「さぁ、情報を吐きなさい」

強情に顔を上げ続ける男の髷を掴んで床に叩きつけると、男は痛みに耐えきれずに苦しそうに喉を鳴らす。

「…どうしても吐かないと言うのね?」

足音を鳴らす踵の高い靴は留三郎との共同開発によりできた武器にもなる高靴。



ビン、と張った鞭を見て、背にて腕を縛られた男共はごくりと唾を鳴らした。



くのいち教室に、『拷問のスペシャリスト』と呼ばれた生徒が一人いる。シナ先生も「こんな子に成長すると思わなかった」と驚きを隠せない生徒が一人。その女、名前を「早乙女春日」と言った。彼女が振るう武器の鞭は長くしなやかに伸び、心地が良い程の音を鳴らして獲物を確実に捕らえる。時には叩き、時には絡め、時には首を絞め、そのまま引き寄せ釣りでもするかのように絡んだ其の身を投げ捨てる。成績は上の上。飛び出た胸に引き締まった腰に膨らんだ尻。深紅に染まった髪の毛。『美』という言葉はまさにあの彼女の為にあるようで、全てにおいて完璧な彼女は体力すら男顔負けであり、大の大人の忍を捕らえては片手、そして鞭一本で仕留めてしまう。『軍曹』とか『閣下』とか、時には『総統』と呼ぶ者さえでてくるが、彼女はそれを嫌とも思ってはいないようでそうして呼ぶ者は好きにさせていた。だが先ほども述べたように、彼女は成績がいい。くのいち教室が授業中に忍たま長屋で予算会議をやっていた時の話だ。喧しい予算会議に一人鞭を持って乗り込んでは

「授業に集中できないわ!お黙り!」

と一喝し、バシン!と大きく、会計委員長の股間を鞭で引っぱたいて姿を消した。一年の始まりの予算会議、それを見た新、一年生たちは震えあがってこういった。

『くのいち教室に猛獣使いがいる』

そして上級生たちはこう答えた。

『彼女に逆らう事勿れ』

鬼の会計委員長と呼ばれた男が一人、雀の涙ほどの声を振り絞りながら股間を押さえて悶絶した。その姿を見て忍たま達が全員一瞬にして内股になった瞬間を見たと、居合わせた教師は口にした。そして教師もまた、内股になってその場を離れた。

だからといって彼女が善悪関係なく、誰彼構わず鞭を振り回すのかと言ったら、別にそういうわけではない。良い子には褒美を、悪い子には罰を。もっと悪い子には鞭を。敵には死を。つまりはそういうことだ。分別はついているし、彼女だって必要以上に誰かを傷つけたいわけじゃない。

だが忍務となると話は別だ。倒さなければいけない敵には容赦なく鞭をふりおろし、どうしても口を割らない者は締め上げる。踵の高い足袋は拷問用。此れで男を踏めば良い声で啼くと、彼女はそれを愛履していた。サディスティックな性格は生まれつきのようで、彼女曰く、「物心ついた時にはすでに鞭を握っていた」そうだ。彼女が拷問に当たった敵は、彼女の拷問に致し方なく口を割ってしまうか、最悪の場合、新しい扉が開かれてしまうこともしばしばある。そりゃぁ言わずとも解るだろうが、鞭以外の方法だっていくらでもあるわけで。彼女を追ってくのたま教室に入ってきた人間には制裁を。それすらもまた、彼らのご褒美になってしまうこともあるのだが。

美しい見た目に騙されて近寄る町の男も多い。初対面で名を名乗られても、何かを贈られても、茶に誘われても、彼女はそんなものに興味はない。名などどうでもいい。贈り物などいらない。茶など自分で淹れた方が美味い。どいつもこいつも鼻の下を伸ばしやがってと、町に出ても尚追いかけてくる男には、懐に忍ばせておいた鞭を振り回す。


「女の尻を追いかけるなど男のやることじゃないわ!恥を知りなさい!!」


遠くから山彦する鞭の音が耳に入れば、自然と背が正されてしまうのは、もはや忍術学園の生理現象ともいえることである。



時は遡り丑の刻。彼女は今まさに、拷問の真っ最中である。

「誰が寝ていいと言ったのかしら。顔を上げなさい」

髪を掴み顔を上げ、彼女は苦しそうな顔をする男に昂揚する心を押さえられずに

「目を瞑るんじゃない!私を見なさい!」

その体に鞭を入れた。

「い"…っ!!」

ぱっと髪を離して鞭を振るった。垂直に飛んでくるその痛みに男はぽろりと涙を落とした。

「あら、痛いの?これぐらいで殿方が泣かれるの?女の様にめそめそと、情けないったらないわ!」

再び振り下ろされた鞭は綺麗に背中に入り、男は痛みに身体をびくつかせた。この反応を待っていたと、春日は妖艶に微笑み鞭を手繰り寄せ、倒れこむ男の腹につま先をいれ、ごろりとその体を上向きに変えた。男はもう限界だという顔をしているが、敵に情けなどかける必要は毛頭もない。この男が落ちれば他の連中だって芋づる式だ。春日は横で怯えるこの男の仲間に視線を向けたのだが、その鞭があまりにも狂暴だということを理解したのか、その視線ですら男たちの気を乱すには十分すぎる脅しだった。

だが、ついに怯えから体を震わせている者が一人減った。

「…プロの忍者が、鞭に悦ぶの?女に罵られて興奮しているの?いやぁね、本当に見ていられないわ貴方本当に男のクズね。女に罵られて、喜んで、叩かれて、喜んで。この豚野郎。喋れるなら口を開きなさい。鞭が欲しいなら声を出しなさい。「私は醜くて汚らしい下郎の豚です」と言いなさい。あぁそれか、貴女のせいでこの履物が汚れてしまったわ。舐めて綺麗にしなさい。それができたら、もう痛い思いはしなくて済むわよ?どうする?早く選びなさい。私を待たせるんじゃないわ」

横で怯える別の者の首へと鞭を伸ばし、引っ張り床に叩きつければ、土下座をするような体勢の男に彼女は腰かけた。寝転び拷問にかけられていた男の顔の前に足を伸ばし履物を伸ばしそう言うのだが、男は彼女の目を見つめ息を荒げるだけで、それに舌を伸ばそうとはしなかった。

「そう、つまり、この私のいうことが聞けないという事なのね」

つまりこの男、新しい扉を開いてしまったわけでありまして、





「豚のくせに随分ご立派な態度じゃない。…それじゃぁ、良い声で啼きなさい」




戻れぬ道を、歩き始めたわけでありまして。
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