久々知と竹谷と、ときどき番外 | ナノ
腐女子と腐男子と、黒猫


「あははっ、可愛いなぁ。お前どこの子だー?」


イケメンが路上で猫と戯れている。

これだけでもこの近所では大事件レベルに全く見かけない光景である。買い物帰りの私は買い物袋を抱きかかえながら鼻血が出ていない事だけをただひたすらに祈った。道端に座り込み黒猫のお腹をわしゃわしゃと撫で続けるそ奴は、よく見りゃうちの学校の同級生だ。最近は奈緒とやたら話をするお人だ。で、あの無邪気な笑顔をする方は、不破氏。最近仲良くさせていただいているあのイケメン集団の不破氏ではありませんか。

でれっでれの顔で黒猫を撫で続ける彼は足元に黒いプラスチックバッグを置いていて、服装髪型はまさに文系男子といったところか。私はあまりこの人と関わったことがないけれど、遠くから解るほどのイケメン度。あぁイケメンとはこういう人の事を言うのか、と納得できる図である。イケメンと黒猫を休日に目撃できるとは、神様あなた今すぐそばにいるんでしょう。

だがしかし困ったな。私はイケメンの向こう側へ用事がある。っていうか、帰らねばならない。家に帰るためにはあのイケメンに気付かれないように前か後ろを通り抜けねば。どうしてこういう日に限って歩いて買い物に行ってしまったんだ!わしのバカバカ!

さてどうしようかと悩んでいると、イケメンの足元でごろごろしていた黒猫が私に気付いて彼のもとを離れた。離れたというか、私に向かって歩いてきた。これは野良猫だが、近所に住む私によく懐いている。買い物袋で両手がふさがっている私はあっちへ行けともやれず、猫はとうとう私の足脛に擦り寄ってきたのだった。

「あ……」
「………」

ニヤニヤしていた私と目があった不破氏は、今の一連の流れを知り合いに見られた恥ずかしさに両手を顔で覆って地に膝をついて恥ずかしがった。なんなんだよちくしょうこの人可愛いなおいいいいい。

「不破氏…」
「名字、さん…」

「私、何も見てないから」
「その優しさが時にはツラいこともあるよ!!!」

不破氏顔真っ赤。可愛い。

あぁもうと膝をはらってバッグを持ち、不破氏は私に歩み寄っては、足元にいた猫を見下ろした。

「ご機嫌麗しゅう不破氏」
「やぁ名字さん、できれば今の一連の流れを忘れていただきたいところなんだけど」
「それはできぬ相談でござる。ほれ証拠写真も」
「やめてー!!!」

嘘でござると言えば不破氏はほんと忘れてと顔を手で覆った。

「そういえばこの子、名字さんちの子?」
「いや、これは野良猫。私にめっちゃ懐いてるけど野良」
「あぁそうなんだ。名字さん買い物帰り?荷物持とうか?」
「そういう不破氏は、その服装と荷物の少なさからして、図書館行く予定?」

「えっなんで解ったの!」
「この辺でそんな少量の荷物で行ける場所なんてそこぐらいですから。私の家からすぐ近いし」


私が歩きはじめると猫は何処かへ歩いて行ってしまい、不破氏は私の横を歩き始めた。どうやら本当に行き先は図書館らしい。私の家の近くに市立図書館がある。この辺でそんな荷物持って行く場所なんてそこぐらいだ。歩きってことはこの辺に住んでるのか、はたまたバスで来たのか。不破氏は本当に心優しい系男子のようで、両手に抱えた私の荷物の半分を持ってくれた。くそっ、王子かてめぇは。久々知くんといい不破氏といいあの辺は王子だらけってか。

「図書館で勉強?」
「うん、金曜に出た課題やりたくて」
「今日はやめたほうがいいですよ。凄いいっぱい小学生が入っていくのみたから。今人いっぱいなんじゃないでしょうかね」
「えっ!知らなかったなぁ…」

たまに児童会のような集団が図書館へ押し寄せる日がある。子供のしつけがなってないのか、そういう日は図書館がそこそこ騒がしくなる。たまに本を借りに行く時があるけれど、そういう時は目的の本を見つけ次第とっとと帰ってくるに限る。

「ありがとう、目的地ここだから」
「わぁ、綺麗なカフェだね。バイト?」
「いや?ここ我が家」

「えっ!おうちカフェなの!」
「そう。あれ?奈緒とかから聞いてないですか?」
「き、聞いてない!」

不破氏は私の入口を見てパァッと顔を輝かせた。私は不破氏から荷物を受け取る前に鍵をあけ、店の扉を蹴り開けた。基本私は親の手伝い要員なのだが、この時間帯は親が友人と遊んでたり買い物いってたりで不在。故に私一人で店番をしている事になる。親と言っても母親だけ。父親は普通にサラリーマンやってるし、正直そっちだけでも食えるらしいのだが、専業主婦に嫌気がさした母親が趣味で始めた店だ。最近では私が半分ぐらい店番をやっていることが多いが。夜遅くまでやっているからそこそこ繁盛しているからありがたい。

お邪魔しますと小さくつぶやいて、カウンターに荷物を置いてくれた不破氏は、店内の様子を大分気に入ってくれたようだ。奥のキッチンと二階は普通の作りだが、このカフェスペースだけは母親の希望で全てが木造でできている。丸太組とでも言うべきか。中の小物は殆ど母親が気に入って買ってきたものを飾ってるし、今不破氏が見惚れている窓辺に飾られた小さい額縁の絵なんかは奈緒がこの店で描いた奴を母親が気に入っちゃって買い取り飾っている物だ。隅から隅までお母ちゃんの趣味でできているような店に、不破氏は興味津々だった。

「不破氏、」
「氏だなんて。呼び捨てで良いよ。っていうかなんで敬語なの?タメ口でいいよ?」

「……不破ー、くん?」
「なぁに名前ちゃん?」

首かしげやめろ!!!可愛いだろうが!!!!クソファッキン天然たらし野郎かテメェは!!!!!誰が名で呼んでいいと言った!!!!!!

かまわーーーん!!!俺が許す!!!!


「荷物運んでくれたお礼に、本借りてうちで課題やったらいかがでしょう。飲み物ぐらい出すから」
「本当!?いいの!?」
「今日は図書館で勉強できるような日じゃないだろうし。不破くんさえよければどうぞ」
「やった!あ、じゃぁ、えっと、すぐ借りてくるね!お邪魔しました!」


不破氏は私の言葉に嬉しそうにつぶやき、そしてとんでもない速度で店を飛び出していった。






宛先:愚かなる鶴谷
題名:無題
-------------------

不破くんが可愛い

-------END---------






送信者:愚かなる鶴谷
件名 :re:無題
-----------------------

どういう状況なのかkwsk

-------END-------------








まさか名前ちゃんの家がカフェだっただなんて。そりゃぁ今まで奈緒ちゃんの友人て事は知ってたし、何回か話をしてことがあったことはあったけど、家の事を知ろうとか知りたいとか思うことはなかったし。知らなくて当然と言えば当然なんだけど…。休日に調べものしながら勉強しなきゃいけない時はやっぱり図書館に行くに限る。図書館の近くだったとかいうのも知らなかったし…。っていうか、あの道は良く通ってる場所だ。今まで一度も出会わなかったのが不思議なくらいだ。猫撫でてるとこ見られたし。は、恥ずかしい。さっきまでのその流れを思い出し再び顔が熱くなってしまった。ね、猫にかかわらなければよかった…。

目的の本を何冊か借りバッグへ詰め込み、僕は足早に名前ちゃんの家に向かった。今度から図書館で勉強する時はここへお邪魔することにしよう。向こうより環境良いぞ。集中もできるだろうし。

ドアを引くとカランカランと心地いい音が店に響き木製の床らしいゴツ、という足音も鳴った。

「あ、おかえりなさい」
「あはは、ただいま戻りました」

家に帰れば三郎のおかえりを聞くから、女の子の声でおかえりっていうのにちょっとドキっとしたのは内緒。

エプロンをして本を読む名前ちゃんの横でレコーダーがテンポ遅めのジャスを流していた。好きなところ座って良いよと手をヒラヒラさせた名前ちゃんは店の奥でやかんが沸騰した音に暖簾をくぐり駆け寄ってコンロを止めた。カウンターにバッグを置いて勉強に必要な物もろもろを取り出すと名前ちゃんが店に戻ってきた。

「何にする?」
「うーん、お勧めは?」
「勉強するなら紅茶がいいと思う。香りでリラックス効果あるし」
「へぇーそうなんだ、じゃぁそれをお願いします」
「かしこまり候。あと昨日作った文化祭メニューの試作品のケーキ残ってるんだけど、よかったら食べませんか」
「本当!ありがたくいただく!」

私服だからか、エプロンしているからか、いつも学校で見かける名前ちゃんと随分印象が違う気がする。しばらくしてカリカリとシャーペンを滑らせる僕の横に、出たのは本当にいい香りがする紅茶と美味しそうなチョコケーキ。確かにこれはリラックス効果がありそう。奥に座った名前ちゃんも同じ紅茶とチョコケーキを自分の前に置き、先ほど読んでいた本の続きをめくった。うわ、本当に美味しい。

「これ、名前ちゃんが作ったの?」
「んー?そう、昨日店開くかと思って作ってたんだけど、お母ちゃんに急用できて一日閉店だったから」
「ここってそんなに気分によって開いてたり閉まってたりするの?」
「定休日とかないから。好きなときに開けて好きな時に閉まってるよ」

あくまで趣味だから、名前ちゃんはそう言った。なんかいいなぁそういうの。凄く楽しそう。

結局その後なんだかんだと僕は名前ちゃんに話しかけてしまって、勉強どころではなくなってしまった。名前ちゃんも読んでいた本を閉じて僕の目の前に立ってたし、僕もいつの間にかシャーペンを置いていた。話題はそれはもう沢山あった。もちろんもうほぼバレバレと化している兵助と奈緒ちゃんの関係はいつくっつくんだろうねとかいう話から、互いが腐っているということもバレ漫画の話題になったり、名前ちゃんは僕と三郎が一緒に住んでいるという話を興味津々に聞いていた。僕らがホモだとでも思っているのだろうか。いや、絶対思っているだろう。気付けば二人ともカップも空っぽでケーキもなくなっていた。まだ残ってるよと奥に引っ込んでは紅茶の残りを淹れてくれたが、これ以降はお金を払うといっても別にいいよと首を横に振るだけだった。

「名前ちゃんはこのお店よく店番してるの?」
「だいたいね。この時間帯は母ちゃん買い物でちょっと足伸ばしてるし、用事があれば夜まで帰って来ないし」
「そうなんだ。今度三郎も連れてきていい?」
「え、え!??!?もちろんだよ!!!!構わないよ!!!!!!」

あ、ダメだこれ。本当にホモだと思われてるっぽいぞ。

お言葉に甘えて三杯目の紅茶に口を付けたとき、お店の中に飾ってあった鳩時計が鳴きながら顔を出した。その時、店の扉がゆっくり小さくキイと音を立てて開いた。お客さんがきたのかと思い顔を向けたのだが、ドアからは誰も入って来ない。

「いらっしゃーい」

名前ちゃんがそう言いながら店の奥に引っ込んでいった。なんだなんだと思いながらもう一度ドアに目を向けようと振り向くと、目の前に真っ黒い猫。

「うわっ!?」
「いらっしゃい」

「あれ?この子さっきの?」
「そ、野良猫ちゃん」

小さい皿に入っているのはミルクで、それを差し出すと猫はカウンターの上でそれを器用に飲み始めた。だけどそれを見つめているまもなく、膝に重量感。

「うわ!ちょ!なんなのこれ!!」
「可愛いでしょ。こいつらこの辺の野良猫」
「うわぁぁぁああ僕猫大好きなんだよぉおおお」

奥から大量に皿を持って来た名前ちゃんは慣れた手つきで床にそれを並べ、次から次へとミルクを入れて行った。次々と来店する猫たちは行儀よく己の専用の皿にミルクが注がれるのを待っていて、僕の膝の上にいた茶色の猫も膝から降りて赤い皿に口を付けた。

「なんなの?猫カフェなの?」
「んー……猫専用カフェかな」
「名前ちゃんが飼ってるの?」

「だから違うって。この辺の野良猫だよ。この辺綺麗な地区だから飯もないんでよく店前でごろごろしてるヤツらに残りものあげてたら懐かれてしまって次から次へと…」

10匹はいるだろうか。店の中でわらわらと動き回る猫たちは食事を終えると好きな場所でゴロゴロと寝始めてしまった。一番懐いてくれている黒猫は膝の上で寝てしまうし、今この瞬間店に入れば確実に此処は猫カフェだと思う事間違いなしだ。か、可愛い!

「私ねぇ、この店継いでこの子達全員面倒見るのが夢なんだぁ」
「良い!凄く良いと思う!!」


「でしょ!好きな本読みながら好きな音楽聞いて大好きな猫に囲まれた生活とか、最高にぐだぐだできそうだよねぇ。そんで奈緒たちとずっとここで馬鹿して絵描いて一生過ごすのwwwwまじ最高wwwwwwwwww」


冗談の様に働きたくないでござると言う名前ちゃんの手は、真っ白い猫を撫で続けていた。学校で馬鹿みたいに奈緒ちゃんたちと騒いでいる姿がまるで嘘のよう。

「名前ちゃん」
「うん?」
「アドレス交換しない?」
「あ、はい、えぇ、どうぞ」
「そんでさぁ」
「うん?」

「……また遊びに来ていい?」

「ん?あ、うん、いくらでも来れば?あ、不破くんがこの間気になってるって言ってた漫画あるけど持ってく?」
「え!いいの!?借りる!」
「いいよ、今持ってくるね」

「あ、あとさぁ」
「うん?」
「……この子連れて帰っちゃダメかな…」
「え、いいと思うよ。野良だし」









それはのんびりと名前ちゃんという存在の事を想い始めた、

午後三時のお話です。









腐女子と腐男子と、黒猫







「三郎、ただいま」


ニャー


「え?猫?飼うのか?」
「懐かれちゃった。ダメ?」
「別にいいだろうけど、名前は?」
「えっ、あっ、そうか…うーん、えっと………」

「黒は?」
「それはかわいそう!」

ニャー

「ほら嫌だって」
「な、なんだと」
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -