Dear.Hansuke.D

ヤバイ。土井先生になんて言おう。レポートやってて何も用意してませんテヘペロとか、言えるわけがない。

迂闊だった。まさかレポートの提出期限を一週間間違えていただなんて。教授に呼び出しされなきゃ私は確実に午前中で家に帰ってケーキ作りに励んでたわ。声かけられて本当に良かった……。


………いやいやいや、よくないよくない。今日は土井先生のためにケーキ作るって決めてたのに…。どうして一体こんなことになったのか…。いや私が日付間違えていたのが悪いんだけど…。一応教師と生徒だし学校でそういうの渡すとこ見られてくなかったから作ってご自宅に直接お届けしつつきりちゃんを愛でようと思ってたのにこのありさま。しかもレポート中にケータイの電池は切れ外部との連絡は絶たれご連絡することすら敵わず。どうしようメールとか来てたら。っていうか来てるはず。家に帰って準備が出来たらご連絡しますと言ってたに当の本人が連絡しませんじゃ話にならん。あぁご心配おかけしてたらどうしよう。っていうか絶対してる。土井先生の胃を苦しめているはず。あぁ私はなんて馬鹿な事を…。どうして今日という日に充電器持ってこなかったんだろう…。


「あ、名前!」
「小平太?」

「お前今まで何してたんだ!土井先生がお前のこと探してたぞ!」
「ファッ」
「お前に電話しても出ないし…電池切れてたのか?」
「うん……あ!お、小平太お願いちょっとケータイ貸して!!」


地元の駅に着き駐輪場へ向かうと、丁度バイト上がりなのか遊んでたのか、駐輪場から自転車を取り出す小平太と遭遇した。私の姿を見た途端耳にはめていた緑色のイヤホンを取り、土井先生から私を探す連絡があったのだという。小平太と私は幼馴染だってことを土井先生は知ってるし、私と土井先生がそのような関係だということを小平太も知っているので、この関係は口外しないように言っておいた。探す連絡が来ても誰にも聞くわけにも行かず、小平太は今の今まで私を探してくれていたのだという。なんて情けない…。こんなに人様に迷惑をかけるとは。

電池が切れているということを説明し小平太にケータイを貸してもらい、土井先生のケータイ番号を打った。なんで充電器ないんだと言われ、面目次第もない。

『もしもし小平太か!名前見つかったか!?』
「どどっどどd土井先生!名前です!」

『こh……名前!?』
「すいませんケータイの電池きれてまして今駅に着きましたぁあああ」

『今の今まで一体何をやっていたんだ!連絡もせずにお前は!』
「提出期限一週間間違えてたレポートを仕上げておりましたぁあああ」



『全く…!もう今日は遅いから急いで家に帰りなさい!いいな!』



「アッー!土井先生!」

弁明の余地もなく、土井先生はあっという間に電話を切った。空しく耳に届いたブツリと切れた電話の音に、私は膝から崩れ落ちて涙を流すのだった。

「フラれたか」
「フラれた…」

「散々だな」
「散々だ…」

「じゃぁな。気を付けて帰れよ」
「慰めろやクソ野郎!!!」

せめて送って行けや!と思うのもつかの間。ケータイを受け取ると小平太はそれをポケットに詰め込んであっという間にその場から遠ざかって行ってしまった。なんて薄情な幼馴染だ。

もうあいつが女欲しいとか言っても合コンセッティングしてやんない。小平太なんか知るもんか。今度からは長次に慰めてもらうからいいもん。

一人街灯の下で項垂れること五分。やっと立ち上がるレベルの気力が戻ってきて、私はのそりと立ち上がり駐輪場で私を待つ自転車に跨った。あぁ土井先生にフラレる日が来るとは思わなかった。私は明日から一体何を糧に生きて行けばいいのだろう。土井先生と密会するかの如くデートするのが何よりの楽しみだったのに…。あの土井先生の汚い家を掃除するのが面白かったのに…。あぁもう終わりだ…。死のう…。


「…お、」

帰路をのんびりと走る途中、鼻にぴとりと乗ったそれは、あっという間に溶けて鼻から滑り落ちた。

「…ホワイトバレンタインてか…」

ちらちらと街灯に照らされるそれは、よく見ると本当に降り始めのようで、目を凝らすとよくみえるぐらいの量だった。あぁ、独り身になったとたんに雪が降るだなんて…。なんて寂しいバレンタイン…。



「名前!」

「……どっ?!!??!」



アパートの駐輪場に自転車を停め階段を上がると、私の部屋の前にいたのはドアの間で肩を震わせ、白い息を吐く、土井先生のお姿。


「土井先生!?なにしてんすか!?」
「お前こそ何をしているんだ!早く帰りなさいと言っただろう!」
「が、街灯の下で項垂れて…」
「はぁ!?」

「ど、土井先生こそ何でこんな…」
「お前が見つかったんだから無事を確認しないわけないだろう!無事でよかった……!!」


抱きしめられ顔についた土井先生のコートは酷く冷え切っていて、どれほど長時間私を探してくれていたんだろうと思ったほどであった。もう夜遅いのに、わざわざ、こんなところに。


「ど、あ、き、きりちゃんは…」
「きり丸なら明日は休みだから乱太郎のおうちに泊まりに行ってるよ。心配はいらない」
「な、なんで…」

「だって今日はバレンタインだろう?名前に逢わずに過ぎるような日じゃないしな」

「あ、せんせ、」


抱きしめ私の背に回していた土井先生の腕から出てきたのは、何故か花束。

「…私誕生日じゃないですけど……」


「私に花束は似合わないだろうけど…たまには、欧米の文化に習ってフラワーバレンタインなんてのもいいんじゃないか?」


色とりどりの花。雪が降る空の下で、こんな美しい物を自分の物にできるだなんて、なんて幸せ者なんだろうか。


「フラれたのかと思ってました……!」
「な、なぜ!?」
「だって先生電話すぐ切るから…!」
「あ、あれは寒くて電話するのも一苦労で!」

「捨てられたのかと思ってましたぁあ…!」
「……誰がこんな愛しいヤツを放っておけるか」

涙をぬぐった手も、驚くほどに冷たくて、これ以上冷やさぬよう、私は必死で涙を止めた。

「チョ、チョコ、…用意できなくてすいませんでした…!」
「いいからいいから、そんなこと気にするんじゃない」





「お返し、楽しみにしててください……!」

「あぁ、期待してるよ」





あぁちくしょう。どんだけイケメンでいれば気が済むんだこの人は。










Happy Valentine
あなたの笑顔の様なお花をありがとう!







「と、ところで名前、」
「はい」

「できれば…部屋に上げてもらえるとありがたいんだが……寒さがもう限界で…!」
「こここここたつ付けます!暖房も付けます!熱燗で良いですか!?」
「す、すまん……」

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