「バカタレーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」



バサバサと山から烏が飛んでいき、その雄叫びは学園外にも大きく響いていった。

「林蔵!テメェなんで新しい生物小屋を作ってやがる!!どこからそんな予算持っていきやがった!!」
「やかましい!己で稼いだ金を使うことの何に文句がある!」

屋根に上がった俺に文次郎は大きく怒鳴るが、もう少しで完成しそうなので視線をそっちに向けている暇など無い。まだかまだかと待ちわびる下級生達。最後の釘を打ち終え「よしできた」と金槌を放り投げ用具箱に入れると、下級生たちは喜んでその中に飛び込んでいった。かなり大きい小屋ができた。これで孫兵のペット達がのびのびと過ごす事ができるだろう。

「ありがとうございます林蔵先輩!これでユウコやキンジロウ達がのびのび生活できます!」
「おうよかったな!」

「はぁ!?加えて伊賀崎のペットまで増えたってのか!?お前ら昨日の夜何やってたんだ!?」
「先に言っておくが他の委員会から予算をまわしてもらったなんてことはしてない。それだけ頭において話を聞け」

どうやら昨夜、あの雨の中でも文次郎は忍務を終えた後の深夜の鍛練をしていたらしい。ずぶぬれになって風呂に入るとかなり遅くなっていたのにもかかわらず下級生と五年が一緒に風呂に入っているところに遭遇した。こんな時間までなにしてんだと問えば、全員文次郎から綺麗に視線をそらして「明日林蔵先輩に聞いてください…」と小さく返事を返されたらしい。それについてどういうことかと話を聞きに来たのであろう。前の生物小屋より二回り異常は大きいであろう小屋を俺が建設していたからか文次郎は文次郎を口をポカンとあけ言葉を失った。予算がないと泣いていた生物委員会があんな小屋を建てられる余裕があるわけがない。つまりどこからか予算をくすねたのだろう。そう思い、叫んだ、と。酷く心外な話だ。この小屋の金は一晩、自分たちが汗水流して稼いだ金だと言い、事の流れを説明した。

「見世物小屋…?仙蔵の話は本当だったのか…。が、一体何のために」
「可愛いうちの後輩のためさ」

途中で客が逃げて言ったとはいえ舞台上に投げ込まれた金は結構な量があった。それに昨夜は大当たりだったのか、金持ちが何人か紛れ込んでいたらしい。小判はあるわ銭差そのまま投げ込まれているわでうはうは状態。作法、用具、生物、学級で四等分し、うちは小屋に使ったがまだ釣りがある。あとは孫兵のペット達の餌代にでも回すとしよう。

「お前の出したケチケチ予算案じゃ生きていけないもんでね。ちょうどよかったよ」
「おい、なんでそんな面白そうな事を俺に声掛けしなかった」
「初めはしようと思ったんだがなぁ、予算が苦しい原因はお前だからやめておいた」
「テメェ林蔵!」

孫兵が新しい小屋の中へ何個も籠をあけ始めた。中にいたのは蛇やら蜥蜴やら虫やら。いずれも今までずっと一緒だったら連中じゃない。こいつらはあのくれない座で飼われていた連中だ。座は壊滅。生き物たちはどうしようと悩んでいると、孫兵が僕にやらせてくださいと言った。そうたいした量ではないが、餌代も自分で何とかしますからと必死になって俺に言ったので、今朝方全匹引き取ってきた。孫兵はこいつらと仲良くなっていつか一緒に忍務に行きたいですと言っていた。もう名前も考えているみたいだし、可愛い。頑張れ孫兵。先輩はお前を応援しているぞ。

「ハチ、これ用具倉庫に返してきてくれ」
「はい解りました」

金槌やら釘やらが入った箱をハチに持たせると、奴はかけあしで用具倉庫の方へ飛んで行った。それと入れ替わるかのように俺の尻に衝撃が。くるりと振り向くとそこに抱き着いていたのは可愛い可愛い一平の姿だった。


「林蔵先輩、この度は本当に、ありがとうございました」
「あぁ、これでハヤテも成仏できると良いな」


俺の身体に巻き付いていたセイキチがシュルリと一平の身体へうつり、良かったなとでも言うかのように一平の頬に擦り寄った。

「僕、いつかまた生き物と一緒に生活することができたら、今度こそ守ってあげられるように頑張りたいです。絶対に、僕が守って見せます」
「そうか、お前は本当に心優しいな」
「はい!頑張ります!だから林蔵先輩、僕にいっぱいお勉強教えてください!」
「良く言った!よし、ついて来い一平、お前に任せたい仕事がある」
「はい!」

孫兵やその他の一年生たちにに少しここを離れるぞと告げ俺は一平と手を繋いで自室を目指した。道中見世物小屋に参加しなかった三年生が藤兵衛になんで誘ってくれなかったんだと詰め寄っている姿や、勘三郎に声をかけてよ!とキレているその他の五年の姿も目にはいった。首謀者である俺が絡まれては面倒な事なるなと悟り少々遠回りして長屋を目指したのだが、それが間違いだった。まるで俺がそこを通るのを待っていたかのように立ちふさがった小平太と長次と伊作。一平がビクッとして後ろに隠れたが、俺はやれやれと肩を落とした。

「聞いてないぞ林蔵。なぜ私たちに声をかけなかった」
「小平太と長次は忍務だったんだろう。仙蔵から聞いた。故にだ」

「…予算を分け合ったと…聞いたぞ…」
「何せ新しい生物小屋を建てても釣りがかえってくる。大儲けだったぞ」

「一言ぐらい声かけてくれてもよかったじゃないか」
「お前も新野先生と出張だったんだろう?それを投げ出す保健委員じゃないもんなぁ」

「お前が誘ってくれたら私と長次は忍務抜けて文次郎に任せてたぞ!そっちの方が楽しそうじゃないか!」
「馬鹿言え、それこそ何忍務をほったらかしていると俺がキレていたわ」

連中は悔しがっていたと仙蔵と留三郎から聞いた。そりゃぁそうだ。楽しんで金を稼げていたのだから。それにこいつらだって体力、智、芸は備わっている。この三人もいればより一層大儲けできただろうに。だが用事があるなら話は別だ。それに分け前が減っても困るからな。今度はいつやるんだと小平太に詰め寄られたが、そう何度もやるようなものでもないと蹴りその場をあとにした。簡単に金が稼げていい商売だが、やはり気分が良いものではない。また予算を切り詰められたら考えることにしょう。

三人を残して俺と一平は再び長屋に向かって歩き出した。此処で待っていてくれと俺の部屋の前で一平を待たせ部屋の中に入った。そして中にいた子犬を抱えて部屋から出ると、一平は顔をぱっと明るくさせた。

「こいつの世話をお前に頼みたい」
「わぁっ!可愛いですね!でも、何処の子ですか…?」

「くれない座の犬だ。おそらく次の場所で殺される予定だったんだろう。殺しやすいようにか体に少々毒が回っていて苦しそうにしていたが、解毒剤は投与しておいたからしばらくしたら歩けるようにもなるだろう」

蛇やら生き物を連れ出している途中、小屋の籠の中で何かがガタンと動いた。ふたを開け中を確認すると、そこにはあったのは犬と猫の死体の山。だがその中には一匹だけ、まだギリギリの状態で命を繋いでいる犬がいた。急ぎハチに見せると栄養失調と毒が回っている可能性があると言った。ハチにそいつを託し学園へ先に返し、蛇たちの移動が終わったあとハチのもとを尋ねてみると、解毒剤は飲ませたし食事も勢いよく食べていたと安心した表情を見せていた。ハチには鷹が。孫兵と俺には蛇が。犬はあまり相性が良くないから誰ぞに世話を任せるかと思い、そこで頭をよぎったのが一平の顔だった。

「お前にこいつの命を託したい。どうか頼むよ、一平」

ハヤテはもう戻ってこない。その代わりにならないことは解っている。だけど一平に早く元気になってもらいたい一心で、この願いを託すことにした。一平は少々悩んでいるようにも見えたが、その犬が小さく一平の顔をなめると、嬉しそうに笑って


「はい!僕、今度こそこの子を守って見せます!」


そう言ってくれた。

「ありがとう、良い子だな一平。さすが俺の後輩だ」
「じゃぁ、林蔵先輩がこの子の名前を付けてください」
「よし解った。良い名前を送らせてもらおう。さ、皆の処へ戻ろうか」
「はい!」

一平は子犬を大層に気に入ったようで、行きは俺と手を繋いでここまで来たのに飼育小屋に戻るぞというとそいつを抱っこしたまま撫でまわしたりして俺のことなど一切見ようとしなかった。クソ。なんて悲しい展開になってしまったんだ…!いやしかし一平が元気になったのなら仕方ないだろう…!これも人生だ林蔵…!!

飼育小屋の前に戻るといち早く虎若が一平と新しい犬に気付いたのか「新しい犬だ!」と反応して一平に駆け寄った。三治郎も孫兵もそれにくっついて行くように走りだし、皆で新しい仲間の頭を撫で始めた。

「林蔵先輩、用具倉庫に戻してきました」
「ご苦労さん。悪かったな」
「いえ。そういえば林蔵先輩、お聞きしたかったんですけど、あの小屋に攫われたっていう子供たちはどうしたんです?」

「あぁ、その子供達ならあの賭博場の同士たちに任せて来たよ。富士野は前から子供が欲しいと言っていたから一人か二人引き取るだろうし、他の連中も足を子供が欲しいというやつらばかりだしな。あいつらにも家族ができることだろう」

少々金がかかったがなと付け足せば、ハチは苦笑いした。あそこの連中は信頼できるやつらばっかりだ。子供たちもこれでまっとうな人生を送る事ができるだろう。

小屋は壊滅。生き物は引き取り子供は自由に。そして何より一平の笑顔が取り戻せた。この度の事件は、一件落着だ。ハチも可愛いなといいながら一平の腕の中にいる犬の頭を撫でていた。種に火をつけ煙管をくわえると、孫兵は一平たちの方ではなく俺の横へ歩み寄ってきた。



「林蔵先輩」
「どうした孫兵。お前もあの犬と戯れてこい」

「落としきれていませんよ。血の匂いが」
「おっと、これは失敬」



「…あの連中、結局どう処理したのですか?他にも数人の仲間が、小屋に残っていたでしょう?」



「なぁに、お前が知るにはあと三年は早いよ。さ、茶にしようじゃないか」
「……」



さて、あの犬の名前を決めねばな。


孫兵は俺がふわりと吐き出した煙をただただ見つめるのであった。



































旦那ァあれを見たかい?

町の真ん中に一夜にして突如現れた

謎の醜い晒し首


十つも並んでいたのに全部が全部酷い様


まるで鬼にでも襲われたかのように

白目をむいて舌を出し

首に刺さった煙管からは

ぽたりぽたりと血が落ちて

まるで人の顔をしていないのよ



だけどおかしいったらなかったなァ

全員禿頭にされた狸親父のようで



あれ、一人は女の首だっただろう?

可哀相になぁ



馬鹿いうなあれほどの酷い姿だ

かなりの恨みをかっていたからに違いない


しかしあの女の目は蛇のように吊り上げられ

縫い付けられていたから面白いのよ


いやぁ、首をみて笑ったのなんて初めてのことよ

本当本当、一体何処の鬼の仕業かしら




まぁいずれにせよなんだなァ




晒された首も人には見えやしなかったし

あんなことするやつも人に非ずだな




本当本当




人の命を、なんだと思っているのかしら




























「おい一平、そいつの名前だがな、お前の一という字を書いてハジメなんてどうだ」

「わぁ、いい名前ですね!じゃぁこの子は今日からハジメです!」
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