社会科見学に行ってきます! | ナノ

  後


時は流れて某日。甲斐で一番高いと佐助さんに教えてもらった樹のてっぺんから私はあたりを見渡した。

「どーぉ名前ちゃん。後輩たちは見える?」
「いいえ、今のところどこに………あ!いた!あそこ!あの四人組!馬に乗ってる!」
「え?どこどこ?」

私が指差した方向は町の中。こちらに向かって歩いてくる見覚えのある四人組が目に入った。佐助さんも忍術学園に来たときに見た事があるらしく、あぁ、と声を漏らした。久しぶりの後輩の姿に私は樹から飛び降りて連中を迎えに行った。町から出てもう少しで躑躅ヶ崎館には到着する。だけど、その前に顔を合わせておきたくて私は飛び出してしまった。木の上から飛び降りた私に驚き馬がひっくり返りそうになったが、さすが上級生と言ったところか、その対処には手慣れているように馬を宥めた。

「あっ!名前先輩!!」
「名前先輩お久しぶりです!!」

「わっ!名前先輩!」
「お久しぶりです!名前先輩!」

「三郎!勘右衛門!彦四郎!庄左ヱ門!久しぶりー!!遠路はるばるよく来たねー!」

馬から飛び降り私に抱き着く四人は、相も変わらず可愛い笑顔でいてくれた。三郎と勘右衛門は付き合いが長かったからもちろん、庄左ヱ門と彦四郎は私と擦れ違いで学園に入り去った身。とはいえ何度も遊びにいっているあいだに在校生の様な扱いをうけ、よく一緒にお茶をしていたからかもうすっかり顔なじみの仲良しだ。

「名前ちゃん名前ちゃん、俺様にも紹介して?」
「あっ、みんなこの人が私が所属している忍隊の頭。猿飛佐助さん」
「はい初めましてー!以後お見知りおきをー!なんてね!」

「忍術学園五年ろ組、学級委員長委員会委員長代理の鉢屋三郎と申します」
「同じく五年い組、尾浜勘右衛門です。真田十勇士の猿飛佐助さんとお逢いできるなんて光栄です!」
「一年い組の今福彦四郎と言います!」
「一年は組、黒木庄左ヱ門です!」

「わー!こんな小さい子まで忍の卵なんだ!凄いね忍術学園!」
「私の自慢の後輩たちですから!」

「ま、そうだろうね!さぁ俺様の今日のお仕事は君たちに"武田"を案内してあげること。ただし先に言っとくけど、何か企んでいるような動きを見つけたらたとえ名前ちゃんの後輩だろうと容赦なく始末するから、そのつもりでいてね!」

佐助さんが一瞬殺気を混じらせながらそう言うと、四人は声を揃えてはいっと元気よく返事をした。

「じゃぁ俺様、お館様に報告してくるから、名前は先に中に入ってあっちこっち案内してあげな?」
「はい!そうさせていただきます!」

じゃ、と手を挙げた佐助さんは、そのまま足元に現れた影に吸い込まれる様に消えてしまった。四人はそれをみてギョッと目を見開いたが、婆娑羅というものの噂についてはなんとなくだけど聞いていたらしく、そういうものだと説明すると興奮気味に初めて見たと言いながらも納得してくれた。

「そう言う私も、佐助さんと幸村様、それからお館様の気に中てられたのか、婆娑羅覚醒したんだよね」
「え!?」

ほらと手を広げて手の中で微かな雪を降らせて見せると、彦四郎が「氷ですか!」と指差した。まだ制御できないから戦闘に生かせてはいないが、此れからこの力が武田のためになるように鍛えていきたいものだ。

「さぁ、中案内しようか!馬も中に入れて…あぁそうだ!一番最初に武田騎馬隊を紹介しようね!皆さん首を長くしてお待ちかねだよ!」

「うわ、武田騎馬隊ってまじか…!」
「私それが楽しみで此処にきたところある…!」

馬を引き連れ中に入り、そこで待っていた十勇士さん方に馬をお願いすることにした。初めまして!と元気良く頭を下げる一年生たちに心奪われたのか、いつも無口な皆さんが庄左ヱ門と彦四郎の頭を撫でて馬を連れて行った。忍とはいえ子供には弱い、か。覚えておこう。

「あ、おーいみなさーん!うちの後輩到着しましたー!」

「おぉ名前!待っておったぞ!」
「なんだ本当にかように幼い者たちなのか…!」
「遠路はるばるよう来た!武田をゆっくり見て回られよ!」

「すげぇ!本物だ!」
「超格好いい!」
「会計委員は別のところ行くことになってるけど、団蔵本当はこっちに来たがってたんだよ」
「あぁ、団蔵ならそう言いそう」

見たこともないほど逞しく立派な馬を見て四人は目を輝かせていた。それにこの群雄割拠の世に名高い武田騎馬隊に直接お目にかかれたということにさらに興奮しているのか、連中は我を忘れているようにも見えた。皆さんも相手が本当に子供だからちょっと余裕も出たのか警戒心などなさそうだ。倅もこんな年頃でなんて話を始める奴もいるし、三郎と勘右衛門も馬に乗っての戦闘方などをしっかり勉強しているようだ。庄左ヱ門と彦四郎は大きい馬ですね!と目を輝かせ大人軍団をメロメロにさせていた。

「名前!佐助から聞いたぞ!到着したそうだな!」
「あっはい!みんな!この人が忍術学園で私をスカウトしてくれた上司で、真田源次郎幸村様!」
「お初にお目にかかるでござる!某名を真田源次郎幸村!お主らが名前がよく話す後輩たちとやらか!名は佐助から全員聞いておるぞ!遠路はるばる甲斐まで良く来た!存分に武田を見て回られよ!」

「かっ、甲斐の若虎様にこうして謁見できるとは恐悦至極に存じます!」
「お言葉に甘えさせていただきます!庄ちゃん!彦にゃん!」

「僕の実家、炭屋やっているんです!つまらない物ですがお土産です!」
「僕らの町で一番美味しいお団子屋さんの詰め合わせです!」

「おぉ!幼いながらなんと立派な武人か!ありがたく頂戴申す!佐助!佐助はどこだ!」
「はいはいここだよー」


「土産を貰った!これをお館様に献上してまいれ!俺はこの者たちを武田が名物、武田漢道場へと招待する!」


幸村様のその言葉に佐助さんは眉を動かして「えっ…」と声を漏らした。だが幸村様の目は輝きに満ちている。おそらく忍の卵とはいえ力がどれほどのものなのか見たいのだろう。槍を手についてまいれと勘右衛門たちを引き連れていった。天狐仮面と野狐仮面という強い者がいると無駄な情報まで喋ってしまい、佐助さんは私に目くばせすると再び荷物を持って影へと消えていってしまった。

「あ、あの名前先輩…漢道場って…」
「何をするところなんですか…」
「武器を構えろー勘右衛門、三郎…何が出てくるか解らんぞー…」
「は…!?」

「庄ちゃんと彦四郎はさすがに危ないから場外で見てようね。幸村様ー、この子達は別枠でお願いいたします。あと私ちょっと用事すませてきますから」
「相解った!名前も後で参られよ!」

不安そうにする勘右衛門たちを放置し、私は屋根へ。先回りして漢道場の天井裏へ行くと、げんなりした姿の佐助さんが仮面を手に持ち項垂れていた。

「あーぁ…まさか名前ちゃんの後輩にまであんな恥ずかしい姿晒さなきゃいけないなんて…」
「そりゃぁ私の台詞ですよ…。でもまぁ、後輩たちと本気で刃を交えられるチャンスかなぁと思ったり?」

髪をかきあげ懐から取り出した狐の面を顔に付けると、佐助さんも腹をくくったように仮面を装着した。


「天狐仮面殿!野狐仮面殿!出てこられよ!本日は忍術学園よりの挑戦者を連れてまいったぞ!!」

「さ、真田様何を…!?」
「誰をお呼びに…!?」



「ようこそ我が道場へ!我が名は天狐仮面!忍の卵よ!よく来たな!」
「我が名は野狐仮面!お館様の元へ着く前に叩きのめしてくれるわ!」



天井から飛び降り姿を現し、佐助さんと背合わせにポーズを決めたが、シン、と静まり返る道場の中、私はなんとか羞恥に耐え向こうの出方を待ったのだが、

「現れたな!だがしかし今日はこの二人が相手でござる!」
「さ、三郎…!あの野狐仮面…!名前先輩と同じ武器もってるぞ…!」
「えっ…!?か、勘右衛門さん…!?」

やっぱり勘右衛門は馬鹿だった。

「どうみても猿飛さんと名前先輩だよね」
「庄ちゃんたら冷静ね!」

勘右衛門は顔を真っ青にして鎖を懐から取り出し、しかし三郎は完全に騙されている勘右衛門に「この先友人と名乗るべきか否か」と悩んでいるような表情すら浮かべた。庄ちゃんたちは場外から冷たい視線でこっちを見つめているし…。名前先輩悲しいよ…。しかし佐助さんはやはり羞恥に耐えられなかったか、指を顔の前にボフンと煙をまわせ

「秘儀、尾浜勘右衛門の術!なんてね」
「おっ!?」

頭のてっぺんからつま先まで、見事に勘右衛門に変身して見せた。

「では私は、久々知兵助の術!」
「あれ、名前ちゃんそれ誰の顔?」

「これは尾浜勘右衛門のクラスメイトの顔です!」

「な、なぜ兵助の顔を知っている…!?お、お前は何者だ…!」
「勘右衛門さん…!?」

こちらは狐コンビ改め五年い組ペア。だがそうきたかと三郎は面白いといったような顔をして

「では僭越ながら、真田様、お顔お借りいたしますね」
「おぉ!鉢屋殿は変装の達人でござったか!見事なり!」
「なるほどそうきたか。じゃぁ俺は猿飛さんのお顔を借りますね」

ベリッと雷蔵の顔を剥がせば、その下はいつのまにか幸村様の顔に。幸村様はいつの間にか一年生たちと場外見学をしているし、この変化暴走を止めるものは一人としていない。両者互いに化狐。まるで夜中の見世物小屋か何かのようだ。

そろそろ始めますかと各々武器を構えた次の瞬間、両者の間に刺さったのは軍配斧。やばい。いきなりラスボスが出てきてしまった。


「遅いわ!!いつまでこの儂を待たせるつもりか!!」


「おおおおおおお館様ぁああああ!!」
「名前よ!!その者達が此度の客人か!!」
「はいいい!!その通りに御座いますううううう!!」


「よくぞ参られた忍術学園の若き卵たちよ!!我こそがこの甲斐の国を治める武田信玄よ!!」


ビリビリとさえ感じる威圧と声に、忍たまたちは圧倒されていた。

「甲斐の虎…!」
「ほ、本物だ…!」
「凄い格好いい…!」
「絶対勝てない…!」


「遠路はるばるよう来た!ゆっくりこの国を見てゆくがよい!!ただし!!まずはこの甲斐の虎と刃を交えてからにせよ!!主らまとめて相手してくれるわ!!!かかってくるのじゃあああああああああ!!!」


「ぎゃああああああああああああああああああああ!!」
「わあああああああああああああああああああああ!!」
「某も参りますああああああああああああああああ!!」


お館様が道場に拳を振り落として、武田漢道場の底が抜けた。瞬時に移動し場外へ出て、一年生二人の身体を確保し天井にぶら下がった私と佐助さんは、床に空いた大きな穴を見て大きなため息を吐いた。あの下はマグマがひしめく地下道場。さて、あの二人が生きて上がって来られるか。


「死ぬな」
「死にますね」


「名前先輩、僕がお茶淹れるので、僕らはお茶しませんか。お土産に団子もありますので」
「庄左ヱ門!!冷静も行き過ぎるのはいけないよ!!!!」

「俺様ももう疲れちゃったよ。名前ちゃんそうしよ」
「そうですね。あいつらは勝手に死ぬでしょうし」


満身創痍の三人がお館様に担がれ運ばれてきたのは、日が落ちてからの事であった。





力をつけてきます!

腕磨いて出直してきな!






「では猿飛様はこのような陣系図の時どう攻められますか?」
「僕らはこっちの山からの方がいいと思うのですが間違いですか?」

「えー?何々ー?って……なにこれ宿題!?難易度高くない!?まだ10歳でしょ!?」
「でも一年生の内から戦場見学とかよく行きますから」
「何それ危険!!!」
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