「気配も消せなくなったというのか」
「桜!!貴様ァア!!」
「怖い怖い。これが学園一クールな男の本性か」
「これは一体、どういうことだァ!!」

部屋を飛び出しまず視界に飛び込んできたのは立花仙蔵の焙烙火矢。この部屋に投げ込む気か馬鹿者め。奥には一年がいる。よけるわけには行かない。

導火線を斬り、本体は爆発もせず部屋にむなしく転がった。


「仙蔵だけだと思うな!!」
「お前のやることなど見通している!」

「と、いうことを俺も見通しているさバカにすんなよノロマども」


やれやれこんなときだけ犬猿は手を合わせるか。

留三郎の鉄双節棍を鞘で受け止め文次郎の槍を剣先で捕らえる。



「桜!お前、これはどういうことなんだ!」
「これ、とは」


「とぼけるんじゃねぇ!何故会計委員会へ出入りをしている!」
「用具の後輩に何を言った!なぜあいつらがあんなことを言うんだ!」


「言いたいことは解りやすく説明しろあれだのこれだの、俺には理解できんぞ」
「き、貴様ァ!!」

鉄双節棍をはじき槍の柄を斬る。が、それはさすがに避けられるか。そこまで腕は落ちてはいないのだな。


邪魔だ。


「ガッ、!」
「っ、てぇっ!」


戦う会計委員長と戦う用具委員会委員長が、学級委員会委員長に蹴り上げられるとは情けない。

「この匂いは痺れ薬か?あ?」
「桜ってば余裕だね」
「お前こそ何を頓珍漢なことをしている?今の俺に薬は効かん」
「なっ、」


さっきの勘右衛門の茶に入っていた薬は解毒剤だな。

さすがだ。こうなることを予測していたか。





「俺等もいること忘れないでください」

あぁ、五年もお怒りか。忘れていたよ。

だがこいつらは眼中にない。


「おっと、大事な委員長に手を出さないでくれよ」
「三郎!?」
「雷蔵、お前の手なんて全部読めるよ。私を誰だと思ってるんだ。…ハチ、兵助、お前等の相手もこの私だ」

「三郎!何故邪魔をする!」
「大好きな大好きな桜先輩を傷つけられると解って、道は譲らないだろう。おや八左ェ門、お一人様か?いつもの狼たちはどうした?世話を忘れていたから見放されたか?滑稽だなぁ」
「三郎テメェ!」

「お前の手にも迷いがあるなぁ兵助。いつものように寸鉄で首元狙うか?無理だろうな、その錆ついた寸鉄じゃ私は殺せないよ」
「バカにしているのか三郎。望むなら御代志先輩より先に、お前も殺してもいいんだぞ」

「…お前ごときが、桜先輩を殺すだなんて、よくそんな口きけたもんだな」


さてね。やれるもんならやってみな。


三郎が不和のクナイを受け止める。不破雷蔵あることろに鉢屋三郎ありとはよく言ったものだ。行動がまるで同じ。双子のような動きをしている。ひょう刀で不破の顔を斬る。なるほどな、不破を傷つけることすら躊躇わなくなったか。立派だな。
竹谷も、獣遁術の心得があるとはいえ、獣がいなければ使い物にならないただの人間か。残念極まりないな。久々知も武器の手入れを怠っていたことに気づかないか。それは命取りだぞ。以前のお前なら、わかっていたはずだ。





「四年生ごときが六年生の桜先輩の手を煩わせるなんて、図々しいと思わないのか?」

「尾浜先輩に用事はありませーん。僕等が用があるのは御代志桜だけでーす」
「御代志桜のとこに行きたいんだ。その道あけてくれるー?」
「貴方を攻撃したくない。御代志桜の元へ行かせてください」
「退いてください尾浜先輩。用があるのは御代志桜ただ一人です」


「へぇ、怒りに我を忘れて俺等の桜先輩を呼び捨てにするのか?お前らごときが?いい根性してるな。おい、殺すぞ」


ジャラリと音が鳴り、その後耳に飛び込む高い金属音。輪子か。鹿子か。テッコか。それとも鋏か。




五年を足止める三郎はおそらく、いや、確実にあの勝負互角にはならないだろう。
あいつらを、此処最近鍛えていたのは、私だ。


鍛練を怠っていたやつらに負けるわけがない。





六年も、また然り。





「暴君がきいてあきれるな。お前の唯一の取柄であったバカ力は一体何処へ消えたんだ?ん?」
「っ、!離せ!」
「俺に片手で押さえ込まれる体育委員長とは情けないな?なぁ?情けないな?」
「桜!!お前はなんのつもりでこんなことをしている!!」



あぁあぁうるさい畜生共め。同じ質問しかできないのか。



「長次は賢いんだな。今の自分では俺に勝てないと理解できている故の傍観か?」
「……」
「だんまりを決め込むか?あ?大好きな後輩に嫌われて腹の中では俺を殺したいという感情で渦巻いているくせに」
「…っ!」
「お前に使われる縄ひょうも気の毒になぁ」
「黙れっ…!」
「あぁ刃がこぼれているなこれでよく俺を殺す気になったもんだ」

小平太を地に押さえつける左手に絡みつく長次の縄。あぁ、これでは人一人縛り付けることはできんだろうに。斬る。なんの、躊躇いもなく。









上級生が、喧嘩をしている。


この明らかに歪んだ気配につられてきた一、ニ年生は六年長屋の通路で目を見開いた。自分の委員会の委員長及び先輩の目が、普通ではない。


先輩たちの得意武器で、戦っている。

これは喧嘩なんかじゃないと、すぐに判断できるはずだ。



あぁ、三年もやっと到着したか。待っていたよ。




「伊賀崎」
「はい」

「孫兵!?」

ジュンコが竹谷へ飛びつく


「浦風」
「は、」

「っ!」

手裏剣が仙蔵の髪を掠める


「三反田」
「はい…」

「いっ…!数馬!?」

あぁ、そのクナイには毒でも塗ってるのか


「富松」
「はい!」

「うぉっ!?」

留三郎の身体が縛られる


「神崎」
「はいぃい!!」

「何!?」

槍の腕前が上がったじゃないか


「次屋」
「ウッス」

「な、っ!離せ三之助!」

小平太より腕力がつくとは


「勘右衛門、三郎、二年に手出しはさせられないぞ」

「「承知」」



不破と長次を止めるのは勘右衛門。久々知と斉藤を止めるのは三郎。




さ、残った四年は俺が相手をするか。

……来いよ。何を戸惑う。どうせお前等の攻撃なぞ手に取るようにわかるんだ。死にたいというのなら、かかってこい。



「どうした、そんな目をしていてかかってこないのか。

 ……………腰抜けはこの場から立ち去れ」




あぁ、大好きな後輩に裏切られ、大好きな後輩に力負けする上級生か。

これは笑いどころだな。滑稽だ。誰も手出しはできまい。裏切られても、大切な、大切な、大好きな、後輩なのだから。


塀の上に腰かけ、辺りを見回す。
党同伐異な組み合わせだ作戦もなにもあったもんじゃない。これが本当の戦場だったら、秒殺だっただろうに。見ちゃいられないな。


それにしても、この短時間で、生徒全員が六年長屋の庭に集合したのか。
これは丁度いい。



そうして、静かに口を開いた。









「只今より、緊急委員会活動報告会議を行う」


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