監禁生活6日目。


半ば帰るということを諦めはじめてきた。
目覚めて、じゃりとなる足首につくエッチな拘束器具。一体彼はこんなの何処で手に入れたのでしょうか。

ベッドから降りてドアを開ける。部屋の中には何もない。本当に何もない。歩けば何処までも伸びる鎖。でも玄関前まででそれはビンとはって止まる。これ以上先には行けないみたいだ。まぁ解ってたけど。
諦めて冷蔵庫に手を伸ばして適当に飲み物を取り出して口に含んだ。甘い。私好みのコーヒーです。本当にありがとうございます。

カーテンを開けて見える街が凄く遠く感じて、私は寂しくなってカーテンを閉めた。


「名前…」


「おかえり三郎」

「うん、ただいま」
「うわぁやだやだやだ」
「待って」


手繰り寄せるように鎖をじゃらじゃら鳴らしながら、家の主が帰って来ました。もうなんていうか目が虚ろ。逃げるようにソファーの周りをグルリと走るとあっという間に追いつかれて背後からぎゅっと抱きしめられる。うわぁ煙草臭い。なんで煙草なんて吸ってんのか。


「名前」

「ん」

「何処にも行かないで」

「はいはい」


いつものようにソファに座ってただただ愛でられるように頭を撫でられたりあっちこっちにキスを落とされたり。


「まだ思い出さない?」

「……解んない」

「そっか。まぁいいや」












三郎が私を監禁する理由は、さかのぼること何百年も前の話。私と三郎が、忍者だったころの話。


私は、三郎に殺された。


敵の忍者だった三郎に殺された。やっぱり、卒業しても三郎の腕には敵わなかった。途中まではあいこぐらいだったのに、やっぱり三郎には勝てなかった。学園時代からそうだ。いつだって変装の腕も、戦いの腕も、何も敵わなかった。出会った瞬間、あぁ、死ぬなと覚悟は出来てた。

ひょう刀で足の筋を斬られて動けなくなり、寝転がって見上げた空は晴天だった。


『名前』

『三郎、やっぱり私あんたのこと大っ嫌い』

『……名前…っ、』


抱きしめられた三郎の体から最後にしたのは戦場中の匂いを纏った火薬の匂い。一気に吸い上げて、私は意識を手放した。

卒業してから敵で逢ったとしても、絶対に手はひかないと、卒業する時にみんなで約束した。


三郎とも、その日に、別れた。


一生一緒になんていられない。だって私たちは敵の城に就職してしまったから。

何度も後悔したけど、三郎も、それはそれで理解してくれた。



多分、あの時の別れ話、三郎は理解してくれていなかったんだと思う。だから今こうして、年月が過ぎても私に執着してしまったんじゃないのかな。育て方間違えたかな。



足を拘束しているのは、あの時の怪我を思い出させるため。

煙草の臭いをつけてるのは、あの時の火薬の匂いを思い出させるため。





「名前、私はいつまででも待つよ」

「ん」

「名前が私のことを思い出すまで、いつまででも待つから」

「…」





では何故、私が昔のことを思い出せないふりをしているのかといいますと。


きっと私も昔を後悔しているのだと思う。こうしておけば、きっと三郎は私の事しか考えられなくなるのだろうという歪んだ思考が出てきてしまったのだ。

私が昔を思い出さなければ、三郎は私に思い出してほしくてずっとそばにいる。クラスの女の子も、他のクラスの女の子も眼に入らないはず。

でも、私が昔を思い出せば、きっと三郎はそれに満足して私から離れて行っちゃうような気がする。


あー、私も馬鹿みたいに三郎のこと好きだったんだなーって、何百年もたってようやく理解した次第でございますよ。



ねぇ三郎、こうしてたらもう二度と、私から離れることなんてないでしょう?































名前は本当に可愛い。思い出したことを黙っていれば私がずっとそばにいてくれるんだと思っているみたいだ。私は名前昔のことを思い出していることに気付いていないみたいだけど、私はもうとっくに気づいてる。三日前かな。私の名前を呼びながら今まで思い出せなくてごめんねと泣いている名前を部屋で見た。私が風呂に入っている間に、思い出してくれたみたいだ。家に連れて来たときは帰してよと泣きわめいていたのに、その日から、コロッと態度を変えた。泣きもしなければ帰りたいとも言わない。ただ私が学校に行っている間も、ずっと私の帰りを待ってる。大丈夫、名前はインフルエンザにかかったことになってるから。登校できないんだから、みんな疑わない。
抱きしめると嬉しそうに口を少しだけ歪ませたり、頭を撫でても手を受け入れる。思い出してくれている。名前は思い出してくれている。昔あの長屋で過ごした日々を思い出してくれている。確実に、鉢屋三郎という人間を思い出してくれているのだ。
名前は知らない。名前を殺したその後に私も自ら命を絶ったことを。生きられるわけないじゃないか。別れたとはいえ大好きだった彼女を殺したんだから。別れようだなんて、あんな言葉信じられなかった。嘘だと思ってたのに。名前は私から離れて行った。

もう二度と離すもんか。名前が思い出したよって言っても、絶対に逃がすもんか。

二度とこの手の中から逃がすもんか。

















三郎は知らないんだろうな。
私がもう、昔のことを思い出しているっていう事実を。



名前は知らないんだろうな。
お前を繋ぎ止めるためには手段を選ばないという事を。












だって私は、

だって私は、



























あなたのことを愛しているから

歪む方向は違えど、もう元には戻れない
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