久々知と竹谷と、ときどき番外 | ナノ
腐女子と一般人と、悪魔


あの本探してた本だ!ドゥフフついに見つけた!

テンション高めにそう思い少し高い位置に置いてあった本に手を伸ばしてみたものの、と、届かないだと……!?計算してないぞ…!

足を伸ばして腕も伸ばして上の上を目指してむぅと背伸びをしてみるが、その本は隣の誰かに軽々と取られてしまった。許さない。殺すしかない。

「あ、」
「やぁ。これ取ろうとしてた?」

「ごめん今私貴方の事殺すしかないと思ってた」
「な、なんで!?名字さんだよね。二組の」
「えーっと……鉢屋さん、の方かな?」
「そう。良く解ったね」

はい、と手に乗せられた本は確かに私が取ろうとしていた本。大きなショッピングモールとはいえその中の本屋で出会うなんて偶然もいいとこだ。買い物?と聞けばううん…と口を濁した。あら、何か触れてはいけない事だったかしら。何はともあれ探していた本が見つかってよかった。私はペコリと頭を下げてレジへ向かった。だがしかし、お会計を追えレジ出口で、なぜか鉢屋さんには待ち伏せされていた。何とも言えぬ顔で鉢屋さんを見上げると、鉢屋さんはどこか遠くを見ているようで、なんとも面倒くさそうに眉間に皺を寄せた。

「何してんすか」
「あ、ねぇ、あのさぁ、今暇?」
「…暇に、なりましたけど」

「そう!良かった!私とお茶しよう。ね、奢るから」
「奢りだからって釣られるわけnクマーーー!!」

何故か手首を掴まれなぜか足早に本屋を後にし、このショッピングモールの中でも中々高いから入りにくかったカフェに入った。慣れたように注文する鉢屋さんを横に私はメニュー表のカタカナが読めなくて同じ奴で良いですと言ってしまった。あ、今絶対鉢屋さん笑った絶対許さない。やっぱり殺すしかない。注文した商品を受け取り店の一番奥に入ると、鉢屋さんは大きくため息をついて、確かに小さい声で「助かった…」と言った。

「奢ってもらっておいてあれなんですけど、何かあったんすか」
「……そのくすぐったい敬語やめてくれたら教えてあげるよ」
「何したの。浮気?カツアゲ?強姦?」


「わ、私名字さんにどんな目で見られてるの?」
「クソファッキンヤリチン野郎だって噂は聞いてる」


グホッと吐き出した鉢屋さんはごほごほと咽ながら布巾で口の周りを拭いた。私は本当のことを言っただけだが。ストローを通った飲み物は思っていたより苦みあるコーヒーで、そんなに美味しいと思えるようなものでもなかった。これ美味しいとか鉢屋さん舌と頭おかしい。こんなんだったら真美の家行った方がいい。今度おすすめしよ。

「あ、あのさ。普通そういうのって本人にはオブラートに包んで言わない?」
「私こういう性格何だ。ウザかったら私もう席外すけど」
「や、いや、大丈夫。別にそんなこと思ってないから。お願いだから今だけ相手して」

「何あったのか教えてくれないと帰る」
「…………実はさぁ」

一口珈琲を飲んで、鉢屋さんは重々しく口を開いた。

実は元カノうんぬんの話らしい。今日は気晴らしにただただ一人でぶらぶら買い物に来たらしいのだが、つい最近別れた彼女を店で見たらしいのだ。それは完全に自分、鉢屋さんを探しているように。休みの日はよく此処に来るみたいな話をしてたいのを向こうは覚えていたようであの目は今日自分が此処に来ていると察して探しているんだと、鉢屋さんは面倒くさそうに言った。元カノさんとは性格の不一致で別れたらしいのだが、それは大正解だったようで、今はほとんどストーカーと化しているレベルだと言う。電話も鬼の様にかかってくるしよりをもどしたいとメールを送り続けてくるし。鉢屋さんはお付き合い当初から本気にはならないかもしれないけどと線を引いた上で向こうからの告白を受けたのだというのに、いざ別れてみるとこのザマだと、頭を抱えた。

「あぁ、そういうこと」
「名字さん彼氏は?」
「俺には政宗がいるから」
「あぁBASARAね。雷蔵も好きだわ」

話が早くて非常に助かる。

「付き合ってすぐ別れるだなんてやっぱり噂はその通りですか」
「……先にいっておくけど、私さほどセックスに興味はないよ」
「…おう、なんか意外…」
「やっぱり付き合ってすぐ別れたら体目当てだって思われるわけ?」
「実際そうなんじゃないの?」

「今回のあいつとだってキスどころかセックスなんて一度としてしてない。好きでもない相手の身体見たところで発情するわけでもないし、気持ちが悪いだけだろう?」

へぇ、なんか意外な一面を知った気がする。見た目と聞いた噂だけで判断していたからか、大きくギャップがあった気がする。っていうかこんなに話したことのない相手にセックスうんぬんの話しないでほしい。しかもここ店の中とはいえ他の客もいるのに。モラルってものを解って欲しい。これだからチャラ男は嫌なんだよ。

「何が良くて私なんかのこと追い回してんだかな…」
「顔が良いからでしょう」
「…は?」

「女はブランド物が好きだよ。それは有名なブランドほど身に付けたい生き物だから。鉢屋三郎という人間を側に置いておきたいだけでしょうな。イケメン、頭がいいというのにくわえて、チャラ男と呼ばれる男が自分の彼氏だという現実を手放したくないんでしょ。女の中の格付けと思ってもいいんじゃない。良い男を側に置いておくほど、周りからの視線も違うしね」

其処まで言い美味しくもない珈琲に浸かっている氷をガラリと音を鳴らしてストローでつつくと、鉢屋さんはそんな考えしたことなかったとでもいうかのようになるほどな、と顎に手を当てた。

確かに鉢屋さんは顔が良い。それに加えて成績も上の上。私服だと解るファッションセンスの良さ。実際はどうかしらないけれど、噂では女をとっかえひっかえするような奴だという話を聞いたこともあるし、女が理想とする要素の半分以上は持っているんじゃないかと思う。そんな男がどのぐらいの期間だったかは知らないけど、一度は自分の物という立場だったんだから、そんな宝を自分から手放すような馬鹿はいない。今回、告白は元彼女さんで別れを切り出したのは鉢屋さんだと言ってたし。向こうは納得していないんだろう。誰もが欲しがるような宝が勝手に手から離れていってしまったんだから。そこからストーカーになっても無理のない話だ。

「へぇ、名字さんて本当に言うねぇ」
「チャラ男はこの世から抹殺したいほどに嫌いなんだ」
「それは私も?」
「珈琲奢ってくれたから許しちゃう」
「あはは、そりゃどうもありがとう」

チャラ男は嫌いとはいえ鉢屋さん関連はホモだから好きです。嫌いではないです。早く結婚してほしいぐらいです。

「理想は奈緒と久々知くんのカップルかな」
「そうそうあそこはお似合いだ。あそこは一体いつくっつくんだろうな」

「鉢屋さんもやっぱりそう思うよね」
「そのさんっていうのやめない?」

「鉢屋くんもやっぱりそう思うよね」
「文化祭が終わったら絶対くっつく。私はそう思ってるよ」

俺の話をするよりも他人の恋バナの方が盛り上がってる鉢屋くん、可愛いぞおい。女子高生か貴様。鉢屋くんも久々知くんの気持ちは知っていたみたいだし、奈緒にもその気があるだろうと前々から確信していたらしい。あれでくっつかなかったらなんとしてでもこっちからその気にさせてやるとさえ思っているのだとか。いやあれは確実でしょうと言えば、やっぱりそうだよな!と鉢屋くんは少々身を乗り出して言った。くっそ可愛い不破さんなんかただでさえ可愛いのに鉢屋くんも可愛いとか絶対許さない。この世はどうかしている。そしてそんなイケメンと二人でお茶しているこの状況もどこかおかしい。早く元彼女さんのとこいけ。私に構うな。

もう珈琲も底をついたのか、私がストローを吸うとズッと最後の音が聞こえた。それを聞いた鉢屋さんはこの時を待っていたとでもいわんばかりの悪人面で、


「じゃぁ名字さん、珈琲奢ってあげたお礼にさ」


「……は!?!??!??!!今それ言うの!?!??!??!」
「面倒事に巻き込まれて欲しいんだけど」

にっこり笑った鉢屋くんは、言い表すならまさに悪魔。最悪の悪魔だ。美味しくもない珈琲を私から望んだわけでもなく奢ってもらい、飲み干した後にその見返りを求めるだなんて。どうなってんだ。こんな小悪魔みたいなやり方ハニー先輩ぐらいでしか許されないだろう。この男、本物の悪魔だ。最悪だ。ヤリチンの誤解は解けたけど私の中では完全に悪魔だ。最悪だ。くそ、これ、やはり私が殺すしかない。

鉢屋くんも一気にカップの中を飲み干し着いてくるよね?と副音声のつくいやらしい目つきで私を睨んだ。これもう公開裁判するしかない。有罪。

店から出るとき左右を確認し、元彼女さんがいないことを確認するとふんふんとのんきに鼻歌を歌いながら私を誘拐していった。それはさながら、ハーメルンの笛吹きのように。

何処に行くのかと思いながらも鉢屋くんの背を追い続け歩いていると、たどり着いた先はなぜか洋服屋。それもレディースの。店員と知り合いなのか軽く挨拶をしながらあれでもないこれでもないとハンガーをガチャガチャと引っ掻き回してこれとこれとこれとと上から下まで一式揃えては店員に渡し、こっちどうぞぉ!とオカマなお兄さんに試着室にぶちこまれ、ほぼ涙目になる私に着替えろと鉢屋くんは暴君の様に言った。なんのつもりなのこの野郎。せっかく私の中で株が急上昇したと言うのにこのクソDVファッキン野郎!!!不破さん立会いのもとの公開裁判してやるからな!!!絶対有罪だから!!!!許さないから!!!!

「着替えました!!なんですかこの少女マンガ展開!!」
「………違う」

「ハァァァアアアーーーッッッ!?!?!?!?」

「違う違う違う、名字さんに黒とか似合うわけなかった」
「は!?なんなの!?」

今日の私の私服は上から下までモノクロだった。だから鉢屋くんはモノクロで統一したのだろうが、カーテンを開けた私の姿を見て「違う」と一言言い放った。

「これ。ごめんこっちに着替えてくれる」
「は????一体何様のつもり????」

「早く」
「公開裁判するからな」

買い取ってもいない商品だが鉢屋くんの横暴な態度にイラッとし服を脱ぎ捨て渡された服に着替えた。渡された服に着替えた。今度はさっきと対照的なパステルカラーばっかりだった。

「着替えましt」
「違う」

「は!?!??!ねぇいい加減にして!?!??!??!」

「こっち。これ着て」
「聞けよ!!殺すぞ!!!」

どさどさとわたされた服の重みに耐えきれず後ろに一歩よろけると鉢屋くんはシャッと手早くカーテンをかけた。

あぁぁああああああのやろぉおおおおおおおおおおおおおおお一体何のつもりでこんな馬鹿みてえなことしてやがるんだこんちくしょうめ!!!!また今度はわけのわかんねえ原色系使いやがって!!!さっきからいちいちファッションセンスいいなこの野郎!!!っていうかなんでレディースなのに私のサイズ把握してやがる!!!怖ェんだよ!!!!!

「おらよ!!!これでいいか!!!」

「良し」
「よおおおしいいいい!?!?!?」


何様のつもりだテメェェェェエエェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!!


さっきの店員のオカマお兄さんにも素敵よぉ!とか言われたけど今それほど嬉しくない。ぶちまけた服はオカマのお兄さんとは別のお姉さんが慣れた手つきで片づけている一方で、私の手を引っ掴みまるで己の店化の様に奥へ奥へと連れ込まれた。そこはまるでメイク室で、鉢屋くんは前髪をピンで止め私をドサリと座らせた。こいつ本当に何考えてんの。なんで私の逆撫でするようなことしかしないの。

「ここ私のバイト先」
「は?」
「それでこれは私のメイク道具」
「は??」

「有料でメイクまでやってやるサービスがある」
「は???金取るの???」

「取らないよ」

「その顔絶対嘘だから」

あっちむいててとグイと首をやられて今確実に首やったわ。慣れた手つきで私の顔面工事をしていく鉢屋くんの真剣な顔たるや。いやいやいやいやいや、騙されないからね私。




できあがって、我ながらうまくいったと思ってる。私の思った通りだ。グロスは赤よりオレンジ。シャドウは薄めに、目は元々大きい方だからつけまつげをする必要もない。ライン一本でここまではっきりするか。マスカラも少量でいいし、なんで名字さんはすっぴんで出歩いてたんだ。勿体ない。化粧を覚えたらそうとう化けるぞこの子。

「はい終わり」
「もう殺していいの???」

「名字さん化粧したことある?」
「は?ないけど?」

「どう?感想は?」

鏡に視線を送らせ自分の顔を見せた。すぐに「なにこれ」と不満そうな顔になったけど、一瞬だけびっくりしたような顔になったのを見逃さなかった。大成功だ。

「で、タダでメイクしてあげたお礼にさ」
「てめぇぇええええええ!!!!」

「ちょっと付き合って欲しい場所あるんだけど」
「殺す!!!!!!」

服の金は給料でおとしておいてくださいとオカマさんに言い、ばいばいと店員さんに手を振り私の腕を引っ張りながら向かった先は、さっきのカフェの近くにあったメンズ服の店の近く。こんなとこでこんな格好させてこんな顔で何をするっていうんだと戸惑いながらきょろきょろすれば、鉢屋くんはいたいたとつぶやきながらさらに足を進めた。

だが鉢屋くんは別になにもするわけでもなく、私の手を掴んで店の前を通り過ぎるだけだった。

「三郎!!」

通り過ぎるだけじゃなかった。これ面倒事に巻き込まれた。確実に巻き込まれた。

「三郎!誰よその女!」
「は?お前こそ今さら何。俺たちもう別れたけど」
「私の連絡にも出ないで…!」

「別れたやつと今更話すこととか何もないけど。元カノって立場なだけで新しい彼女出来たことすら報告しなきゃならないわけ?」
「ヒェエエエエエエーーーーッッッ」

今鉢屋くん私のこと指差しながら新しい彼女っていった私こういうの少女マンガで見たことあるこういうの自分がやられた絶対シャイニングウィザードくらわすとか思ってたけどこれ思ってた以上に破壊力でかい今私仮だけどイケメンの彼女ってことになってるおかしいおかしいおかしい鉢屋くんも頭おかしいこんなクソブス女が鉢屋くんの彼女とか無理ありすぎるでしょうなんでそんなすぐバレるような嘘ついたのバレても私の容姿のせいにしないでよ最初から最後まであんたがやったことなんだからねぇえええええ!!!

「〜〜〜っ!!最低っ!!」
「じゃぁな」

鉢屋くんの元カノさんは、私とわざと肩をぶつけて、何処かへ行ってしまわれた。


「と、いうのが私の企みだったというわけです。お付き合いいただきましてありがとうございました」
「私鉢屋くんの事良い人って脳内書き直ししたけどもう今貴方の事悪魔としか思ってないから」

「酷いな。少女マンガみたいな経験できて楽しかったでしょ?」
「好きな少女漫画の展開と嫌いな少女漫画の展開とかあるから!!髪からいもけんぴ出てきても嬉しくないでしょ!?」


「でも楽しかっただろ?」
「楽しかったですよ何か!?」


「……!あははははは!!名字さん正直者だね!良いと思うそういうの!」


元カノさんがいなくなった後の鉢屋くんのスッキリした顔といったらない。凄く肩の荷がおりましたって顔してる。そんなにしんどかったのかあの人の存在。だったら最初から付き合わなきゃいいのに。

「名字さん、洋服に興味あるんでしょ?」
「ヴェッ」

「聞いたよ。クラスTシャツのデザインやったって。で、本屋でさっきとろうとしてたの被服の本だったもんね」
「ヴォアァアア」



「私もショップ店員やってるし、メイク関係の仕事したいと思ってるんだ。私達いいカップルになると思わない?」
「思わない思わない思わない!!!思いたくもない!!!ほんとそういうの無理!!!チャラ男死んで!!!!」



繋いだ手を思いきり振りほどき、さっきまで私が来ていた私服の入った紙袋をぶんぶんと振り回すと、鉢屋くんは「あ、」とにやにやしながら私を指差した。


「服の値札、つけっぱなしだった」
「!?!?!?!?!?!?!?!」





「とってあげるからさ、もう一杯お茶付き合わない?」






答えは全部、いいえです。







腐女子と一般人と、悪魔






「はい全部とれました」
「抹茶パフェ追加でお願いします」
「どうぞどうぞ。なんでも好きな物頼んで」
「くっそこの本物の悪魔め」

「んでさ、パフェその他もろもろ奢ってあげたお礼に」
「いい加減にしろ」
「メアド交換しよ?」
「いいえです」
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