社会科見学に行ってきます! | ナノ

  後


「いい加減に己の力ぐらい簡単に制御しろ」
「そ、そうは言われましても…」
「忌々しい…。秀吉様と同じ光を身に着けた分際でこうも手足を縺れさせるとは」
「た、大変申し訳ありません…」

私の姿はまさにボロボロ。腕に切り傷、手には刺し傷。髪の毛は足元に散らばり前髪が少々ばらついた長さになっていた。最後の三成様の一刀、十手で止める事ができなければ確実に鼻なんて削ぎ落とされていたであろう。お、恐ろしすぎる。誰だよ婆娑羅の特訓なら三成様に頼めって言ったの。島様だわ。クレーム付けてやろう。さすがに力で敵うとは思っていなかったが、ここまで体力を消耗させられるとは思わなかった。ゼェゼェと呼吸を荒く膝をついていると、三成様は私の首を掴んで後ろへぽいと放り投げた。盛大に尻を付痛がっていると真横にふわりと浮いた輿。刑部様が様子を見に来られていたらしい。

「刑部、貴様の駄猫は使い物にならん」
「本人の前で言うのはやめよ。名前、詰んだと見れば了を投じやれ。さすれば三成も鞘に収めようぞ」
「み、みつ、なり様…こ、これ以上は…」
「チッ。失せろ。今日はこれまでだ」
「ありがとうごじでゃkmfx……」
「ふん」

「ヒッヒッ、ヒッ!息も絶え絶えとはこのことよな」
「い、医療班…」
「医者は主であろ」

三成様は心地いいほどの舌打ちを残し、土下座すらもギリギリの私を一睨みして、鍛練場から去っていった。刑部様はよく耐えたと私を輿に乗せてぐしゃぐしゃになった私の髪を直しながら城へと向かってくださった。本当に良い迷惑なほどに三成様は強い。鍛練相手を間違えた。っていうか冷静に考えれば三成様にコントロールが出来てない力の制御を習うための相手を頼んだのがそもそもの間違いだった。島様を責めるのはやめよう。うん。明らかな私の判断ミスだ。

「ところでな、名前よ」
「はい刑部様」
「先、賢人が五人の見知らぬ童を連れて城を案内しておったぞ」
「はぁ、お客人ですか?」

「ヒッ、三成の後では思考回路も組み直せなければならぬとは」
「へ?」

「………今日であろ。主の臣子が来やるのは」
「臣子…?」

できた、と刑部様が手を広げると、私の髪は一本の三つ編みになっていた。というか、刑部様は今何の話をされているのか。賢人とは半兵衛様の事だ。半兵衛様にお客さんが来たからといって私が出なければならないわけでもなるまいに。それも私の部下が来たと仰ったような気がする。私の部下は豊臣軍のほんの数人。来たっていうのは一体どういう…………。


「………あぁぁあああ!!!伊作たち今日来るんだった!!!」
「やはり、忘れておったか」


三成様との鍛練ですっかり忘れていた。今日は伊作たちが社会科見学で大阪城へ来る日だった。やばい本当に、すっかり頭から抜けていた。刑部様が私を宙へ放り投げたので、私はその勢いで光の輪を描いて城の中へと移動した。こんなこともできるようになった。自分の成長を褒めてあげたい。いや今はそんなこといっているバヤイじゃない。忍隊の皆さんに教えてもらった抜け道をフル活用し、応接間へ向かった。

「失礼します!!!」
「やぁ名前くん、やっと来たね」
「すいません三成様との鍛練でdftgヴbhjんmkl!!」
「まずは落ち着きたまえ。君の後輩くんたちは、早く君に抱き着きたいという顔をしているよ」

屋根裏から飛び降りて応接間前の襖を目の前にし、私は力いっぱいそれを左右にパン!と開かせた。座っている半兵衛様にその勢いを殺さず土下座すると、半兵衛様は麗しすぎる微笑みで、私の後ろの方を指差した。ギュルンと首をまわしてみると、そこには見慣れた可愛い後輩たちが!!!

「あー!伊作伊作伊作伊作!!久しぶりー!」
「名前先輩お久しぶりです!!あぁお逢いしたかった!!」

「数馬も久しぶり!!きゃーもちもちぷにぷにはまだ健在ね!!」
「お久しぶりです名前先輩いいいい!!」

「おいで左近ちゃん可愛い私の左近ちゃん!大きくなったねぇ!!」
「わぁ!名前先輩!お逢いしたかったです!!」

半兵衛様の横から兎の如く飛んで伊作に飛びつくと、数馬も左近もそのまま私に飛びついた。ふとその横を見て見ると、見慣れない可愛い子が二人、正座して私を見ていた。

「お、新一年生かな?お名前聞いてもいいかな?」
「はい!一年は組の、猪名寺乱太郎です!今日とっても楽しみでした!宜しくお願いします!」
「か″わ″い″い″!!髪ふわふわだねぇ!髷ないなんて珍しいねえ!可愛いねえ!」

「一年ろ組の鶴町伏木蔵です。名前先輩のお話は伊作先輩からよく聞いておりましたぁ」
「もしかして君の担任は斜堂先生かな?伏木蔵もとっても可愛いねえ!なんだよ保健委員会随分顔面偏差値高くなったねぇ!」

わいわいと感動の再会をはたしていると、後ろから豪快な笑い声が聞こえて背筋を伸ばした。あっやばい、秀吉様に尻を向けてる。なんて失礼な事を。

「はっはっはっはっ!名前がそこまで我を忘れるとは珍しい姿よ!」
「あーっ!秀吉様大変失礼致しました!遅くなりましたがこいつらが私の後輩です!」
「うむ、よくぞこの我が大阪城へ足を運んだ。寛いで行くがよい。名前、城の案内は貴様に任せて良いのか?」
「えぇお任せあれ!あとなんか島様がお手伝いしてくださるとか。島様知りませんか?」

「うん?左近のやつなら名前を探しておったぞ。会わなんだか」
「さっきまで三成様と刑部様と鍛練場にいたもので」
「そうか。まぁよい。見つけたら伝えておいてやろう」
「ありがとうございます!」

案内は私だけでもいいのだけど、もう一人ぐらいいた方が良いかもしれないなぁと思い島様にもご協力お願いできないか頼んでみた。二つ返事でOKを貰えたのだが、ここへ来る道中島様を御見かけしていない。まだ私の事探してるのかな。そういえばさっきから左近だのと呼ばれているからか川西のほうの左近ちゃんがビクッとしているのがめっちゃ可愛い。娶りたいぐらい可愛い。しかし、保健委員会と言えば不運ばかりが集まる委員会だというのに、よく大阪まで自力で(生きて)来れたもんだと伊作に言えば、伊作は少々苦笑いして実は、と言葉を紡いだ。どうやら当初はここへ来る予定ではなかったらしい。

「最初は、タソガレドキ城へお邪魔しようと思っていたのですが、どうやら戦が始まるらしく見学をキャンセルされてしまいまして…」
「タソガレドキって、あのタソガレドキ!?戦好きの悪い城じゃない!こ、交流あったの?」
「伊作先輩が、そこの忍組頭をお助けしたことがあって」
「いまじゃすっかり忍術学園の味方です!」
「お前は不運なの幸運なの?」
「いやぁ…」

しかし直前になってキャンセルとは、やはり不運と言ったところか。いやまぁ私も未だに不運は健在ですよ。三成様にぼっこぼこにされるし、たまに薬ひっくり返したりするし。

「たそがれどき?聞いたことのない城だ。どこにある城だい?」
「私の地元の方ですよ。尼崎の方の」
「秀吉は知っているかい?」
「いや、聞いたこともない」

「強いのかい?」
「…天下の豊臣軍と比較するんですか?」

そりゃぁうちの方では強いだろうけど豊臣軍と比較すれば数も力も屁みたいなもんだろう。私の一言で全てを察したのか、半兵衛様はそれならいいと余裕の笑顔。さすがです半兵衛様!その顔は自分の労力を消費しなくても勝手に滅ぶだろうと思ってる顔ですね!まじパネェッス!!秀吉様もなんだつまらんって顔なさってますね!!さらに上を目指すその心意気さすがッス!!

秀吉様はこれから用事があるので出かけるらしい。半兵衛様は自室で資料を片づけなければならないらしく、一足早く退室された。頭を下げているうちに二人は部屋から出ていかれたので、私たちもさっそく城内を案内することにした。行こうかと戸を開けると、丁度同じタイミングで入ろうとされていた島様の逞しい腹筋に顔面を強打した。細マッチョめ。許さない。

「おっ名前!遅くなっちゃってごめんな!あ、こいつらがお前の後輩たちか?」
「そうです!そうだ、この子が言ってた、左近ちゃんですよ」

「えっ!?僕っ!?」
「おー!お前がそうかぁ!俺の名前、島左近!おんなじだなー!」
「かっ!川西左近です!な、名高き島左近さんに拝謁叶うとは光栄です!」

名高き、という言葉が心底嬉しかったのか、島様は左近ちゃんを気に入ったようでハグからの手繋ぎ。「川西くんは俺と!」と言って左近様と左近ちゃんが手を繋いでいる。なにこれ幸せ。ではどうぞと一行を連れて、とりあえず鍛練場へ連れて行くことにした。そこでは兵士さん方が真剣で手合せをしていて、後輩たちは息をのんでその中を覗いていた。殺気を纏った兵士さんたちだったが、入り口付近に私たちが来ている事に気付くと汗をぬぐいながらわらわらと此方へ寄ってきた。良く来ただの、幼いのうだの、好き放題言っては

「貴様ら!誰が手を休めていいと言った!秀吉様のために腕を磨け!休憩など許可しない!!」
「申し訳ありません!!!!!」

三成様に引っぱたかれて鍛練に戻った。

「三成様、後輩たち到着しましたので、城案内のご許可を」
「あぁ。秀吉様には」
「紹介済みです」
「ならばこの幼き目に豊臣をしかと焼き付けさせろ。手を抜く事など許さない」
「了解しました!食事の時間になったらお呼びしますね!」
「いらん」

ビシャンと鍛練場の戸を閉めた。後輩たちは案の定恐怖に震えている。

「まぁまぁ!三成様あーみえてめっちゃ優しい方だから!名前の事だって特別視してるよ?忍で普通に口利ける奴なんて名前だけだしね!」
「そうなん、ですか」
「名前先輩はこの軍で偉い御方なんですかぁ?」
「名前は凄いよ!忍で自室もらえてるの名前だけだし、名前の薬草栽培のために天守閣ちょっと占領したからねぇ!」

ほぇーって感じで見上げられているけど、別に私はそんなに偉いと言うわけではない。形部様お付とはいえ戦場行けば医療班なので、薬を調合するための部屋が欲しいなぁと呟いていたのを刑部様にうっかり聞かれたらしく、部下がこんなこと言ってたと秀吉様に直接相談してしまったのだという。後日秀吉様直々に呼び出され何事かと思えば、突然この部屋使っていいよとめちゃくちゃ広い部屋を貰えたのだ。倉庫にしか使ってないから掃除はお前がやれよと言われたが、そんなこと願ってもいない申し出だった。掃除は暇を持て余していた刑部様と島様のお手伝いもあり一日で終わった。今迄外で作っていたのでこれはありがたい。

そして次に天守閣一部占領の件だが、自室の一番日当たりの良い場所で薬草を栽培していたのを半兵衛様にみつかり、もっと日当たりが良い場所があるよと薬草が植えられた鉢を持って天守閣へ移動させてくださった。折角なら他のも持っていってはどうだいと半兵衛様からお許しが出たので、調子に乗って次々と増える鉢。後日『先名字名前ノ許可無キ者立チ入ヲ禁ズ』と書かれた立札が建てられていた。あの字は恐らく三成様の字だったと思う。知らんの一点張りだったが、絶対三成様が書いてくださったはず。豊臣軍まじ心温まるストーリーだらけ。

「てなわけで、はいここが自室」
「うわぁ、!凄い!」
「いろんな薬品がありますね!」
「名前先輩!手にとってもいいですか?」
「いいよー!好きに見て!」

「名前、俺も入っていいの?」
「えぇどうぞ。あ、足元の薬草気を付けてください。乾燥させてるんで」

島様を治療するのはほとんど戦場が多いので、部屋に招いたことは一度もない。初めて入るなぁ目をキョロキョロさせながら島様は棚を見て回った。

「名前先輩、これは?」
「そこはできればいじらないで。そこの棚は大谷吉継様用。私の直轄の上司。業病なの。ちなみにそっちの棚はさっき会った半兵衛様用。おそらく労咳でね」
「労咳…。それは、不治では…」
「うん、治んない。私には寿命を少しでも延ばす事しかでききないけど、治験は私が直々にやってるし、前よりは随分楽になってるって半兵衛様仰ってたわ。そう言って貰えるだけでも嬉しいもの」

「名前、これは?」
「それは三成様用に開発した栄養丸です。一粒で一日に必要な栄養分をギュッと濃縮させました」
「え!?すげぇ!」
「味無し香り無し。空腹は満たされませんが栄養素は事足ります。秀吉様からの御願いで開発してみました」
「あっ、もしかして最近戦前に三成様が口に放り込んでいくのってこれ?」
「これです!」

弱点としては一日の摂取分を一瞬で採ってしまうため体のエネルギーが一気に放出されてしまう事だ。所謂ドーピングの様な物で、朝戦に出たら夜まで帰って来ない三成様用に開発したのだが、いやはや開発しておいてよかった。まじで飯食わないのなあの人。これで刑部様の胃のストレスも解消されるだろうに。

「あの先輩、これ御一つ分けていただけませんか?」
「え?伊作が作るの?」
「えぇ。小平太に」
「あははは、うん持っていっていいよ。これ作り方。一応豊臣の秘薬だし門外不出だけど、伊作にならあげてもいいよ」
「あっ、ありがとうございます!」

「島様は何も聞いてませんよね」
「もちろん、秘密にするよ」

左近ちゃんと手を繋いだまま、島様は口もとに指を当てしーっとやってくださった。クソ可愛い。興味津々な一年生二人には気になっていたであろう綺麗なデザインの空き瓶を一つずつあげて、数馬にと左近ちゃんには私が育てた薬草の種を何種類かお土産にあげた。全員喜んでくれたみたいで嬉しい。次に天守閣に連れて行き栽培している物を見せ、そこから城下を一望させた。

「名前、賢人が呼んでおったぞ。夕餉の支度ができたとな」
「刑部様!あ、もうそんな時間でしたか」

「主らが名前の臣子か?」
「こんにちは!忍術学園から来ました!お邪魔してます!」
「おぉ、良い子よ、ヨイコ」

後ろから現れた刑部様に恐れもせず握手を求めるために手を差し伸べた乱太郎を、刑部様は大層気に入ったのか、恐ろしくはないのかと脅しもせずその手を握った。刑部様の病は先ほど自室で説明済みだ。それなのに恐れないとは、乱太郎はなんて良い子なんだろう。もちろんその他の子も頭を下げたり手を伸ばしたり。くそ、こんなに良い後輩をもって先輩は幸せ者だよ。刑部様の案内により食事場へ行くと、一足早く半兵衛様が待っておられた。袴に着替えた半兵衛様は私に、「三成くんも呼んできてくれ」と言った。あ、島様もう左近ちゃんの横キープしてやがる。先ほどの鍛練場へ行きご飯ですよと三成様に声をかけたのだが、いらぬと言ってその場から動こうとしない。いやこうなることは予想していた。しかし今日の私には奥の手がある。

「伊作、ちょっと」
「はい?」

そう伊作だ。私は初めて会った時に思った。伊作の声が、秀吉様に激似だと。事情を伊作に説明し無理だと言ったが、三成様を動かせるのは伊作しかいないと押せば、伊作は仕方ないといった顔で咳払いをし、鍛練場の戸越しに三成様に語りかけた。


「…三成よ」


物凄い、低い声で。

「名前と食事をともにせよ」
「秀吉様?!!?!??!?!もうお帰りになられたので?!?!?!?!?!??」
「ギャァァッ!!!」

物凄い勢いで開かれた戸。その向こうで驚きの表情で固まる三成様。

「秀吉様は…!」
「い、いませんよ!まだお帰りになられていません!」
「そんなはずはない!私は今しかとこの耳で秀吉様の声を……!まさか、私の心に直接…!?」


この人……、馬鹿だ!!


「秀吉様はなんと?」
「し、食事をとれと」
「では秀吉様のお声に従って食事に参りましょう!半兵衛様もお待ちかねですから!ね!ね!」

まさに強行手段。恐惶手段てか。やかましいわ。目の前にいるのは私と伊作だが、聞えたのは確かに秀吉様の声。だがお姿は見えずとも秀吉様の御命令ならばと、三成様を連れ出すことは成功した。

「…よく連れてこれたな」
「刑部様、うちの後輩は優秀ですよ」
「いやいや名前先輩…」


「それじゃぁ秀吉がまだだけど、腹が減っただろう?少し早いけど、食事にしようか!可愛い名前の後輩君たちに、乾杯!」






いただきます!

お勉強になりました!





「善法寺くん、卒業したら豊臣にどうだい?」
「え!?僕がですか!?」

「今戻った」
「おかえりなさい秀吉様!今お食事お持ちしますね!」
「頼む。うん?三成がいるとは珍しい」

「はっ!秀吉様の御命令通りに!」
「……ん?」
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