3日ぶりにやっと任務から帰ってこられたと思ったら、なんだこの学園の空気の汚さは。
知らん気配が一つ増えている。
生徒も教師も気が乱れている。
ここは、私が六年間学び続けた忍術学園で間違いないのだろう。たった3日でなにが起こったというのだろうか。
まっすぐ部屋に戻る前に、今回の任務の報告をするため学園長の元へ行く。学園長室につくと、同じ委員会の後輩である鉢屋三郎と尾浜勘右衛門が居た。
「桜先輩!?」
「何処へ行っておられたのですか!」
「なんだお前ら。一体どうした」
三郎と勘右衛門が取り乱すとは珍しい。やはり学園になにかあったのだろうか。
「桜は任務から帰ってきたところじゃろうて。一息つかせてやりなさい」
「に、忍務に…」
「…お疲れ様でした…」
「…任務報告を」
「うむ、聞こう。二人は少々外に出ていなさい」
「「はい…」」
私はここ3日で与えられていた忍務報告をした。ベニテングダケ城の忍びに紛れ込み城主に嘘の情報を流し、そしてその忍び隊の首をとるというもの。数日後ベニテングと戦を控えたとある城からの以来によるものであった。
「うむ、よくやったようじゃの」
「いえ。…それで、話を聞かせていただけるのでしょうか」
この学園の今の状況説明を
「もちろんじゃとも。尾浜、鉢屋、入りなさい」
「はい」
「失礼致します」
「俺が居ぬ間にここで何があった」
「…天女が」
「降ってきました」
「…は?」
聞かされた話はこうだ。
私が朝方任務に出た日の昼、つまり三日前。
昼休みをバレーボールをしながら過ごす六年生の頭上から声がした。
六年生の真剣勝負を眺めていた生徒、上級生も下級生もそれに気づき、よくみたらそれが人だと言う。
見たこともない格好で落ちてくるその人を、六年ろ組の七松小平太が受け止めた。その後その人間の安否を確認し、何者かと問うたところ
「私、香山椿!未来から来たの!」
その後学園長の計らいにより、その女は帰り方が解るまで忍術学園で事務員として、食堂の手伝いとして保護するという形になったらしい。
その女が来てから、学園が乱れ始めたという。
六年生が委員会に来なくなったらしい。
ついで五年生、今ここにいる二人を除くやつら。
そして四年生。
下級生達はその女に興味本位で懐いてはいたのだが、仕事をせずに上級生と遊ぶ女の姿を見て目が覚め、その女に夢中で委員会に出なくなった上級生たちからも離れていったらしい。
ここで下級生と上級生で分断されてしまった。
勘右衛門と三郎も当初はその人とは絡まずとも目で追っていた。
しかし学級委員長委員会で
「乱太郎が、善法寺先輩が来なくなったので保健室の薬が足りなくなっていると。それから団蔵が潮江先輩と田村先輩が帳簿付けに来ないので予算会議までに決算が間に合わないと嘆いています」
「僕のところも、佐吉が同じようなことを。それから、一平が今まで竹谷先輩が世話をしていた狼の世話も下級生がしなければならないような常態なので、この間狼に引っかかれて怪我をしたと言っていました」
「それだけではありません、伊助が火薬で…― 用具倉庫でしんべえと喜三太が…
「あとろ組からきいた話によると怪丸がきり丸と困っていて…――
という後輩の話に頭の先から冷えていったという。
自分たち以外の上級生たちが委員会を放棄し始めている。そして多大な危険を下級生たちに負わせているということを。
二人は急ぎ同学年の友に現状を報告した。だが、
「あの子達だけでもなんとかなるって」
「心配しすぎだよ」
「そんなことよりも…―
異常事態だということに気づいたのは、今日の放課後だったという。
「なるほどな。それは少々まずいな」
「六年生にも言ってはみましたが…」
「誰もかれも同じような反応であった、と…」
「あの女のせいで…!!下級生たちが危険な目に……!!」
「落ち着きなさい尾浜。桜はその心配はなさそうじゃの」
「…私、同性愛には興味ありませんもの」
「そうじゃったな。しかし二人は…」
「ご安心を。この二人には私の素性はバレておりますわ。のっぴきならぬ事情があったものですから。」
早い話任務帰りの二人が風呂に入ってきてしまったのだ。
あんな時間なら誰も来ないと思っていたのに。
「さて、報告も終わった。腹も減った。私は食堂へ行きます」
「うむ、ご苦労であった。」
「あ、桜先輩。今は夕食時です。今はあの女は」
食堂にいるかと
「丁度いい。どんな者か見れる絶好のチャンスではないか」
「…ついていっても?」
「構わん。来なさい」
「はい」
「わ、私も行きます」
部屋を出ようと襖に手をかけと
「桜よ」
「は、」
学園長先生に呼び止められた。
「あの女の始末、お主に任せよう」
部屋の温度が下がり、
「これは極秘忍務じゃ」
五年二人が目を見開き
「承知いたしました」
私は笑った。
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