「今日の議事進行役は俺だ」

突然のことに戸惑いを隠せない上級生。庄左ヱ門と彦四郎を呼びここで書記をしろと言うと筆と紙を持って塀の上へ来た。


「まず一に、保健委員会委員長代理」
「はい」
「数馬!?」

"委員長代理"
その言葉に全ての六年五年が顔を上げた。

薬が身体に回ってきたのか、伊作の身体は地に伏せていた。なるほどな、クナイに塗りこんでいたのは痺れ薬か。三年生のクナイが避けられないとは、ますます情けないな。

「保健委員会は先日まで、極度の薬不足に陥っていました。
薬は本来、校医の新野先生と善法寺伊作先輩のお二人で作っておられました。傷薬から解毒剤まで。
しかし新野先生は学園を空ける事が多く、殆どは僕らの中で一番薬の知識がある善法寺伊作先輩が作っておられました。

ですが、最近、その一番頼りにしていた先輩が、あの女の元へ行き保健委員会の活動をサボられ始めました」

「!」

「もちろん僕等は薬の製法は習っておりません。いつも、横で言われた通りに調合していただけなので、作り方なんてわかるわけがありません。薬不足が、この学園にとってどれほど大変なことなのか、委員長ならば理解できていたはずです。
ですが、保健委員会委員長は来られなくなった。
そこで、大変申し訳ないのですが。学級委員会委員長でもある御代志桜先輩の薬の製法の知識をお借りさせていただくことにしました。上級生でしか習わないであろう薬の製法の本も複写していただいきましたし、何故か最近は落とし穴に落ちることも減りました。

現在、特筆すべき問題はありません」

「なるほどな」


伊作の顔が青くなる。
そうだ。お前のせいで怪我人の治療が出来なかったんだ。

先日、一年い組の上ノ島一平が狼に引っかかれたときも、すでに傷薬の在庫がきれていた。あの時は水で洗い流し止血に包帯を巻くことしかできなかったと、猪名寺から話を聞いた。


「保健委員長がしっかり委員会に出ていれば、上ノ島の傷は悪化せずにすんだかもしれんな」
「…はい。僕も傷薬の製法ぐらい、覚えておけばよかったです…」
「己を責めるな。責めるべき相手は他にいる」

廊下で腕をさする上ノ島を任暁が慰めるように頭を撫でる。

スイと、伊作に目線を下げる。その顔色は、後悔の顔色か。
今更後悔しても、もう遅い。


塀に腰掛ける私の足元で三郎と勘右衛門が待機をしている。話を要約し紙に書いている彦四郎が「終わりました」と顔を上げた。



「次、会計委員会委員長代理」
「はい!」

こら、いくら後輩に手は出さんとはいえ文次郎に背を向けるんじゃない。

「つい先日全ての委員会の予算の決算が終わりました!特に問題はないです!」

「ほう、それだけか」

「はい!桜先輩方が手伝ってくださったおかげで徹夜もせずに終えることがきました!今のところは何も問題はありません!な!佐吉!団蔵!」

「「はい!」」

会計委員会も、特に問題はなし。だ、そうだ文次郎、田村。お前等なんていなくても、いや、いない方がスムーズに決算が終わるらしいぞ。

あぁそういえば文次郎、隈がとれているな。可愛い顔になったもんだ。
それじゃ夜中の自主鍛練もしていないんだろう。




「次、体育委員会委員長代理」
「うっす」

あの暴君を両手で押さえつけるとは、さすが委員会の花形体育委員は違うな。

「体育委員会のマラソンは走り回るだけではなく、定期的にマラソンコースを変えて走ってるんス。それは忍術学園の周りに盗賊の基地があったら先生たちに報告しなきゃなんねーし、デカい獣がいたら生物委員会に報告しなきゃなんねーし、それなりに意味のあったマラソンだったんスよ。
でもどっかの暴君とナルシはあの女の尻を追っかけて委員会に参加しなくなったせいで、下級生だけでのマラソンは危険すぎると顧問の厚着先生及び日向先生からストップがかかり、学園のまわりを見回ることができなくなり少々危険なことになってました。金吾も四郎兵衛も方向音痴なんで俺ひとりじゃ無理ッスわ」

「僕らじゃなくて」
「次屋先輩が方向音痴なんですー!」
「えっ」

「なっ、!」
「三之助…?」

「さすがにこのままじゃヤバいと思って尾浜先輩に相談したら"学級委員会の誰かが先導してやる"っつってくれたんで、学級委員会の先輩方についてきてもらって、今も無事マラソンしながら学園の周りをパトロールできてます。

だから別に今のところ問題はないです」

「そうか」

小平太からも平からも先ほどまでの殺気は消えた。ことの深刻さをやっと理解できたという顔をしている。

スラスラと筆を進める庄左ヱ門。
なるほどな、ここも問題はなさそうだ。



「次、作法委員会委員長代理」
「首化粧のやり方もカラクリの作り方も桜先輩がたから教わっておりますし、一年二人は新しいカラクリを自由に作っていますし、特にこれといった問題はありません。穴を埋める仕事もなくなりましたし、火薬を片付けるという雑用もなくなり前よりやることが少なくなりました。以上です」

「なるほどな。そこも問題はなさそうだ」
「はい」


喜八郎も、此処最近は穴を掘っていなかったんじゃないのか。『椿さんが落ちたら、危ないので。』か?
そのテッコも、久々に手にしたことであろう。全く泥が付いていないな。


「次、生物委員会委員長代理」
「はい」

竹谷は一歩も動けない。動けば、ジュンコが噛み付く恐れがあるからだ。

「生物委員会はただでさえ人数不足なのに、生物の飼育や菜園の手入れもしなければならないのでまだ仕事に慣れていない一年生だけではかなりツラいです。生き物の方はほどんどが僕のペットなので、こっちは何も問題はありませんが、菜園は広いです。手が回りません。」

「確かにな」

「ですが学級委員会の皆さんの協力のもと、今は菜園の手入れも隅まで行き届いておりますし、体調を崩していたペットも回復に向かいつつあります。ありがとうございました」
「礼などいらん。回復しているのならばなによりだ」

先日ジュンコは体調をくずしていたといっていたが、竹谷に牙をむけている姿を見る限り、今は猛回復したのだろうな。



「次、用具委員会委員長代理」
「はい。」

まさか作兵衛に縛られるとは思っていなかったのであろう。留三郎も動けずに己の後輩を見つめている。

「用具の管理は鉢屋先輩を中心に学級委員会の皆さんに手伝っていただいてるんでなんも問題はありません。下級生に扱わせるには危ねぇって言われてた物は学級委員の皆さんが管理してくれてますし、はがれた塀の漆喰も壊れた屋根瓦も、あれぐれぇなら俺たちだけでもできます。
特に問題はありません」

「なるほど」

怪我と隣り合わせの用具の管理は基本は下級生にはやらせない。殆どが留三郎の仕事であったはずなのに、このザマだ。



「図書、火薬はどうだ」

「と、図書委員会は今本を借りる人が減っているので、仕事もなく、特に問題はありません」
「火薬委員会はさすがに下級生だけでは活動できません。なので学級委員の誰かの手があいているときだけ手伝っていただいていますが、殆どの火薬の管理は土井先生がしてくださっています」



一通りの委員長代理が喋り終わり、その場は静まり返る。

自分の知らないところで、委員会が、学園が、大変なことになっているだなんて誰が想像できただろうか。お前等は自分の身勝手で、三禁の一つを忘れたせいで、後輩に多大な迷惑をかけていたのだ。


その罪、簡単に消せるものではない。




「遠水は近火を救わず、ですか」
「ほう、さすが彦四郎。やはりお前もい組だな」


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