「喜八郎、私ね、この間の忍務でヘマしてね、右腕なくなっちゃったの」


「え?」


「だからね、くのいちやめるんだ」




大きな荷物を抱えて

僕にそう話しかけてきたのは、



同い年で、

僕の友人で、

ずっと一緒だよって言ってくれた


名前だった。




三木ェ門が泣いてて、

滝夜叉丸も泣いてて、

タカ丸さんはもうちょっとで泣きそうで、


名前のいた生物委員会の後輩は全員号泣してて、

竹谷先輩が泣きながら名前を抱きしめてて、

名前は黙って竹谷先輩の腕を受け止めていて、




竹谷先輩から離れたら、


虎若を左手で撫でて、

抱きつく三治郎を左手で撫でて、

一平も左手で撫でて、

孫次郎の涙を左手でぬぐって、



涙を流す小松田さんの持つ出門表に、

慣れない手付きをして


左手で、サインを書いた。





名前って、右利きだったよね?





得意の手裏剣を投げるのは、
傷だらけの右手でだったよね?


僕の顔に泥がついたときも、
タオルを右手で持って顔を拭いてくれたよね?


僕が勉強解んないっていったら、
右手で綺麗な字を書いていたよね?


僕が穴を掘りすぎて出られなくなったら、
その綺麗な右手を伸ばしてくれたよね?


僕とお出かけするときは、
名前の右手と僕の左で手をついないでいたよね?





右手は?


僕を愛してくれた、右手はどうしたの?





「名前?右手使わないの?」

「喜八郎」

「名前って左利きだったっけ?」

「…喜八郎」

「裾から手を出さないと転ぶって言ったの名前じゃん。危ないよ?」

「ごめんね喜八郎」

「僕の顔泥だらけなの。綺麗にして?」




そう言っただけなのに、泣いてる滝夜叉丸が「もう止めろ」って僕に声をかけた。

うるさいよ滝夜叉丸。僕は今名前とお話をしているんだから。




「ごめんね、喜八郎」

「許さないよ」

「ごめんなさい」

「絶対に許さないよ」

「…喜八郎」



「僕から離れるなんて絶対に許さない」




そう言って名前と眼を合わせると、名前は、

左手で、僕の頬をなでた。





拭ったのは泥じゃなくて、僕の涙。




掴む名前の服の右腕の袖が

何も通っていないと証拠付けるように

ぺたりとつぶれた。





どうして腕を通してないの。





「ごめんね、泣かないで」




涙を拭ったのは、いつもと違う方の手。


どうして。





「もう喜八郎の泥をぬぐってやることも、

穴の中にいる喜八郎に手を差し伸べてやることも、

喜八郎のノートに宿題の答えを書いてあげることも、

大好きな喜八郎を抱きしめてあげることもできなくなっちゃったんだ」






さようなら、と門をくぐる名前は


やっぱり左手を振った。






















あの手で僕を愛して

ないなら僕のをあげるから




















名前の右手の弔い合戦

僕の右腕で仇をとってくる

だから、ちょっと待っててね
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