「つまり今度は敵がこっち側に進軍してくる手筈になっている」
「あ、なるほど…。じゃぁもしかしてこの敵兵は」
「そう、迂回してくることになる」
「…すごい、よく解りました」
「彦四郎は基本は出来ている。あとは応用でしっかり勉強することだな」
「はい!」

「桜先輩、彦四郎も庄左ヱ門も出来る子なんですよー?」
「知っている。が、ここまで頭の回転が速いとはな」

「ありがとうございます!」
「先輩!次は僕に算数を教えてください!」
「あぁ教科書を持って来い」

「みんなー、お茶が入りましたよー」
「ご苦労勘右衛門。ありがとう」
「いえいえー。さ、庄ちゃんも彦四郎も休憩にしよう」
「「はい!」」


今日の学級委員会は五年の二人からの最近の学園内の状況報告。そして一年二人からは自分のクラス、及び他クラスからの各委員会の状況についての報告をしていた。

やはり上級生は誰一人として委員会には出席してこないようだ。

だが、今は私、勘右衛門、三郎で他の委員会に顔を出し、出来る限りの手伝いをしている。昨日は会計委員で予算の決算を手伝ってきたところだ。

いずれ最上級生となり、委員会を引っ張る役になるのだ。今からそういうことに成らしておいたほうが後々が楽になるであろう。もちろん、私も二人も必要以外のことをしない。できることは、全て各委員会の下級生でやらせるのだ。



保健委員は、三反田がいる。あいつは薬の知識を全て伊作から叩き込まれているといっても過言ではない。伊作が卒業すれば、もう4年生ながら委員長をやることになるのだ。薬の製法は殆ど頭に入っている。…とは思っているが、やはりまだまだだろうな。見ていればたまに合わせる薬を間違えていたりもする。
三反田だけに任せるわけには行かない。薬は学園中の人間が使うのだ。それにさすがに上級生にしか扱えぬ薬は私たち三人のうちの誰かで作る。新野先生にもご迷惑な状況であろう。


会計委員は、神崎がいる。あいつはアホのような方向音痴だが、記憶力はあるし頭はいい。放っておいても決算を出せるであろうが、問題は1年二人だ。計算ミスで神崎の足を引っ張るかもしれない。と、いうことで活動があるときは決算の手伝いをしながら、1年の面倒を見る。


体育委員は、次屋がいる。一見不真面目そうに見えるが、体力はある。下級生二人を引っ張れるほどの体力は。ただ、引っ張らせてはいけない。物理的な意味で。本当にあの無自覚には困ったものだ。なのでマラソンをするなら地図を持たせ、四郎兵衛に道案内をさせながら走らせることにした。あれなら大丈夫だ。


生物委員は、安心の伊賀崎がいる。あいつがいれば生物委員会で飼育している生き物たちの世話に困ることはないであろう。あの竹谷にしか懐かなかった狼を立った数日で懐かせたのだ。きっと狼たちにも竹谷がサボッていることが伝わってしまったのだろうな。あぁ、そういえばジュンコの体調も良くなって来ているそうだ。心配事が一つ減った。


用具委員は、富松がいる。壁や瓦などの修補の仕事はもちろん、用具の修理ももう富松は完璧である。あそこはそこまで顔を出さずとも、富松の指導力で下級生3人はなんとかなるだろう。鍛練バカの上級生が夜の自主トレをやめて、破戒される場所も少なくなった。今はそんなに仕事はないだろう。


作法委員は、浦風がいる。浦風はあの下級生(主に兵太夫)に手をやいていることだろう。そういえば先日作法委員会を行う部屋に"関係者以外立ち入り禁止装置"を取り付けていたな。委員会のメンバーでもないのに解除の仕方を教えてもらった。あいつらこんなえげつないものを部屋に取り付けたのか。そうとう嫌われているな仙蔵。


そして図書、火薬は二年生の能勢と池田だ。あいつらは2年生のクセによくもあそこまでしっかり仕事が出来たもんだ。正直関心する。図書は特筆すべき問題はなかった。そして火薬に関しては未だに怪我もなければ何か大きい失敗もないらしい。むしろ新作の焙烙火矢を作ったといっていたな。無双かあいつらは。





難局打開だ


あいつらも、

これでよくわかったはずだ。



上級生がいなくても

委員会は回る。



女の尻を追いかけ

お前等が委員会をサボっている間に



お前等はどんどん必要のないモノへと

変わってきているのだ。



人の心とは恐ろしいな。




恐ろしいのは、人の心か、はたまた、下級生の成長か。





それとも

お前等を惑わせた


テンニョサマなのか。





「桜先輩…」
「いけるか?」
「えぇ」

「三郎は」
「いつでも」

声をかけると、二人は庄左ヱ門と彦四郎から離れ、袖から、勘右衛門は微塵、三郎はクナイを取り出す。

「…桜先輩?」
「鉢屋先輩?尾浜先輩?」




ゆらり




これは殺気だ

確実に私を殺しにきている殺気だ




それも、複数。




あぁ、とうとう委員会に姿を現したのだな。

そしてやっと現状を把握したのだな。




これはこれは、恐ろしいな。


悪鬼のお出ましだ。





「庄左ヱ門、彦四郎」
「「は、はい」」
「忍たまの友をしまい、襖の中に隠れていなさい」
「「はい!」」


二人は勉強道具を抱え込み、勘右衛門が開ける襖の中へと入っていった。

これからここで起こること、お前等に見せたいものではない。



私は勘右衛門が淹れてくれた茶を一気に飲み干し、腰の刀へ手をかけた。


「…ほぅ、気が利くじゃないか」
「十手先を読んでこそ、忍者ですから」





湯飲みを床に落とし、体勢を低くする。





「勘右衛門、三郎、合図を出したら一気に扉を開けろ」
「「承知」」






一年には聞こえまい。この狂気を纏った足音が、今、

この部屋の前で止まっただなんて。











深く息を吸い、抜刀。









口角を上げる二人は



力いっぱい






目の前の扉を開いた。


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