たとえ敵が暴君でもオンラインでなら勝てる気がするんです | ナノ


▼ Mission3:暴君からの処刑執行を阻止せよ

教室に戻ったその瞬間、教室の空気が歪んだような気がしたのは確実に気のせいではない。っていうか、私今、おそらくクラス中の視線独り占めにしてる。か、勘弁してほしい。コミュ障が2つ以上の視線に耐えられると思っているのならそれは大きな間違いだ。今この瞬間、足の気を抜いたら一気にぶっ倒れる自信ある。こ、怖い。私が一体何をしたって言うの。クラスのビッチがこっちをみてイラッとしたような顔をしているし、男子はなんと表現していいか解らない表情をしている。な、なんなの。私これからいじめられるの。ど、どうしよう。どのタイミングで退学しよう。

「久保ちゃん」
「エッアッアッ」

「さっき食堂で七松先輩と中在家先輩とお昼してたんだって?」

もしもしロシアさん?目の前に喋ったことのない美形が現れたときの対処法教えてくれる?うん、今必要なんだ。

「ア、エ、ア、エット…」
「"VIP席"でお弁当広げてたって。立花先輩が言ってたの」

名前なんだっけ。えっと。あ、綾部くん。確か綾部くん。綾部なんとか三郎とかいう感じの名前だったはず。綾部三郎。いや、綾部……郎。なんとか郎!そう!なんとか郎!そう!其処かが大事なのに!忘れた!おかしい!何だっけ!何も思い出せない!綾部くん!もう綾部くんでいい!綾部くん!綾部くん!このイケメンは綾部くん!それで隣にいるのがあういsdがjbkdくん!もう無理何も思い出せない!!

「ほ、本当なのか久保…」
「え、あ、は、はい………」

静まる教室。恐る恐ると言った感じで、ばdplgだvbくんが聞いてきた。た、平くんだ。そう平くん。落ち着きなさい私。クラスメイトの名前も思い出せないだなんて若年性にも程があるわよ。っていうか、立花先輩ってあの美人の立花先輩?生徒会長の?立花先輩とか半径15m以内に近寄ったことなんかないけど、いつ私の姿を見たのだろう…。っていうか、なんで私の事知ってんだろう…。せ、生徒会長だからかな……。
色々聞きたいことはあるしこの教室の空気もなんなのか知りたいけれど、私は一旦席についた。予鈴が鳴り、あと五分で授業は始まると言うのに、教室の空気はそのままだ。わ、私が一体何をしたのだ…。

「…久保」
「ア、ハイ…」

「お前、七松先輩と付き合っているのか?」
「は、」

席に着いた私の机に、平くんと綾部くんはそのままくっついてきた。窓側の私の席に手をつき、平くんはとんだ爆弾を落下させた。私と、七松先輩が付き合っている????平くんは何語を喋ってるの?日本語?英語?フランス語?古代バビロニア語?誰と私がなんだって?私と、ハバネロさんが、お付き合いをしている????

「イイエ、ソレハ、アリエナイ、デ、ス……」
「そ、そうだよな…。す、すまん、変な事を聞いた……」

あぁ、なるほど…。この空気の原因は私が七松先輩と食堂のVIP席で昼飯を食っていたのを目撃されたからか…。でも別に、食事を目的としたわけじゃなくて…中在家先輩も一緒にゲームやっていただなんて言えない…。ゲーム機持ち込みがバレたらあれだし…没収されたら嫌だし……。な、なんて言い訳すればいいんだろう。
私が七松先輩とも中在家先輩ともそのような関係ではないですと必死に口を動かし言い、一緒にお話をしていただけですと言っても、クラスの空気は歪んだまま、私は視線をかきあつめたままだ。女子からの目は多分嫉妬。男子からの目は解らないけど、女子の視線の怖さったらない。凄い睨まれてる。ワロタ。この学年の女子は3組の斉藤先輩に心奪われているのかと思っていたけど、やっぱり3年の先輩の存在はっょぃ。。。つまり、この教室には七松派閥が多いということでしょうか…。あああああああああああそんな強い(確信)女子を敵に回してしまったという事か!これなんて死亡フラグなんでしょう!む、無理!べ、別に私七松先輩とはゲームやってただけだから!特に何もないから!大丈夫だから!こんなデブス眼鏡オタ七松先輩が相手にするわけないから!安心してくだdsgさgyだあwwせdfrtgひゅじk!!


「おーーーーーい!!日和ーーー!!!」


「ン"ァ"ァア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"」

突然の出来事に私は腹からじゃなくて喉から変な声を出して叫んだ。今何処からか悪魔の雄叫びが聞こえた。びっくりして椅子をひっくり返すように立ち上がり戦闘態勢を構え周りをきょろきょろしてみたが、声の主の姿は見当たらない。今のお声は、なあななんんんあなあn七松てんぱい。

「……あ、」
「日和ー!!」

ウルトラマンのように腕を構え周りを見回し、視線がたどり着いたのは窓の向こう。向こうというか、下。グラウンドからぶんぶんと手を振る明るい髪の毛。太陽光に照らされ此処でも眩しいと感じたピアスの数。お、おう、ななまつてんぱい…。私には勿体なさすぎる笑顔で手を振る七松先輩の首根っこを掴んでグラウンドの真ん中へ歩いていく中在家先輩も、私の存在に気が付くと控えめに手を振ってくださった。ま、まずい。もう二度と関わらんと決めた先輩にこんなことされて…!またクラス中の女子に……!!

い、いやクラス中なんてレベルじゃねぇ!!あのクソハバネロ大魔王!!グラウンドからあんなに私の名前呼んだら全校生徒にバレバレじゃねか!!敵増やしてどうすんだ!!特定班に身バレするの秒読みクソワロ!!あの先輩どうやって殺そう!!

未だ私の名前を呼び手をぶんぶん振る七松先輩。中在家先輩はもう向こうを向いて七松先輩の首根っこを掴んで歩き始めているというのにな七松先輩は一向に私への手ブンブンを止めようとしない。平くんは横で深く頭を下げてるし。ど、どうにかして止めなければ。どうしようどうしようと悩み慌てていると、制服のポケットに女子力レベル1の小さい鏡が入っていることに気が付いた。私は何をトチ狂ったのか、太陽光を反射させ七松先輩を攻撃した。絶対人間にはやっちゃいけないって理科の授業で習ったけどあの人人間じゃないから大丈夫。だってその証拠に直撃したのにもかかわらず急にそんなことされて面白かったのか「うわっ!」と目を覆った後「なははははは!!」と大声で笑い始めたのだった。うわあああああああああああああああああああああこうかはいまひとつのようだ!▼


「日和ー!!授業終わったら!お前の!教室!いくからなー!!」

「くぁwせdrftgyふじこlp;!!」


ああああああああああああああああああああああああああああ私の人生終わった……!!これ教室で血飛沫上がるフラグ…!でも死ぬ前に密林からDVD受け取ってからにしたかった……!!!


「お前…!なんで七松先輩に喧嘩売ったんだよ!」
「やめてよ平くん別に私喧嘩売ったわけじゃなsdfたftyづぎぃすhじょ!!」
「死にたいのか!?」
「fjfさlkjmんkさcmk;!!!」

「およしよ滝夜叉丸、久保ちゃん泣かせて何が楽しいのさ」
「あ"やべぐんだすげで!!」
「おおよしよし。涙をお拭い。でも無理」
「んんんんんん!!」

平くんが顔色を青くし私の肩を掴んでぶんぶんと振った。七松先輩からの死の宣告をされ私の心拍数は上がりに上がり、涙がぼろぼろと零れ落ちた。こうかはいまひとつだったにしろ、七松先輩はおそらくあれに腹を立て私を殺しに来るんだろう。はたからみると平くんが私を泣かしているように見えてしまう。必死に涙を止めようと思うのだがこの先に起こることを考えると怖くてたまらない。流れる涙を乱暴にハンカチでふき取る綾部くんの紳士さったらない。でも綾部くんも助けてくれねえんだな。おっけ了解。把握した。この教室に私の味方はいない。

「なんだと喜八郎!この成績優秀種目美麗であるこの体育委員会副委員長の平滝夜叉丸がクラスメイトのこの久保日和を泣かせたような言い草ではないか!確かに私のこの美貌の前に女子たちは嫉妬し涙を流すかもしれないが今それとこれは別の話だ!久保が七松先輩を…!」
「怒らせたわけではないでしょうどう見たって。大丈夫だよ。七松先輩だって無駄な殺生するような御人じゃないから。安心しなよ久保ちゃん」
「ア、エ、ア、ハ、ハイ……」

本鈴が鳴り響き、綾部くんはじゃぁねと言って自分の席へ戻っていった。あれ、平くん私の隣の席だっけ気付かなかった。ごめん。先生が授業始めるぞーと言いながら入ってきてくれたおかげでやっと教室はいつも通りの空気に戻った。戻ったというか、せざるを得なかった。授業が始まるわけだし。しかし時というのはとても残酷なもので、今日の午後は私の好きな教科だったため授業が終わるのはあっという間の出来事だ。古文、歴史と授業を終え、私はすっかり気を抜かしていた。ふと外を見て思い出す昼休み終了後のあの惨劇。死へのカウントダウン。そうだった。放課後七松先輩此処に奇襲かけにくるんだった。私を処刑しに。それを思い出し私の両足がガガガガガガと音を立てて激しく震えだした。まずい。七松先輩に殺されるんだった。私は何を呑気に授業なんか受けていたんだ。

「お、おい久保、ひ、冷や汗というレベルじゃない冷や汗が…」
「オ、カマイナ、ク」

七松先輩に殺される。くそ!ゲームの中だけなら私が一番最強だというのに!あの後中在家先輩とも勝負したけど私の圧勝だった!七松先輩とその後5回戦ぐらい戦ったけど圧勝だった!くそう!ここがゲームの世界なら!私は剣を振り回して勝ってたのに!こんなに怯えることなく戦いを挑めたのに!!

殺される前になんとかせねばと思い考え出した答えが、HRが終わった直後にこの教室を飛び出し家に直行しようという結論。そうだそれがいい。それももしも何かあったら飛びこめるように遠回りにはなるけど職員室の前を通ろう。そうだそうしよう。殺されかけたら飛び込めばいいんだ!先生が帰りの挨拶をしている間、私は必死に忘れ物がないか確認した。筆箱良し!携帯良し!愛しのPSPちゃん良し!!よし!帰れる!忘れ物は無!


「おーい…あれ、」

「あ?おい七松まだHRだぞ。誰かに用事か?」
「あ、すいません先生!外いますね!」


ファーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーック!!!まさか先制攻撃されると思ってなかったぜーーーー!!!

逃げ場を失った私は頭を抱えて机に伏せた。七松先輩がっつり私の事見てた。もうだめだ。逃げられない。腹をくくろう。私の人生、長いようで短かったな…。起立、礼とやる気のない日直が言い、先生が教室の扉を開けると、クラス中がガタガタと帰宅モードに入った。じろじろと私を見つめる女子たち。嗚呼空耳じゃない。聞える。「なんであいつ?」なんで声。あれは確実に私を嫌いと認識した女子の声だ。こ、怖い。話したこともないのに嫌われるとか、こ、怖すぎ…。

「おい日和!」
「エエェェエエ!?!??!」

「お?まだ帰らないのか?」
「アゥッ、エ、ァ、その…」


「あのな!留三郎もあのゲームの仲間に入れてほしいんだと!この後私の家でゲームやるんだけど来ないか?」
「はぁっ!?!?い、いいいいいいえ遠慮します!!!!!」


「なんで?長次もいるぞ?」
「いいですいいですけけけっけkっけk結構です!!」

まだ教室には随分とたくさんのクラスメイトがいたようで、七松先輩が私なんかと話をしているのを信じられないという目で見ていた。学園の暴君と呼ばれた七松先輩が、ブス眼鏡とゲームの話をして、あろうことか家に誘うだなんて。これ、なんて乙女ゲームなの?っていうかどう考えてもバッドエンド待ったなしじゃない?この後どんなオチが待ってるの?

「えぇー来ないのか?私もう留三郎に日和誘うって言っちゃったんだが」
「ヴェッ!?あ、や、その、きょ、今日ば、ば、そう!バイトなんです!バイトがあるんで!この後!あと30分後ぐらいに!」
「何?バイト?そっかーそれなら仕方ないなぁ」

バイトなんてしてないです本当にありがとうございました!!!!!

また今度なと言って立ち上がった七松先輩に次はねぇよと訴えた。


「あ、そうだ。じゃぁさ、日和の連絡先教えてくれ!」
「アヴゥ」

「また誘うから!そしてら留三郎と長次と一緒にやろうな!多分文次郎とかも来ると思うし!」


錚々たるメンバーの名前が七松先輩の口から出てきて、私は気を失いそうになった。まさか、用具管理委員長と図書委員長だけでなく、会計委員会委員長までもこのゲームをやっているだなんて。嘘だ。多分この流れじゃサタンと恐れられた保健委員長や生徒会長までも出てきそうだ。こ、怖い。私もうこのゲーム売ろう。こんなもののせいで私はクラス中を敵に回して島っ亜tンさだhじkll!!!!

ネジのイヤフォンジャックがついた黒いスマホを取り出したハバネロ先輩はほれ、と赤外線部分を突き出した。あぁ終わった。私はこれから先七松先輩からの死の宣告に怯えながら過ごさねばならないんだ。さようなら私の平和な人生。

おそるおそる受信モードにして先輩のスマホにケータイを向けると、【七松小平太 を本体に追加しますか?】と出てきた。私はさりげなく【いいえ】を押したのだが、「日和のも送ってくれ!」と言われたので私のさりげなくフェードアウト作戦は失敗に終わった。

「……あ、」
「ん?」

「先輩そこ…」

赤外線受信中、ふと七松先輩の逞しい腕に目がいった。関節付近にあった切り傷からプツプツと小さく血が出ているのに気が付いてつい指差してしまったのだ。出ているのか固まっているのかは知らないが、中々痛そう。

「あぁこれか!昨日喧嘩してな!」

ぎええええええええええ恐ろしい返事が帰って来た怖い。



「あ、あの、こ、れ、…よ、よかったら………」



私の手荷物の中でおそらくもっとも女子力が高いであろう持ち物、絆創膏の出番だ。アナログスティックが壊れたときはこれで指を補強していていただけ。いざという時の物だったのだが、そんな傷を見てほっとけない。っていうか、普通に痛そうだし。余計な真似をしたかと思ったのだが、七松先輩は驚いたような顔をしてケータイを引っ込めた。

「…くれるのか?」
「……い、痛そう…ですし…」

コミュ障の私がよくそんなことできたもんだ。褒めてあげたい。日和よ、良い子良い子。



「…なぁ日和」
「あ、は、はい!!ヒッ、あ、よ、余計な真似を致しましてgdひゃsjんだlk!!!」



「私と付き合わないか?」
「嫌です!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」






Mission失敗

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