「はぁ!?出茂鹿さんが来ない!?」


「そうなんだよー!ついさっき電話が来てさぁ!」
「な、なんでですか!?」
「モデルは僕の天職じゃなかったとか意味の解んない電話してきて、そっから音信不通なんだって!」

「ナ、ナンダッテー!?」


黒ぶち眼鏡を外して三つ編みをほどき制服を脱ぎ衣装に着替えようとしたその時、メイクさんが楽屋に飛び込んできて爆弾を直下していった。

今日は雑誌の冬服特集ページの撮影だというのに、彼氏役の出茂鹿さんが来ないのだという。

なにそれ、緊急事態にも程があるでしょう。


「じゃ、じゃぁ今日の撮影どうするんですか!?」

「どうしようねー!彼氏役の子がいないんじゃ…!名前ちゃん一人で立たせるわけにもいかないし…!!」
「網問さーん!名前ちゃんだけでもメイクしちゃってくださいって鬼蜘蛛さんが!」
「そういうわけにもいかねぇんだよ白ァア!相手がいないんじゃ撮影もできねぇだろうが!」
「ヒィ!」


網問さん怖い。これマジギレしてる時のトーンだ。

彼氏役がいてこその特集ページだったのに。折角任された大きな仕事だったのに。

出茂鹿絶対許さない。


「今日は一旦帰ろうか…。後日また改めて相手役の子探してみるから…」

「…わかりました」


相手役がいないんじゃどうしようもねぇなぁと鬼蜘蛛さんをはじめとするスタッフ一同が落胆して
私は脱ぎかけた制服を着戻してバッグを抱えてスタジオを出た。


「お疲れさまでーす」
「無駄足踏ませて悪かったな」
「いえ、また後日」


スタジオのあるビルを出てはぁと溜息をついた。

この時のためだけに今日は授業で一睡もしなかったのに…。

















「おやまぁ苗字ちゃんではないですか」

「…?」



深く深く溜息をついて駅に向かう途中、
聞き覚えのある声が聞こえて顔を上げた。


「……あ、綾部、くん?」
「だぁーいせいかい」

「苗字?私のクラスの苗字か?」
「た、平くん」

「1組の女子か。何故こんなところでうろついている?」
「一人?偶然だねぇ苗字ちゃんも一緒に行く?」

「た、田村くんと、斉藤さん……」



こんな都内で、何故この四人が揃っているのだ。


っていうか何故私の存在を知っている。

私は学校ではクソ地味な子を演じているはずなのに。


何故顔を覚えている……!?



「な、なんで…」

「今日はみんなで特大パフェを食べに来たんでーす」
「喜八郎くんがどうしてもっていうからさぁ」
「全く!この私をこのような人ごみあふれかえる場所に連れてくるなんて喜八郎ではなければこんな誘い断っていたというのに」
「黙れ滝夜叉丸。お前も少し楽しみにしていたくせに」
「なんだと三木ヱ門!」
「あぁ!?なんだやんのか!?」
「ちょ、やめなよ二人ともー」


突然公共の場で喧嘩を始める平くんと田村くんを宥める斉藤さんを鼻をほじりながら見つめる綾部くん。





これは、もしや、

天の助け…!?




「綾部くん!!」
「はい?」

ガッ!と肩を掴み、突然大声を出せば、

平くんと田村くんと斉藤さんが驚いて私の方向を向いた。

そうだ。私は学校では大声なんて出さない。

むしろ声を出しているかどうかすらも怪しい。



「そのパフェ私が奢るから!何個でも好きなだけ奢るから!だから!1時間程私に時間をくれない!?」
「!」

パッと顔を輝かせて、いいよと素早く返事をくれる綾部くんに大感謝。


「お願い!平くんと田村くんと斉藤くんも1時間程私に時間ちょうだい!!」

「わ、私は別にかまわんが…」
「なにをするんだ?」
「どうしたの名前ちゃん…」


ついてきて!!と綾部くんの腕を引っ張り猛ダッシュでさっきのビルへと向かう。

待てー!と大声で呼びながらも他の三人も走って付いてくる。


「おい苗字!何処へ行くんだ!」
「こっち!このビルの中!」



間に合え!まだ帰るなスタッフ!!








「今戻りました!!」
「お、名前ちゃんどうした」

「相手役、こ、この人たち、この人たちではダメでしょうか!!」


ぜぇはぁと息をきらして階段を駆け上がりバン!と勢い良く扉を開く。

第三スタジオと書かれてある部屋へと飛び込むと

撤収準備を進めているスタッフ一同が私の声に反応して全員こっちを振り向いた。


「鬼蜘蛛さん!この人たちではダメですか!?」

難しい顔をしてケータイを見つめていた鬼蜘蛛さんが
私の声に反応してダッシュで駆け寄り

私が掴んでいる綾部くんや後ろでへばっている斉藤くん、
息一つ乱れていない平くんと田村くんを見つめて目を見開いた。


「……ず、随分綺麗な子たち連れてきたな…」
「えー!この子たち誰!?何処のモデルの子!?」

「網問さん違います!私の学園の同級生とクラスメイトです!」
「えぇー!もったいない!一般人の子ってこと!?」


まじまじと覗き込まれて居心地悪そうにする四人。

っていうか大体こんなところに急に連れてこられて
事態が把握できているわけもないだろう。




「…いけるかもしれねぇなぁ」


ポツリと鬼蜘蛛さんが呟くと、スタッフさんが一斉に器具や機材を元に戻し始めた

各スタッフがバババッと駆け寄ってきた。



「君名前は!?」
「綾部喜八郎でーす」
「君は!?」
「僕は、斉藤タカ丸です」
「俺は網問!まず君らからメイクしちゃおうか!」

「お前の名前は!?」
「た、平滝夜叉丸と」
「そうか!俺は義丸だよろしくな!お前から衣装セットするぞ!」

「君の名前は?」
「た、た、田村三木ヱ門と申します」
「俺は白南風丸!とりあえずお前からヘアセットしよう!」

「名前!お前も重んとこ行って着替えろ!10分後に始めるぞ!」
「はい!ありがとうございます!」


「お、おい苗字!」
「ごめんみんな!詳しいことはその人たちに聞いて!」


あれよあれよと言う間に全員が全員別方向へと押しやられて
私も個室で制服を脱いでさっき袖を通すはずだった衣装へと着替えた。

可愛い!新作だ!早く着たかったんだ!

急いで東南風さんにメイクをしてもらいながら重さんに髪をセットしてもらい
丁度10分後、私はカメラ前に走った。


「鬼蜘蛛さん!どうですか!」
「おぉいいじゃねぇか。じゃ始めるかー」

「疾風さんが撮ってくれるんですか!幸せです!」
「お前はお世辞言うの本当にヘタクソだなぁ」

鬼蜘蛛さんが手拍子をして0.5秒毎でポーズを変えていく。
フラッシュがバシャシャなる音を聞きながら私は疾風さんのカメラから目を離さなかった。


「おう、いいな。今日特にいいじゃねぇか」
「ほ、褒められた!珍しい!」
「自分で言うもんじゃねぇぞ」

はははと笑いがこぼれて一息つくと、奥から
準備でたぞ!と網問さんの声が聞こえた。

奥からおずおずと出てくるのは、
制服姿とはまた違って綺麗なカッコをしている平くんだった。


「た、平くんそれ、も、もしかして、…スッピン…!?」
「…メイクなんてしていない」


何この絹肌!!羨ましすぎる!!

こっちこっちと腕を引っ張り白い背景のカメラの前に立ち、
平くんと一緒に立たせた。


「ど、どうしろというんだ」
「なんかポーズとってくれればいいよ」
「それが解ればこんなに困らない!」
「だ、だよねごめん!」

そうだよね、平くんたちはモデルじゃないからね。
ポーズとれって言われても困るよね。ど、どうしよう。




「滝ー。凄く綺麗だよー」



「き、喜八郎」
「綾部くん」


「これいつもクラスの女子が読んでるあの雑誌の特集ページなんだってー。滝が全国の女の子虜にしちゃう日も近いねー」




物凄く棒読みで、着替えとメイクを終えた綾部くんが
平くんにむかって声をかけた。


「…当然だ!」
「え!?」


綾部くんのその言葉を聞いて平くんはバッ!とポーズを決めた!


「大川学園No.1の美しさを誇るこの平滝夜叉丸がモデルを勤めるのだ!このページで私が華々しく目立たなくてどうする!綺麗なサラサラストレートヘアは誰だ!?ランキングで堂々の第二位のこの私がモデルをやるのだ!全国の女性が虜になること間違いなし!そのうえ歌って踊れるこの隠れた才能すらも…!」



ぐだぐだぐだぐだと効果音でもつくのではないかという勢いで

平くんは異常なる自己愛を語り始めた。


驚きのスイッチを入れる方法があったらしく、

綾部くんは私に向かって親指をグッとたてた。



ありがとう。本当にありがとう。

パフェ何個奢れば感謝しきれるの。



「じゃぁ平くん、あっちのカメラ向いてくれる?」
「任せろ!苗字と私ならこの雑誌の売上伸びること間違いなし!」

腕を絡ませいつもどおりポーズを決めると
疾風さんがコレを逃すものかという勢いでバシャバシャとシャッターを押し始めた。


「いいねぇ平くんそのまま名前ともっと密着してくれるかい」
「お安い御用!」






「なぁ綾部くん、つったかな」
「はい」
「彼とか、君らは、本当に一般の子かい?」
「はい。アレはただの自惚れやです」
「…良い人材なのになぁ」







田村くんも同じようなスイッチの入り方をして

綾部くんはただ突っ立ってるだけで画になると言われ

斉藤さんは完全にプロの動きを見せていた











「出茂鹿より良いじゃねぇか」
「あ、鬼蜘蛛さんそれ言っちゃいますか」

「名前ちゃーん。パフェ奢ってー」
「はーい綾部くん今行くよー!」



嬉しいことに友達も増えました。



















Super Prominence!
















「あ、みんな」
「おやまあ名前ちゃん」
「おはよう苗字!」
「やぁ苗字」
「おはよう名前ちゃん」

「実はみんなでまたスタジオ来て欲しいって…」
「…パフェ」
「今度は鬼蜘蛛さん達が奢ってくれるってよ」
「!!」
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -