「小平太先輩お助けを!」
「何だ!?どうした!?敵襲か!?」

「母上から再びお見合いのお手紙が!」
「何!?くそこんなものっ、こうだ!」
「素敵!なんて男前!」

私が持って来た手紙を、七松先輩は筒ごと上から拳を振り下ろし破壊した。さすがの力。手紙の地面にめり込み破れてしまい、もう内容を確認することすら難しい状態になってしまった。

最近母上からよく来るのだ。学園から戻り家の跡を継ぐためにやれあの殿方と見合いしろだのあの殿方と見合いしろと。聞いたことのないような城の聞いたことのない殿の名前を聞かされる私の身になって欲しい。私は七松小平太先輩という素敵な恋仲に当たる殿方がいらっしゃる。生まれて初めての恋人に、私は浮かれてご両親に報告の手紙を送ってしまった。それがいけなかったらしい。その手紙を送った後日から、母と父からの見合いをすすめる手紙が頻繁に届くのだ。もしや小平太先輩の紹介手紙を見て気に入らない部分でもあったのだろうか。なんでこんなに見合いの話をすすめるのかしら。私には小平太先輩しかいらっしゃらないというのに。

「小平太先輩、私はどうすればよいのでしょう…」
「何を言う!名前には私がいるではないか!迷う事などあるものか!」
「し、しかし、…こうも両親からしつこく手紙が来るというのが初めての事でありますから…」

そう、今まで滅多に手紙を送ってこなかった親が、こうも頻繁に送りつけてくるという事自体が珍しい。跡取りとはいえ私には立派な兄がいる。今年子宝に恵まれたが残念ながら女子だったようで、家督を継がせるには男が欲しいのだとみっともなく父上がごねているらしい。兄上は己の子供が女児であろうと男児であろうと名字家を継がせるといってきかない。おそらくそれで、白羽の矢が私に当たったのだろう。

「……わ、私は、学園を辞めることも、小平太先輩から離れることも考えられません」
「そう手紙に書けばいいじゃないか」
「もちろん書いております!思いの全てを文に綴っているはずなのですが…!」

両親には、微塵も伝わっていないようだ。

なぜここまで小平太先輩という存在がいるのに見合いなんかすすめてくるのか。不思議で仕方ない。姫がいるのなら姫に家を継がせればいい。私にはくのいちという夢があるし、小平太先輩の御側に仕えるという使命もある。そう簡単に家になんか帰るものか。そう、思っているのに…。


「名前、お前には私がいるだろう?それでいいじゃないか」
「そう親にも伝えております。それなのにこのような手紙を…」

「うーん、私が気に入らなかったのか…」
「そのようなこと…!」


ない、とは言い切れない。兄は大層物静かだが文武両道。私からしても憧れの存在であった。そんな兄とは真逆の小平太先輩。暴君と呼ばれる暴れん坊で、成績は下の下。だけど私はそんな小平太先輩に惚れ、想いを告げ、今や私の想いよりも小平太先輩からの想いの方が強くなっておられる気がする。ありがたいことだけれど、嗚呼、どうして母上たちは解って下さらないのかしら。


「…うん!よし!良い事を考えたぞ!」
「はい?」

「今度の休み、お前んちの母ちゃんと父ちゃんに逢いに行こう!」
「なんです!?」

「手紙で駄目なら直接逢いに行くまでだ!んで、私という存在を認めてもらおう!」
「む、無茶です!父上は頑固な上に人の話など…!」

「名前!細かいことは気にするな!私に全て任せておけばいい!」
「まぁなんて男らしい!一生ついていきます!」


「そうだ!そうして名前は私の嫁に来ればいいんだ!」
「なんですって!?」

「おぉそうだ!それも親に言いに行こう!そうすれば私とお前の事を認めてもらえるかもしれないな!」
「お、お話が少々飛躍しすぎではありませんこと!?」


「名前!」
「はい!細かいことは気にしません!一生ついていきます小平太先輩!」

「おうそうだ!それでいい!」


いつだって私のお話はお聞きにならない。だけど、小平太先輩の意見が間違ったことなんて今まで一度もなかった(はず)。小平太先輩が両親を説得させるというのなら、私は横でそれを応援するのみ。小平太先輩がお嫁にもらっていただけるのなら、私は黙って小平太先輩の背を追うだけよ。そう。私はそれでいいの!お見合いなんかしてたまるもんですか!


「名前!」
「はい小平太先輩!」

「改めて言うぞ!これ本気だからな!」
「は、はい!」

「私と結婚しよ!」
「よ、喜んで…!」


「何!?声がち小さい!」
「よ、喜んで…!」

「もっと大きな声で!」
「喜んで!」

「もっとだ!」
「喜んで!!」

「腹から声出せ!委員会の時の様に!」


「結婚してください!!」
「不束者ですが!!」


「……おや?」

「よし!じゃぁ今度の休みはお前の家までイケドンでマラソンしながら行こうな!」
「ちょ、今なんか逆だったんじゃ…!あ、はい!細かいことは気にしません!一生ついていきます!」


嗚呼なんて男らしい素敵な旦那様!

その背中を私は一生追いかけ続ければいいのですね!

愛しております!世界中の誰よりも!









私と結婚しよ!

「うん」か「はい」で返事くれ!








「やっと帰って来たかバカ娘!」
「その御方がお前の夫となる御方なのね!」

「おや?父上?母上?」

「これだけ手紙を送り続ければ怒って彼を連れて帰ってくるに違いないと思っていたんだ!」
「小平太さんとおっしゃいましたね!どうかうちの娘を宜しくお願い致します!」

「はい!いけいけどんどんで幸せにします!」

「嗚呼頼もしい御方!」
「これで我が家は安泰だな!」


「小平太先輩私どこからつっこんでいいのでしょうか!」

「細かいことは?」
「はい!気に致しません!」


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