「俺の嫁さんになってくれ」
「ちょっと待って展開が早すぎるし出来ればこういうときは縄じゃなくて指輪が欲しい」

あのな、と私の前に正座した作兵衛は緊張した面持ちといった表情だった。ただ私の家に遊びに来ていただけだというのに何を言い出すかと思いきや、よ、嫁とな…。

「いやなんかもうこの縄が無理」
「む、無理!?お、俺の嫁になるのは嫌だっていうのか!?」
「あのねぇこれはたからみたら新手のプレイにしか見えないから!一体どういう心境でその台詞言いながら縄出せるわけ!?」

まだ学生だし!と言えば作兵衛は頭をがしがしとかきながら姿勢を元に戻した。何を血迷ってそんな台詞が吐けたのか、疑問である。

この縄は左門と三之助の迷子縄。学校が休みあの二人とも遊ぶ予定がないのにバッグの中に迷子縄が入っているというのはもはや病気の域だ。一度精神科に行くのを進めるのと同時に左門と三之助を速やかに眼下に連れて行くべきだと思う。あの二人がいないのにあの二人の事を考えているのも私はどうかと思う。ホモじゃん。私じゃなくてあの三人と付き合えよ、と何度言ったことか。

そして此度のこの感じ。もう先は読めてる。どうせ私と結婚すれば左門か三之助どちらかの迷子縄を任せることができるとでも考えているのだろう。実に不愉快!私はあの二人のお母さんじゃないのよ!

「どうせ私と結婚しておけばあの二人の面倒役の肩の荷が一つ降りるとでもおもってるんでしょ!」
「……」
「否定しろや!」

だが作兵衛が此処まで思い詰めるのも無理はない。委員会で左門や三之助がいなくなれば放送で呼び出しがかかるのは必ず本人ではなく作兵衛だ。連れてこいと委員長に命じられ自分も部活やら委員会があるのにあの二人を探しに学園中を駆け回らなければならない。そして恋人の誼でと委員会中の私も一緒に駆り出されるのだ。あの二人には犬用ハーネスを装着しておこうと何度言いあったことか。人権を尊重したのが間違いだった。あいつらは犬だ。遠慮なんかするべきではない。

「確かに私はもう結婚できる年齢になったけど…作兵衛はまだじゃん…」
「だから、今から俺と将来を誓い合って欲しいんだよ」

「重い!!あの二人だって彼女とか作るから大丈夫だよ!そしたら彼女さんにその縄渡して!私じゃなくて!作兵衛ちょっと考えすぎなんじゃないの!?頭休めなよ!!」
「今から何とかしておかねぇとヤベェのは目にみえてんだろうが!」


思わず涙目になる作兵衛を抱きしめてよしよしと頭を撫でてやった。一体何が彼を此処まで悩ませrあぁ左門と三之助という存在だった。


はぁああと深いため息をついて作兵衛の頭は私の膝の上に収まった。つけていたBGMもまったりとしたジャズに変わり、作兵衛はようやくご乱心から解き放たれたのであった。

「落ち着きなよ作兵衛。休日まであの二人の事考えることないってば…」
「いやでも今ケータイが鳴ったら確実にあいつらのことだぞ…!」
「考えすぎでしょう」
「緊急用にって潮江先輩と七松先輩と連絡先交換したんだ……!かかってくるときはあいつらのことだって決まってらぁ…!」

「…あのねぇ作兵衛、今あなたの側に居るのは誰?」
「…名前、だけど…」

「そう、左門も三之助もいない。側にいるのは私だけ。それに今日は学校は休み。あの二人の事は考える必要ないんだよ?」


其処まで言って私の顔は熱くなる。わ、私がこんなに嫉妬心を出すなんて珍しい事だ。作兵衛も顔を赤くしたし、おそらく私の言わんとすることは理解してくれたのだろう。ひざまくらの姿勢から慌てて起き上がり、「す、すまねぇ」と再び正座にもどった。

「い、いや私も少しは言いすぎたけど…」
「いや、俺もちょっと己を責めすぎた…。悪かったな名前」

「いいよ。それに正直、さっきのプロポーズも嬉しかったよ」

プロポーズ。その言葉に作兵衛は再びぼふっと顔を茹蛸の様に赤くさせた。気が混乱していたとはいえさっき作兵衛は私に向かって結婚してくれと言ったのだ。聞き間違えるわけがない。作兵衛は確かに、私に向かって嫁になってくれといったのだから。あぁ録音でもしておけばよかったわ。

「いや!そ、あ、あれは!」
「うん解ってるよ冗談だって。でもやっぱりね、嬉しかった」

「ち、違う!そうじゃなくて!お、俺は本気で、名前を嫁に貰いてえと思ってるんだよ!」
「…え、」


「いや、ほんと、俺、その、あ、あいつらのことばっかりじゃなくて、め、迷惑ばっかりかけてっけど……!でも!やっぱり、名前とは、その、ま、迷子縄とかじゃなくて…ずっとこの手、繋いでいてぇと思うわけだし…」


がしがしと頭をかきながら、冷や汗を流して、顔を真っ赤にそう言ってくださるのが、私の未来の旦那様だと考えると正直不安でいっぱいだ。

それじゃぁ私はあの二人を優先されたって許せるような、


「うん。それで?」

「だ、だから!お前の事は、責任もって俺が幸せにするから!だ、だから!」


広い心を持たなくなっちゃ。







俺と結婚してください!

この手は絶対離さないからな!







「うん、お頼しますよ旦那!」
「…!お、おう!任せとけ!」

「だけど縄じゃなくて指輪がいいー!」
「か、買ってやる!それはちゃんと買ってやるから!」


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