今夜が山だろうね




そう校医の善法寺先生に告げられ、学園中が全員絶望した。

名前が、忍務先で深手を負って帰ってきた。

毒の塗られたクナイを何本も体中に刺して帰ってきた。

先生方全員が手当てに当たった。

名前の意識は途切れ途切れで

目を覚ます度に、僕の名前を何度も呼んだ。

目を覚ますたびに、名前の名前を何度も呼んだ。



日が昇って、また日が沈んだ。










名前が、僕の名前が死ぬ?








名前は今火薬委員会の委員長だ。

一番御世話になった、2年前に卒業された久々知先輩を

昨夜、善法寺先生が呼び寄せた。




「名前…!名前…!?」

「あぁ、久々知先輩。お久しぶりです」

「お前、…嘘だろ?」

「ははは、すいません、ヘタこきました」



久々知先輩が頭巾を下げて顔を見せる




その後ろで、

傷が深すぎて、解毒が完全に出来なかったと

善法寺先生の目に涙が浮かんだ。


あぁ、本当に名前は助からないんだなと確信してしまった。



久々知先輩から目を離して、

名前は僕の目を見た。




「ねぇ左門」

「おう!なんだ!」

「私ね」

「うん!」

「最期にね」

「…うん!」

「夜空いっぱいのね」

「うん!」

「星空が見たいな」




































「馬をありがとう団蔵!」

「いいえ。…僕に出来るのは、これぐらいですから…」


夕暮れ。

今から出れば夜空ぐらい見せてやれる。

今夜が山。

今から出れば、今から出れば、名前は星を見れるはずだ。


「じゃぁ、行って来ます!」

「いって来ます」

「しゅっぱーつ!」


僕の後ろに名前が乗って、しっかりと腹に腕を回した。

学園生徒、教師全員に見送られ、僕と名前は門をくぐった。

























「うーむ、ここは何処だ!」

「ねぇ左門」

「なんだ!」

「二人きりだね」

「うむ!久しぶりに二人きりだな!」

「忙しかったもんね」

「名前はもう仕事を頼まれているからな!」

「左門も忙しかったもんね」

「そうだな!顔をあわせるのも久しぶりだもんな!」

「ごめんね?」

「怒ってない!」

「ありがとう」

「礼などいらん!」

「ねぇ左門」

「なんだ!」

「大好きよ」

「うん!僕も大好きだ!」

「愛してるよ」

「僕も名前を愛してる!」

「ちょっと眠っていいかな」

「おお!到着したら起こしてやる!」

「ねぇ左門」

「なんだ!」

「ずっと大好きよ」

「知ってる!僕も名前が大好きだ!」



馬を走らせる。

走れども走れども、目的の場所に着かない。

くそ!また方向音痴を出してしまったか!




「すまん名前!ちょっと迷った!」



現在地がここって事は…なるほど!こっちだ!

「ここは前に来たことがある!もうちょっとすれば到着だぞ!」




馬の腹を蹴り、速度を上げて山の上を目指す!


「名前!しっかり掴まってろ!ちょっと荒い道だからな!」



ダカダカと馬の足音が森に響いていく。

烏が空を舞い、木々を僕らが裂いていく。










馬がブルルと、息を荒げて、目的地に到着した。


「おぉ!ついたぞ!名前起きろ!ついたぞ!」



山の頂上だからか、上を見れば、視界を遮る物は無い。


「名前!今日は大当たりだな!星が綺麗だな!」



馬の歩みを止めて、そのまま上を見つめた。



「凄く綺麗だな!あいつらにも見せたかったな!」



ふわりと風が、僕らの髪をなでた。







「今日はいい天気だったからな!山の頂上からならバッチリ星が見れるぞ!」


「名前!流星群だ!見ろ!今あそこで星が流れたぞ!」


「以前、土井先生に星座というものを教えてもらったんだがな!さっぱり覚えてない!」


「だが本当に綺麗だな!」


「ここ暫くは忍務が忙しくて夜空なんて見てる暇なかったからな!」


「名前も久しぶりの星空か?僕もだ!」



「…そうだ!少し風が冷たいな!」


「帰ったら、!帰ったらおばちゃんの所へ行こう!」


「おばちゃんのうどんをたくさん食べよう!」


「それで、あ、明日になったら、僕と久しぶりに町に行こう!」


「そしたら名前が前から欲しがっていた簪をプレゼントしよう!」


「名前のために店の主人にとっておいてもらっているんだ!」



「それから、それから…!作兵衛と三之助と藤内と孫兵と数馬とも町に行こう!」


「…っ、!最近、美味い饅頭屋ができたんだ!」


「きっとあいつらもまだ行ってない…っ!」




「皆で、皆で揃って卒業したら、そしたら…!そしたら皆で、祝いに其処へ行こうっ、!」




「もちろん、名前の分は僕が奢ろう!うん!任せておけ…っ!」



手綱を握る手が、自然と強まる。


腰に回された腕が離れている。




しっかり掴まっていろと言ったじゃないか。





「おぉ、気付かなくてすまん!馬から降りたかったよな!」


手綱を放して、馬から降りる。


それにつられて、名前も、ドサリと、降りた。




「そうだな、寝転がって見れば…っ、目の前は星空でいっぱいだな…!」






名前を見下ろす僕から、

ボタリボタリと、雨が降る。




たまらなくなって、名前の横にゴロリと横になった。




「本当に、一面の星空だな」

「此れを見せたかったんだ」

「遅くなってゴメンな」

「また方向音痴をしてしまった」

「名前に治して貰ったと思ったのにな」

「やっぱり僕は名前がいないとダメみたいだ」

「だから、だから…ずっと、僕の側に居てくれ…」

「卒業しても、…卒業しても!ずっと、僕の側に居てくれ……!」




「なぁ、名前…」


「愛してるぞ…!」




















私も大好きよ!




















眠る名前から、

いつもの返事は返って来なかった。






「…っ、名前!名前!!

…っ、う、うわあああああああああ!!!……――
















































「さもぉおおん!やばいやばいやばい!!土井先生超怒ってる!」

「おぉ名前!もう補習終わったのか!待ってたぞ!」

「こんな早く終わるわけないじゃん!バックレてきたの!」

「何!それは一大事だ!」

「ゴーゴー左門号発車!土井先生をまけぇええ!!!」

「おぉ!任せておけぇええ!!」



名前が僕の自転車の後ろに飛び乗り、力いっぱい自転車をこいだ。



「コラァァアア止まれ神崎ぃいい!!名前!!まだ補習終わってないぞォオオ!!」

「すいません土井せんせーーい!今日左門とデートなんですぅうう!!」


「違う!今日は特大パフェをあいつらと食べに行く約束だ!」

「知ってるわーい!皆は?」

「もう先に行ってるぞ!」


「よっしゃー!左門全速ぜんしーーーん!!」

「おぉお!!」


「えっ!違う違う!カフェはあっちだって!!」

「何!こっちかー!!」


信号を渡ってすぐ左に行くはずなのに、右に来てしまった!



「あいかわらず左門の方向音痴は病気だね!」

「すまん!」

「怒ってなーい!」

「ありがとう!」

「ねぇ左門!」

「なんだ!」

「二人きりだね!」

「うむ!久しぶりに二人きりだな!」

「忙しかったもんね!」

「名前は生徒会が忙しいからな!」

「左門も委員会の決算で忙しかったもんね!」

「そうだな!顔をあわせるのも久しぶりだもんな!」

「ごめんね?」

「怒ってない!」

「ありがとう!」

「礼などいらん!」

「ねぇ左門!」

「なんだ!」

「大好きよ!」

「うん!僕も大好きだ!」

「愛してるよ!」

「僕も名前を愛してる!だから僕にしっかり掴まってろ!」

「はーい!」

「名前!」

「なーに!」

「寝るなよ!」

「寝ないよ!」

「勝手に離れるなよ!」

「離れないよ!」

「今度、星を見に行こう!」

「うん!今度こそ二人で見よう!」

「約束だぞ!」

「うん!約束!」



「なぁ名前!」

「ねぇ左門!」




















今度こそ、ずーっと一緒だよ!



勝手に離れたりしないでくれよ!
もう二度と置いてかないからね!




















「でもね左門!」

「なんだ!」

「カフェはあっちだよー!」

「おぉ!また間違えた!」



「まったく!左門は私がいないとダメだなー!」

「うむ!僕は名前がいないとダメだ!」
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