「ねぇってば名前!!話聞いてる!?」
「っ!ごめんぼーっとしてた!何!?」

「もー、名前最近意識飛びすぎじゃない?」
「バイト疲れー?最近シフト詰め込んでるもんねー」
「彼氏でも出来たかー?」
「えっ、貢いでんの?」
「違ッ!?ちょっと考え事してただけだから!!」


キャハハと黄色くて可愛い笑い声が教室中に響いた。私はぼーっとしていたのか、隣の席に座っていた友人の話すら耳に入れていなかったらしい。こいつはいけない。
確かにここの所バイトのシフトを入れすぎていたかもしれない。夜暇なのが嫌で夜勤もやりはじめたのだ。一人でいたくなくて。怖くて。


「で、えっと、何の話だっけ?」

「やだー、本当に聞いてなかったのー?」
「ごめんごめん次はちゃんと聞くから」

隣に座る友人はつんと肩を叩いて、机の上に置いてあった私のココアを手に取って「一口ちょうだい?」と言った。正直食欲がなくてお弁当すらも食べきれないかもしれないというのに、なんでココアなんて買っちゃったんだろ。
私はどーぞどーぞと手をヒラヒラさせて、残っていたお弁当を口へと運んだ。


「だから、あの噂だよ」
「噂?」

「そ、雨の日の裏々山の上にある廃墟に出る、"殺戮さん"って知らない?」


その言葉に、私の箸の動きが止まった。

出たー!と周りに座る友人たちは化粧を直しながら腕をさすった。高校生にもなってオカルトなんて、と言っていた友人たちだが、どうやらこの話だけは別らしい。


「殺戮さん?」

「名前知らないの!?ほら裏々山で最近うちらより年下の子の死体がいっぱい出てきたってニュース見なかった?」
「…なにそれ」

「何人だっけ?」
「えっとー、もう5人ぐらいじゃなかったっけ?」
「まだ増えてるんだってね」

「…どういうこと」


あのね、と友人はココアを置いて身を乗り出して私に話しかけた。

今、私たちがいる高校の裏の裏にある山の中にある廃墟。昔旅館だったか、寺子屋があったのか。何個も部屋があったり、二人部屋ぐらいの空間の部屋があったり、食堂のような部屋もあった。おそらく旅館があったのだろうと地元の人たちは言っていた場所だ。夏になると肝試しとして使われたりと、なかなか雰囲気のある場所だった。昔ながらの旅館のような建物。

しかしその場所で、殺人事件があったのだという。

私たちより年下の子供ばかりの死体が、ここ数日で5以上は出てきていると友人は言っていた。死体の子供は大体、13歳〜17歳ぐらいまでだという。中学生から高校生ってとこか。
死体の殺され方が、とんでもなく残酷なのだという。まるで刃物で滅多刺しにされたような。


「……」

「でね、殺されたのは全員男の子なんだって」


出てきた死体の体は、全て男子。年齢もバラバラ。性別以外に殺された子達の共通点が見当たらないのだという。


「じゃぁ私たちは関係ないじゃん」
「呑気だなぁ名前!」
「他には?」
「あとはね、その建物に近寄って殺戮さんに出会ったら、こう聞かれるんだって」











"私が殺したのは、貴方ですか?"










「……」

「ね!?ね!?めっちゃ怖くない!?」
「確かに、それは怖いね」

「その問いかけに「はい」って答えると殺されて、「いいえ」って答えると「ならば去れ」って言われて何もされないんだって!」
「……へぇ、怖…」


試しにはいと答えたやつが殺されたのか。


「肝試しに行こうよー!女子はきっと狙われないんだって!」
「犯人捕まえて懸賞金貰っちゃおー!ね、名前!」
「やめなよ危ない、あそこめっちゃ暗いじゃん」

「えー、ケチ」
「あんたたちの身を心配してやってんでしょ!ほら、チャイム鳴るから解散解散!」


ぺっぺっと机の上にこぼれたパンくずなどを床に落として弁当箱をしまい、私たちは連結させていた机を元の位置に戻した。
口の中をリセットするため飴を一つ入れ、カラコロリと音を鳴らした。前の扉がゆっくり横に開き、先生が中に入ってきた。中年の先生はえー、と声をもらし一つ咳払いをして教団の前に立った。級長が号令をかけ、おじきというか会釈をして腰を椅子におろす。窓から入ってくる空気がいやに気持ち悪い温度で、午後から雨が降るかもなぁと先生がつぶやいた。



「午後の授業を始める前に、裏々山の、例の話は聞いたな?今日の夜は雨が降るみたいだからみんなも気を付けろよー。まぁ興味本位で行くような距離でもないけどな。えー今日は教科書47ページから………」







殺戮さん、ねぇ。






































「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい貴方だって知らなかったの貴方がこんなところにいるだなんて知らなかったの貴方を殺すつもりなんてなかったのに貴方を手にかけるつもりなんてなかったのに貴方は誰なの貴方はどうして私の目の前に現れたのごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい嗚呼なんてことをしてしまったんだろう取り返しのつかないことをしてしまった私は貴女のことを愛していたのに大好きだったのに貴方の顔が見えない貴方が誰なのか解らないだけどごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい許して私を許して恨まないでどうか私のことを許して殺さないで殺さないで殺さないで殺さないでごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい………」


雨の音にかきけされるほどの細い声で小さく小さく小さく小さくただたんたんとこの命を狙い続ける彼にただただ謝り続けた何度謝れば許してくれるのだろうか何度謝れば彼は私を忘れてくれるだろうかどうすれば彼は私のことを忘れてくれるだろうか何度何度何度何度











「…………誰か、いますか…?」

「!!!」











また誰か来た嗚呼きっと彼だついに私を殺しに来たんだ私を見つけ出したんだ今度こそ彼だどうすればいいどうすればいいのどうすれば彼は私を忘れてくれるのどうすればどうすればどうすれば






「…………ハァ、やっぱり、………噂話か…」






一筋の光が誰かの顔を照らしたその誰かは私からは見えないけど声だけは聞き覚えがあるあれは確かええと名前はなんと言ったっけ顔が出てこない声は聞き覚えがあるだけど名前が出てこない私は彼を知ってるだけど解らない思い出せない彼かもしれないもしかしたら彼が私が彼が彼を







「もしもし?ううん、やっぱり噂話だったよ。……うん、うん、……うん、帰るよ。……殺されたあいつらの手がかりも……………まだ逢えてない名前先輩の手がかりも、見つからなそうだし…。じゃぁ、切るね。うん、また明日」







あああああ私の名前私の名前を知ってるあなたは誰なの名前はなんて子なの誰なのいつ私の名前を知ったの何処で名前を知ったのあの制服は私の学校の制服じゃない見たことないこのあたりの制服なの誰だ誰だ誰だ誰だ

わたしのいのちをねらっているんだろうそうだろう!!!!

















「私が殺したのは、貴方ですか?」













「!」


もう何人殺したか覚えてないけどこの刀だけはいつだって私の側に居てくれた此処で私を待っていてくれたきっと私をこの時代まで彼が追っかけてきても立ち向かえるように私のことを待っていてくれたのねなんて愛しい我が相棒さぁどうなんだ君はが殺した子なのかどうなんだ答えろ答えろ答えろ答えろ答えろ





「……はい…」

「!!!!!」




お前かお前が私を狙っているやつか今度こそ本当か今度も嘘かどっちでもいいお前は今はいと答えた殺されるぐらいなら

足が動いた腕が動いた刀を掴んで私は一気に走り出した




「!! やっぱり貴女は名前先輩じゃありま









































……−昨日午後未明、裏々山内にある廃墟の側で、またしても殺人事件が起きました。殺されたのは大川学園に通う     くんで、調べによると、ここ数日で起こった殺人事件と死因がほぼ一致していることが判明されました。刀傷のようなものが全身についており、出血多量とショック死が死因と見られています。警察はこの一連の殺人事件の犯人はほぼ同一人物である可能性が高いと指摘しています。













私が殺したのは、貴方ですか?










私はその昔の記憶が鮮明に残っている人間だったどうしても消えてくれないどうしても思い出してしまう忌々しい記憶が


私は戦場で駆け回っている忍びだった何人も殺して何人も殺して誰が誰だか何が何だかわからなくなってしまっていた

ただ人を斬りただ人を殺しただ首を持ち帰りただただ血を浴び生き続けていた

とある戦で私はとある男を殺したそして

その男は「必ず生まれ変わってお前を殺してやる」と言った

そんな言葉何度も聞いた聞き飽きたお前もそれをいうのかと鼻で嗤った

ならば顔を覚えておいてやろうと私はその男の顔を覆い隠す布を剥ぎ取ったのだ

それがいけなかった眼を見開いて私は大きく叫んで膝から崩れ落ちた

まさかそんなはずがない私が長く暮らした学園の後輩ではないかなんでこのような場所にお前がいるんだ


そこだけが思い出せない
そこだけがどうしても思い出せない
彼が一体誰だったのか
どうしても顔が思い出せない

あの日はちょうどこんな雨の日だった雨の音で血が流れ顔が鮮明に思い出せない
雨の音のせいであの声がどの声だったのか思い出せない

だけどあいつは生まれ変わって私を殺すと言った

彼は私の顔をきっとハッキリは覚えていないはずだ

顔を隠していたから私も顔を隠していたから

きっと彼は私が此処にいる限り殺しに来る

私を見つけて殺しに来る


だったら私から殺しにいってやる

殺されるぐらいなら殺しに行ってやる



お前なんかに殺されるもんか






でも








「……また違う…!こいつでもない………!!」



殺してから気付くんだ何故か殺してから今殺したのはあの時殺したやつではないとならばなぜはいと答えたお前はいったい誰だったんだ









一体いつになったら私を殺しに来てくれるんだ。


あの時私が殺したのは、一体誰だったんだ。






いつまで私は、名も顔も思い出せぬお前に怯え続ければいいんだ。






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