キリ番hit 葵 様リクエスト































全身が麻痺しているような感覚に陥っていた。もうこの身体は使い物にならないのかもしれない。

緊急用に持ち歩いていた解毒剤すら全て投与してしまった。助かる術はない。

肋骨を三本。もう呼吸することすらツラい。


やっぱり僕は忍に向いていなかったのかもしれない。


そろそろ追っ手が来る。どうせ殺されるくらいならこの場で死のう。


僕は麻痺した身体から一切の力を抜き、小さな社に背を預けるようにドサリと倒れこんだ。
























おい起きやれ

人の家で死ぬでないわ





























パチリ




視界が明るくなる。



……まだ全身が…………痛く、ない…?



ガバッと跳ね起きて僕は全身を調べた。

血が出ているどころか傷一つ無い。だが戦の帰りだということだけは解る。
服はボロボロで、傷は無いが血は付着している。

…それよりここは何処だろう。誰かの家の中かな。



「目が覚めたか」

「!?」


声のする方へと顔を向けると、其処にいたのは、人間、では、なかった。


「…なんだそのような面妖な顔をしおって」

「…あ、貴女、は」


真っ赤な服に身を包まれ長い黒髪はふわりと揺れて、煙管をカンと鳴らして彼女は僕の方を見据えた。
まるで遊女。でも、僕は遊処には…。


「…ここは私の社だ」

「……かみ、さ、ま」


「まぁそのようなところよな」


「そ、そんな…」

「いやいや、お前は死んではおらん。ただ社に結界がある故に私の姿が視えるだけよ」

「……」

「疑うか」

「…それは……」


きっと僕はこの人に、この神様、に、助けられたのだろう。態々外で倒れていた僕を屋根の下に運んで怪我を癒してくれたのだから。
だが、神様、といわれても…正直信じることは……。



「…善法寺伊作」

「!!な、何故」

「齢29といったところか。今は戦から帰ってきたところであろう」

「あ、あの、」

「これで信ずるか」


ふぅと煙を吐いて彼女は僕の目の前に座った。


「名前だ。私は此処で100年ほど囚われている身よ」

「名前、様」

「よいわ、好きなように呼びやれ」


名前さんの足へと目をやると、足首には大量のお札のようなものが貼られていた。


「札よ。私を縛る鎖代わりと言ってもいいやもしれぬが」


ふふふと笑い彼女はほぅらと僕の頬を撫ぜた。…触れられないのか…。通り抜けるように僕の頬を撫ぜて、名前さんは悲しそうな顔をした。


「お前がここで寝ているのはその扉を破壊して倒れてきたからよ。私は大層驚いた。触れもせぬのに見ず知らずの怪我人が来た。扉も傷もなんとか治して身を隠せた。追っ手も結界には気付くまい。頃合をみて出てゆけ。夜明けと共に私は消える。もうすぐだがなぁ」


東の空がふんわりと色づいてきた。



「夜明けよ。お前の傷も骨ももう癒えておるわ。追っ手に気付かれんうちにとっとと帰りやれ」

「ま、待って!!」

「これは嬉や。別れを惜しまれたのは何十年ぶりよな」


にこりと笑って名前さんは姿を消した。

























あれから僕は名前さんの事しか考えられなくなってしまっていた。




戦が終わったらすぐに名前さんのいる社へ向かい扉を開けた。
暇そうに足のお札をカリカリとはがそうとしている名前さんは大層驚いて僕を見上げた。


「…何故、またこのような」

「名前さんに、先日のお礼を言いに…」

「…物好きよのう」


何も無いぞと笑いながらも名前さんは僕を来るたび社へと迎え入れてくれた。


神という存在であった名前さんは昔ある大名に姿を見られ、陰陽師に札で封印されてしまったという。触れられずとも大名は名前さんを見に何度も何度もこの社に訪れたという。
だが、ある日ぱったり大名の陰陽師も来なくなった。きっと死んだんだろう。


こうして名前さんは封印をとかれることなくこの社に100年近くも閉じ込められてしまっているらしい。

にわかに信じがたい話ではあるが、名前さんはとても悲しそうだった。

ここ何十年も人と話をしていなかったという。外にも出られなかったという。誰にも愛されなかったという。
此処から解放される方法はただひとつ、人に足の札を剥がして貰うことだという。今まで人は一人もこの中には入ってこなかったという。

でも僕は剥がさなかった。名前さんには申し訳ないけど、まだここで話をしていたかったからだ。

剥がす方法は僕しか知らないのに、それでも解放はしない。
まるで僕が閉じ込めているような気分だ。

でもそれでもいい。名前さんの側にこうしていられるのだから。


僕は、名前さんの側から片時も離れなかった。


仕事が終わればもう日が落ちている時間だ。この社を訪ねて返事も聞かずに中に入る。
名前さんが其の度に嬉しそうな顔を見せて、僕も嬉しくなった。



「…伊作、お前最近ここへ来すぎではあるまいか」
「…名前さんの、側にいたいから…」

「抜け忍と呼ばれてもしらぬぞ…」



…神様に恋をするだなんて思いもしなかった。


名前さんにこの気持ちは伝えられないだろう。神様と人間なんて、掟を破るにも程がある。きっと、許されるものではない。

でも僕には、何も残っていない。

これからどんな罰が来ようと、怖くは無かった。















「…伊作、もうお前も此処に来るのはよしやれ」




名前さんはある日、僕の隣でそう呟いた。
僕は耳を疑った。来るななんて、そんな言葉一度も言われたことが無いのに。

「……どう、して…」


触れることは出来ないが重なっている僕と名前さんの手が、ゆっくりと離れた。


「…ここの、取り壊しが決まったのよ…」


「…今、なんて……」

「こうなってはお前の側にいることももう出来まい。ここと共に私も死ぬ」

「ちょ、ちょっと待ってよ!!」


立ち上がる名前さんの着物の裾を掴んでも、するりと抜けてしまう。


どうして、なんで。

なんで離れるなんて言うんだ。



どうして、どうしてどうして。



「…嫌だよ」



空を掴んだ手を力いっぱい握り締めて僕は呟いた。

そんなの、そんなの絶対に嫌だよ。


「…嫌、嫌だよ!なんで離れるなんて言うのさ!!」

「伊作」

「僕にはもう名前さんしかいないのに!」


「…伊作」

「もう嫌だよ!どうして皆僕からいなくなってしまうのさの!!留三郎も仙蔵も小平太も文次郎も長次も!!どうして僕を置いていってしまうんだよ!!どうして!?どうして僕はいつも一人でいなければいけないんだ!!」

「…」

「やっと名前さんという存在に逢えて、僕は生きる希望が見つかったのに…!それなのに名前さんまで僕から離れようとするのか…!!どうして、どうしてなんだよ……!!」


もう僕に旧友の仲間は一人も残っていない。

風の噂で、可愛い後輩達も全員若くして戦や病で死んだという話を聞いた。


僕だけ。僕だけが残った。


この世に僕だけ。あの楽しかった日々を知るのは僕だけ。

どうしてだ。どうして僕ばっかりこんな目に。



「いい機会よ。私のことは忘れやれ」

「嫌だよ!忘れられるわけないじゃないか!」

「…伊作…」

「名前さんが死ぬ…なら僕だって死ぬよ…!」

「伊作、それはならん」

「もういいじゃないか…!僕だってもう疲れたよ…!仲間も家族もいないのに…!どうして生きなきゃいけないんだよ…!僕だってもう死にたい…!仲間の下へ行きたいよ……!名前さんの側にいたいんだよ……!」



もう疲れた。もう生きているのもいやだ。
此処へ来て生きる希望が見つかったのに。さらにそれまで僕から引き離す。

神という存在はどれだけ僕を苛めれば気が済むのであろうか。


僕は名前さんの側に駆け寄り足の札を全て両手で引き剥がした。
息を呑む音が聞こえたが、僕はそれをやめることはしない。

初めて名前さんに触れたのがこんなことで、なんて悲しいんだろうか。でも、嬉しい。名前さんに触れられて、名前さんの側にいけるんだから。


「っ、伊作!!」

「さようなら名前さん、僕もすぐに側に行くから安心してくださいね」

「止めやれ!お前何をしているのか解っているのか!」


ふわりと透けていく名前さんを見ながら僕は忍び刀をスラリと抜いて首へと付きたてた。


「大丈夫だよ。一人にはしないから。僕が名前さんから離れるわけないだろ?」


僕はそのまま刀を進め、首へと差し込んだ。





痛い。









きっと仙蔵は僕に丸一日説教するだろう。

きっと文次郎は僕に甘ったれすぎだと怒るだろう。

きっと長次は僕にずっと笑いかけているだろう。

きっと小平太は僕をぶん殴るだろう。



きっと留三郎は僕を引っ叩いて怒るだろう。



ごめんね皆。でも、でも僕もう疲れたんだ。

やっと愛する人が出来たというのに、祝ってくれる仲間がいなければ、その愛する人すら僕から離れていこうとする。


"不運"という言葉で済せられるほど、

もう、僕も広い心なんて持ち合わせていないみたいなんだ。








「なんて、馬鹿なことを………」







薄れていく意識の中で、触れられぬ僕の手を握ってくれた名前さんは



「何故、こんな馬鹿な男を好いてしまったのか…私にも解らなんだ…」



僕に愛を囁いてくれた。






僕の人生、こんな終わり方をするなんて

きっと誰も思ってはいなかっただろう。



愛する人のために死ぬ

そして僕は、愛する人をこの手で殺した


名前さんは自由になったけど

きっとこれからも僕という存在に縛られ続けるだろうな







「…また、逢いたいものよな」







かすれる声で「僕もだよ」と言ったのは、伝わっただろうか。






















触れることの出来ぬ悲しさよ



ここで一緒に死んだとしても

もう二度と逢えない事は解っていたよ



でも、それでもあなたの側に行きたかったんだ

















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葵様遅くなりまして申し訳ありませんでしたァアアアアアアアアア

キリ番ヒットおめでとうございますゥウウウウウウウウウ

そしてなんか多分リクエストに副えてないかもしれませんウオオオオオオワアアアアアアアアごめんなさいごめんなさい

伊作さんで書かせていただきましたアアアアアアアアアアアアア

伊作さん29歳とかちょっといい男真っ盛りでしたねエェェェエエエエエエエエ

調子にのりましたすいませんでしたァアアアアアアアアアア



伊呂波

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