火薬委員の代わりに火薬の管理表をつけ終えた。さて、部屋へ戻るとしよう。


「桜」
「なんだ立花」

「付いて来い、お前を殺さねばならなくなった」

「そうか、仕方ないな」


そう思い長屋へ戻り廊下を歩く。ふと、曲がり角を曲がった拍子に腕をつかまれた。この細さ、立花仙蔵だな。
後ろを振り生むくとその顔はいつも通りの美しい顔立ちだが、声が震え殺気も駄々漏れ。本当にお前はこの六年間で何を習ったというのだと再度問いただしたいほどだった。


「腕を離してくれないか。お前の爪が食い込んでいて痛いんだが」
「黙って歩け!!」

左腕を力強く掴む立花の爪が腕に食い込む。この痛さ、血が流れいるだろうに。やれやれまた三反田に叱られてしまうな。




連れてこられた先は、なじみのある六年長屋のろ組の部屋、中在家と七松の部屋だ。


「これはこれは、全校生徒、先生方まで大集合か」


部屋の中には、あの女を抱きしめる山本シナ先生と、その他先生方全員。あぁ、学園長先生はいないな。
それを囲うように座り私に殺意を向けている六年、五年、四年。部屋の外の廊下と縁側下には下級生が全員いる。

下を歩き連れてこられた私はいつの間にか腕を縛られていた。部屋の前についたとき、立花に背を蹴り飛ばされ、私は膝から着地した。


「桜先輩!!」

「来るな浦風、俺なら大丈夫だ」


キッと立花を睨みつける浦風の視線の先は、やはり立花。もうこいつに以前の委員長を敬う気などさらさらないだろう。


集団の前で跪き部屋を見上げる。はたから見れば、これではまるで私はこれから裁かれる罪人のようだ。



「…ここへ俺を連れてきた理由はなんだ?」


「とぼけるな!!」



部屋から飛び出し私のすぐ横に手裏剣を飛ばしたのは、嗚呼、またお前か七松。


「お前は、なんということをしてくれたんだ…!!」
「何の話だかさっぱりわからんのだが」

「ふざけた口を利くのもいい加減にしろ!!」


ビッと顔の横を風が通り過ぎる。地味に痛いな。また手裏剣で斬られたか。


「お前は、椿さんになんてことを…!!」
「…何の話だ」



「御代志桜くん、彼女はね、あなたに性的暴行を受けたと言っているのよ!」



「!」


今まで黙っていた、くのいち教室のシナ先生が怒りを含んだ口調で口を開いた。ああなるほど、あの女が泣いているのはそういうことか。

都合のいいことに、シナ先生は「忍たま長屋に未来から来た女がいる」という話しか知らない。

あいつらは私情の恋愛ごとをシナ先生に報告、相談をするほど愚かではない。忍びたるものくのいちたるもの、それぐらいのこと己で解決せねば成長するわけがないといつも自分に言い聞かせていた。ま、たまに相談ぐらい受けていたがな。
きっとあいつらが、この女のせいで恋人との関係が破談した話など知る由も無いのだろう。それにくのいち教室とは場も離れている。いくら優秀なくのいちのシナ先生とはいえ、これは忍たまの問題。ここ数日の出来事は耳には入っていないはずだ。

そして、今回は私があの女を強姦したという話しを聞きつけ、ここへやってきたのだろう。その手の話は土井先生や山田先生が受けるより、同じ女性であるシナ先生が事情を聞いた方が都合が良いだろう。

私情を知らないシナ先生の顔はまさに「怒り」しか現れていない。

女しか受けられぬ屈辱を、今、目の前にいる、「未来から来た」という右も左も解らぬか弱き女が受けたと聞いて、黙っているはずが無いだろう。


…なるほどな、大体理解できた。



「どうなの、桜くん」
「いいえ、俺は何もしておりません」

「嘘…!嘘よ!桜くんが……!桜、くんが私を…!!」


やかましい、と今すぐ斬りかかれたらどれほどスッキリするだろう。


「椿さんの話では、今日の午後、お昼過ぎに、貴方に焔硝倉の裏へ「話したいことがある」と呼び出され、そこで行為に及ばれたと、そう話でいるのよ」

「いいえ、俺は何も知りません」

「嘘をつけ!!」
「貴様の話など誰が信用するものか!!」
「桜、君って人はそんなヤツだったのかい!?」
「…ありえない………!」

「見損ないましたよ御代志先輩」
「貴方がそのような姑息な真似をするだなんて」
「これが最上級生のすることですか」


喧しいほどの声の大きさに私に野次を飛ばすのは六年、その後続いて離すのは五年か。

各々が得意武器を身に着けているということは、これは確実に私を殺しにかかっている。先生方も居られしな、一歩でも逃げれば殺されること間違いなし、ときたか。なるほどな、逃げ場は一切無し。


「嫌…!嫌ァ……!」
「大丈夫ですよ椿さん、貴女は、大丈夫……!」

震える女をさらに強く抱きしめ、シナ先生は俺を睨んだ。


「椿さんは、貴様の首を御所望だ」
「そうか」


刀を構え、私の前に降り立つ。

ざわつく下級生を視線で治め、今だ膝を付く私の顎には立花の構える切っ先が付いた。


「哀れな椿さんのためだ。怨むなら他所へ当たれ。…だが最後に貴様にも慈悲を与えよう。他に、言いたいことはあるか?」
「そうだな、俺は本当にやっていないとだけ言っておこう」
「澄ました顔をするのも大概にしておけ」


「お前もいい加減に目を覚ますことだな。あんな阿婆擦れの何を好んでこの俺が強姦などするものか」


「…最後の最後まで救うことの出来ない奴だな」


最後の一言についに我慢の限界を向かえたようだ。勢い良く刀を振り上げ眼を瞑る私の首へと振り落とされた。





「桜先輩!!!」





案ずるな下級生。





























キィンッ!







































甲高い音が鳴り、目を開く。


振り落とされた立花の刀を受け止めるのその後姿、勘右衛門だ。


「尾浜、貴様一体なんのつもりだ」


「お前こそなんのつもりだ。誰の許可を得て俺らの大事な桜先輩の首を刎ねるつもりでいる」


勘右衛門のこの口調は、本気で怒りに満ちているときだ。少々やりすぎたか。

嗚呼、尊敬する最上級生にもこんな言葉を利くほどになってしまったというのか。


「勘右衛門、口を慎め。そんなヤツでも、一応最上級生だぞ」
「桜先輩のために庇ってあげたんですよ?またご褒美が欲しいところですけどね」
「お前のおかげで命拾いした。だが、それとこれとは話は別だ」


立花に万力鎖を振り回し距離をとらせる。刀を鞘に収める立花の眼はまだ私を見つめていた。


「なんでちょっと眼を離しているすきに手討されかけてるんですか」
「ちょっといろいろあってな。どうやら俺が知らない間に、俺があの女を犯したらしい」
「はぁ?」




くるり

身体を回して、部屋の中で泣いている天女さまを見た。





「…はッ、ははっ、…ははっはっはっ!あーっはっはっはっはっ!!」



突然爆笑する勘右衛門に、五年の三人が腰を上げた。


「何がおかしいんだ勘右衛門!」
「なんで笑っていられるの!?」

「へ、へいすけ、らいぞう…!…ひ、ひぃっ、…!だって、だって、桜先輩がそいつを…!?ひ、ひーっひっ!あーっはっはっはっはっはっはっはっ!!はぁ、はぁ…ふっ…くくっ、…………



……寝言言ってんじゃねぇよ。桜先輩がそんな阿婆擦れを自ら犯すなんて低レベルな趣味持ってわけねえだろ」





じゃらりと音をたて万力鎖を構える勘右衛門に対し、部屋の前に出てきたのは五年生の三人。


「下がれよお前ら。桜先輩の御前だぞ」
「いい加減にしろよ勘右衛門。お前もいい加減に御代志先輩から離れろ」
「お前もだ八左ヱ門。獣盾術を使えないお前なんかが桜先輩に勝てるわけねえだろうが。身の程を知れ」


「止めろ勘右衛門。これは俺の問題だ。お前は下がれ」


「ですが先輩」
「俺が下がれと言っているんだ」
「…畏まりました」
「そう、いい子だな」


武器をおさめ私の横まで下がる勘右衛門の頬をなでる。怒りに身を任すにはまだ早い。


「さてと、」
「「「!?」」」

立ち上がり、縄を地へと落とした。

「き、貴様!」
「立花、縄抜けの術は1年の時に習ったはずだ。俺を本気で止めたければ指を全て切り落とし亀甲縛りで樹にでも吊るしておくべきだったな」



苦虫を噛み潰したような顔をして、縄を睨みつける。愚かだな。こんなことすらできなくなってしまったのか。情けない。



「…御代志、」
「なんでしょう土井先生」
「この話は、どうなんだ」
「どう、とは」

「…本当に、お前なのか」

「……先生はどうお考えで?」
「…私は、お前を信じているよ」
「それはどうも。」


嗚呼なんと情けない。言葉に迷いを感じさせた上に、教師までもが俺にそんな愚かな質問を投げかけるというのか。


この学園に、今残っているのは何だろうか。




「桜くんがやったのよ!桜くんが…!桜くんが私を襲ったのよ!桜くんが私に乱暴したのよ!!お願い!誰か!!早く…!早く桜くんを殺して!!」



上級生たちの感情を駆り立てるように、天女は更に声を荒げ私を殺すように言い、泣きついた。




「……一応聞くが、六年間共に同じ釜の飯を食った仲の俺を、信じるものは誰もいないのか」









…沈黙は肯定と受け取る。

























「…残念ね、最後の最後にチャンスをあげたというのに」














頭巾を外し髪を下ろす


















「どうして私が、あんな女を襲うと思ったのかしら」



















上着を脱ぎ、袴を下ろす






















「私に、同性愛の趣味は無いのにね」



















「桜、くん……!?」


「静かにしてくれるかしら天女様。今喋っているのは、私よ」


















腰に下がる刀を勘右衛門に預け、



内着も、変装用の褌も脱ぎ捨てる。
























「ねぇ、私がその女を、本当に犯したと思ってるの?」




















驚きと、戸惑いと、少しの羞恥。




まさに震天動地








嗚呼、ここしばらく




その表情が見たくてうずうずしていたのよ

































「女の私が、その女を、犯せるわけもないのにね」
















さらしを外して、



私は一糸纏わぬ姿になった。




















終わったな、天女様。


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