たとえ敵が暴君でもオンラインでなら勝てる気がするんです | ナノ


▼ Mission4:暴君以外の不良から逃げよ

「え?嫌?普通そこごめんなさいじゃないのか?」
「ごめんなさい!!!!!!嫌です!!!!!!!!!!!」

「おいおい!なんで二回言ったんだ!なはははは!!」

今の七松先輩の発言が本心だったとしてもからかいだったとしても、絶対に無理。無理というか、嫌です。七松先輩とお付き合いとか、絶対に、命持たぬぇええ!!

「なぁ本当に嫌か?私今の割と本気だったぞ?」
「ハァッッッ!?!?!??!?」

「初めてなんだよ!私の怪我、痛そうって心配してくれたやつ!お前良い奴だな!」

そう言って七松先輩は、嬉しそうな笑顔でさっき私があげた絆創膏をぺたりと貼った。心配されたのが初めてとは、なんとも意外。こんな痛そうな怪我を見て他の人は何とも思わないのだろうか。もしかしたらワイルドだなぁとかカッコいいとか思ったりするのだろうか。いやいやいや、それはちょっとないわ。どうみたってこの怪我痛そう。ささくれとかそういうレベルのもんじゃないし、あきらかに切り傷。むしろ絆創膏も貼らずにこんな傷を晒している方が凄いと思えた。私すぐ市販の医薬品に頼るから。ただし病院にはいかないけど。

心配してくれた如きで彼女にならないかと発言する七松先輩も七松先輩だが、それよりもっと気にしてほしいことがある。それは後輩のとはいえ此処は私の教室だ。私が日々生活をする教室。仲のいい友人がいるわけでもなし、学園の人気者がクラスのクソブスヲタ眼鏡なんかに告白をしているというこの状況はあってはならない事なのだと、七松先輩には重々理解していただきたい。こ、こいつはまずいぜ。もしかしたら私明日から席ないかもしれない。い、いじめ的な意味で…。

「じゃぁさ、あれ、ゲームしよ!今此処で!」
「は、はい?」

「私が勝ったら、私と付き合ってくれ!」

「Nooooooooooooooooooooooooooo!!!」

七松先輩は私の前の席の机に腰掛け、バッグからゲームを取り出して電源を入れていた。

「おーい七松、学校でゲームやるな。没収するぞ」
「あ!厚着先生!ちょっと見逃してください!私の人生かかってるんで!」
「何言ってんだお前」

七松先輩が提示した条件にOKサインも出してないし、むしろこんなところで私がゲームを学校に持ってきているという事実を、クラスの連中に知られたくなかった。っていうかみんな早く帰りなよ!もうHRとっくに終わってんじゃん!見せもんじゃねぇですことよ!


「あああああああああああああああああ負けた!!」
「………」


だけど結果は、解っていたも同然。私がこのゲームで、負けるわけがないのだから。剣を鞘におさめ足音を立てて私のキャラクターは立ち去って行った。だって、初めて七松先輩と会った時も勝って、昼休みも勝負したけど、中在家先輩にも勝ち、七松先輩に至っては圧勝だった。今のさっきでレベルが格段にあがるわけでもなし、私に勝てるわけがない。

項垂れる先輩を見て、実際問題これは凄い事なのではないかと改めて感じた。だって、喧嘩強い恐れ知らずの暴君先輩に勝ってるって、たとえゲームでもなんだか凄い事の様な気がする。しかも先輩は女子の憧れでもあり男子の憧れでもある。そんな七松先輩からまぁ冗談だろうけど告白され、ゲームに勝ったら付き合ってくれというベタな展開を申し込まれたが、残念ながらその夢は叶わず。っていうか、私がボコボコにしたわけでありますが。

「手加減してくれよ!」
「いやだってそんな…」


「日和は、私の事嫌いか!?」


「………えぇっと……」

若干涙目で問うこの質問に一番適した返答は、一体なんなんだろう。

別に七松先輩をジャンルでわけるなら『嫌い』という枠に入れるわけではない。良い人だって言うのは解るし、平くん見てる限り後輩からも慕われているんだなっていうのもよーく理解できる。ゲーム如きでこんなブスヲタに絡んでくれる七松先輩は本当に良い人だとは思ってる。モテるだろうし、体育委員長だし。体育委員って委員会の花形じゃないか。体育祭では最前線。球技大会では実行委員。各学年の体力自慢が集まる委員会の長だもの。かっこよくない、わけがない。

だからといって、私は七松先輩に「好き」か「嫌い」かの感情を抱いたことなど無い。早い話「興味がない」のだ。いや、今の言葉は訂正しよう。「興味がなかった」のだ。

だって関わったことなんてただの一度もなかったわけだし、今日の休み時間にあそこでゲームをしなければ七松先輩と言葉を交わす事など、ただの一度もなかっただろう。偶然出会って偶然同じゲームをしていたから勝負し、向こうが勝手に意気投合したと思い込んだのか昼飯に誘われ、放課後の遊びに誘われ、まさかの告白。一息位つかせてほしい。最近の少女マンガだってさすがにこんな急展開でカップル成立はありえない。だってまだ七松先輩と言葉を交わしてから6時間もたっていないのでありますぜ???こんな短期間で「好き」か「嫌い」のどちらかを選べなんて言われたってそりゃぁさすがの私も困るわ。

ただ一言、私が言える一言は、


「………苦手、です…」


この一言に尽きる。

「…お前は私が苦手なのか?」
「………まぁ…」

きょとんとしたような目。まさかそんなこと言われると思ってなかったんだろう。七松先輩は驚いたように姿勢をただし、平くんと綾部くんに至っては全身の血の気が引いたような顔をしていた。というより男子はみんなそんな顔。女子は信じられないとでも言いたそうな顔だ。

「お前意外と物事ハッキリ言うな」
「あしdじゃjのあsんdふぁ」

「私の何が苦手だ?教えてくれないか?」

ゲームをバッグにしまいながら、七松先輩はそれでも私の目を見続けた。

「…………茶髪…」
「これか?日和染めてるの嫌いなのか?」

「…ぴ、ピアス、とか………」
「日和開けてないもんなぁ」

「……………け、」
「け?」


「…け、んか、……とか………ぶ、物騒ですし…」


う、うわぁあああああああああああああああああああああああああ私は一体天下の七松小平太様になんという暴言を吐いているんだ!!七松先輩が言いたいことあんなら言えよみたいな顔するから思わず口をついでぽろぽろ言っちゃってるけどこれ確実に私の寿命縮めているような気がするんですこれってやっちゃいけないことでしたよね七松先輩に逆らうって自殺行為もいい所ですよねあああああああ自主退学の準備しよそうしよ!!私の人生は今詰んだ!!


「そっか」
「…ア、ア、……エ…!」

「うん、解った。ありがとう日和!じゃぁまた明日な!また明日これやろうな!バイバイ!」

「ア、…シャス……!!」


ビシャンと音を立てて、七松先輩は教室から去っていってしまわれた。静寂する教室。集まる視線。死にかける私。

終わった。また明日覚えてろよクソファッキン豚野郎って意味だったんだと思う。私の人生こんな簡単に終わるもんなんだ。死んじゃうんだ。きっとここら一体の不良高校生が金属バッドとか鉄パイプとか持って教室に襲撃しに来るんだ。そうだそうに違いない。まじで、本当にもう、無理。あの先輩一体何考えてんだ。こんなゲームしか脳のないオタクと付き合って何が楽しいって言うんだ。頭おかしいんじゃねえのかしら。蛆とか湧いてるかもしれない。

……でも冷静に考えてみて、私、七松先輩から告白らしい告白は、されてない。付き合わないかと問われただけ、じゃないか。好きとかそういうこと、言われたわけじゃない…!

…………そうだよ!そうじゃん!私別に七松先輩から告られてないじゃん!聞かれたからNoと答えただけじゃん!そうだよ私何も悪くないじゃん!悪いの七松先輩だよねそうだよね!こんな教室で爆弾落とした七松先輩が悪いんだよね!!きっとそうだよ!!うん!!そうってことにしとこ!!そうでもしないと私の身体の震えが収まらないと思うから!!!膝いい加減に笑うの止めろ!!帰りたいんだよ私は!!!

「あ、お、おい、久保」
「私何も悪くないから!!!!」

「落ち着きよ久保ちゃん」
「私んいあksまだsびkっこだsbんd!!!!!!!!!」

明日不良の軍団がバスターコールのように押し寄せたら先手を打つことにしよう!!そしたら私から切腹しよ!!うんそうしよ!!グッバイみんな!!また明日ね!!!また明日も教室の隅っこでオタクやるから安心してね!!私別にみんなの七松小平太様奪ったりしないよ!!!!










そう、思ってたのに。











「Oh,ジーザス…」


上履きがねえええええええええええええ!!

なんつー露骨な嫌がらせしがやる!これイジメじゃんか!私の下駄箱には上履きの代わりに大量の虫の死骸が詰め込まれていた。虫は比較的平気な方なので気持ち悪いとは思わなかったが、上履きが無くなっていたことにショックだっt「おい」

「はい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

誰かから肩をぽんと叩かれて、瞬時に下駄箱をバンッ!と閉めた。そこにいた人は私の下駄箱の名前を一度見て、私の事を心配そうな目で見つめた。

「ア、エ、…ドチ、ラ…」
「これ…お前のか?」
「エ、ア!ア、…………」
「…いじめられてんのか…?大丈夫か?」

この校章は一つ上のパイセン。眉毛を下げて手にぶら下げていたのは、私の上履き。無残にゴミ塗れになってるけどギリギリ学年の名前が見えた。おそらくこのお方はそれを見つけて届けてくださったのだろう。素敵な銀髪先輩だ。だけどこのピアス!髪色!傷!こいつぁ不良だぜ!怖いんだぜ!!でも上履き届けてくださってあざーーーッッ!!!

「あ、え、そ、その、だ、大丈夫、デス…」
「……此れの何が大丈夫なんだよ」

「あっ、」

パカリと下駄箱を開けられて中を見つめる銀髪先輩は怒りと心配そうな顔でそれを指差した。Gやらバッタやら蝶やら。なんだかわかんないけど、よくこんなことする体力あったなぁ、これやった人も。はははと適当に受け流すため薄く笑うと、銀髪先輩はちょっと待ってろ!と何処かへ走り去った。上履き、ゴミぐらい洗えば何とかなるかなとも思ったけど、銀髪先輩が戻ってきて、手にしていたのは靴ひものついていない比較的きれいな上履きだった。学年カラーは一つ上の学年色。

「これやるよ。サイズ間違えて合わなくて、ちょっとしか履いてねえんだわ」
「は!?え!?い、いいですよいいですよ!!別に、そ、そんなん…!」

「いいからいいから、靴ひもはお前のを使えばいいだろ?っていうか、俺の名前書いてあるけど気にすんな!そんな汚えのよりマシだろ?」

シュルリと手際よく私の上履きから紐を抜き銀髪先輩の上履きに差し替えた。……確かにゴミ塗れで気付かなかったけど切り傷もあるわ。こんなくだらないことしてないで七松先輩に直接アタックすればいいのに。…勝手に犯人女だと思い込んでるけど、いやまぁ、女でしょう。うちのクラスのビッチ達だよね。きっと。

「良し!これでいい!ほら、これ履いてけ」
「な、なんと、お礼を申せば…」
「いいっていいって!あ、その代わりにこの死骸貰ってっていいか?」
「……はぁ…?」

「知り合いに蛇飼ってるやついてな、こういうのエサになんだよ。どうせ捨てんだろ?」
「ア、ア、エ、ドウゾ……」
「悪いな!ありがとう!」

バッグから小さいビニール袋と取り出し銀髪先輩は慣れた手つきで死骸を回収していった。蛇飼ってる知り合いかぁ。凄いな、お逢いしてみたい。ハンコックみたいな人だったらどうしよう。でもきっと蛇を飼ってる知り合いがいるというのは嘘なんだろうな。そういって虫を撤去してくれたんだ。素敵な人だ。銀髪先輩がビニール袋をギュッとしばると、下駄箱の向こうから「ハチ」と声をかけた人がいた。これまた派手な先輩で、私はこの先輩を知ってる。ドレッドヘアーが印象的過ぎて名前を憶えているだけで、これといって面識はないけれど、尾浜勘右衛門先輩というプレイボーイ。うわ凄いいい匂いする。これが男の色気ってやつか。ゲーム片手にこちらに近寄る先輩は、画面を見てハッと顔を上げたえ?何?私?

「日和?日和ってもしかして君の事?七松先輩と同じゲームやってる?」
「ファッ!?」
「あぁ、七松先輩が言ってた日和ってのは君の事か!俺もこれ七松先輩からオススメされてさぁ」

ゲームの画面は見慣れた画面。【 日和 さんと 勝負 しますか ? 】という画面が出ていた。あ、そうだ。バスの中でやってて、電源付けっぱなしのままバッグに入れちゃったんだった。参った参った。そりゃ勝手に通信されちゃいますよね。観念してゲームを取り出し、尾浜先輩は私の画面を覗き込んで「やっぱり!」と言った。

「で?なんでハチが一年下駄箱に?」
「それが赫々云々でな」
「……へぇ、いじめ」
「オゥンッッ」

尾浜先輩がカラリと棒付飴を口の中で鳴らして、少々凶悪な顔で周りをキョロキョロと見回した。

「…うん、七松先輩に貸し作っておくのも悪くないな」
「エ、エ、」
「じゃぁね日和ちゃん。今度勝負しようね」

ぽんぽんと頭を叩いて、尾浜パイセンは姿を消していった。

「七松先輩と知り合いだったのか。なんだ俺、七松先輩に貸し作っちゃったか」
「ア、ヤ、ソノ、……」

「ほんじゃ俺も行くわ。なんかあったら遠慮なく言っていいからな!」
「ア、ソノ、本当に、あ、えっと…」
「いいからいいから!気にすんな気にすんな!」

じゃぁな!と手を振って、銀髪パイセンも去っていった。


「二年二組…竹谷、は、八左ヱ門、先輩……」


古風で素敵なお名前だ。竹谷先輩と仰るのか。あんな爽やかで優しい先輩がいらっしゃるとは。

いじめ如きで折れるような軟な心は持っていない。が、これはさすがに嬉しかった。学年カラーは違う中古だが新しい上履きに足を通して、私は教室へ向かった。





教室のビッチが五人、頬を腫らして泣いている姿を見て、尾浜先輩だけは敵に回してはいけないという事だけを悟った。




尾浜せんぱぃこゎぃ。。。








Mission失敗

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