「名前せんぱーい!」

「…?」


私の背中の方から高い声。

夢の世界から現実の世界に引っ張り出した声の主の方へと視線を落とすと、其処には可愛い後輩が。


「僕もそっちに行ってもいいですかー!」


大きくあくびをして体勢を起こし、下に向かっておいでおいでと手招きをすると、

団蔵はやった!と小さくつぶやき枝の無い樹を猿のようにするすると登ってきた。



此処は一番日当たりが良い場所だ。日当たりがいいのに葉っぱがたくさんあるから

木漏れ日で丁度良い温度になっている。誰も知らない私だけの絶好のお昼寝ポイント。


私と、団蔵しか知らない秘密の場所。


此処は丁度、忍たま長屋とくのいち長屋の間に生えている樹の上。

此処なら忍たま敷地内じゃないし、くのいち敷地内じゃないし、寝てようがなにしようが私も団蔵も怒られはしない。



私はいつも此処で寝ている。暇になったら此処に上って昼寝をしている。

本を読んでたりもするし、お茶を此処に持ち込むこともある。

鳥の巣のようなものを机代わりにつくり、其処に竹筒の水筒を持ち込んだりして。

結構快適な場所だし、誰も此処に仕掛けをつくったりしないので、最高のポジションだった。



だがある日、昼寝をしていたら、

この樹の下で泣き始めたやつがいた。


聞いたことのない声だった。新入生か。

木の上からひっそり様子を見ていると、そいつは、家族の名前を呼んで泣いていたのだ。


…やはり新入生か。家族が恋しいのか。

親元を離れて10歳で此処へ入ったんだ。寂しいわけがない。


私も小さい頃はそうだったなと、ガラにもなく昔を思い出した。











『 おい、そこで泣いているお前 』

『 !? 』

『 登って来い。此処まで来れたら、町で今一番美味しい饅頭がある。それを食って泣き止め。いや、泣き止んでくれ。私は静かに昼寝がしたいんだ 』

『 ……く、くのいちの、先輩ですか… 』

『 あぁ、六年の苗字名前だ 』

『 …だ、団蔵です。一年は組の、会計委員の、か、加藤団蔵です 』

『 そうか、なら、此処まで登って来い。地獄の会計委員長という異名をつけられたあの潮江文次郎の恥ずかしい話を聞かせてやろう 』

『 …!? 』

















「名前先輩!」

「やぁ団蔵、お前は本当に元気………じゃないな、こんなに大きな隈なんてつくっちゃって」

「あ、」

「ふふふ、寝不足か。一年生のくせに夜更かしなんぞ生意気なことをするんじゃない」


するっと団蔵の頬を撫ぜると、団蔵は恥ずかしそうに顔を染めた。

これで恥ずかしがるな。お前はあと3年もすれば気づくぞ。今お前は女の上に馬乗りになっているんだ。撫ぜられるよりもっと恥ずかしいことをしているんだ。


「今日は何徹明けだ?」

「……さ、三徹です…」

「バカ野郎。何故そんなに起きていた」

「帳簿付けが、終わらなくて…」

「…またか」


私の下腹辺りで私に跨る団蔵はこしこしと眠そうに目を擦った。

赤くなるからやめなさいと擦る手を掴むと、団蔵はへらりと笑った。


「お前が元気だったのは、徹夜明けの変なテンションだったということか」

「へへへ、多分、そうかもしれないれす…」

「文次郎には後でケツキックを食らわせておいてやろう。お疲れ様」



食べるか?とおやつに持ってきていた饅頭を差し出すと、

団蔵はありがとうございますと小さい声で返事をして口に運んだ。


もふもふと何口か食べると、こくり、こくりとうたた寝をし始めた。


「……団蔵、眠いのか?」

「…んー……」


それはそうだ。三徹明けで眠くないわけがない。



「ならば何故此処へ来た。部屋に戻って寝ればよかっただろう」










「…だって……名前先輩いに、…逢いた、かったんです…」














うつらうつらしながら、団蔵は、そうつぶやいた。




あまりに可愛い事を言ってくれたので、私も思わず顔がにやけたのが解る。

私は団蔵の手から落ちそうになっている饅頭を奪い取り自分の口に投げ入れ、

今にも倒れそうな団蔵を頭を引き寄せて胸の位置に置いた。




「饅頭はまた今度な。とりあえず今は寝なさい」

「…おや、すみな…い……」




ぽんぽんと背中を叩くと、団蔵はすぐに夢の中に旅立った。


私も団蔵が落ちないように抱きしめ、一緒に眠りについた。




















ぐっない、愛しい君























「なー長次ー、名前知らんかー?」

「…?」

「今日は一緒に飯食おうって言ったのに、何処行ったんだろうなー?」

「…もそ……」





「なー、誰か団蔵知らない?」

「さぁ?見てねぇなぁ」

「どこかでお昼寝でもしてるんじゃない?」

「あぁ、三徹だって言ってたしねぇ」
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