キリ番ヒット 智 様リクエスト
「短編ミラー越しに気付く恋の続編」
腰が痛い。
今はこれしか言えない。腰が痛い。それはもう信じられないほどに痛い。
「おはよう名前」
「おはよう滝…」
「なんだ随分と浮かない顔をしているな。…腰でも痛めたのか?それになんだその首の絆創膏は?かきむしったか?」
教室についた瞬間自席につくやいなやバタリと突っ伏す私を見て、隣の席の滝はどうしたんだと私の頭を撫で始めた。ふわふわと髪を揺らす手は心地よいのだが、その手は、ピタリと止まった。
「………なんで、ピアスが開いているんだ…」
おそらくこのピアスに見覚えがあるのだろう。滝の私の耳たぶを触る手がガタガタと震えはじめたのが解る。
「……なんで、お前が……あの方のピアスを、つけているんだ………!?」
震える滝にを睨みつけると、滝の顔は真っ青になっていた。
「…………教えてやろうか…。これはな、お前も良く知る暴君七松小平太様直々にピアスの穴を開けられたからだ。何故開けられたのか、何故小平太様のピアスを私のような分際がつけているか教えてやろうか…!?私のような地味で平凡なチビクソブスが小平太様の下僕となり下がったからだよ!!!」
ガタンと立ち上がりひっくり返った椅子の音、そして私が叫んだ言葉は教室中に響いた。これを聞いていた生徒は嘘だろ、とでも言いたそうな視線を私に向け、滝は、いまだ信じられないという顔で私を見上げていた。
そう、私は昨日、小平太様とお付き合いという名の主従関係になった。いや、小平太様は私のことを彼女だと言い張るが、そんなのとんでもない。私如きが暴君と恐れられる小平太様の横を並んでいいはずがない。私のようなただのチャラ男に振り回されるようなバカ女は小平太様の下僕がふさわしいのだ。彼女なんて、恐れ多くて言えるものか。
昨日は、走行するバイクから逃走することも出来ずあのままいけいけどんどんで小平太様の家に連れてこられた。小平太様は自室に私を連れ込むやいなや
「ずっと前、滝の隣に並んでいるお前を見て好きになった。一目惚れしたんだ。やっと手に入って嬉しいぞ」
と、そう真剣な口調でそう仰られた。
ただ元彼から助けてもらっただけで、接点なんてなにもない。告白をしてもいないしされてもいないのに、私はいつの間にか小平太様の所有物となってしまっていたみたいだった。
…物。そう、私は小平太様の物。言い換えれば玩具。そうだ玩具だ、私は小平太様の玩具となっていた。
此処は小平太様の家。そして小平太様の部屋の、小平太様のベッドの上の、小平太様の膝の上。腰に回された筋肉質な腕。頬を撫ぜる傷だらけの手。犬のようなくりっくりの目なのに、それは恍惚したような目をしていた。"暴君"なんて異名からはまったく想像もできないまるで壊れやすいものを扱うような優しい手つき。やかましく騒ぐ心臓に、私の顔は茹蛸のように真っ赤だったに違いない。噛みつくようなキスの後、押し倒された柔らかいベッドの上で、私はもうそれはそれは小平太様の好きなように扱われた。それこそ小平太様の玩具のように。小平太様は私という欲しかった玩具がやっと手に入ったのだ。嗚呼、しかし忘れたい昨日の出来事。グッバイ貞操。もう二度と逢えぬ友よ。
押し倒されてやっと気付いたのだが、私の身長と小平太様の身長は恐ろしく差が開いていた。後ろから抱きしめられると小平太様は背を丸めなければ私の首元へは届かない。まるで主人と犬。
下僕ごときに愛を囁いてくださるとは、小平太様はなんて心のお広い素晴らしい方なのだろうか。
「七松先輩と、お前が、つ、付き合い始めたのか…!?」
「違う!私が小平太様の横など歩けるものか!!私は小平太様の"物"だ!下僕だ!これが印だ!!!」
ネクタイを外しワイシャツのボタンを開け、首につけていた絆創膏をはがし、無数についている所有印を見せつけた。女子はキャーキャー騒ぐが、滝の顔は真っ青になる一方だ。
人はこれをキスマークなんて都合のいいように言うが、違う。これは所有印だ。私が小平太様の所有物であるという印だ。そして首の痕は首輪だ。小平太様直々につけられた首輪だ。
「それはキスマークではないか!」
「ちがぁぁあああう!!これは小平太様からの首輪だ!!私は小平太様の玩具だ!!!」
「いい加減に認めろ!主従関係ではなくお前は七松先輩とお付き合いしているのだと!」
「やぁぁあああめろぉおおおおお!!!私如きのゴミクズが暴君小平太様の横など歩けるものかぁぁあああ!!!!」
「名前!いくら幼馴染とはいえそれ以上私の先輩を侮辱するのは許さんぞ!!」
「私だって好きでそう思い込んでる訳じゃない!!私だって未だに小平太様とお付き合いしているという事実を受け入れられないんだよ!!」
だって私は、小平太様とお付き合いをスタートさせた10分前には他に彼氏という存在がいたのだ。向こうがどう思っていたとしても、私には彼氏がいた。それなのに、10分後にあの小平太様とお付き合いすることになっただなんて…。いやっていうか、彼氏と別れた10分後に他の男に貞操を捧げただなんてふざけているにも程がある。
それにもう一つ。"七松小平太"という男からも女からも全校生徒からの憧れ(?)の的が私のような平凡な女と付き合っているだなんて世間に知られたら、おそらく小平太様の株は一気に下がる。「え?七松先輩ってB専なの?」とか思われて、喧嘩してる隣の高校にまで広まってみろ。「おい小平太お前B専なんだってwwwwww」とか言われたら恐らく死傷者が出る。町一個消える。小平太様まじ戦闘力53万。
「っていうか、小平太様が私を好いていただなんて……信じられないよそんなの…」
元彼から私を助けてくれた勢いでどっかにデートでもすんのかと思ってたのに、小平太様の家に連れ込まれ小平太様と事に及んだ。事後、痛む腰を庇いながら寝ている小平太様の腕からすり抜け逃げるようにして家に帰ったが、連絡先も交換してなかったので昨夜連絡が来ることはなかった。交換してたら、私の命などとっくになくなっているはずだ。ぶっちゃけ今日学校にも来たくなかった。
しかも気を失っていた時にピアスの穴を開けられたのか、その時の記憶は全くない。家に帰ってお母さんに「あらピアスあけたの?」と言われてはじめで気付いたのだ。最中に見た光り輝いていた赤いピアス。何で此処に…とは、不思議と思わなかった。嗚呼、あの人の玩具なのだから証拠を残されて当たり前かと。
風呂に入ってから首と胸元の痕には発狂しかけたが。
必死になる私に、滝は肩を押さえて、っていうか押さえつけるように押し椅子に座らせた。あのなぁと口を開く滝は、呆れたような顔をしてため息を吐いた。
「…七松先輩はお前のことを本当に好いていたぞ」
「………えっ、」
「何度もお前の事を聞かれたんでまさかとはおもったんだがな、やはり眉目美麗頭脳明晰な私の予想は外れていなかったんだな」
滝の話によれば、「よくお前の横で笑ってる女は誰だ?彼女か?」と聞かれていたらしい。ただの幼馴染だと説明してからは、私絡みの話にはよく耳を傾けていたのだという。たまに委員会活動中に私を見かけると、目で追っていたりすると。
「七松先輩は本気だ。お前を玩具になど微塵にも思っていない。それは、委員会の後輩である私が保証する」
「そん、……な、こと…言われても………」
「名前おはよー」
「喜八郎、おh」
「立花先輩この子が名前です」
「ほぅ、お前が小平太の飼い猫か」
「おぎゃぁ」
滝に向かってお話していたのに、廊下側の窓からにゅっと顔を出したのは喜八郎だった。声のする方向へ顔を向けると、見たことのある麗しい顔。あ、この人生徒会長の立花先輩だ。
と気付いた時にはもう時すでに遅く、髪を上げられ見られた左耳。それが小平太様のピアスだったということをご存じだったのか、立花先輩はふっ、と美しく微笑んだ。
「苗字名前だな?」
「は、はひ」
「小平太が新しい飼い猫を飼いはじめたと自慢してきたのでな、どんなやつかと喜八郎に聞いたら同じクラスだと言うので一目見ておこうと思って来たのだが…伊作のところの後輩だろう?やはり保健委員会は不運の集まりだな」
「こ、小平太様の、飼い猫って…」
「様?…くっ、小平太に様を付けているのか?それは強制か?」
「い、いえ、こ、小平太様を呼び捨てるなどそんな恐れ多いこと……!」
ほらやっぱり私はそういうポジションじゃないか。
はぁ、とため息をつき滝を睨みつけると、キュッと上履きが鳴る音が聞こえた。立花先輩と喜八郎が教室に入ってきたのだ。嫌な予感がして横を向くと、私の真横にはさっきまで廊下にいた立花先輩のお姿が。突然のことにガタンッ!と身を強張らせ椅子をひっくり返しそうになったのだが、立花先輩はまだまだ余裕とでもいいたそうな顔で私の顔を覗き込んだ。
「小さい身体で、すぐに感情が顔に出る、……その肌ツヤを見る限り、純情という言葉は昨日捨てたようだな」
「〜〜〜っ、」
「なるほど、小平太が好みそうな女だ。名前、と言ったな」
「は、はい」
「小平太のような暴君を主に仕えるより、私に様を付けていた方がよっぽど楽しいとおもうが、どうだ?」
「ど、どうって…?」
「主人をかえないか?私ならあ奴より倍は可愛がってやるぞ?」
「かっ?!わ、わわ、私そういう趣味じゃないですから…!!!」
何故こう連日イケメンに絡まれるのか解らない。私一体何の悪さをしたのだろうか。神様落ち着いてよ。私元彼にダマされたじゃない。私が悪い側じゃないじゃない。なんなのよこの恥さらし強化習慣。もしかして立花先輩のこの口調から、私、SMのMだと思われてる?立花先輩確かに危ないプレイ好きそうだけど私そういう趣味ないいいいいい。
迫りくる美しすぎる顔に冷や汗を何リットルかかいていると、
「仙蔵、」
「ひぃっ!!!」
がしも、と効果音でもつきそうな恐ろしい握力で握られた、私の後頭部。そして耳に入ったあの声。
「私のだと言わなかったか?」
「聞いたさ。興味本位で見に来ただけだ」
「そうか!それならいい!」
私に伸びていた手はあっという間に引っ込み、抱きしめるように私の前に回ってきた逞しい腕。し、しめころされる。
「おはよう名前!昨日はなんで勝手に帰ったんだ?」
「おはははおあはhsdっはございmかmdすせせせええsっせ先日は急用を思い出したためたtったた大変失礼ながら無断帰宅をば」
「そうか、言ってくれれば家まで送ったのに、遠慮するな!」
冗談じゃねぇ!!!!家突き止められたらそれこそ命の終わりだ!!!!
「kっこ小平太様のお手を煩わせるわけには…」
「何?様?なんで様だ?呼び捨てでいいんだぞ?」
「恐れ多いでございます…!」
「名前でいい。こ へ い た」
「こ…!こ、小平太……さ、様」
「呼べ」
「小平太先輩」
「まぁいいか、良しとする!」
なんだ今の一瞬の真顔。怖すぎワロタ。
抱きしめられて呼び捨てを許可されたとはいえ、やはり付き合っているというか、なんというか、本当に、信じられませんぜ旦那。
「あ、あの、小平太さm……小平太先輩、」
「なんだ?」
「……わた、私たちって、その…真に……お、お付き合い、しているということで……よ、よろしいのでしょうか…?」
あまりにもスキンシップが激しかったので、私は一瞬距離をとるように体を離して、小平太先輩に向き合うような姿勢になった。小平太先輩は廊下と教室を挟む窓に肘をのせ、なんだ?と首をコテンと傾けた。
一応確認しておきたかった。「好きでした!付き合ってください!」「おk!」みたいな流れがなかったもんで、これが本当に付き合っているというものなのかどうか判断しづらかったからだ。一方的に小平太先輩に好きだったと言われ一方的にものにされ事に及んでしまった。まぁ暴君ならこんなのいつも通りなのかもしれないけど、私からしてみれば初めてだから付き合っていると言いきっていいのか解らないのだ。
「…名前は、」
「は、い」
「私の事をどう思っている?」
「…はい?」
意外にも、小平太先輩は質問返しをしてきた。
「嫌いか?好きか?」
「あ、」
「私のことは、嫌いだったか?」
「や、その、別に、嫌いでは…ないですけど……」
「…じゃぁ、」
好きか?と聞かれると、多分困る。だって、小平太先輩をそういう目線で見たことなかったから。
ミラー越しに顔を赤くされていた小平太先輩を見て、胸がキュンとしたけど、それが恋なのかなんなのかは解らなかったし…。
「…好き、とは、言い切れませんけど……も、もし、小平太先輩が私を、ほ、本当に好いてくださっているのであれば…わ、私はこれから、その…こ、小平太先輩を好きになるように、ど、努力をさせていただきたいと、思っている次第でございまして………」
思わず暑くなる顔を隠しながら、私はもそもそと小さい声で言った。だってなんだかまるで、誘導されているように恥ずかしい台詞を言っているので。告白的なものをしてきたのは小平太先輩からだったのに、今じゃ私がそんなこと言って……。は、恥ずかしい…。
「そうか!それならよかった!」
「…へ、」
「嫌われていないのなら、まだまだ可能性はあるもんな!時間かけてでいいぞ!ゆっくり私を好きになってくれればそれでいい!!」
暴君。この人が本当に不良の暴君と呼ばれる人なのか。抱きしめられた力は優しく、昨日のようなつぶされるようなハグではなかった。ちょっと苦しいけど。
私のことを助けてくれたし………本当は、優しい人なのかもしれないなぁ。
「ってなわけだ仙蔵、間違えても手を出すなよ」
「名前、小平太が嫌になったらいつでも来いよ」
「い、いや、その、」
「仙蔵!!!」
「小平太、教室に戻るぞ、チャイムが鳴る」
「あ、もうそんな時間か!じゃぁな名前!昼飯一緒に食おう!あ!滝夜叉丸!名前のアドレス私に送っておいてくれ!名前!あとで連絡するぞーーー!!!!!」
「…滝、」
「なんだ」
「私今からメアド変更するわ」
「おい!…ま、頑張れよ」
「…」
おそらく落ちると思いますだってあんなにまっすぐ見つめられたの初めてでしたから
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智 様に捧ぐ
1111111打hitおめでとうございまーーーーーーーす!!!!!!
そして素敵なリクエストをありがとうございました!!!!!!
そして消化遅くなりまして申し訳ありませんでした!!!!!!
ちょっと長くなっちゃいましたけど気に入っていただけましたでしょうか!?!?!?!
お気に召していただけらたら幸いでございます!!!!!
彼女の許可なく事に及んじゃう暴君ヒューーーwwwwwwカックィイイーーーwwwwwwwwwwwwwwww
三木とタカ丸が出てないって!??!?!??
ヤツら多分持ち物検査に引っかかっててここまで来てないんだと思います!!!火器とか鋏とか!!!!!
リクエストありがとうございました!!!!
これからも「嗚呼、桜か。」を何卒オナシャス!!!!!!!!!!!!
伊呂波
智 様のみお持ち帰り可