「桜先輩桜先輩桜先輩!」
「桜先輩桜先輩桜先輩!」

「えぇいやかましい!ちょっとは静かにしていられないのか!」



離れろ!


学級委員会日誌をぶん回すと無駄にバク転をして部屋の隅へと逃げる。まったくこんなところで無駄な能力発揮しやがって。

やっとあの女から解放されたからか、三郎も勘右衛門も今日は四六時中私の側から離れない。食堂でも隣で飯を食うし、自室に戻ればこいつらもついてくるし、委員会を開けば抱きついてきて離れない。嗚呼、働きに相応の褒美だったのだが、少し与えすぎたのだろうか。完全に調子に乗ってしまったな。


「お前ら、今日は休校だからって俺に近寄りすぎだ。少しは勉強でも手合わせでもなんでもしてきたらどうだ」

「もう桜先輩から離れたくないです」
「離れたらあの女にまた近寄られます」

「ハァ…。庄左ヱ門と彦四郎はまだこないのか…」


思わず溜息をつく。今日は二人を此処へ呼んである。ちなみに此処にいるこの二人は呼んでもいないのにいる。邪魔だ。

まったく書類が片付かない。頼むから抱きつくのだけは勘弁してくれ。


「失礼します!一年は組、学級委員長、黒木庄左ヱ門です!」
「失礼します!一年い組、学級委員長、今福彦四郎です!」

「あぁ、入れ」


スッと扉が開き、庄左ヱ門と彦四郎が部屋に入る。私に抱きつく二人の姿を見てギョッとしたが、すぐに何もかもを理解したのかいつも通りの真面目な顔に戻った。


「桜先輩、言われたとおりに」
「ご苦労、二人とも。で、反応は」

「一年生全員、二年生全員、三年生全員が、受け入れました」
「中には、やはり疑う者もいましたが…」
「僕等が全て説明しました!」
「今は疑う者は誰一人としていません!」


手を床につき笑顔で報告する可愛い私の後輩二人。
三郎と勘右衛門は顔をあわせ「よっしゃぁ!!」と声を上げた


「…本当にありがとう。よくやったな二人とも。勘右衛門、二人にあれを」


「はい!おいで彦にゃん庄ちゃん。桜先輩がお前らに美味しいカステラ買って来てくれたよ!」
「桜先輩からご褒美だ!良くやったなお前ら!」


パッと子供らしい無邪気な笑顔をして、二人は勘右衛門の持つ特大のカステラを受け取った。もちろん雑費だ。次の予算会議で献上する。

「勘右衛門、茶を入れてきてくれ。学級委員会を開こう」
「はい!食堂に行ってきます!」


部屋から飛び出し、勘右衛門は食堂へと走っていった。今だ引っ付く三郎にやれやれと溜息を吐き出しながら、庄左ヱ門と彦四郎の頭を撫でてやる。

先にカステラ食べてもいいんだぞと言っても、良い子の二人は勘右衛門が来るまで待つと正座してお預け状態だ。まるで犬の様だ。


「!」



部屋の近くを動く、あの気配。



「…桜先輩!大好きです!」
「あぁ三郎、俺もだよ」

「あー!鉢屋先輩ずるいです!ぼ、僕も先輩のこと大好きですからね!」
「庄左ヱ門までずるーい!桜先輩!僕もですよ!僕もー!」

「あぁ解ってるよ。ありがとうな庄左衛門、彦四郎。」


ズパンッ!


「待て!俺も桜先輩のこと大好きなんだから!」

「落ち着け勘右衛門。ありがたいが、茶が零れてるぞ」

「熱ッ!!」



勘右衛門が茶をくばり、学級委員会は開かれた。学級委員会といってもいつも通りのお茶、グチ会だ。大体があの女のグチである。まぁ大体予想はしていたが。


「すまない、少し部屋を出る」
「…お気をつけて」
「あぁ」


やらんとすることがバレているのか三郎は私の手を握りするりと離した。

部屋を出て、勘右衛門が発して来方向とは逆の道へ身体を向け、曲がり角を曲がる。




「やぁ、こんにちは」


「……ッ!」



鬼のような形相で私を睨む、天女様。


グイと腕を引かれ、部屋から少し離れた場所へと連れて行かれた。

天女様がぐるりと体勢を変え、頬に走る痛み。引っぱたかれたか。


そして胸倉をつかまれ、体を引き寄せられた。



「なんなのよあんた…!なんなのよあんたは!!」

「…さて、何の話か」


「……ざけんじゃないわよ…!!どうして勘ちゃんと三郎を私から奪うの!?どうしてあの二人は私の所へこないのよ!!いい加減にしてよ!!あんた、本当に何様のつもりなの!?モブ風情が…!しゃしゃってんじゃないわよ!!

三郎と勘ちゃんは私のものなの!あんたのものなんかじゃないわ!私のものなの!!

なんであんたなんかが、あの二人から大好きだ何て言われているのよ!!

邪魔しないでよ!!モブは引っ込んでてよ!!

もう、いい加減にして!!!」




息を荒げて、天女様は全て言い切った。


これが嫉妬か。醜いな。


この天女様は大層お怒りのようだ。それはそうだ。お前の大好きな二人が離れていってしまったんだもんな。一度手に入れたあの二人がまた私の元へ戻ってしまったんだもんな。悔しいだろうな。


「あぁ、三郎と勘右衛門のことでしたか」
「解ってるくせに…!!」
「あの二人は私に依存していて、迷惑なんですよねぇ」
「…あんたねぇ……!!」

「私はあの二人に何も言ってませんよ」
「あんたが何か言わないのに、あの二人がこの私から離れるわけないでしょう!?」

「私は本当に何もしていませんよ」
「とぼけてんじゃないわよ!!!」


女の嫉妬とは、真に醜い。それもこの女の嫉妬は、特に。

先日話し合いをしたくのいち教室のやつらはどうだ。相手に当たることも無く涙を流して期を待っている。それなのにこの女ときたら、自分の思ったように動かない私をただ責めるだけだ。自分の行動を思い返そうという気はさらさらない。

何度も言う。よくもこんな女に惚れていられるもんだ。


私が男だったら間違いなく反吐が出る。


「ま、そういうことですよ。御気は済みましたか?」
「あの二人を返して…!返してよ!」


「…それは、出来ない相談だ」



生憎今は丸腰。こいつを黙らせることなど殺気だけで十分だ。


「…っ、」

「残念だな天女様、あいつらは、元々俺のものなんだよ。そして、」



意地の悪い笑みを浮かべ、私は忍服の胸元を開き、

指で少し、さらしを下げた。




「!?」







「俺も、あいつらのものなんだ」








胸元に散るは、所有印。







「手を離して貰えるだろうか。


 …今日は腰が痛いんだ」






絶望。



その一言が一番良く当てはまる表情だ。

裏切られたな天女様。



大好きなあの二人が、

よりにもよってこの私と

このような関係にあったとは。




「嫌…!い、嫌ぁああ!!……許さない…ッ!!絶対に許さない!!!」




勢い良く私の服を手放し、唇を噛み締める、醜い天女様。




「…あんたがその気なら、私にだって考えがあるのよ!!…あんたなんか…!!

 この学園から追い出してやる…!!」



「…面白い…。やってみろ」




一目散に走り去る方向は忍たま長屋か。四年か、五年か、六年か。

もうあの天女様の元気な姿も見納めか。




思い返すと一寸光陰だったな。





部屋へ戻り勢い良く両手で左右に扉を開ける。

私の笑顔をみて、ついに来たかと三郎と勘右衛門も口角を上げて笑い、彦四郎と庄左ヱ門は背筋を伸ばした。










「さぁお前ら、とうとう大詰めだ。配置につけ。


 天女様を天へとお返しするぞ」











































みんな!助けて!お願い!助けてぇ!!


桜くんが…!!桜くんが私に………!!





もう我慢できない…!!私、私……!!!










お願い!あの人を…!!











桜くんを殺して!!!


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