「ただいま…」

「おかえりなさ……母上?」

「団蔵、今から緊急家族会議を開きます…全員リビングに呼んできて…」

「…は、はい!」



定期健診から帰ってきて、私はどっと疲れたようにソファーに座り込んだ。あたたたと頭を抱えて私はテーブルの上においてあった冷めた紅茶で喉を潤した。

リビングでゲームをしていた団蔵に頼み家族全員をリビングに移動させた。

なんだなんだと呼ばれた意味が解っていないという顔をしてみんなテーブルの周りにペタリと座った。


「名前、帰ってきていたのか」

「ただいま文次郎。…いや、みんなに話しておかないといけないことあがって…」

「なんですか?」



手にインクがにじんでいる三木がそれをティッシュでふきとりながら問いかけた。





















「……逆子だった…」



「左門だな」
「左門ですね」
「神崎先輩だ」
「神崎先輩か」




文次郎が机に突っ伏し三木ヱ門が床に寝転がり、

団蔵と左吉がやっとだねー!と手をとり喜んだ。



この世でまた改めて、愛しい彼とまた逢えた。出会いはベタだが、友人に連れて行かれた合コンだった。

私も文次郎も昔の事を覚えており、合コン開始2分でその場を抜けて昔の話に華を咲かせるため二人で居酒屋へと行った。

昔と同じく、今世でも私と文次郎は付き合うこととなり、

その昔に実現することの無かった、結婚という道まで進むことになった。

これから毎日、隣に愛しい相手がいる。それがどれほど嬉しいことか。



だが、私達は一つの問題に突き当たった。


仙蔵や伊作、留三郎に長次と小平太などの同期には逢えた。


だが、何故かあの時の委員会の後輩には一人も出会えていなかった。

私が副委員長であり文次郎が委員長であった、会計委員会の後輩達に誰一人として逢えていなかったのだ。


もしこの世にまた生まれ変わっていてくれているのなら、今すぐにでも逢いたかった。

結婚することになったと伝えたかった。式にも呼びたかった。

だが、式予定日になっても後輩の手がかりは何一つ掴むことが出来なかった。


人生まだまだ長いからと文次郎は私を慰めてはくれたが、私はやっぱり、ちょっとだけ寂しかった。




そしてその後、私は懐妊した。

文次郎はもちろん大いに喜んでくれた。

昔果たせなかったとこが、今出来ている。私は幸せでしょうがなかった。




そんなある日、たまにはのんびりするかと、文次郎とテレビで映画を見ていた。

内容は第二次大戦の話だった。

ストーリーとかそういうのはどうでもよく、

私達がいた時と随分戦の仕方が違うねという、そういう視点で楽しんでいた。



「おー、この時代のカノン砲はデカいねぇ」

「こりゃ三木ヱ門が喜びそうだ」



ハハハと笑って眺めていると、



「…お、」

「?どうした?」

「…い、今蹴った」

「何!」


文次郎が私のお腹に手を当てると、確かに中で私の腹を蹴っていた。


「元気なヤツが生まれそうだな」

「そうだねー。まだ女の子か男の子か解んないけd痛ッ!」

「どうした!」


画面に目線を向けると、まだ交戦中の画面だった。


「い、今めっちゃ強く蹴られた…!」

「何ィ!?元気すぎんだろ!」











……ま、まさか…!








「…も、文次郎」

「なんだ!」

「あのさぁ、た、試しにさぁ、……ちょっと、映画戻してみてくんない…?」

「…お、おぅ」


リモコンのボタンを押し、文次郎は細かく画面を戻していった。


「そこのちょっと前かな。カノン砲が映ってたとこ」

「このへんか?」

「そう!そこ!ストップ!」


ピッとDVDの再生を止めると、




「………」

「………」



私の腹がドフドフと揺れた。



「……めっちゃ蹴ってるんだけど」

「…おい名前、も、もしかしてだけど、」

「私はこの子を三木ヱ門と名づける」

「だよな!!絶対そうくるよな!!!」



そして私達の予感は見事に的中し、出産してすぐ、立会いをしていた文次郎が

「こいつ三木ヱ門だ」と言い放った。


当時私は疲れに疲れて顔を覗き込む気力すらなかったのだが、

文次郎曰く目が完全に三木ヱ門だったという。

なるほど、今まで愛する後輩に出会えなかったのはこういうことか。



そして三木がすくすく成長し、二度目の妊娠をした。



「おめでとうございます。御懐妊されてますよ」

「ほ、本当ですか!」



「えぇ、それも、双子の赤ちゃんですよ」




私と文次郎は、先生の言葉にピシャリと身体の動きを止めた。


「……ふ、双子…?」

「せ、先生、双子、なんですか?」

「えぇ、双子です」




まさか、左門が二人生まれると言うのか。

其れはいくらなんでも神様遊びすぎだろと家に帰って文次郎と一緒に大爆笑した。

三木もまだ小さいから解らないだろうが、お前これから苦労するぞーとほっぺをつついた。











だが、私達の予想は大きく外れたのだった。










「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」


「あ、ありがとうございまs……あれ?」

「………だ、団蔵?と、左吉か…?」



先生に抱っこされた赤ちゃんは、

目、眉、口元、何処をどうみても、二人は団蔵と左吉だった。



「…文次郎、さ、左門は…?」

「…いや、そ、そんなはず……」
















三木ヱ門は中学一年生に、

団蔵と左吉は小学四年生になった。


丁度あの時と同じ年齢へとなったその歳の年末、

除夜の鐘とともに、三人は過去の事を全て思い出した。


「名前先輩と潮江先輩が…」

「僕らのお母さんとお父さんなんて…」

「今は二人とも潮江だし、団蔵も左吉も潮江だよ」


「…と、ところで母上」

「なんだね三木」



「左門は、いないのですか」


「…私も文次郎もおかしいなと思ってたのよ」



団蔵と左吉が生まれてから10年。あれから妊娠の兆しが全く見られない。

そろそろ高齢出産になってしまうから勘弁して欲しいのだが…。




「迷子になってるんじゃないですか?」




団蔵がなんの悪気もなくポツリとつぶやいた。



「…もしそうだとしたら悪いのは私?文次郎?」

「いや、そりゃお前、……左門だろ」

「だよね」


















そしてその年、私は突然の吐き気と立ちくらみにぶっ倒れた。

病院に運ばれると、先生は


「おめでとうございます」と、笑顔で言った。



















「逆子ってお前…」

「生まれる前から迷子か…」

「神崎先輩何も変わってない…」

「ここまで来るとある意味凄い…」


団蔵と左吉は、今度は自分達が年上なのだという事実に気づき、突然緊張したように身体を強張らせた。

きっと左門も12になるまで思い出さないから、其れまで呑気に暮らせばいいよと私は二人の頭を撫でた。



「まぁ何はともあれ」


文次郎は身体を起こして膝をパンと叩いて








「やっと全員揃うわけだ」








あの時のように、騒がしい日々がまたやってくる。


なんて嬉しいことなんだろう。



「早く出ておいで、左門」


私がお腹を撫でると、団蔵も左吉も三木ヱ門も、ニッコリ笑って、

新しい家族を迎える準備をしてくれた。






















いつも通りの日常へようこそ


















そして分娩室に入ってものの一時間で左門は生まれたのであった。




「決断力ありすぎだろ」

「逆子のクセに誰よりも苦労せずに産めたわ」

「もう意味が解らん」
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