「きゃぁ!何、何をしているの!?」

思わず舌打ちが出る。


この声、あの女か。


「なんで!?なんで三年生の皆が六年生を、押さえてるの!?」



あぁうるさい。



「な、何があったか知らないけど、喧嘩はダメ!今すぐ離れなさい!」


そういうと椿という女は小平太を押さえつける次屋を押しのけ小平太を開放し、留三郎を縛る富松の縄を解き、薬に倒れる伊作を起こし、その他の上級生に「大丈夫!?怪我は!?」と声をかけてまわった。


何故こいつがここにいる。

下級生の顔を見ると、明からに顔が歪んだ。解りやすすぎるのは二年生だ。池田の顔が酷い。
この女はどれほど下級生に嫌われれば気がすむのだろうか。


「痛ェ…」
「つ、次屋先輩、大丈夫なんだな」
「あぁ、悪いな四郎兵衛」

「ご、ごめんね三之助!つ、つい強く押しちゃって」

「触んな」

「え、」

小平太の身を考え次屋を押し飛ばし、それを今謝罪するか。バカすぎる。この女はなにがしたいんだ。次屋の反応は正しいと言わざるを得ない。


「俺は、あんたに名前で呼んでいいなんて許可してない」
「さ、三之助…?」
「寄るな。お前なんか「次屋」…桜先輩…」

「あなた…」

「こんにちは、全ての元凶」


もういい、そう声をかけると天女様はやっと私の存在を知ったかのような顔で此方を向いた。
存在を確認し、上級生を守るように、混乱のど真ん中に立ち手を広げた。

これは面白い。おい上級生、お前ら、こんな女に守られるつもりか。



「…あなた、桜くんがこの場の全ての原因……!?」
「そうだ。俺が命令して三年生に上級生を押さえ込ませたんだ」

こうなったのは、全てお前のせいだがな。



庄左ヱ門と彦四郎の頭を撫で塀から降りゆっくり女に近づいていった。

嗚呼またこの臭いか。気持ち悪いったらない。



「どうしてこんな酷いこと出来るのよ!どうして皆に怪我させるようなまねをしたの!?」
「この学園を、元に戻すためですよ」

「け、喧嘩したの!?どんな理由があろうと、喧嘩する必要なんてないじゃない!」
「ありますよ。こうでもしなければ、こいつらは目を覚まさない」

「は、話し合いで解決しなさいよ!」
「…椿さん、此処はあなたの知る平和な世ではないのです。必要とあらば血も流れる。必要とあらば、死もまた然り」


こいつらだって、殺せといわれれば殺す。

その一言に女の眉間の皴が深くなる。


「桜くんでしょう!下級生と忍務に連れて行ったとかいう無茶なことしてるって人は!」
「無茶ではない。あいつらもよく仕事の出来るいい子だ」

「あんな子たちに忍務なんて、危なすぎるわよ!」
「お前が下級生を信じようと信じまいと、俺がいれる。死にはしない」


「大切な後輩なんでしょう!?それに、後輩に友達を押さえつけさせるなんて…!み、みんなは友達なんじゃないの!?」
「えぇ、友ですよ。ですが、この学園の長が殺せといえば、私はいつでも」

「いっぱい話し合えば!なんだって解決できるじゃない!」
「忍に話し合いなど有り得ない」


嗚呼この女、本当に乱世というものを経験していないのか。

甘言過ぎて反吐が出る



「主の命を第一に忍務を遂行することだけを考え生きるもの、それが忍だ。友でも、この場の長である学園長が殺せというのなら何の迷いもなく殺せるさ。
この乱世においてお前のような戯言を抜かすものは誰一人としていない。お前はこの時代を全く理解出来ていないのだな」

「理解は、…!でも!みんな仲良くは出来るはずよ!どうして下級生が上級生に逆らうの!?」

「忍に歳も何もない。生きるか死ぬかだ。そしてお前はその忍者を育てる場所にいる。お前も、いつ殺されてもおかしくないということだけは理解しておいた方がいい」
「わ、私を殺す子なんていないわよ…!みんないい子だもの!」

「そうか、ならば」







走り、近寄り、刀を抜き、


刃を、この女の首元に当てる。






「今此処で、俺がお前の首刎ねてやってもいいんだぞ」




一気に顔から、血の気が引いた。




「ひ、い、嫌ぁあああ!!!」


「やめろ桜!!」
「いい加減にしろ!」


「三郎!勘右衛門!」

「「はい!」」


飛び出したのは小平太と仙蔵か。


「離せ尾浜ァ!」
「いやぁ俺もついに七松先輩を抑えられるほどに成長したのかぁ」

「鉢屋、貴様…!」
「貴方を抑えられるようになったのも、全て桜先輩のご指導あってのことですよ」



以前のお前等なら五年に押し負けるなんてことはなかったのにな。





「や、嫌…!!」



「よく聞け阿婆擦れ。貴様のその横行跋扈な行いにはもう愛想が尽きた。

お前が此処にいられるのは学園長先生のご好意だ。この乱世にお前を放り出さなかったのはあの学園長先生の御心あってこそだ。

なのにお前は恩を返さない。この学園のためになることを何一つとしてしない。学園長の役に立つようなことを何一つとしてしない。お前のような愚図を殺さず生かしてやっているというのに、お前はそれに何も答えようとしない。

そればかりか勝手にこの地へ来ておきながら「喧嘩はだめ」だの「忍務は危険」だのふざけた事をぬかす。お前は何処まで阿呆なんだ。

ここを何処だと思っている。ここは忍を育てる場、忍術学園だぞ。忍とは感情は持てども、無情、非情でなくばならない。

そんなに平和を唱えたければ今すぐ此処から立ち去り町へ行け。町へ行き宗教でもなんでも開けばいい。そして平和というくだらぬ話をすればいい。この乱世、貴様のような戯言に耳を傾ける物好きもいるかもしれん。
平和を望んでいる貴様が何故最も死を間近に感じている忍の卵達と共に生きている。何故忍術学園から出て行かない。それはこの甘い言葉を吐くやつらどもを侍らせたかったからではないのか。ならばそれは激しく場違いだ。今すぐに此処を去れ。

男にちやほやされたければ遊里へ行け。平和が欲しければ町へ行け。

自分の身すら守れないお前に、此処で生きる資格などない。

この世界にはこの世界の秩序と常識がある。未来から来たのかなんなのか知らんが、お前の秩序と常識はこの世では何の役にも立たない。お前の世界の勝手な「平和な世」というものに、こいつ等を巻き込んだのはお前だ。こいつらを駄目にしたのも、お前だ」




剣先は、動かさない。目も動かさない。

今この女は、自分の肌で死というものを感じている。



それが、日々我々が感じている感情だ。

それを乱したのが、お前だ。








「…此処まで言いこの世について何も理解できないというのなら、貴様にこの世で生きていく資格はない。


今この場で殺してやる。」






涙を流し、尻餅をつく。逃さない。

尻餅をつく女の顎に剣先を構える。


怯えろ。許しを請え。









お前が思っている以上に、私たちは己の命を軽く見ている。









お前の望んでいる"平和"なんて



この世界には、何処にもない。


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