カフェテリアセレナーデ | ナノ


「へぇー面白い。っていうか本当にレディース物考えてくると思ってなかったから正直焦ってる」
「お前女装癖でもあったのか?」

「ちょっと!パターン出して来いって言ったのそっちじゃないですか!」

昨日渡されたスケッチブックは、俺の考えたデザインでいっぱいになっていた。一ページ丸々上から下までトータルコーディネートされた絵から、調子に乗って描いたアクセサリーデザインまで。昨日は脳が覚醒状態になっていて深夜になり、日付が代わっていたにも関わらず眠気など全く襲ってくる気配はなかった。シャーペンを走らせ色鉛筆を掴み、パソコンで和柄を検索しては画面とにらめっこ状態。其処に届いた難波ちゃんからの応援コメントの載ったLINE。そうだ、連絡先交換したんだったと舞い上がったのは秘密だ。

これが恋だと気付いた時には、もう俺の頭の中は彼女事でいっぱいいっぱいになってたと改めて気づかされた。

無機質な文字如きであそこまで心臓がはねるんだから間違いない。極め付けには返信に時間を費やしてしまったこと。事務以外の連絡ならいつもスタンプでもはって会話はすぐに終わらせてしまうのに、今回ばかりは俺も必死だなと思ってしまうほどだった。

「うん良いと思う。山本、これさっそくだけど簡単にでいいから作ってみてよ。隣の部屋今使ってないから」
「解りました」
「五条も行って。形にして良ければプレゼンに出そうよ」
「あ、は、はい!あざす!!」

びっくりした。まさか俺のデザインしたそれが商品化一歩って前まで駒を進める事ができたなんて。他の二人は案の定一個も提出することができなかったらしく高坂さんにこってり絞られていた。まぁ別に俺関係ない状態貫いてるけど、元をたどれば壮太のせいだ。俺のせいじゃない。勘介は完全にとばっちりだろうが、まぁどんまいということで。

「良かったなデザイン通って」
「いやもう本当夢みたいですけど…!」

「それにしても、黒白が多いお前が色鮮やかな和柄とは。考えたもんだな」

山本さんが隣の部屋で紙を広げてとりあえずとロングスカートだからと大きめの布のロールを持って来た。黒い布を大胆にザクザク切ってはこれぐらいかと俺に聞きながら裁縫セットを取り出した。嘘だろ手縫いかよ。お母さんか山本さんは。

「じ、実はその、着物が好きって女の子と知り合いまして」
「あぁ、なるほど」
「昨日はその子に、ちょっとアドバイス貰ったって言うか…」

だから全てが全て己の力で書いてきたものではありません。その言葉を言うのに少々労力を使った。なんだとそれじゃぁパクリじゃないか殺すとか言われたら俺はもうメンタルズタボロでここで仕事なんか二度とで聞きない。針の手を休めず山本さんは俺の話を聞いていたが、別に悪い事じゃぁないだろうと、糸をぱちんと鋏で切った。

「何はどうあれお前は高坂の言いつけを守った。あいつらとは違ってな」
「は、はぁ…」
「そのおかげで商品化までこぎつけそうじゃないか。胸張ってその彼女に礼を言うんだな」
「か、彼女じゃないですけど…」

そう、俺は今回彼女にちゃんとお礼を言いたかった。昨日一昨日の出来事とはいえ、難波ちゃんの手助けがあってこそ案が通ったものだと思っている。俺だけだったら白黒中心のつまらない服のデザインばっかり出していたことだろう。色のない俺の頭の中に綺麗な色と柄を連れてきてくれたのは難波ちゃんだ。彼女が奢ってくれたあれを家に帰るときもう一杯持ち帰りようで買って家で飲んでいたのもかなり大きいと思う。彼女の影響でデザイン案がぽんぽん出たし、あまりGoサインを出さない組頭があんな軽く作ってみろなんていうとは思わなかった。何より驚いたのはその点だ。まだ新人でぺーぺーの俺なんかが今山本さんとスカートを作ってられるのは、難波ちゃんのおかげだと思う。

「その彼女はどんな子だ」
「どんなって…可愛い子ですよ。黒髪で健康的な体つきしてて」
「そうか。丁度良いな。それなら…」


















「難波ちゃん」
「あ、五条さん!こんばんは!お仕事お疲れ様です!」
「難波ちゃんもお疲れ様」

今日は店の中には寄らず、外から彼女を探してみた。表にいないとなるともしかしたら今日は休みだろうかと思ったが、裏口のドアが開きゴミ袋を抱えた難波ちゃんが姿を現した。丁度いいところに来た。今からゴミ捨てで下に下りると言うので、少し話したいことがあるんだと俺は難波ちゃんの横を歩くことにした。うわー緊張する。恋だねこれ完全に恋だわ。

「お話とは?あ、デザイン案上手くいきました?」
「あ、うん。そのことなんだけどね」

俺は改めて、自分が怪しい者じゃないということを証明するため名刺を彼女に一枚渡した。『Tasogaredoki』書かれた会社のロゴマークを見て難波ちゃんは知っているブランドだったらしく、目を丸くして俺を見上げては「凄い所に勤めてるんですね…」と唖然とした表情をし今一度名刺をに目を移した。

「で、なぜ今更名刺を?」

エレベーターが待っている間に話を済ませようかと思ったが、チンと軽い音が鳴りドアは開いてしまった。口をもごもごさせながらもゴミ袋を持ってあげて、エレベーターに乗り込んだ。

「嫌なら嫌っていってね」
「は、はい」


「……プレゼン用のモデルやってくれない?」


「はい。はい!?」

ドアが閉まった瞬間そう言うと、彼女は両手のゴミ袋をドサッと落として俺を見上げた。そりゃぁまぁそう言う反応するとは思っていた。想定内だ。そりゃぁそうだ。ただの大学生がプレゼン用とはいえモデルをやってほしいと頼まれているのだから。混乱しないわけがない。正直山本さんに難波ちゃんの特徴を述べて「モデルやってもらえないか頼んでみろよ」と言った時は俺も大層驚いた。そういうのはいつも専属のモデルを使うようにしていたのに、此処へ来てまさかの素人を起用したらどうかという意見を出してきたからだ。内線で組頭にどうでしょうかと問う山本さん。返事は「いいんじゃない?」という楽しそうな声。あれは確実に楽しんでいる。組頭は先日他人の恋が壊れるのを見るのが好きだと言う鬼すぎる発言をしていた。山本さんの説明で全て察したのだろう。きっと難波ちゃんを見られた日には俺は75日くらい冷やかされるに違いない。だけど今回ばかりは、俺も彼女を使いたいと思った。

「も、もでるって…!わ、私がですか!?」
「こういう感じの子だって説明したら上司がどうかって」

服はもう少ししたら出来上がるだろう。其処から商品化に向けての会議、プレゼン用から、どうしても本物の女が着ている写真が欲しかった。女装ではなく本物で。今までプレゼン用の資料写真は誰でもいいからと顔はうつさずに誰かがふざけて女装という形でとっていたときもあったが、今度ばかりはそうはしたくなかった。エレベーターのドアが開いて一旦俺と難波ちゃんは外へ出たが、難波ちゃんはかなり悩んでいるような顔だった。

「じ、自分そんな、ナイスバディじゃないですし…!」
「いやそんな水着ってわけじゃないから…」
「た、Tasogaredokiのモデルなんて…!」
「難波ちゃんのおかげで良いトコまでいきそうなんだよ、お願い…!」

嫌なら嫌と言っていいとはいったが、結局俺は手を合わせ頭を下げている。こうなってしまっては


「……わ、解りました!が、頑張ります!」


そういう返事をするしかないと、解っているから俺はずるい。

「マジで!?本当に!?」
「ご、五条さんのご期待に応えらえるように、精一杯務めて見せます!」

思わずよっしゃ!と拳を突き上げてしまうかと思った。だって彼女がまさか俺の仕事を一緒に手伝ってくれると言ってくれたのだから。あくまで大人の対応で、俺は彼女の抱えるゴミ袋を持ってありがとうと頭を下げた。そして彼女はもしよかったらお店によっていってくれと俺の腕を引っ張った。ゴミ袋を運んだお礼がしたいらしい。別にこんなこと大したもんじゃないと言ったのだがどうやら少々頑固の性格の様で、お礼はしっかりしたいと半ば強引といった形で俺をお店まで連れてきた。今お店の中は混んでいるから座れないらしいが、俺は帰ってやることがあるからと持ち帰りでお願いすることにした。

しばらくして難波ちゃんは可愛い紙袋を持ってきてくれた。中に入れてくれたらしい。

「おー、いい匂い。なんかいつもより香りが強いね」
「フランボワーズっていいます。苺の様な甘酸っぱい味が特徴的なフレーバーティーなんです。此れ飲んで、おうちでもお仕事頑張ってくださいね!」

女の子が好きそうな香りだ。この香なら男の俺でも大丈夫。凄く美味しそうな匂いだ。

撮影日とか諸々は後日連絡すると言って、俺は浮き出す足を落ち着かせながら帰宅した。そしてやっぱり、彼女の淹れてくれたお茶は最高に美味い。
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