「あれ?あなただぁれ?」

こいつが、例の。

知らぬ人間を易々と学園に招き入れるとは学園長はどういう神経をしているのだ。間者だったらどうする、とも考えたが、これではくノ一の疑いをかけるほうがどうかしていると思われるだろう。

なるほど、バカ丸出し、と言った感じだな。


「…あなたは、この学園の人間ではないですね」

私の反応が予想外の反応であったのか、食堂にいた全員がこちらへ向く。

「桜先輩じゃないですか。お帰りなさい」
「不破雷蔵か。今しがたな。お前こそ珍しいじゃないか。食事が終わったらすぐここを出て行くようなやつであっただろう」
「今椿さんと話をしていたんです。五年ならそこに」

指差す方向に目をやると茶をすする尾浜達の同学年の友。任務帰りの私に頭を下げる。


「三郎達は?」
「いや、私達は近況報告しなきゃいけないから」
「学級委員長委員会委員長としての仕事だ」
「真面目だねぇ」
「委員長ならなおさら、知っておかねばなるまい」
「お疲れ様です」
「あぁ。とっととそこをどいてくれ。注文ができん」
「あ、どうもすいません」

通行の妨げになっていたのに気づき、不破は頭をさげ道をあける。
それを見送り、私はおばちゃんの方へ向かったのだが、

「あ!注文なら私がとるから!」

また道をふさがれた。
後ろの二人の気が乱れる。


「そういえば、貴女は」

「あ、紹介遅くなってゴメンね!私は香山椿!うーん、信じてもらえないかもしれないけど、未来から来たの。多分、四百年ぐらい未来から!帰る方法がわかるまでここで事務と食堂のお手伝いさんとして御世話になることになったの!よろしくね?」
「6年の御代志桜です。」
「ね、今まで会ったこと無かったけど、何処かに行ってたの?」



「桜先輩は学園長先生のお使いの帰りです」
「そして先ほど帰られたところです。悪いんですが、桜先輩に先に食事をとらせてくれませーん?」


今まで背後に隠れていた二人が口を挟む。
笑いながら話しかけているよに聞こえるが、心の中では暴言を吐いているに違いない。

まったく、声が笑っていない。


「あ、私ったら気が利かなくてごめんね!何にする?」

「ではB定食で」
「わかった!おばちゃーん!Bひとつー!」


定食を受け取り空いている席へ。空いている場所はもう入り口付近の席しかない。

「すまんな富松、伊賀崎、ここを使ってもいいだろうか」
「ど、どうぞ」
「すいません、僕達もう食べ終わりますから」
「気にしないでくれ、後から来たのは俺の方だ。ゆっくり食え」
「は、はい」

ジュンコもすまないなと言えば、気にするなと言うかのように舌を出した。


三年生と相席になるとは久しぶりだ。
いつもは一人か、同級生どもに囲まれているからな。


「俺は食事を取る。細かい報告を。返事はせん。聞かれたくなければ矢羽根でもかまわん」


承知しました。では早速…―

















「ねぇ、桜くんって、何組なの?」

食事を始めてからしばらくたったころ、私の横に先ほどの女、椿という人が立った。
食事をしているのだできれば話しかけないで欲しい。

少し視線を上げると、五年は全員こちらを向いていた。

「い組です」

「い組なんだ!じゃぁ仙蔵と文次郎と同じだね!」

「…えぇ」

「ね、委員会は何に入っているの?」

「…学級委員長委員会です」

「え、学級委員長委員会?ってことは委員長?」

「…はぁ」

「委員長いたんだね。ね、学級委員長委員会って何するの?」

「…雑務を」

「例えば、どんなこと?」

「…」

「っていうか、私がきてから3日たってるんだけど、今まで一度も出会わなかったよね?」

「…」

「お使いっていってたけど何してたの?」

「…」

「もしかして忍務ってやつ?」

「…」

「昨日も留三郎と伊作が忍務だったみたいでね、お昼頃からいなくなっちゃったんだー」

「…」

「あ、でも夜ちゃんと帰ってきたんだよ!なんだか怪我してたけどぉ」

「…」

「それにこの間小平太と長次からどんな忍務やったかって話とか聞いたの!やっぱりそーゆーのって危ないだろうから気をつけてn




バンッ!!





丁度食事を終わり、私は机を力の限り叩いて立ち上がる。

食堂中が静まり返る。



「やかましい。人が食事を取っている間ぐらい静かにできないのか貴様の食事作法のいろははどうなっているそれに話を聞けば貴様は食堂の手伝いも仕事のうちじゃないのか何故おばちゃんは忙しく皿を洗っているのにお前は五年なんかと茶を飲んでいるここはお前のようなものがいる場所でないそれなのに学園長先生の御厚意でここにおいてくださっているのだぞそれならばその身削っても働くのが普通だろうそれが出来ぬのなら今すぐここを立ち去れ邪魔になるだけだそれから鼻が曲がりそうになる得体の知れんその臭いをどうにかしろその状態で食堂に来るんじゃない貴様のせいで上手い飯も味がわからん先に言っておくが俺はお前に針先ほどの興味もないちやほやされたければ他を当たれ」



怯える目をみて一気に喋る。
まさに蛇に睨まれる蛙。

それか兎起鶻落といったところだろうか。



横にいる三年生が震えているようにも見えるが、此ればかりは仕方ない。私も食事ぐらいゆっくりとらせて欲しい。


「…ごちそうさまでした」
「私が食器を運びますよ」
「すまん。おばちゃん、ごちそうさまでした」
「は、はいよ」

「来い勘右衛門」
「はい」



怯える椿という女、そしてこっちを向いていた下級生、五年生を横目にいれ、私は食堂を後にした。



「どうでした?」
「桜先輩の目にはどう映られましたか?」
「…とりあえず六年が全員バカになっているということはわかったよ。」









こうしてこの日から、天女討伐作戦は始まった。


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