「出てお行き塵虫が!私は此れから委員会なのよ!!あんたなんかに構っている暇はこれっぽっちもないわ!!」

「大変申し訳ありませんでした!!!」

くのたま長屋の入口から蹴り飛ばしたのは町の人間だとこいつは言った。だけど私の記憶にこんな男の記憶なんて一切残っていなかった。名前を名乗りなさいと聞いても聞いたことのない名前が口から出て、挙句の果てには叩いてくださいと私に背を向けた。初対面の人間が、この私に背を向けるなんて無礼にも程があるわ。

町で見かけてついてきてしまったと、目の前でケツをつきだし倒れている男はそう言った。くのいちを学ぶ場所なんて知らなかったと、今更言ったってもう遅い。徹底的に縛り上げ此処の場所の事は他言しないという誓いを立てさせ、最後に蹴り飛ばし、門の外へと叩きだした。

「春日先輩、この人どうします?」
「私には関係のない事だわ。煮るなり焼くなり好きになさい」

後輩の可愛いくのいちたちはやったぁ!と嬉しそうに手を合わせ、男の首根っこを掴んで何処かへ行ってしまった。生きて街に帰れると良いわね。

「最近多いですね、春日先輩を尋ねてこられる人が」

「まぁ庄ちゃん!安心して!私は貴方から離れはしないわ!」
「いやむしろ離れてください。近くに寄られると邪魔です」
「あぁんっ庄ちゃん…!その目もっと頂戴!」
「うわぁ」

くのたま長屋から出てすぐ、書類を持った庄ちゃんが出迎えてくれていた。委員会のお時間ですと背を向けるが今はそれどころじゃないわ。庄ちゃんが私を迎えに来てくれるだなんて、とっても珍しい事だわ!庄ちゃんが私なんかのために此処まで足を運んでくれただけでも嬉しいのに!それに加えて抱きしめようとする私の手を弾くだなんて!なんて素敵なご褒美かしら!こんなことなら実戦授業へ行った帰りだからと風呂になんか入らなければよかったわ!汚いままの方が庄ちゃんにはもっと蔑んで貰えていたでしょうに!

抱きしめ抱っこするように持ち上げると、かなりの身長差なので庄ちゃんは落ちないようにと手綱代わりにか私の髪の毛をガッシリ掴んだ。嗚呼なんてことかしら庄ちゃんが私の髪の毛を掴んでいるなんて!前言撤回よ!シャンプーしておいてよかったわ!庄ちゃんにあんな泥だらけの髪触らせられなかったもの!

「春日先輩、髪の毛湿ってます。女性ならちゃんと最後まで乾かしてから出て来て下さい。だらしがないです」
「はぁっ…!許して庄ちゃんっ…!早くあなたに逢いたかったのよ…っ!」

私の右腕に腰掛ける様に庄ちゃんを持ち上げてはいるが、庄ちゃんは私の髪がお気に召さなかったのか、ペシペシと髪で私のほっぺを叩き始めた。ソフトプレイだなんて!なんてことかしら…!今日の庄ちゃんは刺激が強すぎるわ…!

だけど庄ちゃんは抱っこされるのを嫌がることをしなかったので、いつの間にかそのまま忍たま長屋へ到着してしまった。いつもなら降ろしてくださいと暴れてくれるか抱きしめる腕をどかそうとするはずなのだけれど。

「あら、到着しちゃったわよ庄ちゃん…。今日は一体どうしたの?」

学級委員長委員会会議室前で庄ちゃんを降ろすと、庄ちゃんはまだ、私の手を握っていた。

「やぁねぇそんな暗い顔して。一体何があったの?」
「……僕っ、」

「総統!今お迎えに行こうと思っていたところで」

「お黙り勘右衛門!今庄ちゃんと話しているのが解らないの!?」
「ありがとうございます!!」

真横に降り立った馬鹿を回し蹴りして吹っ飛ばすと、勘右衛門は頭から樹に飛んで行った。この屑が庄ちゃんとの大事な時間を潰して何が楽しいっていうのよ!いい加減にしないと本気で絞めあげるわよ!

「どうして笑顔じゃないの?庄ちゃんはなにか私に伝えたいことがあるのかしら?」
「……」
「何でも言って?庄ちゃんが笑顔になるなら私なんだってやるわよ。手始めに勘右衛門でも吊るしましょうか?」
「宜しくお願いします!!」

「お黙り!喚くんじゃない!!」
「ウィッス!!」

しゅっと勘右衛門を縛り廊下の天井に吊し上げると、違いますと庄ちゃんはゆっくり首をふって鞭を握る私の腕に抱き着いた。あぁそんなっ!庄ちゃんが今再び私に甘えているわ!こんなに貴重な事が立て続けにあるなんておかしい!この間もそうだったわ!天女とかいうバカ女のせいで庄ちゃんは私なんかに甘えていたのよ!だったら今回も同様の理由があるに違いないわ!

「言ってごらんなさい庄ちゃん。私に何をしてほしいの?」
「……」

吊るされる勘右衛門と私を交互に見て、庄ちゃんは小さく、声を絞り出すように言った。






「……天女様、いらないです…」






庄ちゃんはポツリポツリと言葉を続けた。あの一件から、四年、六年は全員私に跪き委員会へと姿を現した。今までの遅れを取り返しつつ償いをするためにと寝ずに働けと鞭をうっては連中は喜んで不眠不休で働き続けた。故に、あの連中があの女の尻を追いかけることはすっかりなくなっていた。もう存在すらないことにしているのかもしれないと思うほどに。忍たま長屋へ顔を出す度に、あの女の姿を確かに私も目に入れていたけれど、それは確実に上級生たちを目で追うような姿だった。それをみつめる私を見つけると、鬼の様な顔で私を睨み付けるが、あんな女に構っているほど私も暇ではない。言葉もかけずに可愛い下級生たちに罵って貰いに行っていた。

けれど、それが間違いだったみたい。

「…最近よく、下級生長屋で、天女様、見るんです…」

今度はターゲットを下級生にしたのか、長屋の縁側であの女に出会う確率が上がっているらしい。前までは洗濯物を届けて貰ったりプリントを届けてもらっただけなのに、意味もなく縁側に座っている時があるのだとか。勘右衛門たちに聞いたところ、下級生たちは最初から、というか、鼻からあの女に興味などなかったらしい。それに上級生を惑わした張本人。敵とみなしてもおかしくはないだろう。そんな女が、上級生たちと遊べなくなったから、今度は自分たちに擦り寄ってきた。

「…怖いです」
「庄ちゃん」

「ぼ、僕っ、先輩たち大好きです…!でも、あ、あの人、どんな幻術、つ、使うか、解らないから…っ」

庄ちゃんはつまり、あの女に知らず知らずに心を操られていたらどうしようと言いたいのだろう。庄ちゃんにしては珍しく冷静じゃないわ。こんな幼い体でそんな恐怖心を持っていたなんて。私は愚かだわ。なんで気付いてあげられなかったのかしら。

「そりゃぁ怖くもなりますよ。あの屈強な連中が心惑わされていたんですから」
「そうよね…。って勘右衛門!あんたいつまで縛り上げられいるの!上級生ならそんな縄とっとと抜けなさい!」
「ありがとうござ…い"っ!!?」

縛り上げている縄を鞭で斬ると勘右衛門は腹から地に落ち、痛みにごろごろと体を転がし始めた。丁度そこへ三郎と彦四郎も到着し、転がる勘右衛門に心配する声で問いかけ縄を切り救出していた。

「彦四郎。あなたもあの女は不要かしら」
「えっ……あ…!…は、…はい…」

彦四郎もその問いかけで全てを察したのか、眉を下げて小さく頷いた。

「私には総統が必要です!」
「お黙り!聞いてないわ!あんたはとっとと茶を淹れて委員会の準備をなさい!!」
「仰せのままに!!」

足に抱き着く三郎の胸ぐらを掴み往復ビンタを入れると三郎は嬉しそうに会議室の中へと消えていった。それにしても、この二人が人を嫌うとこんな態度になるだなんて知らなかったわ。私の時はもっと酷い態度をとってくれるけれど、あの女に対する嫌悪は相当なのね。特にこんなに可愛い庄ちゃんと彦四郎が人を嫌うなんて、普通に考えてありえないわ。



「二人がそう言うなら、あの女を追い出すしかないわね」



私がそう言い立ち上がると、二人は顔色を明るくして私の顔を見上げた。正直、そろそろあの女の処分をどうしたものかと学園長に相談に行くつもりだった。忍たま長屋に来るたびのあの女を目に入れるのが鬱陶しくてしょうがなかったから。馬鹿とはいえあれらも同じ釜の飯を食べた同級生であり仲間。そんな連中を下卑た目で見つめるのが腹立たしかったのはもちろん、あの女が可愛い下級生たちに何か被害でも与えていたらどうしようかと考えていたところだったから。そう思っていた矢先の、この庄ちゃんの話。だったらそろそろこの学園から出て行ってもらわないと、可愛い下級生たちに悪影響だわ。あれをなんとかしないと、きっとまた庄ちゃんたちからもご褒美も遠ざかってしまうかもしれないものね。

「私に任せなさい。全部私が何とかしてあげるわ。あの女を焔硝蔵裏に呼び出してきてくれるかしら」
「ほ、本当ですか…!」

「その代り!あの女を始末したらちゃんとご褒美ちょうだい!?」


「だったら馬鹿言ってないで早くなんとかしてください」
「解ったならとっとと動いてください」


「あぁんっ!!」
「総統ーーー!!!」

庄ちゃんと彦四郎からの突然のご褒美に心臓がきゅうっとしめつけられ、思わず私は後ろへ倒れこんでしまった。咄嗟に勘右衛門に支えられ地に倒れることはなかったけれど、勘右衛門はなぜかそれに鼻血を出し私の装束を汚したので再び廊下の天井に吊し上げることにした。三郎が茶を淹れ戻ってくるまでそうしていなさいと言えば喜んで!と縛りに堪え始めた。鞭を懐にしまい私は三人を背に焔硝蔵へと歩き出したが、彦四郎と庄ちゃんは私を追いぬかし、あの女がいそうな場所を探しに行った。なんていい子達のかしら。五年二人とは比べ物にならない程に働き者だわ。

焔硝蔵の裏へあの女を呼び出してと頼んでから一刻。積み上げられた木片に腰掛けあの女を待っていると、思っていたよりも早く女は姿を現した。

「御足労かけるわね天女様」
「…なんなのよあんた。私に一体何の用なの」

「あら、この私に呼び出されたというのにその態度は何かしら。光栄に思いなさい」
「はぁ!?あんた一体何様のつもりよ!!…痛ッ!?」


「お黙り醜女。この私が貴方に用事があると言っているのよ。私が許可するまであなたに発言権なんてないわ」


バシンと綺麗に決まったビンタの勢いで、女は横へ吹っ飛んで着物を汚したが、涙は何とか堪えていた。滑稽な格好で頬を押さえながら驚いたようにか恨んだようにか私を睨み付けるその女の醜さといったらない。

「あんたっ…!」
「答えなさい。今のこの私の褒美に、どういう感情を受けたかしら」

「はぁ!?褒美!?バッカじゃないの!?最ッ低の気分よ!一体なんのつもり!?」
「そう?じゃぁこれはどうかしら」

懐から取り出した常備している縄を手早く女に巻きつけると、痛い痛いと喚きながら必死でそれから逃げ出すように体を動かした。私の縛りから逃げ出せる者などいるわけがないわ。忍たまにすらいないのに、どこぞでのんびり暮らしていたくのいちでもない普通の女が逃げられるわけがないのよ。

「何すんの!!痛い!!離して!!」
「お黙り。誰が喋っていいと言ったの。私だって女を縛ることなんて趣味じゃないの。縛るなら男の方が良い声で啼くし楽しいわ。私があなたを締めている理由はただ一つ。此の学園であなたを必要としている人間が一人もいないと言う事実を知ったからよ。六年は委員会に戻り四年は鬱陶しく私の周りに纏わりつき、五年はいつも通り喧しいけれど、下級生は元よりあなたに興味なんて一寸もなかったといっていたわ。此の学園で保護されている身だというのに働かず、男にしか目を向けない邪魔なあなたという存在を、とある一年生が不要だと、そう言ってたわ」

やめてと叫ぶ女の声など私には一寸も届かないわ。縛った縄を引っ張りながら、私は人気のつかない焔硝蔵の裏のさらに奥にある茂みに、女を連れて樹に縛り付けた。

「さてと、天女とか言ったかしら。…そういえば私貴女の名前知らないわ。まぁ興味ないからいいんだけどね。ねぇ天女様?」
「い"っ!?」
「今どんな気分かしら」

懐から取り出した縄に一瞬びくりと身体を揺らしたが、その鞭が自分の太ももに入ると、女はさらに眉間の皺を深くさせ私に向かって牙をむくように叫んだ。

「痛いっていってるでしょう!!止めて!!」
「そう、その反応で良いの。その反応でなきゃ困るのよ」

ヒュルッと風をきらせ再びおちた鞭は女の脛に入ったが、それでも女は気を弱めることなく、ただただ私に向かって反抗するような態度で暴れた。

「ほどけって言ってんだよ!いい加減にしろ!!」
「あらついに本性表したわね。それにしてもまぁ女のくせになんて汚い言葉遣いかしら。未来っていうのはこんなに醜い女だらけなの?」

懐に入っていた布の切れ端を喚く女の口にぐっとつめこむと、吐くこともできないでもがきばたばたと足を動かして声も出さずに逃げ出そうとすることに必死になっていた。逃げられないと、いつになったら理解するのかしら。

「夜になったら迎えに来るわ。それまで此処で大人しくしている事ね」

うぅうぅと唸る女を背に、私は食堂へ向かい夕飯をとることにした。鬱陶しく周りに群がる四年生を足蹴に絡む六年を膝蹴りに、無理やり入った三年生のテーブルでは邪魔者扱いされて食事がさらに美味しくなる。嫌いなので食べてくださいと私の皿の上に割り箸を置いた藤内の嫌がらせは斜め上過ぎてどうとらえていいのかわからないわ。これを食べろと言うのかしら。なんて無茶苦茶なの。そんなにも私の事を邪魔に思っているのね。だったらもっと蔑む目で見つめて!

いつも通りに、一緒にお風呂入りましょう!と庄ちゃんを誘えばタオルを投げつけられ背中流させて!と左近ちゃんに言えば桶を投げつけられ、こんな夜遅くなのにみんなは私に酷い態度をとってくれる。これで良い夢がみられるしゆっくり休めるわ!なんていい子達なのかしら!もっと蔑んでもっと苛めて!

「あぁっ!閣下!風呂場前でお逢いできるなんて!俺がお背中お流し致します!」
「お退き兵助!にがり臭い手で私に触るんじゃない!!」
「ありがとうございます!!」

踵を落として兵助を地に沈めて、そういえばあの女を忘れていたと私は今になって思い出した。屋根を伝って焔硝蔵へ。真っ暗で何も見えないような場所で蝋燭に灯をつけると、女は光りに反応し、勢いよくこちらを睨み付け、再び暴れ出した。

「ごめんなさい貴女のことすっかり忘れてたわ。でも元気そうで何よりね。さぁ出かけるわよ。暴れないでちょうだい」

両手は縛ったまま。今度は両足もがっちり固定し動けない状態で私は俵担ぎにした。

「あれ、閣下!こんな遅くにお出かけですか!」

「あら雷蔵、見つかっちゃったかしら」
「夜風に当たろうと散歩中だったんです、け、ど……その女、どうするおつもりで?」
「知りたいのならついてきなさい。この女意外と重いの。貴方が運んで?」

どさりと女を落とすと、そのはずみで口に詰めていた布が外れた。助けて!と雷蔵にすがるも、雷蔵もこの女に対してこれっぽっちも思いはないのか、静かにしてくださいと先ほどの私と同じように俵担ぎに女を持ち上げた。小松田さんに見つからないように、鐘楼から羽衣の術で忍術学園から一気に脱出を試みた。雷蔵は早駆けで塀を飛び越え月夜に浮かぶ私の影に言葉も発さずついてきた。あまりにも早すぎて呼吸が追い付かないのか、ようやく恐怖心でも芽生えてきたか、女は一切口を開かない。今からどこへつれていかれるかも知らずに。

「…閣下、此処って一体…」
「この間私が手を焼かされた城よ。あなた見たでしょう。背中の傷を」
「…あっ!」
「ついてらっしゃい。侵入口はこっちよ」

ようやく何をしに来たのか雷蔵も察してくれたようで、城の中へと通じる抜け道へ楽々侵入した。石垣の石が一つ外れると入口ができる。其処から入り天井裏へ回り、上へ上り、屋根を伝ってさらに上に登れば、そこは、誰かの寝室。


「起きなさい鈍間。この私がいるのに眠るなんて無礼にも程があるわよ」


「んん?…おぉ!おぉ春日じゃないか!やはり私のもとに戻ってきてくれたのか!」

「お黙りこの頓珍漢の愚図!誰が好き好んであんたみたいな馬鹿に飼われると思っているの!」
「その強気な態度!堪らんなぁ春日!夜這いしにきたのか?ん?」


布団から身を起き上がらせる一人の親仁に雷蔵は素早く反応して女を床に落としてクナイを構え私の前に立った。

「いいのよ雷蔵、大丈夫だから下がりなさい」
「し、しかし閣下!」

「誰だその男は?お前の男か?」
「えぇ、可愛いペットよ。この子はあげられないわ。……その代わりに、こんなの如何かしら」

「痛いッ!」

後ろで寝転ぶ女の縄を思いきり引くと、その体は面白いぐらい綺麗に飛び、男の足元にゴロリと転がった。

「いい加減にしなさいよ!なんのつもり!?早く私を解放して!」
「まぁまだそんな生意気な口がきけるの?感心するわ。……でも、いつまでそんな強気でいられるかしら?」

男は初めて見るこの女を見つめ、頭の上に疑問符を浮かべたような顔をした。

「その女は忍術学園の廃棄物よ。仕事もしない男好きなの。私たちに悪影響しか与えないくせに、無駄に気が強くて嫌になっちゃうわ」
「…!ほぅ」
「気の強い女がお好きなのでしょう?私の代わりにその女をあげるから、それで満足してくれないかしら」


「なるほど…お前名前はなんて言うんだ?」
「なんなのあんた!オッサンが私に何するつもりよ!変態!変態!私に触んないで!!」


男が腕を伸ばしたけれど、女は拒否するように大きく暴れてその手を避けた。だがそれはこの男の心をくすぐるだけ。強気な女を調教するのがこの男の趣味だと、この間確かにそう言っていた。

「ね?これで私から手、引いてくださる?」
「良いだろう!この女気に入った!だがお前もまだ諦めたわけじゃないからな!」
「まぁ欲張りだこと。でもお気に召していただけて光栄だわ。それじゃぁね、天女様。助けなんか来ないわ。私の可愛い下級生たちを泣かせた罪を背負って、思いきり泣き叫びなさい」


「待って!お願い!置いてかないで!嫌!やだ!やめて!」


嫌だ嫌だと叫ぶ声を背に、私と雷蔵は城から飛び出し闇夜の森を駆け抜けた。女はあそこへ置いて行き、学園には何も残らない。はぁ、こんな簡単な事どうしてとっととしなかったのかしら。だから庄ちゃんにも彦四郎にも怒られちゃうのよね。でもこれで二人からもっとご褒美が貰えるのだと考えるとわくわくして胸が高鳴るわ!


「ここまであの女運んでくれた雷蔵にはご褒美をあげなきゃいけないわね」
「では閣下の足を舐めさせてください!!!!!」

「お黙り!気持ちの悪い事言うんじゃない!!」
「ありがとうございます!!」


帰ったのはもう夜も更けていて、廊下にも長屋にも起きている人間の気配などない時間帯だった。くのたまの風呂の湯が抜かれていたので仕方なく忍たま長屋の風呂を使わせてもらうことにしたが、背を流させていただければご褒美ですと鼻血を垂らす雷蔵の接近を許し、私はようやく汚れを落とす事ができた。貧血で倒れかける雷蔵を部屋まで送り、戻るのが面倒なので雷蔵を三郎の上に落としこの部屋の雷蔵の布団で一晩過ごさせてもらう事にした。目を覚まし私の布団に二人が入り込んでいたので鞭を振るって起床させ、ついでに日が昇っているのに一向に起きる気配のない他の五年にも鞭を入れて起床させた。

「朝一で軍曹の鞭をいただけるとは光栄です!!」
「お黙り八左!!その鬱陶しい寝癖をなんとかしなさい!!見てて不愉快だわ!!」
「ありがとうございます!!」

女がいなくなった、という事を口にするものはほとんどいなかった。喋っているのは下級生だけ。どこへいったのかとみんなで話す者いれば天へ帰ったんだと勝手に納得する者もいた。つまりそれほどまでに、あの女はこの学園にいてもいなくてもどうでもいい存在と化していたという事だ。いなくなったのなら普通は心配され捜索もされるものだが。上級生に至っては誰一人としてあの女の話をしていなかった。


「おい春日!この予算案はどういうことだ!なぜ作法委員がこんなに削られているのだ!おかしいだろう!」
「保健委員の予算が全部生物委員にいってるのはどういう事!?納得できない!」
「図書委員もだ…!なぜこんなことをした…!」
「なぜ会計委員でもないお前がこんなに予算を勝手に移動させているのだ!!」


「お黙り!仕事もできない単細胞どもが!あんたたちみたいに働かない委員会に回す予算なんて一文もないはずよ!!溝に捨てるぐらいなら生物委員会の新しい命のために移動するにきまっているでしょう!反省しているなら働きなさい!!今までの失態をとっとと取り戻しなさい!この駄馬畜生にも劣る大馬鹿者どもが!!恥を知りなさい!!」


この鞭は本当に朝からバシンバシンといい音を鳴らしてくれる。打たれた四人はその場で己の股間を押さえて縮こまり倒れこんだ。馬鹿につける薬なんてないわ。私もそろそろ朝食にしようと食堂へ近づいたが、途中で見えた二つの影に私は勢いよく飛びついた。


「おはよう彦四郎!庄ちゃん!これであなたたちの望んだ学園になったかしら!?私の仕事は無駄にならなかった!?あなたたちが望んだとおりあの女は私が始末してあげたわよ!!」


五年を放置し二人に飛びつくと、二人は私の抱きしめを受け入れはしたものの、




「はぁ、遅いんですよ春日先輩」

「なんでもっと早く気付いてくれなかったんですか」

「役立たずですね」

「もう近寄らないでください」




そう耳元で言って、二人そろって食堂へと入っていってしまった。


「はっ、はぁぁあああんっっ!!」
「総統!お気を確かに!!」

「役立たずですって…!私、こんなに二人のために頑張ったのにっ…!!」
「総統まだ朝ですよ!」


腕か足が体が脈打つのが解るほどに、私の心臓は大きくはねて熱を帯びた。身体を支える八左の腕すらも冷たく感じるほどに。


「え?あの女春日先輩が始末したんですか?それにしちゃ仕事遅いですね」
「あぁん待って久作っ…!私此れでも、頑張ったのよっ…!」

「っていうか春日先輩顔から出るもの全部出てます。汚いんで近寄らないでください」
「あっ!数馬!待ってお願い…っ!もっと言って!まだ行かないで!」

「うわ何してんスか春日先輩朝から気色悪いッスよどいてください」
「あぁっ!そんな…!き、きり丸までそんなことっ!」


「閣下お気を確かに!」
「あいつらのあれで感謝の言葉なんですって!」
「服はだけ始めてますよ!」


天女とかいう女がいなくなって、久しぶりに一斉攻撃を受けて、私は立っている事すらままならない状態となった。床に腰を落とし倒れこむ私を支える五年生たち。だけどそんな私の前に立った天使は



「だ、団蔵!」



あの時と同じ目で私を見つめ


「あの…春日先輩、」
「なぁに団蔵!」











「気持ち悪いです」
「はぁぁあああああんんっ!!」


「総統ォオオーーーーッッ!!」













学園に平和が戻ったと

私が気を失うその直前に、誰かが小さく呟いた。
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