久々知と竹谷と、ときどき番外 | ナノ
腐女子と腐男子と、電話


「水族館?」
『うん、どうかなって』

「イイネ10回ぐらい押す」
『良かった!じゃぁ行き先は決定ね』
「うおおおおお資料用にカメラ持って行っていいかな!!黒川と山田に行かせるわ!!」

『名前…?!いつの間にタベ戦に手を出したの…!?』
「は????味噌汁派ですけど何か???」
『ごめん俺缶詰派!!』
「敵襲!敵襲!」

じゃぁ予定決めようかと、私はイヤフォンを少し強くはめて筆ペンを置き手帳を開いた。幸村が日付を指差し『久々知くんと遊ぶでござる』と言っていた。あぁ、此れを書いたのはまだ兵助を久々知くんと呼んでいた時だったのだなと過去を思い返した。あの時から兵助は私の事を好いてくれていたのか…。だとしたら、あの時「二人で遊びたい」と言ってくれたのは、つまりそういうことだったというわけで…。そうとも知らずに私はいいよ!と快く了承した上に竹谷くん誘おうZEとか酷な事を言ってしまっていたのか。なんて罪な女だ私は。真美も京子も調理室でそれ絶対お前のこと好きだってと言っていたの、間違いじゃなかったことだもんね。私の恋愛に対する異常なスルースキルはなんだったんだろう。こんなの完全にフラグ立ってたじゃん。気付かないとか、死んだ方が良かったね…。

「兵助さんや」
『なんだい名前さん』

「この予定立てたときってもう私の事好きでいてくれてた?」
『そりゃぁもう』

「竹谷くん誘おうかって言った時どう思ってた?」
『ふざけんなって思ってた』

「ヒェェ〜〜〜wwwwww」
『冗談だよ。でもこの時まだ名前は八左ヱ門の事好きなのかなって疑ってた時期だったから、あぁもしかしたらもしかするかもしれないなーって思ってた。だから焦ったね」
「あぁ、なるほどね。ごめんごめん」
『あはは、もう過ぎたことだからいいよ』

ここなんていいかもよ、という兵助の言葉と同時に向こうからカチカチッと軽快なクリック音が聞こえた。おそらく電話しながら良い場所を探しているんだと思う。兵助が言ってくれたところは結構海から近い場所で電車で行っても一時間ぐらい。ショーがメインで時間によっては触れ合いもできる場所らしい。ネタになるとぞ思いメモをとりつつ最高ですねとお返事を返すと、兵助も満足そうにじゃぁここで決まりだと言った。

大体、明日がそのデートの日だというのに前日まで全く予定を決めてなかったこと自体問題がある。何故焦らなかったのか。原因は交際が始まったという満足感に浸りこの日をすっかり忘れていたということにある。今日一緒に帰っている時、そういえば出かけるって約束したのいつだっけと二人して首を傾げ二人して手帳を開いて、明日だという事に気づいて衝撃を受けた。あまりの衝撃のうっかり車にひかれるところだった。危ない。どうりで指定休でもないのにバイト休みになってたわけだよ。

帰ってから各々行きたい場所決めて希望あったら電話しようねと言っていたのにもかかわらず、原稿に手を出していたのは私です本当に申し訳ありませんでした。でも私も水族館なんて子供の時以来行ってないし、久しぶりに行きたい。ナマコとか触りたい。兵助はナマコとか触れなさそう。

『じゃぁ明日は10時に名前の家に迎えに行くね』
「あ〜……えっとね……」
『…何?何か問題ある?』

「実は今さぁ…」



「私だ。久々知、明日は駅集合にしろ。異論は認めない」



『タチバヌッ……!?!??』

「明日名前に変な真似したらタダじゃおかんぞ。心してかかれ」
『は、はい!お、約束、い、いたします!』

「こらああああああああああああああああああ仙蔵兄ちゃんやめぇえええや!!ケータイ返せ!!」
「何を言うか名前!私は貴様のためを思って…!」

「ってわけだから!明日、10時に駅集合で!ごめんね!」
『あ、うん!大丈夫!解った!じゃ、じゃぁおやすみ!』
「ごめんね!おやすみ!」

背後から感じた殺気は徐々に近づいてきていると思いきや、やはりその殺意を向けている先は電話の向こうにいる兵助だった。私からケータイを奪い兵助に駅集合でと告げるとイヤフォンからは焦った兵助の声。まさか今家に仙蔵兄ちゃんがいるとは思わなかったのだろう。耳に届いた声は確実に震えていて、ケータイを落とした音すら聞こえた。

「もー!やめてよ仙蔵兄ちゃんには関係ないでしょ!」
「ついに来たかこの日が!お前を嫁に出すのはまだ早い!」
「嫁に行くんじゃNEEEEEEE!少し落ち着け!っていうかどうやって部屋に入って来たんだよ!」

「窓からだ」
「敵襲!敵襲!」

全くと言いながら私のベッドに腰掛ける仙蔵兄ちゃんはまるでここが仙蔵兄ちゃんの部屋の様に寛ぎ始めた。枕の匂い嗅ぐのは本当に、本当に勘弁してほしい。あとそこで漫画読むな。あ、やめろそれホモ本やで。ゆっくり本棚に戻せ。お前が読むにはまだ早い。

「で?何処へ行くのだ?」
「水族館。ほら、私が年少さんだったときに立花家と一緒に行ったところ」

「あぁ、あそこか。名前は確かあそこで大きなエイを見て怖いと泣き叫んでいてな」
「え!?!?!」
「ワンワン泣きついては私に手を引かれてマグロの水槽に行ったのに、早すぎて怖いとさらに大声で泣いてな」
「ヒェッ!?!?まじで!?」

「明日久々知の前で泣くなよ」
「やめぇや!泣くもんか!」

齢十七にして水族館で泣くってどんだけ恥ずかしい奴なんだよ私は。もうそんな歳じゃないです。

「仙蔵兄ちゃんさぁ、可愛い妹の初彼氏の初デートなんだよ?ちょっとは応援しようとか思わないわけ?」
「思わなんな。私の宝を奪った泥棒がこれは良い物だと自慢している所に、私が良い物だなと褒められると思うか?」

「お、おう……すげぇ正論…」
「可愛い妹に妹に手を出しておいてそいつを応援するなど馬鹿げている。くだらん質問をするな」

仙蔵兄ちゃんが私を愛でてくれていたのは解る。嫌というほど解る。それが親戚の兄としてなのか、保護者としてか、マジの恋愛感情だったのか、それは聞けないし聞きたくもないけど、此処まで兵助との仲を認めてくれないのも少々如何なものかと思う。

潮江先輩は断固として認めんと一点張り。こへ兄ちゃんと長次さんは何かあったら久々知殺すから安心しろと、しぶしぶながら認めてくれた風だったし、伊作兄ちゃんと留兄ちゃんは比較的応援型だ。こうなったんだから素直に応援しなよと伊作兄ちゃん達は言ってはくれるが、仙蔵兄ちゃんは断固として認めようとはしない。兵助はいつか仙蔵兄ちゃんに認めさせてみるとは言っていたけど、これはなかなかの長丁場になりそうかな。原稿をしまって椅子から降りベッドに腰掛けると仙蔵兄ちゃんは漫画を閉じて寝転がったまま私の手を取った。

「あー…此処に寝てるのが兵助だったらなぁ……」

「やめろ…!やめろ…!此のベッドは私の専用スペースだ…!」
「いや私のベッドですけど…」

たった一人の親戚の妹にこんなに嫉妬している顔を見せるだなんて、仙蔵兄ちゃんのファンの子達は知らないんだろうなぁと考えるとちょっと優越感だけど、もうこの顔も台詞も見飽きたし聞き飽きた。仙蔵兄ちゃんこそ早く彼女作ればいいのに。

「仙蔵兄ちゃんこそ早く彼女作れば?」
「お前がなるか?」
「質問に質問で返すなクソ」

「…興味ないな。女など自分の事しか考えずに動く喧しい生き物ではないか。男などただの飾りか財布だと思っているだろう。お前以外はな」

「偏見だよ。ドラマの見すぎとかじゃない?」
「いや、伊作や小平太の元恋人たちはそんなやつらだったらな。見ていて解る」

二人が変な女の人に引っかかっているわけではない。っていうか引っかかるわけがない。悪いのは全部彼女さんのせいだと私は思っている。付き合い始めで「妹みたいなやつだ」と何度かお兄ちゃんたちの彼女さんにばったり会って紹介されたことはある。可愛いねーなんてお世辞を並べられて、ちょっと話をするけれど、あ、この人いい人っぽいと毎回思う。毎回思っているのに、解れたときに原因を聞くと束縛が酷かったとか、お兄ちゃんたちより自分の事しか考えていなかったとか。そりゃ酷いねとしか言えない様な別ればっかりだった。

「でも兵助は違うよ。私の事ちゃんと好きでいてくれてるよ」
「解っている。解っているからこそ、余計に腹が立つのだ。長い事面倒を見ていた名前を、ぽっと出の男に奪われるのだからな」

若干残念そうな目でそういう仙蔵兄ちゃん。いつもふざけてそんなこと言ってるけど、今日はなんだかいつも以上に真剣そうな顔だ。これじゃ本当に私が明日花嫁に行ってしまうような空気じゃないか。っていうか仙蔵兄ちゃんが私のお父さんみたいな雰囲気になってきてるけどなんなのこの部屋の空気。いいかげんにして。私そろそろ明日の準備と原稿したい。

「私的には名前は長次か留三郎あたりが良いと思っていたのだが…」

「足して二で割ったようなのが兵助だよ」
「…納得してしまう自分が情けない」

さてとベッドから立ち上がった仙蔵兄ちゃんはベランダに置いておいた土足を手につかみ、そろそろ帰ると部屋の扉に手をかけた。見送ろうと思い腰を上げようとしたのだが、そのままでいいと私の肩を押して、体はベッドに逆戻りした。

「明日は楽しみか?」
「うん!めちゃめちゃ楽しみ!」

「そうか。ほら小遣いだ。土産は忘れるなよ。あと今日は早く寝ろ。原稿に手をつけるんじゃない。明日遅刻したらどうする」
「ウィッス」

明日ついてこないでねと冗談めいて言えば一瞬目が泳いだがあぁと鼻で哂って部屋を出た。あいつついてくる気だったわけじゃあるまいな。じゃぁなと仙蔵兄ちゃんは部屋からでていったが、突然の仙蔵兄ちゃんの出没に下からお母ちゃんの声であらいつきたのなんて声が聞こえたけど、ついさっき来ました。私の部屋からです。

なんだかんだ言って小遣いくれたり早く寝ろとか言ってくれたり。応援してんだかしてないんだか。

机の上に置かれた仙蔵兄ちゃんからのお小遣いが私の一月のバイト代の半分というわけのわからない高額だったのにひっくり返りそうになったが、ありがたくそっと財布にしまった。こりゃぁなにか気に入ってもらえるようなお土産を選ばねばなりませんね。潮江先輩たちにも何か買って行こう。うん、そうしよう。


明日は水族館ですって。うはー楽しみ。ペンギンとかいるかな。竹谷くんバイトルートとかで竹久々ルートはないかなないですよねはいすいませんでした。


『明日楽しみだね!』と兵助にLINEすると、『俺も〜』と一言と、可愛いスタンプが帰って来た。クソ可愛い。死ぬ。兵助のイベントスチル楽しみすぎワロタ。
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