「嫌だ!!やめて!!離して!!お願いだから!!やめてください!!嫌!!嫌だぁああああ!!」


友達が殺されるのを、

目の前でただただ泣き叫びながら見ているしかできないだなんて、


僕はどうして、力がないんだろうか。




















「お!林蔵先輩!ジュンコいました!」

背から聞こえた嬉しそうな声。振り向くと赤い蛇を高々と上げ涙目になっている後輩が一人。

「よし!よくやったハチ!来い孫兵!ハチのやつが見つけたぞ!」
「ほ、本当ですか!?うわぁぁジュンコ何処行ってたんだよおおお!!」

「林蔵先輩、お水汲んできました!」
「あぁ悪いな三治郎。あぁやれやれやっとこれで全員回収し終えた。すまないが虎若と孫次郎も呼んできてくれ」
「はーい!」

とらちゃーん!と叫びながら長屋の裏に消えていった後輩を見送りながら、俺は受け取った水を一気に飲み干し縁側に腰を掛けた。毒蛾が四匹、毒蟻が三十六匹、毒蜥蜴が二匹に毒蛇が一匹が飼育小屋から集団で散歩に出かけたと孫兵に言われたとき、あぁまたかと思い腰を上げたのは一時間ほど前。集団で出かけるのはいいがちゃんと帰ってきてくれないとこっちが困る。小屋はボロいのか、最近は頻繁に逃げられることが多い。そろそろ文次郎を脅して生物委員会に予算を回してもらわねば、毒虫たちがその辺に巣をつくるのも時間の問題だろう。予算がないと言うのなら、山賊を襲ってでも資金を徴収せねばなるまい。もしくは賭場かそれとも…。

「林蔵先輩、今何か厄介な事考えてませんでした?」
「旅は道連れ世は情けと言うだろう?」
「俺も共犯ッスか…」
「ハチテメェ馬鹿野郎!孫兵が涙目で俺を見上げながら「虫小屋の補習予算ちょうだい…?」って言ってるんだぞ!なぁ孫兵!」

「はい言いました」
「嘘つけ孫兵お前!林蔵先輩にノるな!林蔵先輩もやめてくださいよ!」
「悪いなハチ、俺は美人に弱いんだ。おぉ、セイキチ、ご苦労だったな」

草陰から袴を伝い腹から首にかけてぐるりと巻きついた大蛇は優に五尺以上はあるだろう。黒褐色に身体を艶やかに光らせたこの蛇を見て、孫兵は毎度のことながらうっとりと目を潤すのだ。セイキチと名付けたアオダイショウは孫兵にも、もちろん生物委員会の連中にも十分懐いている。毒はないから安心だが噛む力は鍛えたから相当強い。孫兵の首に巻きつくジュンコと鼻をこすりあわせてはそれはそれはラブラブするのが最近よく目にとまる。そりゃぁこんなに美人が目の前にいりゃぁアピールもしたくなるってもんよなぁ。男は女に弱いとは言うが、蛇の世界でもそれは変わらないか。仲良きことは美しきかな。

「林蔵せんぱーい!食堂のおばちゃんから御饅頭貰ってきましたー!」
「お茶も淹れてもらいましたー…」

「でかした虎次郎!」
「虎若と孫次郎です」


「……あ?一平はどうした?俺のもち肌一平は何処いった?」


手をわきわきさせながらハチにそう問うと、その手はやめてくださいとハチに呆れ顔をされてしまった。そういえば委員会だっていうのに優秀な一年い組の一平がいない。あいつは黙って委員会をサボるようなやつではないのに。はて、ジュンコ捜索を手伝ってはないなかったか?

「一平なら町へ買い物に行くから委員会を休むと言っていたではありませんか。お供にハヤテも連れて行ってますよ」
「あぁハヤテか。しかし俺の膝に一平がいないとは物寂しいな。早く帰ってこねぇかな。あ、饅頭一平にも残しておけよ」

はーいと手を上げる良い子たちは横に座って饅頭を口に含み始めた。手に乗せた一口サイズの饅頭もセイキチに食われ、残った饅頭を口に含んだ。ハヤテは山の中で見つけた捨て犬だ。随分と前に一平が拾ってきてここで飼えないかと涙目で相談をしてきたのだが、可愛い後輩の頼みでは断るわけにはいかない。余っていた木材で留三郎に簡単な小屋を作ってもらい虫小屋の横に設置しておいたが、よく忍たまたちに構って貰えているのかすっかり人には慣れたようであった。まだ子犬ながら命の恩人である一平に忠誠心でもあるのか、一平のいう事は絶対だ。一度として一平の命令に背いたことなど無い。

「ハヤテの小屋も新調してやらんとな」
「林蔵先輩まずは委員会予算を…」
「良く考えろハチ、文次郎を説得して落とすのと賭博で一発大儲けするのとじゃどっちのほうが…」



「林蔵先輩!!」



「おぉ一平!よく帰った!饅頭が………一平…?」


孫次郎を挟んだ向こうに座ったハチに指差しながら話を進めようとしたのだが、いつの間にか正面にいた一平の声で、会話は一時中断した。良いタイミングで帰って来たと思ったのだが、一平の目の周りは真っ赤に腫れているし、鼻水も出ている。まるでついさっきまで大泣きしていたようだ。

「どうした一平!竹谷何左ヱ門にイジメられた!」
「林蔵先輩!?」


「林蔵、先輩…!」


「………来い一平、何があった」

大股広げて座っていた故にすっぽり腕の中に入ってきた一平は、そのまま声を殺して泣き始めた。震える肩。一体、何があったのか。困惑しながらも背を撫で続けると、小さく俺の名を呼ぶ声が聞こえた。それはうちの委員会の者からではなく、学級委員で一平のクラスメイトの…。

「おう彦四郎、どうした」
「じ、実は…」

「いや、ここじゃあれだな。俺の部屋に来い」
「は、はい…」

泣く一平を抱え上げ、生物委員会の後輩、および彦四郎を連れて自室に戻った。こういうときに一人部屋で良かったと心底思う。押入れに背を預け腰を下ろすと、俺の目の前に彦四郎が座り、その横にハチが。俺の横には孫兵が座り、入り口前に横一列に一年生が並んで座った。一年三人はなぜ帰ってきてそうそう一平が大泣きしているのかもわからないし、この重苦しい空気に少々気を乱しているようだった。くわえて六年長屋の一室ともなれば体はさらに強張るだろうが、ここは俺の部屋。気を楽にしろと言えば、虎若は軽く息を吐きだした。

「で?何があった?」
「………ハヤテが…」
「ハヤテ?あぁ、ハヤテがいないな。ハヤテはどうした?元の親が見つかったか?」

「…………殺されました…」

「……何…?」



「見世物小屋の連中に捕まって……!食い殺されました…!」



そう言うと、彦四郎は顔をふせたままボロボロと涙を床に落とし始めた。殺された。聞きたくもない言葉を聞いてしまい後ろの一年生は衝撃を受けたように身を固まらせ、孫兵は驚いたように身を乗り出した。一平は俺の服を掴んでいた手を強め、ハチも泣き始めた彦四郎の姿を見ていられなくなったのか、震える肩を抱きしめて背中をさすってやっていた。彦四郎も、その言葉をやっと吐き出せたとでもいうかのように、大声で泣きはじめ、ハチの装束にしがみついた。

「見世物小屋に殺された…!?林蔵先輩…!それってどういう…!」
「生きている動物を食い殺す。見世物の一つだ。孫兵には縁のない世界かもしれねえが、蛇を食いちぎる芸なんてものはよくある話だ」

「……うっ、…!」

生きている蛇を食いちぎるという言葉を聞いて孫兵が何かを吐きそうになり口を押えた。


「見世物小屋か…聞いたことねえな。ハチ」
「すいません、俺も最近そのような話は聞いたことないです」
「そうか…」

相棒を目の前で殺されたのだと、彦四郎はしゃくりをあげながら話た。

買い物途中、一平の横をついてまわっていたハヤテが突然いなくなり、彦四郎と探していたのだが、見つかったのは町にあった見世物小屋の中。ちらりと覗いたその中にいたのは、口を抑え込まれ足を持たれた状態で拘束されたハヤテの姿。ハヤテの首に噛みついたのは女だったと、それを目撃した彦四郎は言った。血飛沫を見てしまい、吐きそうになるのを何とか堪えてきたのだろう。

たいていは小動物、蛇や鼠や鶏などが多いだろうがハヤテはまだ子犬だった。丁度いい大きさの丁度いい奴がいたからと見世物小屋の連中が捕まえ、そして舞台に立たせたのだろう。二人は泣き叫びながら小屋の外で取り押さえられ、そのまま追い返されたのだという。ハヤテの亡骸に目通る事敵わず、泣きながらやっとのことさ忍術学園まで戻ってきたのだという。

「そうか、悔しいな一平。ありがとうな彦四郎、一平の側に居てくれて」
「僕、っ…!何も、出来なくて…!」
「いや、一平の側に居てくれただけでありがたいよ。…よし、今日の委員会は解散だ。一年も部屋に戻れ。孫兵、こいつらを送っていってやってくれ」
「…はい」

「彦四郎、今日は一平と一緒にいてやってくれ。安藤先生と厚着先生には俺から言っておく」
「はい…」

一平は泣きながら立ち上がり、俺に深々と頭を下げると、彦四郎と手を繋ぎながら部屋から出て行った。孫兵も一年達の背を撫ぜながら部屋から出て行った。ハチは何とも言えない顔で俯いてはいたが、拳は怒りに満ちたように固く固く握られていた。


「…ハチ」
「っ、はい」


「賭場と色街、どっちがいい?」
「……はい?」
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