「どうして…!どうして…お前が、此処にいるんだ…!」

目の前で息を荒くし、血まみれになって倒れているのは




「おい…!名前…!」




昔、愛を誓い合ったあいつだった。












ここは戦場。忍としてここにいる私はいつ死んでもおかしくはない。


死と隣り合わせ。


それが、戦忍。








『必ず、また逢おう…』

『うん。絶対逢えるよね』

『…今すぐには無理だが、私は、必ずお前を迎えにいく…』

『はは、期待してる。それまでにはちゃんと大きい声で私に愛してるって言えるようになっててちょうだいよ!』

『……もそ…』

『またそうやってー!』

『絶対に、心変わりなんて、しない……』

『!……長次、大好きよ!』






私とは対照的な、明るい声がまだ耳に残っている。


名前は、今何処にいるのだろうか。

卒業してからまだ、一度も会ってない。



風の噂で、何処かの城に仕えたらしいという情報を耳にした。

そうか、お前も上手くやっているのか。



生きているのだろうな。

私は今、戦場にいる。

あの学園で学んだことを忘れてはいない。



一人殺し、二人殺し、三人殺し、…もう、数えるのも面倒だ。

どうせいくら殺しても、私の手柄にはならない。全て我殿のものになるのだから。



目の前にいる武士の首を刎ね様とした時、目の前に現れた黒ずくめ。

嗚呼、同業者か。


久しぶりに腕が立つ忍びと出会った。次に殺すのはこの忍だ。


標的を変え縄ひょうをまわす。

はじかれ、何度か接近してクナイをあわす。

何処かで見たことのある攻撃だ。以前何処かの戦場であったことのある忍びだろうか。

回避方法は身体が覚えている。





捕らえた。



地に伏せた忍。あとは首を刎ねるだけ。


なんだ、もう傷だらけではないか。

放っておいても、いつか死ぬ。


ならば無駄な殺しはやめよう。


そう思い身体を翻したとき、




「ちょ、…………う、…じ」




聞こえた声に、心臓がはねる。


まさか、そんなはずはない。

あいつは、ここにはいないはずだ、だって、


「久し、ぶ……り…」

「……名前…………!?」


忍びの元へ戻り、顔を覆っていた頭巾を外す。

まさか、そんな。


「……逢いた…く、な…かった、こん、な…顔で」


傷だらけで、大火傷をした痕のある、顔。

だが、見間違うわけがない。名前だ。名前の顔だ。

嘘だ。名前を、私が、殺したのか。


「……名前、…なのか」

「…まだ、声、…小さいの……」

「何故…!何故名乗らなかった…!」

「だって……こん、な…醜い顔…で……長次に、会いたく、無かった………」


今まで会うことが出来なかったのは、そういうことか。

お前は、逃げていたのだな。私から。


「もう…こんな顔で、……お嫁になんて、いけないよ…。此処に…いるって聞い、たから、……愛する…長次、に、……殺して…もらおうと思って………」


任務で失敗をし、顔に、身体に、大火傷を負ったのだという。



頼む。もう、喋らないでくれないか。

死なないでくれ。お前の顔の何処が醜い。

頼む。死なないでくれ。頼む。側にいてくれ。



やっと逢えたんだ。ずっと探していたんだ。






「……長次…」

「何だ……!」



「……こんな、…馬鹿な私を、どうか………許し…て…」





笑いながら死ぬ彼女は、やはり、美しかった。









契りきな かたみに袖を しぼりつつ

末の松山 波こさじとは







来世こそとびっきり美人になって会いに行くわ!


それまでに腹から声を出す練習でもしておきなさい!!
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