「幽霊なんているわけないじゃない」

「妖怪?何を言ってるの?」

「苗字って変わってるよなぁ」

「いつも一人でふらっとどっか行っちゃうしさぁ」

「超気味悪いんですけど」

「近寄らないようにしようぜ」
















こうして私は、ずっと一人で生きてきた。
















私の実家は神社である。昼は普通に学校に通って、家に帰ったら巫女の格好をして境内の掃除をしたりしてる。

離婚して、女で一つで育ててくれた母方が幼いころに亡くなり、おばあちゃんの家に預けられることになった。

で、それからしばらくしておばあちゃんも死んで、今は高校生にしてもう一軒家で一人暮らし中です。


そういう環境が関係しているのか、私は、普通の人には見えないものが見えているのだ。


…幽霊というか、妖怪というか、なんというか。


やかましいものに憑かれてしまっているのだ。






「なぁ名前、もう帰ってゲームしようぜ」

「ダメだ三之助!名前はまだ勉強中なんだから!」

「左門だってこんなとこいてもつまんねぇだろ」

「うむ!確かにつまらん!やっぱり帰ろう名前!」




休み時間、私の座っている席の後ろにあるロッカーに寝転がっているのは鎌鼬の三之助。
それから今読んでいる本を覗き込むようにして真横に立っているのが窮奇の左門だ。

本ではこいつらは同じような者だと書かれているが、実際のところは違う。似ているような存在だが、違う生き物だ。
妖怪やら神獣のことを書いている本にはところどころに間違いがある。

なんでそんなこと解るかって?そりゃその妖怪本人であるこいつらに聞いたからだよ。




[ 学校にいる間は話しかけないでって言ってるでしょ ]




一瞬だけ左門を睨みつけて机の端に小さくそう書いた。



「ほらみろ三之助!名前に怒られてしまったではないか!」

「カルシウムが足りてねぇぞー」



確かに厄介な存在ではあるが、私は別にこいつらのことが嫌いなわけじゃない。机にそうは書いたが、本気で拒絶しているわけではない。
最初こそは普通にビビってたけど、話してみればいいやつだって解ったし、今は私の家に住み着き、こいつらの他にも四人いる。

ばあちゃんが生きていた時から、私にバレないようにちょいちょい遊びに来ていたらしい。良く解んないけどあそこの土地が凄い居心地良いんだって。

で、ばあちゃんが死んで、墓参りしている珍妙な格好のやつらに声をかけたら、こういう者だと話してくれた(私はその日から一週間は恐怖で家からっていうか部屋から出なかった)。


そしてあわせて六人は私の家に住み着く代わりにと守護霊的なポジションにいる。そういう契約を交わした。
頼むから封印とか除霊とかはしないでくれって泣き付くもんだから。いろいろあって仲良し六人で住めるところ探してたんだって。

でもタダで置いとくわけにはいかないので、いろいろ仕事頼んでる。そっちのほうが便利だし、向こうの了解してくれたからいいかなって。

友人帳に名前書いてもらったし、ほぼ同居人みたいな感じ。


そんなたくさん無いけど契約の内容としては

@私の言うことは何でも聞くこと
A名前を呼んだら直ぐ来ること
Bとりあえず私の命は狙わないこと

こんだけ。

結構助かります。契約には逆らわないって言うから、頼めばお弁当とか作ってくれるし、家事とかしてくれるし。今日はお留守番してくれてるし。イヤだって言わないってことは彼らも随分この生活を満喫しているようにも見える。



教室にいる誰にも見えない存在だから、こんな珍妙な格好をしている奴がロッカーの上で寝ていたりしているのに騒ぎにならないんだ。

つまり、このクラスには私みたいな特殊ななにかを持っている人はいないということ。
それなのに左門や三之助に話しかけてみろ。完全に独り言喋ってるように見えるでしょう。白い目で見られること間違いなしだ。


あぁー、この変な力さえなければ、いじめまがいなことに合わなくて済んだのに…。とは何度も思った。
だけどもう悔やんでも仕方ない。悔やんでもっていうか、悔やんだところでどうすることも出来ないんだけどね。


相変わらず私は学校で喋る友人、なんて存在は出来ない。いや、別にできなくても良いんだけど。
出来たところでこの力の話をして、拒絶されたら悲しいし。別にいいんだ。




「お!昼飯の時間か!?僕も一緒に行くぞー!」

「やっと飯かー。今日は藤内の作ってくれた弁当だから楽しみだー」



バッグに中に入っている弁当の風呂敷と掴んで机に[ 屋上 ]と小さく書いてすぐに消した。左門と三之助は弁当を持参している。お前らは一旦帰って食べてくればいいのに。

ふわりと飛んで、二人は窓から出て行って屋上へと飛んだ。

さーて私も後を追おうかな。











「なぁ苗字、お前っていつも何処で飯食ってんの?」







……うわぁ…DQNだ。これうちのクラスのDQNだ。嫌いなタイプNo.1のヤツだ。
いやなヤツに関わった…。いや関わってきたのは向こうだけど…。

三人が私の進行方向に立ちふさがり、行く手を遮る。なにこれ面倒くさい。



「…」


「聞こえてんの?何処で飯食うのって聞いてんだけどー?」

「聞こえてないんじゃね?」

「うわまじシカトとかひくわー」



はははと気持ちの悪い笑い方をして三人は私に執拗以上に絡んでくる。もうお腹すいたから開放して欲しい。あの二人も待ってるし。

ちょっと視線をずらしてみると、こっちを見て笑っているのは化粧の濃いくさい香水をふりまいてる女子3人。何あんたら付き合ってんの。お似合いだよDQNカップルで。


「便所?一人で便所飯してんのー?」

「うわ、キモイんですけど!」


どうしてDQNってこうわざと声を張るのかわからん。目立ちたいのかな。




「聞いてんの?ここまで言ってまだシカト?っていうかお前なんでまだこの学校来てんの?このクラスの奴ら全員お前のこと気持ち悪ィって思ってんの知らないの?」



其処まで言い切ると、DQN(そういえば名前知らない)は私の手から弁当を奪い取り、蓋を開け、ご丁寧に二段全てを床にぶちまけた。

うわ、まじか。ここまでやられるとか。

胸倉を掴まれ叩きつけるように床に突き飛ばされた。普通に痛い。



「便所飯とか衛生に悪いから教室で食えば?」

「まじお前優しいわー」



人間性を疑うわ。こいつまじ碌な教育受けてないんだろうなぁ。もったいないことしちゃった。帰ったら藤内に謝らないと。


私は小さくタメ息をつき、しゃがみこんで、お弁当箱に床に落ちたお弁当を手で拾おうとした。






が、その時。





















「そんなもん拾うな名前!」


























バリィインッッ!!!!













「!?」



教室のガラスというガラスが全て割れた。




「うわっ!なんだk痛ェッ!」
「痛ェェエ!!」
「いっ、!なんだよこれ!!」

「!」


声がする方向へ向くと、明らかに怒りに満ち溢れたオーラを全開にしている左門が立っていて、更に続いて叫び声が聞こえて後ろを振り向くと、
私の弁当をひっくり返したDQN達の制服が、顔が、腕が、全身が、ズタボロに引き裂かれていた。


ズダン!と大きく音が鳴るほうへ顔を向けると、掃除用具が入っているロッカーが大きく凹んでいた。



「お前ら!よくも僕達の名前に手を出したな!絶対に許さん!」



ゆらりと明らかな邪気を纏いながら牙をむき出しにし、ロッカーに張り付く影は、左門だ。



「やっ!痛ッ!!」
「なにこれ…!?いやぁあ!!」
「痛いッ!!痛いッ!!!」

「!」




更に私の横にいた女子3人が顔を押さえて叫び出した。顔を押さえていた手の間から、少しずつ血があふれ出した。

ガシャン!と更に大きく音がなり姿を現したのは、彼女達の弁当を蹴り飛ばし机の上に立つ三之助の姿だ。



「テメェら全員ぶっ殺す…!」



毎日のように手入れをしている鋭く長い爪から滴るのは、血。

まずい、左門と三之助がキレた。



「な、何!?どうしたの!?」

「なんで窓割れたんだ!?」



教室中がパニックになって、叫び声があがりまくる。これは非常にマズい。

二人の姿がふわっと消えて、ギギギ!と耳障りで嫌な音が教室中に鳴り響き、黒板に目を向けるとバツを画くに大きく傷がついていた。


こいつら、本気でこの人たちのこと殺す気だ。



まずい。




強い風が教室中に吹き私の方へと向かい始めたその瞬間、















「止めなさい!!」














私ははじめて、この教室で叫んだ。


ふわり、と、飛ばされた誰かのノートが浮き、ドサリと落ちた。

教室で起こっていた風が、ピタリと止まった。


左門と三之助は、私の弁当を落としたDQNの目玉の1mm手前で爪を止めていた。



「…名前」

「誰がここまでやれって言ったの。今すぐその手を引っ込めて」

「だけどっ、!」

「私の命令がきけないの。この私がその手を引っ込めろと言っているの。…契約に逆らう気か三之助」


「………チッ…御意に…」


「三之助!」

「左門、あんたもよ。その手を引っ込めなさい。…数馬、いるんでしょ」




「もちろん、お側に」

「今すぐこの人たちの傷を治して。作兵衛」


「お呼びでしょうか」

「教室を元の姿に戻して。藤内」


「はい、私は此処に」

「ごめんね、お弁当ダメになっちゃった。今夜は私が作るから何もしなくていいよ。孫兵」


「此処に」

「……三之助と左門の爪を10cmカットしといて」


「えー!?」
「10cmも切るのか!?」


「黙れ!危なっかしくてしょうがないわ!はい各々仕事にかかる!!」
















「…ねぇ、苗字さん…?」

「……誰と、喋ってんの…?」



「…あ、」
















次の日私は一部の生徒から『陰陽師』というあだ名で恐れられるようになってしまった。








「良かったじゃねぇか」

「良くないわ!!!」











マイ・ボディガード























「…やっぱりお前らに名前返そうか…?」

「なんでだ!?」

「…守護霊にしちゃ怖すぎだよ…」

「すまん!先日の事は謝るから!こ、此処から追い出さないでくれ!」

「悪かったって名前!頼むからそれだけはやめてくれ!!」

「……」





夏目パロ的なあれにしようとしたのに面影も無いテヘペロンヌ。

本当は六年で書きたかったんです。
でも多分小平太さんが殺人おこすのでやめました。はい。
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