カフェテリアセレナーデ | ナノ


それから数日して、デザインしたサンプルが上から下までフルで一着出来上がった。急ぎ難波ちゃんに写メを送り付けると「うおおおおおおおおお」と物凄い興奮した返事がかえってきた。即座に資料をまとめ撮影日を決め、彼女を此処へ招く事にした。

「五条さん!」
「難波ちゃん!来てくれてありがとう!」
「ご、五条さん…!わ、たしで、本当に大丈夫ですか…!?」
「大丈夫だってば!心配しないで!良い人たちばっかだから!」

指定した日付は丁度難波ちゃんも大学で特に大事な授業はないからとこちらへ来てくれた。さっそく部屋に招き出来上がったサンプルを見せると、彼女は大喜びでそれに腕を伸ばしてまじまじと見つめていった。

「本当に、本当にこれ着ていいんですか!?」
「逆にこっちからお願いします!!!」
「うわぁあ…!Tasogaredokiの未公開新商品…!凄い凄い…!」

着替え室から一度退室して自販機で飲み物を買いながら彼女を待った。しばらくして部屋から出てきた彼女はいつもバイトの制服だったからかなり新鮮に感じた。確かに一度私服を見たこともあるしここに来てくれたのも私服だけど、だけど、なんというか、特別な気分だ。自分がデザインした服を着てくれていると言うのは、これほどまでに嬉しい事なのか。

「君が噂の小町ちゃんか。よろしくね。私雑渡昆奈門」
「噂?あ、はい。難波小町と申します。宜しくお願いします!」

「ちょ、組頭余計な事は…!」

白ホリの部屋ではカメラが何台も置かれ確認用のモニターも設置されている。こんなこと初めてだから右も左もわからないと難波ちゃんは足をガクガクさせて俺の側から離れないでいた。くそ。めっちゃ可愛い。他の人たちいなかったら今確実に襲ってたかもしれない。可愛い。食べたい。其処に立ってポーズを構えてとカメラを担当する高坂さんに言われたはいいが、なにせ初体験。華の女子大生がポーズと言われて咄嗟にできる体勢などピース以外にないだろう。あわあわとあせる難波ちゃんを助ける為、俺は高坂さんの後ろで右足を前に出し腰に手を当て難波ちゃんを見た。難波ちゃんもやっと俺の助け舟に気付いたのか、俺と全く同じポーズをとって微笑んだ。

「おい可愛いなあの子」
「手ぇ出したら殺すぞ」
「珍しいなお前がそんなこと言うなん…あぁ、彼女がお前の紫の上か」
「勘介体育館裏」

ポーズ変えてくれると高坂さんに言われ再び俺の方へヘルプの顔を向ける難波ちゃん可愛すぎかよ。少し横を向かせ両手を前に。彼女も全く同じ体制で再び微笑んだ。再び集中モードになった難波ちゃんを横目に、俺は一旦スタジオを出て外の自販機に向かった。

なんというか、自分の職場に片想いの人がいるとなると少々テレるものがあるとは思っていたが、好きな人が近くにいると考えるとこんなに心あったかくなるものなのかと考えを改めることにした。一時的とはいえ、彼女が自分の仕事に関わっている。それも初めての大仕事に。彼女無しでは此処までのことにはならなかっただろう。デザイン案に協力してくれたのも難波ちゃん。応援ですと美味しいお茶を淹れてくれたのも彼女だ。難波ちゃんなしじゃここまでできなかっただろう。

やばいな。俺は一体彼女の事をいいつこんなに想うようになっていたんだ。出会いは難波ちゃんのバイト先。行ってらっしゃいと言われたときから始まって、特別な感情を抱くようになったのはいつからだ?女泣かせと言われた俺がこの様とは情けない。珍しいと勘介に言われた。確かに、一人の女に執着するんのなんて、初めてかもしれない。

「いやー小町ちゃん可愛い。良い写真いっぱいとれたよ。ねえ尊、これこのまま殿んとこ持ってってよ。詳細は後で送るって言っといて」
「解りました」

「えっ!ちょっと!そ、それはさすがに…!」
「テレないテレない。全部可愛かったから大丈夫だよ」

スタジオに戻ると彼女はもう撮影から解放されていて、組頭に肩を叩かれ絶賛の言葉を貰っていた。一方彼女は緊張かテレか、顔を真っ赤にしてスカートを握りしめていた。くそ!可愛い!

「難波ちゃんお疲れ様」
「あー!五条さん何処に行ってたんですか…!わ、私一人で…!」
「ごめんごめん!はいこれ差し入れ」
「わっ、ありがとうございます!」
「難波ちゃんの淹れてくれるお茶には敵わないけど…」
「いえいえ!嬉しいです!」

彼女の淹れてくれた難しい名前のお茶には到底敵わないであろう缶コーヒーを渡すと、彼女は嬉しそうにそれを飲んだ。

「小町ちゃん、今日のお礼にその服からベルトから、一式全部あげるよ」
「え、えぇっ!?」

「まだ試作段階でいいのならだけど」
「い、いいんですか…!?た、Tasogaredokiの…!」
「この子うちのブランド知ってるの?良い子だね五条」
「でしょうとも!」

難波ちゃんは思ってもいなかったであろう申し出に全力の笑顔で頭を下げた。組頭もめっちゃ可愛いと言って、資料を作るためにスタジオを出た。撮影は終わり。この後は俺たちでプレゼン用の資料を作らねばならない。一旦彼女を着替え室へ連れて行き私服に着替えてもらい、俺は彼女を会社の入口まで送るためエレベーターへ乗った。

「き、緊張しました…。本当に私なんかで大丈夫だったでしょうか…」
「だ、大丈夫!本当に、感謝してもしきれないほどだから…!」

何を二人きりの空間だからって緊張してんだ俺は!しっかりしろ!

チンッと軽い音がしてエントランスへ。予め誰かがタクシーを呼んでくれていたのか入口の外で一台停車していた。

「ごめんね、本当は駅まで送ってあげたいんだけど…今日は本当にありがとう」
「いいえいいえ!お仕事頑張ってくださいね!」

難波ちゃんはペコリと礼儀正しく俺にお辞儀をして、入り口エレベーターへ向かった。だが俺はとっさに「あのさ!」と中々大きい声を出してしまった。驚いて振り返る彼女。ヤバイ。俺は今、何を言おうとして口を開いたのか。誰もおらずに静まるエントランス。漢五条、ここで見せてやれ。

「こ、今度ちゃんとお礼したいんだけど…!そ、その…!」

その後が続かないなんて俺はクソ野郎か!えぇとと口ごもらせてしまう俺を見て、彼女の頬が少し赤くなったのは、期待してもいいという事なのだろうか。もう一歩。もう一歩、調子に乗って踏み出しても、いいだろうか。



「…じゃぁ、このお洋服来て、お出かけしたいです!楽しいとこ、連れてってください!」



彼女の笑顔があまりにも美しくて、俺は思わず息を飲んでしまった。

あぁやっぱり、俺は彼女に恋をしている。


「解った!任せておいて!じゃぁ、またお店、遊びに行くね。またおいしいお茶選んでよ」
「えぇお待ちしてます!じゃぁ五条さんも、また缶コーヒー奢ってくださいね!」

彼女は再び俺に頭を下げ、自動ドアを抜けてタクシーに乗り込んだ。小さく手を振り、彼女は次第に見えなくなっていってしまった。


「…よっしゃぁ…!!」


また会える口実ができた。さらにはデートの約束までできた。しかもデートを申し込んできたのは向こうからだ。これは期待してもいいんだろうか。甘酸っぱいこの恋愛が、成就しそうだと期待してもいいんだろうか。柄にもなく一人拳を作り喜んでしまい、俺は一人で舞い上がっていた。だから、部屋に戻ろうと後ろを振り向きエレベーターへ向かう途中、こっちを楽しくなさそうな顔をして睨み付ける二人がいるなんて、知る由もなかったわけでありまして。



「…若者の恋愛ってやだねぇ陣左。甘酸っぱくておじさんには毒」
「仕事の量増やしておきましょう」



「え!?!ちょ?!?いつから見てたんですか!?!?」

「さー仕事に戻ろうっと。五条は窓際行きかな」
「そのように」

「えええええええええ!?!??」







おわり。
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