ねぇ!仙蔵!ハチ!六年生って一番強いんでしょ!?

一番強い人の任務に一番弱い子を連れて行くなんて、危ないよ!








椿さんが、そういって私の腕にしがみついてきたのを、まだ覚えている。

桜は何を考えて、兵太夫と三治郎を連れて行くと決心したのだろうか。私には到底理解できない。


任務の内容を聞くのは確かにマナー違反だ。だが、六年に回ってくる任務に一年生が付いていって安全なわけがない。あいつらは、絶対に怪我をして帰ってくる。
私と竹谷は、同じ委員会の後輩が連れて行かれたとあって、心配で眠っている場合ではなかった。六年長屋の縁側で桜の帰りをただひたすら待った。


すると、遠くから、聞き覚えのある高い声が聞こえた、三治郎と、兵太夫だ。きっと今帰ってきたのだろう。どたどたと忍びにあるまじき足音を立て、学園長の部屋を出たところだろう。もうすぐ六年長屋の前を通っていくはずだ。


「だから言っただろー!僕が作ったあのカラクリがあってこそだって!」
「さすが桜先輩だったねー!タイミングもバッチリだったし!」

声をかけようと思ったのだが、二人は私たちに眼もくれず、そのまま走り去っていってしまった。私たちがここに座っているのに、気づかなかったのだろうか。

あぁ、きっと初めての任務に心がまだ落ち着かないのだろう。まぁ何にせよ、あの元気な声。きっと怪我は負っていないのだろう。それだけ確認できて、安心した。




「なんだ、六年長屋に五年がいるとは珍しいな」




「…御代志先輩を待っていたのですよ」
「夜這いか?悪いが俺に衆道の気はないぞ」
「話を茶化さないでください」

後輩二人を見送った後、すぐ背後から聞こえてきたのは、待っていた人物だ。今、一番話をしたいと思っていた人物。桜だ。
先に口を開いたのは私ではなく、竹谷だった。

竹谷は後輩思いのいいやつだ。後輩を危険な目に合わせて、桜を許せるわけがないのだろう。


「何故、三治郎達一年を六年の任務に連れて行ったのですか…」
「何故?学園長先生から許可が出たからだ」
「一年はまだ実戦演習もまともに行っていないのですよ…!?何故"殺し"がある現場へ連れて行ったのですか!あなたは後輩が死んでも良いと言うのですか!?」
「誰もあいつ等を殺すために連れて行ったとは言っていないだろう」
「それほど危険な場だということです!!」

竹谷は、声を荒げて桜を責めた。お前は何も言わないのか、と、視線をこちらに向けては来るが、今は竹谷に任すとした。
殺しの授業を受けるのは、四年に上がってから。つまりは、上級生の仲間入りをしてからである。あいつらを連れて行くのは、早すぎると竹谷は言いたいのだろう。

「何故あんな危険な真似を…!」
「今回、学園長先生は上級生でこの任務をこなせるのは俺だけだと言ったが、三郎と勘右衛門は除外されていなかったよ」
「あ、あの二人が…?」

「だがあいつらは二人とも用事があって今夜の任務に同行させることはできなかった。あいつらを連れて行けないとなると、必然的に下級生に頼むことになる。今回の任務先は複雑な道の重なる場所だった。そうなれば、カラクリの腕かたつもの、それか獣遁術の心得がある者を連れて行くのが妥当だと俺は判断した。つまり、下級生の、三年い組の伊賀崎を連れて行くのがベストだっただろう。

だが、あいつは今、飼育小屋の全ペットの世話、及び委員会の仕事を全て抱えている。そのせいで、ジュンコの体調が思わしくないようだ。大事な相棒の体調不良とあって、そんなあいつを引っ張り出すわけには行かない。そこで、カラクリの腕がたつものをと思ったが、下級生の中でカラクリの腕、と、いえば群を抜いて天才と言われるあの1年は組のカラクリコンビだ。新しいカラクリの設計図も見せてもらったが、今回の任務にぴったりだったよ。安心して、現場に連れ出せることが出来た」


桜がそこまで一気に喋ると、竹谷は面食らった顔をしていた。

まず驚いたのは、ジュンコの体調が悪いということ。そして、生物委員会の仕事を全て抱えているということだ。


何故伊賀崎が?委員長代理とはいえ、生物委員の最年長は、竹谷だろう?



「獣遁術なら、俺も心得が」
「お前を連れて行くぐらいなら俺は一人で行ってる。いい加減に人の話を聞いたらどうだ。今の上級生を連れて行ったところで、俺以外は全員、死ぬのは目に見えている」




死ぬ、だと?私たちが、任務ごときで、死ぬだと?




「舐められたものだな」






耐え切れず、私は口を開いた。

「桜、貴様今の発言を取り消せ」
「学園長先生の御判断だ。が、俺も、そう思う」
「いい加減にしろ!!!」

桜の胸倉を掴み、引き寄せる。月明かりに照らされた桜の忍服は、血で汚れていた。


「ふん、貴様も怪我をしているではないか」
「全て返り血だ。そんなことも解らなくなったのかウスノロ」
「……貴様、今何と言った…」
「手を離せウスノロ。今のお前と話すことは何もない」
「その罵詈讒謗を撤回しろ!」
「お前に言っているんだ。解らないのか、立花仙蔵」
「ふざけた口を利くのもいい加減にしろ!!」

そのまま桜を壁へと叩き付けた。
それなのにも関わらず、こいつは涼しい顔を止めようとしない。





「今までは黙っていたが…聞いたぞ。貴様、あの椿さんに食堂で暴言を吐いたそうだな。たかが食事中に声をかけられただけで、椿さんに興味がないと、邪魔だ去れと言ったそうだな。何故あの椿さんに暴言を吐いた。何故あの方を悲しませるような真似をするのだ」

「俺は食事を邪魔されるのが嫌いだ」

「彼女はそれから貴様を怖がっている。お前が怖いと、怯えて泣いているのだぞ!」

「…」




「貴様は、椿さんに恐怖を植え付け、さらには自分の勝手にまだ幼い一年生を行動し危険な目に合わせた挙句、竹谷をバカにし、この私をウスノロ呼ばわりするか!今までのお前は何処へ行ったのだ!


貴様は一体何様のつもりなんだ!!!」





何故私が、こいつにここまで言われなければならない!



何故私が、死ぬと判断されたやつらの中に入っている!








「…ハァ…。学園一クールといわれた男がこのざまか」
「…私の知っているお前は、こんなやつではない……」
「……離せ、俺は滝へ身を清めに行く。この血は風呂では洗い流せまい。お前等と語ることはもう何もない。とっとと消え去り椿さんと茶でも飲んでいろ」


邪魔だ。そういって桜は私の腕を振り解いて部屋へ入っていった。




タオルを肩にかけ、再び部屋から出てくると、





「それからもう一つ」




桜は振り向き、指を立てた。











「此処を通ったあいつらが、お前等の存在に気づいていないとでも思っているのか」









そう言って、桜は姿を消した。


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