち良くなかった」
「うわ早」


カフェで優雅に抹茶のフラペチーノを吸い上げる。暑くて短パンなんか穿いているのはいいけれど、足を組んだら赤く痕が付くのがいやだ。でも足くんでた方が楽だし、しょうがないよね。

ジュルルと煩い音が鳴り響くなか、目の前に座る友人は画面が光るケータイを手にして、にんまりと口角を上げたのだった。


「何、彼氏?」
「そ」
「は?誰?聞いてないけど?」
「彼氏っていうか、昨日逆ナンして」
「あぁそっちね」
「気が合いそうだから連絡先交換したの」


ひと夏の遊びとはよく言ったもので、夏が過ぎてもまだ連絡が続けられればよし。夏だけで連絡が途絶えたならそれで終わり。
逆ナンとかナンパによる成功例なんてここ最近一切聞いてない。ナンパされて一日遊んでハイ終了のパターンが対外だ。

だってそんな冷静に考えて道端で出会った顔も知らぬやつにホイホイついて行ってその後また遊べる可能性なんてごく低い。

相当面白い人だったか相当変な人じゃないと印象なんか残らないだろう。その後連絡先を交換するかどうかは双方の気が合わないと出来ぬ技である。

この子達は印象が良かったんだろうな。まぁあと一か月もすればだんだん涼しくなってくるだろうし、ひと夏の遊びもそろそろ終わるころよ。まぁ今その人に夢中なのなら応援するだけだけど。

画面をこっちに向けてこの人!とプリクラの画像を見せつけてきた。はい、イケメンではないですね。これは長く続きませんね。


「イケメンではない」
「ハッキリ言わないでよ」
「これの何が良かったの?」
「これ言うな!トークがめっちゃ面白かったんだよね」
「へぇー」

「でも喋るのなら、名前の方が得意だよねー」
「そぉ?」

「なんか、人の中を探るの上手いよね」
「はは、なにそれ」
「名前に隠し事なんか出来ないってこと。5分も話せば、自分の事丸裸にされそう」
「ただの変態じゃん」
「言葉の例えだよ。なんでそんなに会話続くんだろうっていっつもあたし思ってたもん。目もずーっとこっち見てるし、逆ナンしたら百発百中だよねー。ね、なんで?」


なんで、と聞かれても激しく困るのだ。私は昔から喋るのは得意だったし、人の性格を暴くのも結構得意だったりする。

あ、こいつ猫被ってんな、とか、あぁ、この話題はもっとこの人なら深く深くしゃべって来そうだな、とか。顔と、口の上がり具合と、目の大きさで大体解るもんだ。

ジュルとまた一口飲み物を啜って、カップをテーブルの上に置いた。


「…会話をするなんて簡単なことだよ。初対面の人でも、まず自己紹介。それで会話が終わったらそれは最悪。まず、会話を続けたいなら相手の好きな物を3つ聞く。それはなんでもいいの、食べ物、漫画、教科、色、ゲーム、季節、それだけでも話題は何個も広がるでしょ?」

「うんうん」


「そしたらなんでそれが好きか?っていうので最低5分は持つ。相手の意見と、私の意見。それだけでも10分はもつ。そしたら逆に苦手な物は?って話題につなげることが出来て、その後さらに、じゃぁこれなら平気?って、次から次へと話題は広げられる。で、話が途切れたらそれから別の好きな物へ話題を移す。そして、逆に苦手な物は?じゃぁこれなら平気?これの繰り返し。上手く意見が合えばその話題は盛り上げる。其処までいったら、今度は相手は私に対する他人意識というものをなくす。つまり、上辺だけど、友達という皮を被れる。そしたら今度は向こうから話題を持ち出してくる可能性がある。それにこっちがのる。私の意見を出す。向こうの意見を聞く。時間が持つ。ね?会話なんて結構単純に出来てるもんなんよ。プラス、相手の目を見て話すことで、あぁ、私の話を真剣に聞いてくれているんだな、という錯覚を起こす。これで完璧。話が成り立つし、自分のことを知ってもらえて、相手の事も知れる。ね?簡単でしょ?」


一気にそこまで喋り、ストローを口に加えて、最後の最後まで抹茶を飲みきった。空しく空気を吸うストローから口を離してカップをテーブルの上に置くと、周りの客の声に混ざって、正面の友達は小さく拍手をした。


「凄い、なんか、スパイみたい」
「スパイって、」

「スパイ?日本人だし、忍者ってとこ?」

「なにそれ私超カッコいい」
「こりゃぁナンパされた男も引っかかっちゃうわ、名前なんかに」
「なんかとは失礼だな」


友人も口にカップを持っていき、太陽のように明るい色を下マンゴーの飲み物を口に含んだ。

ちらりと外を見ると、外は人ごみであふれかえっていた。さすが休日。こんな日でもスーツ着てる人はいるし、派手な格好をして腕を組むカップルもいれば、某アニメグッツショップの青い服を手にぶら下げている人もいる。好きに生きてんなぁみんな。人生派手に楽しんでそうな人ばっかりだ。


「あ、あの人超イケメン」
「どれ?」


友人が指差す先には、カフェの正面で腕時計で時間を確認している人。まぁ派手な男だ。


「あれドレットっていうの?バンダナなんか巻いておっしゃれー」
「あぁ、あれはあとちょっとしたら女に声かけられるよ」
「えっ、なんで解るの?」

「ほら時計を見ては上の空。大方、友人が遅刻してくるって連絡来たからその間何しようかなーって考えてるってとこ?あの人狙ってる女なら、そのぐらい気付くよ」

「えー、…………う、うわ、本当だ」


頬杖ついて外を見てその男をみつめていると、生足を出した髪の長いお姉さん二人に声を掛けられていた。人懐っこそうな顔でその男の人は自分の腕時計を指差していた。友人がもうすぐ来るからとか、説明してんのかな。


「名前、凄い」
「あんなん見てれば解るって」


「……ねぇねぇ、じゃぁ、名前、あの男の人ナンパしてきてよ」


「あ?」
「さっきの話術見せて!ナンパ成功したらそのまま遊びに行っていいからさ!」

「ちょっとちょっと」
「名前がナンパ成功したら、此処のお金払ってあげるし、今度ご飯奢ってあげる」

「よーしのった。失敗したら?」
「逆ね」
「解った。じゃぁここ一旦任せていい?」
「おっけー」


テーブルの上に出ていたケータイと手帳をバッグにぶち込み肩にかけ、置いておいたサングラスをかけた。ぼさぼさになってた髪もポーチから出したワックスで一度整え、鏡で自分を確認した。

じゃぁまたねと手を振り、私は店を出てあの男を探した。


カフェの窓から見えたから……こっちの方角か。


噴水のふちに座っている男の人は、いまだぼーっと空を見上げていた。カフェに顔を向けると、友人が手を振って、「はよ行け」とでも言ってるようだった。






「……お兄さん、今暇?」

「はい?」

「暇そうだなーって、ねぇ、一緒に遊ばない?」

「………」




さりげなく隣に座って、その男の顔を見上げるように顔を上げた。



男は、じっと、私の目を……いや、サングラスを見ていた。




「…今なんて?」

「は?」

「あ、あの、もう一回、喋ってもらえません?」

「……え、えっと、一緒に遊ばない?…って、」



「…!?す、すいません、し、失礼でなかったら、サングラス外してもらえませんか?」








この男は、何に興奮しているのか。

私は言われたとおり、サングラスを外した。




すると、男は目をギラッギラに輝かせて、









「あ!?!?名前!?!?!?!?」

「!?」








と、大声をあげて、私の肩をガッシリ掴んだ。


「は!?誰!?」

「俺だよ俺!!!勘右衛門!!!!尾浜勘右衛門!!!」

「かんえもん?」

「おま、今世でも男遊び治ってねぇのか!!こんな声かけやがって!」

「は!?」

「だから言っただろ!!バカみてぇな男引っかけてねぇでちゃんとした男捕まえろって!!」

「何!?」

「お前城主との浮気奥方にバレて殺されたんだって!?だから俺たちのとこで暮らせって言っただろ!!」

「はぁ!?」

「なんだお前此処にいたのかー!!俺たち随分探したんだぞ!!!」

「ちょ、ちょっとちょっと!!待って!貴方誰!?今初対面でしょ!?」

「……なんだお前、覚えてないのか…!?」

「私の名前、なんで知ってんのよ!?」

「え、名前だろ?覚えてるよそんなん!懐かしいなー!500年ぶりくらいか!?」

「ハァァアア!?!?!?」



やばい、ナンパした男が、電波さんだなんて……!!!!



「これから三郎たち来るから!!お前も一緒に遊ぼう!」

「ちょ、ちょい待て!!!」

「覚えてないならしょうがねぇよ!!まぁ兵助も最初そうだったしな!じきに思い出す!」

「ハァ!?」

「よし!あいつらまだ来ないからカラオケ行こう!俺の歌聞け!」

「待て待て待て待て!!!!」







自己紹介も、好きな物の話もなく、


私は、逆ナンに成功しました。
























っていうか誰だお前
なんなのよこの人!!!






「ひぇー、名前凄いな……!」





「もしもし三郎!?名前見つけたんだけど!!!」

「誰だそれ!!!」






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