社会科見学に行ってきます! | ナノ

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「誰だお前はあああああああ!!!勝手に塀を壊しよってからにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「女子が飛びかかってくるとは破廉恥でござああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「真田の旦那ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」









こうして私は、武田軍へ就職した。










「うむ、社会科見学とな?」
「はい。忍術学園の卒業生が就職した城や店、そのような場所へ後輩たちを社会科見学へ行かせてもらえないかと主に頼むのが、卒業生たちの最後の忍術学園の伝統的行事らしいんです」

「おぉ!それは真素晴らしいことでござる!」
「ただ、忍者というのは就職先や仕事の内容を教えることは、たとえ後輩といえど御法度。卒業生自ら断ることがほとんどです。就職先の事は隠し通すのが暗黙の了解というものなのでしょうが、私は別に隠そうなどとは思っておりませんし、むしろ後輩たちにはしっかり働いている私の後ろ姿を是非見てもらいたいのです。つきましては、幸村様、そしてお館様のご理解とご了承をいただいた上にで、忍術学園に返事を返そうかと思うのですが…」

忍術学園から受け取った手紙。その中身を私は幸村様にお渡しして中身に目を通していただくようにと頭を下げた。槍を佐助さんに預け、手紙を開き、ふむふむと読みながら、おぉ!と声を上げては私にそれを突き返した。

「うむ!某は許可しようぞ!」
「俺様もさーんせいっ」
「佐助さんまで…。よ、よろしいので?」

「我が武田軍が如何様に素晴らしき軍かということを幼き忍の心に刻む!此れまさに武田が天下へ近づくための第一歩で御座る!」
「俺様も別に構わないと思うけどね。言っちゃ悪いけどたかが十五の忍の卵たちだろう?この期に乗じて武田を内部から崩そうなんて企むようなやつらはいないだろうしさ。でも真田の旦那。さすがにお館様の許可なしはダメだ。まずはお館様に聞いてから…」
「おぉそうであったな!待っておれ名前!某が許可をとってこようぞ!」

「あ、ちょ、今私が行こうと…!」
「いいからいいから。旦那に任せておきなって。それから名前ちゃん。そろそろ俺様の事、頭って呼んでもいいんだぜ?」
「ちょっと何言ってるか解んないですけど」
「ひっでぇ」

槍を地に突き刺して、幸村様は走り去っていった。佐助さんはその場で膝をつく私の横に座り込んで空を仰いだ。ここ最近は戦が無くて平和とはいえ、武田にこんなに穏やかな空気が流れているとは珍しい事だ。卒業してずいぶん経った。遠き道のりだけど家族に逢いに、後輩に逢いに、仕事のついでとかで何度か学園にも遊びに行っているし、寂しいと思うようなことは一度としてなかった。新しい一年生とも仲良くなれたし、学園も平和な日々が続いているみたいだ。

幸村様との、いや、武田軍との出会いは卒業五ヶ月前。未だ止まらぬ体育委員会の暴走に、ケチケチ予算がさらに切り詰められていた。そしてなぜかその白羽の矢は我らが学級委員会に当たってしまったのだ。イベントの実況しか仕事のない委員会が会議のおやつ代など持っていても仕方がないと、学級委員会の予算が削られに削られた。止めてほしくば体育委員が破壊した壁を学級委員で直すようにと会計委員から無茶苦茶な命令をされたのだった。そしておやつ代を減らされ後輩を悲しませまいと汗を流し壁の修補の日々をおくり重ねて就活どころじゃなかった時、赤い鎧が壁に槍を突き刺しているところを目撃した。うちの上級生がなぜかその人と喧嘩?をしていたからだ。そして明らかな部外者が学園を破壊していた。頭の中でブチッと何かが切れたその時にはもう、私は鉄扇を手に赤い鎧に思いっきり飛びかかっていた。

「殺してやる!!折角昨日修補したばっかりなのに!!またおやつ代減らされるじゃないか!!」

「おぉ!そなたの腕!女子といえど男にも勝る荒く強い技でござるな!素晴らしい!」
「おっ、旦那この子気に入った?ねぇあんた、俺様の下で忍やんない?」

「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞクソ迷彩野郎があああああ!!」
「ええええ!?」

私は壁を壊されたことを根に持ち、それから何度もスカウトに来るこの二人を私は名前も聞かずに追い返していた。どうやら最近見知らぬ部外者が沢山出入りしていたのは良い人材がいたらスカウトしてもいいよという学園長先生のいつもの思い付きイベント中だったかららしい。

「ははぁ、最近見知らぬ連中が入ってたのはそういう理由だったのね」
「名前先輩の腕は何処の国まで轟いているのやら」
「先輩なら有名な城からのスカウトもありえるんじゃないですか?」
「三郎、勘右衛門、煽てたって団子しか出ないぞ」

それからあの二人組は何度も何度も私のところへ足を運んだ。授業中。ランチ中。昼寝中。そしてそのうち勝手に自己紹介され、源次郎という名前と佐助という名前を得た。最初はどうでもいいとおもっていたが、二人も徐々に実力行使ではなく己の国のいいところを日々プレゼンしてきたりと私を誘う方法を変えてきたりもした。他の子を探せと言えど、私の腕を気に入ったと。お前がいればいい軍になると。おだて慣れていない私にその言葉はあまりにも嬉しい響きだった。まぁそれが喜車の術だということは重々承知だったのだが。しかしそれからもあまりにしつこく勧誘してくるので、私は就職先も決まっていなかった焦りもあったからか、押しに押された勢いでついうっかりOKを口から出してしまった。そして、その後聞いた真田源次郎幸村という名高い甲斐の若虎を背負う者の本名。猿飛佐助という生きる伝説。源次郎さんやら佐助さんと軽々しく読んでしまっていたことに足が震えるほど反省したレベルだった。幸村様の事は幸村様と言い直し、佐助さんは別にどうでもいいと思って佐助さんと呼び続けている。武田軍でぶっちぎりで若いらしい私を此の軍は快く歓迎してくれたし、お館様も私が最前線で敵を打ち取ったことを杯をあげて褒めてくださった。しかし何より驚いたのは、就職初日で武田信玄公の部屋に通されたことだ。信玄公も忍術学園の噂はよくみみにしていたと、興味津々に私の生徒時代の話を聞いてきた。お館様もいい人。幸村様もいい人。実家からはかなり離れたし給料少ないけど、私はとってもいい場所に就職できた。


「お館さばああああ!!此度の!忍術学園の社会科見学について何卒ご許可をおおおおおお!!」
「うむ!!許可してやるわ!!幸村あああああああああああ!!!」

「ぐっほおおおおおおおおおお!!」

「幸村様あああああああああああ!!」
「旦那ああああああああああああ!!」

館の戸を勢いよく横に開いたその瞬間、幸村様の御体は私たちの方へ勢いよく吹っ飛んできた。こ、これはお館様の愛の鉄拳!

「名前よ!」
「は、はい!お館様!」
「卒業しても尚!立派に忍をやっていることを、愛すべき下の者たちに見せるのは今じゃ!喜んでわしの館に、この甲斐の国に招こうぞ!」

「はい!ありがとうございます!!お館様ッッ!!!」
「名前!」
「お館様!!」
「名前!!!」
「お館さばぁ!!」
「名前!!!!」

「お館さばーーーーーーーーーーーッッ!!」
「名前ーーーーーーーーーーーーッッ!!」

顔面にめり込む拳が気持ちいい!吹っ飛ばされた時の感じる風の心地よさよ!なんて素敵なお館様!こんな主に仕えられて私は心底幸せにございます!!


「あーあー、名前ちゃんも武田色に染まってきたってか?」


そして伝書烏を飛ばして忍術学園に返事を返してから三月が経った。可愛い委員会の後輩たちが、この日に参りますと日付と時間を記して再び手紙を寄越してきた。お館様にそれを伝えると、客人を迎える準備は任せておけと宿泊する用に部屋をあけてくださったりしてくれたし、幸村様も武士の皆さんにもこういう者たちが来るという事を予め伝えておいてくれたらしく、皆々様方もそういったことは初めてのようで楽しみだなと言ってくださった。

「さて名前ちゃん、後輩たちに危害加えないように、婆娑羅の特訓、始めようか?」
「はい!お願いします!」
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