あれから何日かたち、言い渡された任務に行く日になった。


今日もいつものように授業を受け、日が傾くのを待つ。

相変わらず椿という女は仕事もせず、上級生にベッタリのようだ。


先日の食堂の件があってから一度は食事を邪魔したことを誤りに来たが、あの女は私の姿を見ると深くお辞儀をして通り過ぎてしまう。怖がられたか。致し方ない。私もその方があの臭い匂いを嗅がなくて済む。


注意をしたのにもかかわらずあの女の臭いはまだする。気持ち悪いったらない。


彼女と私が話す姿を見たことがないのか、上級生たちはやれ彼女と話してみろだのやれ何故お逢いしないのかなどよくふざけたことを聞かれるのだが、忙しくて時間が合わないと言ってある。

それもそのはず、上級生が委員会に出なくなった分、私と三郎と勘右衛門で全ての委員会に顔を出しているのだ。
委員会に出ていないという事実は自分たちで気づくまで放っておこうということになり、多忙ながら、そうすることにしたのだ。





今夜の任務に必要なものを揃えるため、一足早く食事を済ませておいた。

先日学園長から受け取った任務の書かれている密書を懐にしまい、再び夜の食堂へ向かった。
さすがにこの時間だとでも言わんばかりに、食堂には全学年が集合していた。






『桜先輩、一体何をなさるおつもりで?』

『ん?何、              するだけさ』

『はぁ!?正気ですか!?』

『至って正気だとも。後はあいつ等が了承するかどうかだ』

『せ、先輩が黙ってないんじゃないですかね』

『そうだろうな』

『だったら、』

『勘右衛門、お前、あいつらの苦虫を噛み潰した顔を見たいと言っていたよな?』

『えぇ!言いましたよ!』

『三郎、お前も見たくないか?』

『そ、そりゃ…』

『黙って食堂の天井裏で見ていろ。あいつらどころか…――




食堂中が面白いことになるぞ








そう言うと二人はいたずらっ子のように笑い「わかりました!」と言い姿を消した。もう先に行ったのであろう。




「兵太夫!三治郎はいるか!」

賑わう食堂でそう声をかけると

「あ!桜先輩ー!」
「僕等はここでーす!」


暢気な可愛い声は、すぐ側で聞こえた。


その場にいなかった私の声が急に聞こえたからか、下級生は喋るのをやめ、全員此方に視線を向けた。

あの女もいる。よくもまあ涼しい顔しておばちゃんの前の席で茶なんか飲んでいられることだ。


「僕等に何か用ですか?」
「今夜、お前等暇か?」
「えぇ、今日は何もないので、」
「新しいカラクリの実験でもしようかと思ってー!」

「そうか丁度いい。今夜俺は忍務でとある城にもぐりこむ。



任務のパートナーとして、お前等二人を指名したい」





その一言に、食堂中の会話が消えた。



「え、」

「ぼ、僕等を…?」


「そうだ。一緒に行かないか?」




いつもの会話のように笑って、二人の頭を撫でながら話を進めようとすれば



「ちょ、ちょっと待ってください御代志先輩!」
「待て桜!私も意見を言わせて貰おう!」


ほら、食いついてきた。

思ったとおり、"竹谷八左ェ門"と"立花仙蔵"だ。


「御代志先輩!三治郎はうちの委員会の後輩です!そんな危険な真似はさせられません!」
「兵太夫はまだ一年だ!六年のお前に任された忍務に連れて行くなど!桜、貴様一体何を考えている!」

「これは学園長先生から俺に任された忍務だ。お前等が口を突っ込んでいい話ではない」

「それとこれとは話が別です!同じ委員会の先輩として、そんな危険な忍務に二人を連れて行かせるわけには行きません!」
「何故我々上級生の中から指名しない!よりによって何故一年なのだ!」

「本来!この忍務は俺ではなく別の六年に当たるはずの任務だったのだ!」


声を張り、二人と、少し離れた場所で食事をとる六年を睨みつけるように言い放った。


「学園長先生は「この忍務をこなせる上級生は今お前しかいない」、そう仰られた。これがどういう意味だかわかるか。今のお前等では、この程度の忍務すらこなせることが出来ないだろうと学園長先生が判断した!だから俺に任されたのだ!何故そう学園長が判断されたのか、今のお前には到底理解できんだろうがな!」

そういい終わると、普段叫ぶようなことのない私に気を押されているのか、二人は黙り、聞こえるのは外を吹く風の音だけだった。

やはり、この言葉すらも理解できんか。


「やっぱり、何を言われているのかわからんという顔をしているな」


溜息をつき、密書を二人の前に突き出す。

おい勘右衛門、三郎、見てるか。この二人の苦虫を噛み砕いたようなこの顔。


「これが今回の忍務内容だ。パートナーになってくれるのならば、これを受け取ってくれ」

兵太夫と三治郎は顔を見合わせる。

「お前たちの数々のカラクリ、本当に面白い。お前等の発明品ならプロの忍者相手にもきっと使えるだろう。お前等の力を貸して欲しい」

「ぼ、僕等の作った…」
「カラクリを…」


納得がいかないと、仙蔵は私の肩を掴んだ。

「私を指名しろ!内容は一体なんだ!」
「話を聞いていなかったのか。上級生は指名はしない。忍務の内容を聞くなどお前は忍びの常識も忘れたというのか」
「…ッ!」


仙蔵、それ以上顔をゆがめるな。あの二人が笑い死ぬ。


「行かなくていい三治郎!危ない目にあうかもしれないんだぞ!」
「止めておけ兵太夫!お前等にはまだ早い!」




「先輩方に、そのような意見を言う権利はないと思います」


その言葉をさえぎるのは、三年い組の伊賀崎孫兵であった。


「受け取る受け取らないは三治郎と兵太夫が決めることです。指名をされたのはこの二人だ。あなた方に、とやかく言われる筋合いはないはずです」
「孫兵!?」
「おばちゃん、ごちそうさまでした」

「僕もそう思いますよ」
「藤内、」
「兵太夫、一年のうちから忍務にいけるなんてそうそうあるもんじゃない。もし気がのったら行ってみるといいよ。桜先輩なら、きっと守ってくれるから。それに、新しいからくりも試せる絶好のチャンスじゃないか」

ごちそうさま、と、横をすり抜け食器を片付ける二人は、私に笑いかけ食堂を後にした。

思わぬ後輩の言葉に、二人は出す言葉を失ったようだ。


「出藍之誉と、言っても過言ではないさ。だから頼みに来た。下級生をつれていくのは学園長先生から許可をいただいている。後は二人の意志だけだ」

嫌なら俺一人でいくさ、と小さく言えば、二人は勢い良く顔を上げ


「「連れて行ってください!」」


そう笑った。

そして私も、笑った。



「一刻以内に内容を頭に入れ、燃やして捨てろ。戌の刻になったら、お前等のからくりを仕掛けるのに必要な道具を持って、俺の部屋に来い」

「「はい!」」



それではな。





食堂から出ると涙を流して腹を押さえる二人を見つけ、ハイタッチを交わした後、私は部屋へと戻った。


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