私は女だ。
あいつらとは何もかもが違う。
だがあいつらとは喧嘩をしても、死を目前にしても、何もかもを許しあい、励まし合い、六年間も共に同じ釜の飯を食ってきた仲だ。
その結果が、これだというのか。
神よ。仏よ。
貴様は一体今何処にいるんだ。
お前らは気まぐれだと聞いた。
だが、これはあまりにも残酷過ぎやしないか。
「桜先輩、お茶が入りましたよ」
「…あぁ、ありがとう」
今、私の側にいるのは、あいつらではない。委員会の、可愛い可愛い後輩たちだ。
何故私の思いが、あいつらに通じないのか。
六年間、友として過ごしてきたのだというのに。
「なあ、庄左ヱ門、彦四郎」
「はい!」
「なんでしょう」
「……今から話すことは、本当の話だ」
信じてくれるか?
そう声をかけると、湯飲みを手にしていた二人はそれを置き、何を話すのか目星もついていないといった表情の二人は戸惑いながらも、はい、と、返事をした。
「私はね、…女なんだ」
「「………………え!?」」
突然の告白に、二人は呆然とする。
何と返事をしていいのかわからないのか、二人は三郎と勘右衛門を見た。
「うん、本当だよ」
「桜先輩は、正真正銘の女性だ」
風呂で見た、とは言えんだろうが。
「本当…なんですか……」
「な、何故……忍たまに…」
「…私はね、力が欲しかったの。誰にも負けない、強い力が」
私は、分かりやすく言えば一年の摂津のと同じような境遇だった。両親を、村を、幼い頃に失ったのだ。
私は農家の家に生まれ、農家の子として、平和に暮らしていたのだ。
9つまでは。
突然起こる戦。村はその戦に巻き込まれ、両親が殺された。
私にもっと力があれば、両親も、村も、守れたかもしれない。
その時、勝てぬと解っていたのに侍から両親を庇った時に受けた背中の刀傷は、色を使うことの多いくのいちをやってはいけぬ決定的なものであった。
だから私は、学園町に頼み込み、行儀見習いなんかじゃない。私は力をつけたいのだと訴えかけ、くのいち教室にではなく、忍たまとして忍術学園に入学したのだ。
初めは、私は女なんだと、クラスメイトに打ち明けようとした。
しかし、彼らは、私と同じくプロの忍びになるためここへ入学したんだと言っていた。絶対に知力、体力をつけて、一流の忍びになると意気込んでいたのだ。
彼らは私と同じ目標を持っている。
そんな彼らのクラスに女がいるなんて知られたら、きっと彼らはやる気をなくしてしまうかもしれない。私に遠慮して本気で相手になってくれないかもしれない。
そんなのは嫌!私だって、プロの忍になるために、ここへ来たんだから!
「おい、」
「!な、なに」
「お前、名前は?」
「……御代志、桜…」
「俺は潮江文次郎。槍が得意なんだ!」
「私は立花仙蔵。火器を扱うのが得意なんだ」
よろしくな。
その日から私は、これから先は、男になりきり生きていくことにしたのだ。
その後、留三郎と出会い、伊作と出会い、小平太と出会い、長次と出会った。
しかし、徐々に体力もついてきたからか、誰も私が男装をしていることに気づかなかった。
歳と共に膨らむ胸はサラシで潰し、高くなる声は変装の一貫として声を変え、風呂にはいるときは、背中の傷を見られたくないから、と話て、誰とも風呂を共にしたことがない。
あの日、三郎と勘右衛門が風呂にはいってきたときは絶望した。
『え、桜、せ、先輩…!?』
『うぉわああ!!!す、すいませ、おい三郎!!なに見てんだ!!!で、出るぞ!!』
『勘ちゃんだってガン見してんじゃん!!』
『いや、あの、その、お前ら、』
別に、ばらしてもかまわない。そう伝えたかったのだが
『や、私が落ち込んでるのは騙された、とかそういうことではなくて…』
『三郎は他人の変装が見破れなかったことに敗北を感じてるだけですよ』
二人は、何も言っていないのに、黙っててくれた。
それどころか、私の男装に仲間達が気づかないのはあいつらの変装を見破る力が不足してるってことじゃないですか、とまで言ってくれたのだ。
さすがひとつ下。このようなことでは動揺しないのか。
みんながみんな、プロの忍を志していた。こんなところで、私も負けていられない。
己にもっと力をつけるため。限界を高めるため。日々、仲間たちと努力を積み重ね、喜びを分かち合い、悲しみもわけあい、つねに、互いを高めあいながら、「全員で卒業」という大きな夢に向かって走り続けてきたのだ。
「その結果がこれよ。悲しいったらないわ」
声も口も、女に戻した。
私は悲憤慷慨しなからも、この二人に過去を語った。
一年生には、まだ重すぎる話かもしれない。
「私は何のために、彼らを信用してきたのだろうね?」
その答えは誰も返してくれない。
「こんな私を、軽蔑する?」
庄左ヱ門も彦四郎も、元気よく、首をふった。
「確かにビックリしましたけれど」
「でも、桜先輩は桜先輩です!」
「「僕らの、学級委員長委員会の委員長ですから!」」
私はなんていい後輩を持ったのだろう。
「桜先輩、」
どうして彼らは私なんかに
「溜め込んじゃダメですよ」
こんなに優しくしてくれるのだろう。
「泣きたいときは、泣いときましょう」
こんなに心が広いんだろう。
「私たちが、絶対に側にいますから」
あの日と逆の立場になって、
私は三郎に頭を抱かれ
声をあげすに、涙を流したのだった。
後輩の前で涙するのは
これを最初で最後にすると心に誓った。
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